『Brille Editor System ver.8』用の『BESファイル』を、ZIPファイルに圧縮して公開しています。(2026年4月15日現在未作成)
47
モルサンの|雰囲気が|いつもと|違うだろうと|思いきや、|そうでも|なかった。||先週の|日曜に|惨劇が|あった。||仲間の|一人は|死に、|もう一人は|逃亡中だ。
それでも|ジェームズと|メグレが|着いたとき、|先に|来ていた|連中は|一台の|新しい|自動車を|囲んでいた。||連中は|外出着から|いつもの|スポーツ姿に|着替えていた。||スーツ姿のままなのは|ドクターだけだった。
その車は|ドクターの|ものだった。||初めて|乗り出した|車だ。||みんなが|あれこれ|聞き、|ドクターは|嬉しそうに|その|長所を|語った。


「こいつは|燃費は|かかるけど、|それは|まあ‥‥」
ほとんど|全員が|車を|持っていた。||ドクターのは|新車だった。

「エンジンの|回転音を|聞いてくれ!」
妻は|嬉しさの|あまり、|話し合いが|終わるまで|車の|中に|座ったままでいた。||ドクター・メルタンスは|三十歳くらいで、|痩せて|ひ弱な|体つきをしており、|その|しぐさは|貧血気味の|女の子のように|繊細だった。

「新しい|車か?」とジェームズが|ぬっと|現れて|聞いた。
大股で|車の|周りを|歩き回り、|聞き取れない|ことを|ぶつぶつ|言った。


「明日の|朝、|試乗|させてもらおう。||いいだろう?」

メグレの|存在は|場を|気まずくさせるはずだった。||しかし|ほとんど|誰も|気に|しなかった!||宿では|各自が|我が家のように|振る舞い、|思い思いに|出入りする|場所だったから。

「ジェームズ、|奥さんは|来ないのか?」

「<マルセル>と|<リリ>と|一緒に|来るんだ。」
48
カヌーを|車庫から|出した。||誰かが|絹糸で|釣り竿を|修繕していた。||夕食まで|みんな|思い思いに|散らばり、|食卓でも|ほとんど|会話らしい|会話は|なかった。||ぽつりぽつりと|言葉が|漏れるだけだった。


「バッソ夫人は|家に|いますか?」

「大変な|一週間|だったでしょうね!」

「明日は|何をする?」

メグレは|やはり|場違いだった。||あからさまには|避けられないが、|避けられていた。||ジェームズが|そばに|いないときは、|一人で|テラスや|川辺を|うろついていた。||夜に|なると、|バッソの|別荘の|近くに|張り込んでいる|部下を|見に|行った。
二人が|交代で|見張り、|二キロ先の|セーヌポールの|ビストロで|順番に|食事を|とっていた。||警部が|姿を|現したとき、|非番の|刑事が|釣りをしていた。

「何か|あったか?」

「何も|ありません!|普通の|暮らしを|しています。||時々|庭を|散歩しています。||業者は|いつも|通り|来ています。||パン屋が|九時、|肉屋が|少し|後、|十一時ごろに|荷車の|野菜屋が。」
一階に|明かりが|ともっていた。||カーテン越しに|首に|ナプキンを|結んで|スープを|食べている|子供の|影が|見えた。
刑事たちは|川沿いの|小さな|林の中に|いた。||釣りを|していた|刑事が|ため息を|ついた。

「ここは|ウサギだらけですよ。||やろうと|思えば|いくらでも‥‥」

向かいには|2スーの居酒屋。||コルベイユの|労働者と|思しき|二組の|カップルが|自動ピアノの|音に|合わせて|踊っていた。
モルサンの|どの日曜とも|変わらない朝。||岸辺に|釣り糸を|垂れる|人々、|緑色に|塗られた|小舟に|二本の|くいを|打って|動かずに|釣る|人々、|カヌー、|一艘か|二艘の|帆船。
すべてが|丁寧に|整えられ、|何も|この|日々の|規則正しい|流れを|変えることが|できないと|感じられた。

49
景色は|美しく、|空は|澄み渡り、|人々は|穏やかだった。||そして|おそらく|そのせいで、|甘すぎる|タルトのように|胸が|むかついた。
メグレが|ジェームズを|見つけると、|青と|白の|ストライプの|セーター、|白い|ズボン、|ズック靴、|アメリカの|水兵帽を|かぶり、|朝食代わりに|ブランデーの|水割りを|大きなグラスで|飲んでいた。


