『スタイルズ荘の怪事件』は、アガサ・クリスティが世に送り出した最初の長編小説であり、名探偵エルキュール・ポワロの鮮烈なデビュー作です。以上(笑
読書感想文(ネタバレ)
クリスティらしい、いきなり意表をつく人が犯人でした。と言っても、最初に犯人だろうと誰もが思う人を登場させてやっぱりそいつが犯人でしたというもの。もちろん長編、本格ミステリーなんでそれまでの過程は複雑を極める。ポワロはそういつは犯人じゃないと周囲を誘導する。今、逮捕してはいけないとジャップに助言までする。でも最後はやっぱりそいつが犯人でしたと、いつもの芝居じみた披露をするというもの。途中で真犯人を炙り出す作戦を仕掛ける。このあぶり出しに効果があったのかどうかは疑問だが、最後は犯人痛恨のミス。おそらくこのミスがなければ証拠不十分で起訴まで持っていけなかった思われる。
さて、ここでは、おそらく、イギリスの裁判制度の知識がわからないとポワロの戦略がわからない。日本もそうだが、裁判には『一事不再理』という一度裁判にかけて無罪判決が確定すると、2度とのその事件の同じ容疑では裁判にかけることができない制度がある。犯人はそのイギリスの裁判制度を狙って自分からあえて疑わしい態度を取り裁判にかけられようとする。そして、裁判の最後に確実なアリバイを認めさせ無罪を獲得するという作戦だ。
当時は正式な裁判の前に予審制度(日本も昔はあったが廃止)があって、裁判にかけるべきかどうかを予審判事が決定するのだが、その段階で犯人は裁判にかけられたいので自分不利な証言をする。しかしポワロは、この作戦を見破り(見破ってないかもしれないが)あえてアリバイを証明して真犯人の起訴を阻止する。
その時のポワロのセリフが印象的
『ここで彼を有罪にしたら、我々ベルギー人を助けてくれた亡き被害者に申し訳ない』
おそらくこの時点では、ポワロは本当は何が言いたいのかわかる人は少なかったのではないか?
読者もこの時点で真犯人は真犯人ではないと(?)と騙されたのではないか?
ストリキニーネの時間差攻撃も専門家でないとわからないだろう。僕も実はよくわかってない部分もある。また、ローレンスに対する『コーヒーカップの謎かけ』も私はどういう意味なのかさっぱりわからない。そもそも、当初、コーヒーカップにストキニーネが入っているとポワロが思っていたのかどうか。おそらく、そんなことは思ってなくて、「なぜ、コーヒーカップの数が合わないのか、ストリキニーネが入っているはずはないのに」ということが、ポワロにとっては謎だったのかもしれない。いずれにしても、キャヴンディッシュ家の人々の思惑が交錯し、憎めいない商人の聞き間違い、憶測が入り混じって、余計に事件をややこしく、複雑にして、読者を惑わせる。
しかし、一作目からこんなの書かれたら、以後の作品は、『アクロイド殺人事件』(自分が犯人)、『オリエント急行殺人事件』(乗客全員が犯人)なんてことにしないと、本格ミステリーファンの読者はおどろかないだろうというのが感想。
実のところ僕は、クリスティの長編はここに掲載しているものくらいしか読んだことはない。BBCの放送である程度見てはいるが、内容が改変されたりしているので印象に残ったものは少ない。さて、メグレシリーズの75作品完全翻訳と点訳をライフワークとする自分には、これから手をつけることのできるクリスティ作品とすれば短編が中心になるだろう。
あと、この作品の読みどころは、作品背景のブログにも書いたが、ヘイスティングの恋愛、いや、『結婚問題』だ!
思い切り失恋させて、長編2作目『ゴルフ場殺人事件』で、早々にヘイスティングスの結婚、退場につなげるクリスティ。最後の場面では、キューピットはポワロのようにさえ思わせる。最初からそういう予定だったのかと疑いたくもなる。確かに、ホームズとワトソン流で、個性的なキャラクター二人で、長編・短編、書き続けるのもを難しいのかもしれません。ワトスンは、あくまで、ホームズの補助者で事件の筆記者という立場だが、ヘイスティングスは最初から事件に深くかかわるポワロの愛すべき友人(モナミ)というキャラクターだ。ちなみに、ミスマープルには相棒はいませんよね(多分)
デワデワ(J.J.Franky)
