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「うまく|いったの?」
メグレ夫人は、|夫が|ひどく|機嫌を|悪くしているのを|見て|驚いていた。||彼女は、|脱ぐのを|手伝った|外套を|触っていた。


「また|雨の中を|歩き回ったのね。||そのうち、|体の|節々が|痛くなって、|困ることに|なるわよ。||それで、|今度の|話は|何だったの?||犯罪?」

「家族の|問題だ」

「あなたに|会いに来た|若い女の人は?」

「若い女か。||私の|スリッパを|持ってきてくれないか」

「いいわ。||もう|何も|聞かないわ。||少なくとも、|そのことについては。||ジヴェでは、|ちゃんと|食べたの?」

「わからん」
それは|本当だった。||メグレは、|自分が|取った|食事を、|ほとんど|思い出せなかった。

「私が|何を|用意したか、|当ててみて」

「キッシュだ」
当てるのは|難しくなかった。||家じゅうに|その匂いが|満ちていたからだ。

「お腹は|すいてる?」

「ああ、|おまえの顔を|見るとな。||少なくとも、|もう少ししたら|腹が|へるだろう。||こっちで|何が|あったか|話してくれ。||そうだ、|家具の|件は|片づいた」
なぜ、|食堂を|見ながら、|何も|ない|同じ|角ばかりを|見つめていたのか。||彼自身にも|わからなかった。||妻が|言うまでは。

「何かを|探しているみたいね」
そのとき、|彼は|声に出して|叫んだ。

「そうだ。||ピアノだ」

「何の|ピアノ?」
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「何でもない。||おまえには|わからん。||おまえの|キッシュは|たいしたものだ」

「アルザス女で|いながら、|キッシュの|作り方を|知らなかったら、|何の|値打ちも|ないわ。||ただ、|あなたが|その調子なら、|私の|分は|一切れも|残らないわね。||ピアノと|いえば、|四階の|人たちが」
一年後、|メグレは、|偽札事件の|関係で、|ポワソニエール通り1の|輸出会社に|入っていった。
倉庫は|広く、|商品で|いっぱいだったが、|事務室は|狭かった。

「束の中から|見つけた|偽札を|持ってこさせましょう」
社長は|そう言って、|呼び鈴を|押した。
メグレは|別の|ほうを|見ていた。||灰色の|スカートが|机に|近づいてくるのが|ぼんやり|見えた。||綿の|ストッキングを|履いた足。||それから|顔を上げると、|机の上に|かがみ込んだ|顔を|見つめたまま、|しばらく|動かなかった。


「ありがとう、|マドモワゼル・アンナ」
そして、|警部が|その女性社員を|目で|追っていると、|社長が|説明した。

「彼女は|少し|棘がある|感じが|ありますがね。||しかし、|あんな|秘書がいたら、|あなたにも|お勧めしますよ。||社員二人分を|きっちり|こなします。||通信文を|全部|処理して、|そのうえ|会計係の|仕事まで|引き受ける|時間を|見つけるんです」

「長く|勤めているのですか?」

「十か月ほどです」

「結婚は?」

「ああ、|していません。||そこが|彼女の|困った|ところでしてね。||男という|男を|死ぬほど|嫌悪してます。||ある日、|私に|会いに来た|同僚が、|冗談で|彼女の|腰を|つねろうと|したんです。||そのときの|彼女の|目つきを|あなたに|見せたかったですよ。||彼女は|朝八時に|来ます。||ときには|それより|早い。||夜は、|扉を|閉めるのも|彼女です。||外国の方でしょうね。||わずかに|訛りが|ありますから」

「少し|話を|しても|いいですか?」

「呼びましょう」

「いや。||彼女の|事務室で|話したい」
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そして、|メグレは|ガラス戸を|くぐった。||事務室は|トラックで|混み合った|中庭に|面していた。||建物全体が、|ポワソニエール通りに|押し寄せる|バスと|自動車の|流れの|振動を|受けているようだった。
アンナは|落ち着いていた。||さっき|社長の|机に|身を|かがめていたときと|同じように、|メグレが|いつも|知っていた|アンナのままだった。||今は|二十七歳のはずだったが、|むしろ|三十に|見えた。||肌には|もう|以前のような|みずみずしさが|なく、|顔立ちは|衰えていた。
二、三年もすれば、|もう|年齢の|わからない女に|なるだろう。||十年たてば、|婆さんだ。

「弟さんから|知らせは|あるか?」
彼女は|答えず、|頭を|そむけた。||そのあいだも、|手では|機械的に|ロッキング式の|吸い取り器を|動かしていた。

「結婚は|したのか?」
彼女は|うなずくだけだった。

「幸せなのか?」
そのとき、|メグレが|長いこと|待っていた|涙が|あふれ出した。||同時に|喉が|ふくらみ、|彼女は、|まるで|そのすべてを|メグレの|せいだと|言わんばかりに、|彼に|言い放った

「彼は|酒を|飲むように|なりました。||マルグリットは|子供を|身ごもっています」

「仕事は?」

「法律事務所は|まったく|収入に|なりませんでした。||ランスで、|月給|千フランの|勤め口を|受けるしか|ありませんでした」
そして、|彼女は|ハンカチで|目を|押さえた。||短く、|荒々しい|動きだった。

「マリアは?」

「死にました。||修道女になる|八日前に」
電話の|ベルが|鳴った。||アンナは|メモ帳を|手元に|引き寄せながら、|声を変えて|答えた。

「はい、|ミスター・ウォルムス。||承知しました。||明日の|夜ですね。||すぐに|電報を|打ちます。||羊毛の|積荷の|件ですが、|いくつか|申し上げたい点を|書いた|手紙を|お送りします。||いいえ。||時間が|ありません。||お読みください」
彼女は|受話器を|置いた。||社長が|敷居に|立ち、|彼女と|メグレを|交互に|見ていた。
警部は|隣の|事務室に|戻った。
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「どう|思われますか。||それに、|彼女の|誠実さに|ついては、|まだ|申し上げていませんでした。||あそこまで|行くと、|ほとんど|馬鹿正直ですよ」

「どこに|住んでいますか?」

「知りません。||いや、|住所は|知りませんが、|女性だけのための|家具付き下宿に|いることは|知っています。||どこかの|慈善団体が|運営している|家です。||しかし、|ちょっと。||あなたは|私を|心配に|なってきましたよ。||まさか、|職務上で|知り合ったわけでは|ないでしょうな?||それだと、|少し|気になりますから」

「職務上では|ありません!」と|メグレは|ゆっくり|答えた。
「では、|その紙幣を|札束の|中から|見つけた、|という|話でしたね」
彼は、|隣の|事務室の|物音に|耳を|澄ませていた。||そこでは、|女の|声が|電話で|言っていた。

「いいえ、|ムッシュ。||社長は|取り込み中です。||アンナが|お受けしています。||事情は|わかっています」
船乗りの|消息は|その後|永久に|わからなかった。
- ポワソニエール通り(Rue Poissonnière)
「ポワソニエール」とは|魚売りという意味で、かつてこの道が|ディエップや|ルーアンへ|続く道として|1850年まで|魚や|海産物の|輸送に|使われていたことから|名がついた。
パリの|第二区に|位置する通りで、メールおよび|ボンヌ・ヌーヴェル地区に|ある。
現在は|活気ある|通りで、多くの|商店、レストラン、カフェが|並んでいる。
アンナが|一年後に|働いていた|輸出商社が|ここに|あります。
パリの|商業地区の中心で、輸出入会社が|多く|集まる|場所として|自然な|設定です。
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