「よく|眠れたか?」
おかしなことが|あった。||パリでは|メグレに|敬語を|使っていたのに、|モルサンでは|自分でも|気づかずに|警部を|含めた|全員に|ため口を|きいていた。

「今朝は|何をする?」

「安酒場まで|行こうと|思う。」

「みんな|そこに|集まるよ。||食前酒の|時間に|待ち合わせらしい。|カヌーは|いるか?」

メグレだけが|ひとり|暗い|スーツ姿だった。||ニスを|塗った|小舟を|一艘|もらったが、|バランスを|取るのに|苦労した。||居酒屋に|着いたのは|朝の|十時で、|まだ|客は|一人も|いなかった。
いや、|一人だけ|いた。||台所で|パンの|かけらに|大ぶりの|ソーセージを|かじっていた。||老婆が|ちょうど|こう|言っているところだった。

「ちゃんと|治さないと!||うちの|息子の|一人が|ほうっておいて|死んだんだよ。||あんたより|ずっと|大きくて|丈夫な|子だったのに!」

ちょうど|そのとき、|客が|激しく|咳き込み、|口の中の|パンを|飲み込めないでいた。||咳を|しながら|戸口の|メグレに|気づき、|眉を|ひそめた。

ビールを|一本!」と|警部は|頼んだ。

「テラスに|お座りに|なりませんか?」
いや、|台所の方が|よかった。||刻み傷の|ある|木のテーブル、|藁の|椅子、|かまどの上で|ぐつぐつ|歌う|大きな|鍋。

「息子が|コルベイユに|サイフォンを|取りに|行ったんだよ。||届け忘れた|やつが|あって。||ちょっと|地下の|蓋を|開けるの|手伝って|もらえないかい?」
50

台所の|真ん中の|板を|開けると、|じめじめした|地下室の|口が|現れた。||腰の|曲がった|老婆が|降りていき、|その間も|客は|メグレから|目を|離さなかった。
二十五歳|くらいの|青年で、|青白く|痩せており、|頬に|金色の|無精ひげが|生えていた。||目は|深く|落ちくぼみ、|唇に|血の気が|なかった。
しかし|最も|目を|引いたのは|その|身なりだった。||浮浪者のような|ぼろを|まとっているわけでは|なかった。||玄人の|ちんぴらのような|横柄さも|なかった。
そうでは|なく、|臆病さと|虚勢が|入り交じっていた。||卑屈で|しかも|攻撃的。||清潔で|しかも|不潔と|言えば|いいか。
もともとは|きちんと|手入れされていた|服が、|ここ|数日の|間に|どこにでも|引きずられたような|くたびれ方を|していた。

「身分証を|出せ!」

「警察だ」と|付け加える|必要は|なかった。||男は|とっくに|わかっていた。||べたべたした|軍隊手帳を|ポケットから|取り出した。||警部は|小声で|名前を|読んだ。

「ヴィクトール・ガイヤール!」
静かに|手帳を|閉じて|返した。||老婆が|戻ってきて|板戸を|閉めた。

「よく|冷えてるよ!」と|缶を|開けながら|言った。
老婆は|また|じゃがいもの|皮むきに|戻り、|二人の|男の|会話が|始まった。||淡々と、|感情の|起伏も|なく。

「最後の|住所は?」

「ジアン1の|市立|療養所。」

「いつ|出た?」

「一か月前。」

「それからは?」

「一文なしだった。||路上で|何でもやった。||浮浪の罪で|捕まえられても|いいが、|どうせ|療養所に|戻されるだけだ。||肺が|一つしかない2。」
泣き言を|言う|口調では|なかった。||むしろ|自分の|身上を|申告するような|言い方だった。

「ルノワールから|手紙を|もらったか?」

「ルノワール?|誰ですか?」
51

「馬鹿を|言うな!|安酒場で|男を|見つけられると|言われただろう。」

「療養所は|うんざりだった!」

「それに|サン=マルタン運河の|男に|また|たかりたかったんだろう!」
老婆は|わけが|わからないまま|聞いていたが、|驚きもしなかった。||すべては|のどかに|進んでいた。||鶏が|部屋の|真ん中まで|入って|ついばんでいる|粗末な|掘っ立て小屋の中で。

