
ノワール小説
レイモンド・チャンドラーの『大いなる眠り』は、私立探偵『フィリップ・マーロウ』が登場しますが、ホームズやポワロのようなミステリー(推理小説)とは異なる、ノワール小説と呼ばれるものです。
ノワール小説とは、1930〜50年代のアメリカで生まれた「犯罪小説」のジャンルです。フランス語で「黒」を意味する「noir」が語源で、暗く、退廃的な雰囲気が|特徴です。
主な|特徴
- 舞台:都市の|裏社会、|夜の|街、|雨、|薄暗い|場所
- 主人公:皮肉屋で|孤独な|探偵や|アウトロー
- 登場人物:腐敗した|警官、|悪女(ファム・ファタール)、|ギャング
- テーマ:道徳の|崩壊、|社会の|腐敗、|人間不信
- 文体:簡潔で|乾いた|一人称語り
代表的な|作家と|作品
- レイモンド・チャンドラー|→「大いなる眠り」(本作)
- ダシール・ハメット|→「マルタの鷹」
- ジェイムズ・M・ケイン|→「郵便配達は|二度ベルを|鳴らす」
映画にも|「フィルム・ノワール」として|広がり、|ハンフリー・ボガートが|主演した|「大いなる眠り」(1946年)は|その|代表作です。||シムノンの「メグレ・シリーズ」もミステリーより犯罪小説に近い面もありますが、ノワール小説は、アメリカ的な|荒々しさと|虚無感が|色濃く|出ているのが|特徴です。
推理小説(ミステリ)との|違い
| 推理小説 | ノワール小説 | |
|---|---|---|
| 中心テーマ | 謎解き・犯人探し | 社会の腐敗・人間の暗黒面 |
| 主人公 | 論理的な名探偵 | 孤独で傷ついた探偵 |
| 結末 | 謎が解決し秩序が回復 | 曖昧・後味が悪いことも多い |
| 雰囲気 | 知的パズル | 暗く退廃的 |
| 読者への問い | 「犯人は誰か」 | 「人間とは何か」 |
わかりやすい例
推理小説の|代表はコナン・ドイルのシャーロック・ホームズ|アガサ・クリスティ。謎が|きれいに|解決し、|秩序が|戻ります。||
ノワールは|「大いなる眠り」のように謎が完全には解決せず、|チャンドラー自身犯人を忘れた場面があるほどです。謎解きより雰囲気と人間描写が優先されます。
メグレとの|位置づけ
メグレは|両者の|中間的な|存在です。||謎は|解決しますが|、|犯人への|共感や|社会の|暗部への|視線は|ノワールに|近い|面も|あります。
当時のアメリカの私立探偵
イギリスのホームズやポワロとは同じ探偵でも当時のアメリカの私立探偵という職業はかなり異なっています。
歴史的背景
アメリカでは1850年代にアラン・ピンカートン探偵事務所が設立されており、これが世界最初の本格的な私立探偵会社です。労働争議の監視、列車強盗の追跡、企業の警備など、当初は大規模な業務が中心でした。1930年代になると個人経営の私立探偵が普及し、離婚調査、行方不明者捜索、企業の不正調査などを請け負うようになっていました。
カリフォルニアでは免許制
PDFにも「I have a licence to operate as a private detective」というマーロウ自身の言葉があります。当時すでに州の免許制度が存在しており、れっきとした合法的職業でした。
ホームズとの違い
ホームズは19世紀末のイギリスで「consulting detective(顧問探偵)」という独自のジャンルでしたが、アメリカの私立探偵はより実務的で世俗的な存在です。マーロウ自身も作中で自分を「private dick」「sleuth」とぶっきらぼうに呼んでおり、ホームズ的な天才肌ではなく、泥臭いプロとして描かれています。
社会的地位
警察からは軽く見られる存在でしたが、富裕層が個人的な問題を警察に知られずに解決したい時に重宝される、というニーズが確実にありました。スターンウッド将軍がマーロウを雇った理由もまさにそれです。