『Brille Editor System ver.8』用の『BESファイル』を、ZIPファイルに圧縮して公開しています。(2026年4月19日現在未作成)
102

こういう場面は|長くは|続かない。||神経の|抵抗には|限界が|あるからだろう。||絶頂に|達すると、|突然|凪のような|静けさが|来る。||移行も|なく。||直前の|熱狂が|狂気に|近かったように、|その|静けさは|放心に|近い。
まるで|自分の|狂乱を、|涙を、|口にした|言葉を|恥じているようだ。||人間は|劇的な|身振りの|ために|作られては|いないとでも|いうように。
メグレは|居心地悪く|待ちながら、|小さな|窓から|青みがかった|夕暮れを|眺めていた。||憲兵の|ケピ帽が|シルエットで|見えた。||しかし|背後で|何が|起きているか、|感じ取れた。||バッソ夫人が|夫に|近づき、|肩を|つかんで、|途切れ途切れの|声で|言うのが|わかった。

「嘘だと|言って!」
バッソは|鼻をすすり、|立ち上がり、|妻を|払いのけ、|酔っぱらいのような|濁った|大きな|目で|あたりを|見回した。||ストーブが|開いていた。||マチルドばあさんが|石炭を|くべた。||天井に|赤い光の|大きな|輪が|できた。||梁が|浮き上がって|見えた。
坊やは|父親を|見て、|父親に|倣うように|泣き止んだ。

「もう|大丈夫です。||申し訳ない」||バッソは|部屋の|真ん中に|立って|つぶやいた。
傷ついているのが|伝わってきた。||声は|疲れ果てていた。||もう|何一つ|残っていなかった。

「自白しますか?」

「自白では|ない。||聞いてください」
苦しそうな|表情で|家族を|見つめ、|長く|眉を|ひそめた。
103
「ユルリッシュは|殺して|いません。||こんな|弱気に|なったのは、|自分では|身の潔白を|証明できないと|わかっているから|なんです」
言葉が|見つからないほど|消耗していた。
「潔白を|証明できないと?」
彼は|うなずいた。||そして|付け加えた。
「殺して|いない」
「フェンシュタンが|死んだ直後も|同じことを|言っていた。||それでも|今、|認めた」
「あれとは|違います」
「ユルリッシュとは|知り合いだった」
苦い|微笑みが|浮かんだ。
「その|手帳の|最初のページの|日付を|見てください。||十二年前です。||父ユルリッシュに|最後に|会ったのは|もう|十年は|前です」
少しずつ|落ち着きを|取り戻していたが、|声に|絶望が|滲んでいた。
「父が|まだ|生きていた頃でした。||バッソ親父を|知っている人に|聞いてみてください。||厳格な|人間で、|自分にも|他人にも|容赦なかった。||友人の中でも|一番|貧しい|連中より|小遣いを|もらえなかった。||だから|ブラン=マントー通りの|父ユルリッシュの|ところへ|連れて|いかれた。||あそこは|そういう|商売を|していた」
「ユルリッシュが|死んだことを|知らないんですか?」
バッソは|黙った。||メグレは|間を|置かずに|続けた。
「殺されて、|車で|サン=マルタン運河の|河岸まで|運ばれ、|水門に|投げ込まれたことを|知らないんですか?」
相手は|答えなかった。||肩が|さらに|落ちた。||妻を、|息子を、|食事の|時間だからと|泣きながらも|テーブルを|セットしている|老婆を|見た。
「どうするつもりですか?」
「逮捕します。||バッソ夫人と|息子さんは|ここに|残っても、|自宅に|戻っても|構いません」
メグレは|ドアを|少し|開けて|憲兵に|言った。
「車を|一台|回してください」
道路には|野次馬が|集まっていたが、|田舎者らしく|慎重に|距離を|置いていた。||メグレが|振り返ると、|バッソ夫人は|夫の|腕の中に|いた。
104
105
106