「答えないのか?」

「何の|ことか|わかりません。」

「ルノワールが|しゃべったよ。」

「ルノワールなんて|知りません。」
メグレは|肩を|すくめ、|ゆっくりと|パイプに|火を|つけながら|繰り返した。

「馬鹿を|言うな!|いつかは|尻尾を|つかむぞ。」

「どうせ|療養所に|戻されるだけだ。」

「わかってる。|肺を|一つ|取られてるからな。」
川の上を|カヌーが|滑っていくのが|見えた。

「ルノワールは|嘘は|つかない。||その男は|必ず|来る。」

「何も|言わない!」

「勝手にしろ!||今夜までに|答える気が|なければ、|浮浪の罪で|ぶち込む。||あとは|また|考える。」
メグレは|相手の|目を|見つめ、|この種の|男を|よく知っている|だけに、|本を|読むように|見通せた。
ルノワールとは|別の|タイプだ!||ヴィクトールは|不良仲間の|中でも|他人の|尻に|くっついて|いく|男だった。||悪事の|見張り役を|させられる|男!||分け前が|一番|少ない|男!
一度|方向が|決まると|軌道を|変えられない|軟弱な|人間だった。||十六歳で|街を|うろつき、|ミュゼット舞踏会3を|渡り歩いた。||ルノワールと|組んで|サン=マルタン運河の|棚ぼたに|ありついた。||まるで|まっとうな|職業のように|規則正しい|ゆすりで|しばらくは|食えていた。
結核に|ならなければ、|おそらく|ルノワールの|一味の|末端に|いたことだろう。||しかし|体が|療養所に|送った。||医者や|看護婦を|さんざん|悩ませたに|違いない。||万引き、|こまごました|悪事。
そして|メグレには|想像できた。||罰を|受けるたびに|療養所から|療養所へ、|病院から|療養施設へ、|療養施設から|矯正施設へと|たらい回しに|されてきたことが。

52
怖くも|なかった。||何を|言われても|答えが|あった。||肺だ!||それで|生きながら、|それで|死ぬのを|待っていた。

「どうせ|俺には|関係ない」

「運河の|男を|教えるのを|断るのか?」

「知らない!」

皮肉に|目を|輝かせながら|そう|言った。||ソーセージを|取り戻し、|がぶりと|かじって、|念入りに|噛んでいた。

「ルノワールは|何も|言わなかった!」と|しばらくして|ぼやいた。
「死ぬ|間際に|しゃべるはずが|ない」
メグレは|苛立たなかった。||核心を|つかんでいた。||いずれにせよ|真実に|たどり着くための|手がかりを|一つ|増やした。

「もう一本、|おばあさん!」

「三本|まとめて|持ってきておいて|よかった!」
老婆は|ヴィクトールを|好奇の目で|見ながら、|どんな|罪を|犯したのかと|考えていた。

「療養所で|あんなに|よく|してもらっていたのに|出て|行くなんて!||うちの|息子も|そうだった!||うろつくほうが|いいんですかねえ」

日差しが|景色を|満たす中、|メグレは|カヌーの|動きを|追っていた。||食前酒の|時間が|近づいていた。||ジェームズの|妻と|友人二人を|乗せた|小さな|ヨットが|最初に|岸に|着いた。||三人の|女が|後から|着いた|カヌーに|向かって|合図を|送っていた。
続いて|次々と|ほかの|ボートが|やってきた。||気づいた|老婆が|ため息を|ついた。

「息子が|まだ|戻らない!||給仕が|できない。||娘は|牛乳を|買いに|行ったままで」
それでも|グラスを|つかんで|テラスの|テーブルに|運び、|大きな|スカートの下の|隠しポケットを|探って|小銭を|鳴らした。


「音楽用の|大きな|硬貨が|要るね」
53
メグレは|その場に|留まり、|次々と|やってくる人々と、|無関心に|食べ続ける|結核の|浮浪者を|交互に|観察していた。||気づかないうちに|バッソの|別荘が|目に|入っていた。||花咲く|庭、|川に|突き出た|飛び込み台、|係留された|二艘の|ボート、|子供の|ブランコ。

突然、|遠くで|銃声のような|音が|聞こえた気がして|身を|震わせた。||セーヌ川のほとりでも|人々が|頭を|上げた。||しかし|何も|見えない。||何も|起きていない。||十分が|過ぎた。||ヴィエイユ=ギャルソンの|客たちが|テーブルに|つきはじめた。||老婆が|食前酒の|瓶を|抱えて|出てきた。
そのとき、|バッソ家の|敷地内で|暗い|人影が|芝生の|斜面を|駆け下りてきた。||メグレは|自分の|部下の|刑事だと|わかった。||不器用に|カヌーの|鎖を|外し、|必死に|川へ|向かって|漕いでいた。
メグレは|立ち上がり、|ヴィクトールを|見た。

「ここを|動くなよ!」

「お好きなように」

外では|注文するのを|やめて、|全員が|必死に|漕ぐ|黒い|人影を|眺めていた。||メグレは|川岸の|葦まで|歩き、|苛立ちながら|待った。

「何が|あった?」
刑事は|息を|切らしていた。

「早く|乗ってください!||誓って|俺の|せいじゃないんです!」

刑事は|再び|漕ぎはじめた。||今度は|メグレを|乗せて|別荘へ|向かった。

「静かだったんです。||八百屋が|帰った|ところで。||バッソ夫人が|坊ちゃんと|庭を|散歩していました。||なんとなく|おかしな|歩き方で、|何かを|待っている|人みたいでした。||そこへ|新車が|来て、|門の前に|止まりました。||一人の|男が|降りて……」


「少し|禿げかかった、|まだ|若い|男か?」

「そうです!||男は|入って、|バッソ夫人と|坊ちゃんと|庭を|歩きました。||私の|見張り場所は|ご存じでしょう。||かなり|離れていて。||握手して、|夫人が|男を|門まで|送って、|男は|車に|乗り込み、|エンジンを|かけました。||そして|私が|動く|間もなく、|バッソ夫人が|息子を|連れて|車の中に|飛び乗ると、|車は|猛スピードで|走り去りました。」

54

「撃ったのは|誰だ?」

「私です。||タイヤを|パンクさせようとして」

「ベルジェは|一緒だったか?」

「はい。||あちこちに|電話するよう|セーヌポールに|行かせました」
セーヌ=エ=オワーズ県の|憲兵隊に|全部|連絡|しなければならないのは|二度目だった。||ボートが|岸に|着いた。||メグレは|庭に|入った。||しかし|何が|できるか?||電話で|憲兵たちに|連絡する|しかない。

メグレは|かがんで|ハンカチを|拾った。||バッソ夫人の|イニシャルが|入った|婦人用の|ハンカチ。||ジェームズを|待ちながら|引きちぎるほど|もんでいたので、|ほとんど|ぼろぼろに|なっていた。
警部を|最も|動揺させたのは、|おそらく|タヴェルヌ・ロワイヤルでの|ペルノの|記憶だった。||あのイギリス人と|ブラッスリーの|テラスで|並んで|過ごした|二時間の|鈍い|麻痺状態。
嫌悪感に|似た|ものを|感じた。||自分らしくなかった、|ある種の|魔法に|支配されて|しまったという|不快な|感覚。

「別荘の|見張りを|続けますか?」

「煉瓦の家が||逃げるとでも|思うのか?||ベルジェと|合流して、|網を|張るのを|手伝え。||バイクを|調達して、|一時間ごとに|状況を|知らせろ」

台所の|テーブルの上に、|野菜の|隣に、|ジェームズの|筆跡で|こう|書かれた|封筒が|あった。
「必ずバッソ夫人に|お渡しください」
明らかに|八百屋が|手紙を|届けたのだ。||これから|何が|起きるかを|妻に|知らせる|手紙だった。||だから|彼女は|神経質そうに|息子と|庭を|歩き回っていたのだ!
メグレは|平底舟に|戻った。||2スーの居酒屋に|着くと、|仲間たちが|不審者を|取り囲み、|医者が|尋問し、|食前酒まで|振る舞われていた。

ヴィクトールは|図々しくも|メグレに|目配せをして、|こう|言いたげだった。

「うまく|やってますよ。||任せておいて」
彼は|説明を|続けた。

「なんでも|大先生らしくて。||酸素で|肺を|膨らませてから、|子供の|風船みたいに|縫い合わせたそうで」
55
医者は|使われた|専門用語に|苦笑しながらも、|仲間たちに|向けて|話の|正確さを|身振りで|確認していた。

「今度は|もう一方の|半分も|同じように|してもらわなきゃ|ならない。||肺は|二つある|わけだから。||つまり|半分しか|残らないことに|なる」

「それで|食前酒を|飲むのか?」

「当たり前でしょ!||健康のために!」

「夜に|冷や汗は|かかないか?」

「たまに!||すきま風だらけの|納屋で|寝るときは!」

「何を|飲まれますか、|警部さん?」と|誰かが|聞いた。
「わざわざ|呼びに|行ったということは、|何か|あったんですか?」

「ところで、|ドクター、|今朝|ジェームズが|車を|使いましたか?」

「試乗させてほしいと|言ったんです。||もう|戻ってくるはず|なんですが」

「疑わしいですね!」

医者は|ぎょっとして|立ち上がり、|笑顔を|作ろうとしながら|どもった。

「冗談でしょう?」

「まったく|冗談では|ありません。||バッソ夫人と|息子を|連れ出すために|使ったんです」

「ジェームズが?」と|驚きのあまり|耳を|疑いながら、|彼の|妻が|聞いた。


「ジェームズです、|間違いなく!」

「冗談に|決まってます!||あの人は|悪ふざけが|大好きだから!」

一番|楽しんでいたのは|ヴィクトールで、|食前酒を|ちびちびと|飲みながら|満足そうな|皮肉な|目で|メグレを|眺めていた。
居酒屋の|主人が|ポニーに|引かせた|小さな|荷車で|コルベイユから|戻ってきた。||サイフォンの|箱を|降ろしながら|通りすがりに|言った。


「またも|騒ぎだ!||今や|憲兵に|止められずに|道を|走れない!||顔なじみで|よかった」

「コルベイユへの|道でかい?」
56

「数分前のことだ。||橋の近くで|十人が|全部の|車を|止めて|書類を|出せと言ってる。||少なくとも|三十台が|立ち往生してるぞ」

メグレは|顔を|そらした。||自分の|せいでは|ない。||これしか|方法が|なかった。||しかし|重くて|不格好で|乱暴な|方法だ。||しかも|同じ県で|日曜日が|二週続けて、|新聞にも|ほとんど|載らなかった|大した|事件でも|ないのに。
やり方を|間違えたのか?||本当に|しくじって|いたのか?
また|あの|不愉快な|タヴェルヌ・ロワイヤルの|記憶と、|ジェームズと|過ごした|時間が|頭に|戻ってきた。

「何を|飲まれますか?||大きな|ペルノを……」
また|この|言葉。||今週の|出来事すべて、|この|事件全体、|モルサンの|仲間たちの|日曜日の|生活を|象徴するような|言葉だった。

「ビールをくれ!」と|彼は|答えた。

「この時間に?」

食前酒を|勧めようとした|親切な男は、|なぜ|メグレが|突然|怒って|こう|繰り返したのか|理解できなかったに|違いない。

「この時間に、|まったく!」
不審者にも|怒りのこもった|視線を|向けた。||ドクターが|彼について|カワカマスの|釣り師に|説明していた。

「特殊な|ケースです。||治療法は|知っていましたが、|これほど|完全な|気胸の|適用例を|見たことが|なかった」
そして|小声で:

「それでも|あと|一年も|もたないでしょう」

メグレは|ヴィエイユ=ギャルソンで|昼食を|とった。||うなり声を|上げる|病んだ|獣のように、|隅っこに|一人で。||刑事が|バイクで|二度|報告に|来た。


「何もありません。||フォンテーヌブロー4への|道で|車の|目撃情報が|ありましたが、|その後は|消えました」
やれやれ!||フォンテーヌブローへの|道に|検問を|張るとでも|いうのか!||何千台もの|車が|止められるぞ!
二時間後、|アルパジョン5から|報告が|入った。||ガソリンスタンドの|主人が|ドクターの車の|特徴と|一致する|車に|給油したという。
57

しかし|本当に|あの車だったのか?||男は|中に|女は|いなかったと|言い張った。
五時に|ようやく、|モンレリー6から|連絡が|入った。||車が|速度テストでも|するように|自動車競技場を|走り回っていたところ、|パンクで|動けなくなった。||たまたま|警官が|運転手に|免許証を|求めた。||持っていなかった。

ジェームズ一人だった!||釈放するか|拘留するか、|メグレの|指示を|待っていた。


「新品の|タイヤなのに!」と|医者が|嘆いた。
「最初の|お出かけで!||あいつは|狂っているんじゃないかと|思いはじめた。||それとも|いつも通り|酔っぱらっていたか」

そして|医者は|メグレに|同行を|許してほしいと|頼んだ。
- ジアン(Gien)は|フランス中部、|ロワレ県に|ある|町で、|ロワール川の|右岸に|位置しています。||パリから|約百五十キロの|距離です。
ジアン焼きの|陶器で|世界的に|有名な|町で、|ロワール川沿いの|最初の|城も|この|町に|あります。
作中での|意味は、|ヴィクトール・ガイヤールが|結核の|療養のため|ジアンの|市立|療養所に|入っていたという|ことです。||1930年代は|結核が|まだ|不治の病に|近く、|地方の|療養所で|静養するのが|一般的な|治療法でした。
↩︎ - 1930年代、|結核の|治療法として|「肺切除術」や「肺虚脱術」が|行われていました。||病巣が|ある|肺を|潰したり|取り除いたりして|細菌の|増殖を|抑える|方法です。
ヴィクトールの|場合は|片方の|肺が|結核で|やられて|機能を|失った|か、|手術で|除去された|状態と|考えられます。
彼が「片肺しか|ない」と|言うのは|単なる|泣き言では|なく、|自分を|逮捕しても|療養所に|戻されるだけだという|交渉カードとして|使っている|のが|ポイントです。||したたかな|男だという|ことが|にじんでいます。
↩︎ - ミュゼット舞踏会(bal musette)は、アコーディオンやミュゼット(小型バグパイプ)の音楽に合わせて踊る庶民的なダンスホールのことです。
19世紀末にパリのオーヴェルニュ移民が持ち込んだ音楽と踊りが起源で、20世紀初頭から1930年代にかけてパリの労働者階級の若者たちの最大の娯楽でした。
場所はパリの下町や郊外の安い酒場が多く、ワインを飲みながら男女が密着して踊るワルツやジャバ(java)が定番でした。照明は薄暗く、喧嘩や色恋沙汰が絶えないアウトローな雰囲気も漂っていました。
ヴィクトールとルノワールが十六歳の頃にミュゼット舞踏会を「うろついてかっぱらいをしていた」というのは、パリの下層社会に生きる不良少年の典型的な姿を示しています。ギャングエットとは異なり、ミュゼット舞踏会はもっと荒削りで危険な雰囲気の場所でした。
↩︎ - フォンテーヌブロー(Fontainebleau)は、パリ南東約60キロにある町です。
フォンテーヌブロー宮殿で有名で、フランス王家の狩猟の離宮として使われてきた歴史ある場所です。宮殿を囲むフォンテーヌブローの森は広大で、ハイキングや岩登りの名所としても知られています。
この場面で重要なのはモルサンからの距離と方向です。モルサンはパリ南郊のセーヌ川沿いにあり、フォンテーヌブローはさらにその南東方向にあります。つまりジェームズがバッソ夫人と息子を乗せてこの方向へ向かったということは、パリを避けて南東へ逃げた可能性を示していました。
しかし実際には車の中に女性はいなかったとわかります。ジェームズは一人で自動車競技場を走り回っていただけでした。バッソ夫人と息子は別の方法で逃げたか、あるいは最初からジェームズは囮として動いていた可能性があります。 ↩︎ - アルパジョン(Arpajon)は、パリ南方約30キロにある小さな町です。
現在はエソンヌ県に属し、パリからフォンテーヌブローへ向かう街道沿いに位置しています。1930年代にはパリと地方を結ぶ幹線道路沿いの宿場町的な存在で、ガソリンスタンドや修理工場が多くありました。
この場面でアルパジョンのガソリンスタンドから「医者の車の特徴と一致する車に給油した」という報告が入ったのは、フォンテーヌブローへの道筋にある町だったからです。パリを出てフォンテーヌブローへ向かうなら、アルパジョンを通るのは自然な経路でした。
またアルパジョンは1933年まで自動車レースの開催地としても知られており、翌場面で出てくるモンレリーの自動車競技場とも地理的に近い場所です。ジェームズが競技場で走り回っていたという展開も、この地域の自動車文化と無関係ではありません。 ↩︎ - モンレリー(Montlhéry)は、パリ南方約30キロ、アルパジョンのすぐ近くにある町です。
この町にモンレリー自動車競技場(Autodrome de Linas-Montlhéry)があります。1924年に開設された本格的なオーバル型の高速サーキットで、1930年代には自動車の速度記録試験や耐久レースが盛んに行われていました。バンク(傾斜した曲線コース)が特徴的な設計で、当時のヨーロッパを代表する競技場の一つでした。
この場面でジェームズが免許証も持たずに競技場を走り回っていたというのは、いかにもジェームズらしい行動です。バッソ夫人を逃がすための囮作戦として派手に目立つ行動をとっていたのか、それとも単純に酔った勢いで走りたかっただけなのか――どちらとも読めるのがジェームズという人物の掴みどころのなさを表しています。
↩︎



