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La tête d’un homme(1931)
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「何か|新しいことは?」

リュカは|警部の|手に|触れてから|ベッドの端に|腰を|下ろした。

「あります。||ただ|大したことでは|ありません。||シフレ紙の|編集長が|今朝|十時ごろ|受け取った|サンテの|件に|関する|手紙を|最終的に|渡してくれました」

「見せろ」
部長刑事は|青鉛筆の|書き込みだらけの|汚れた|紙を|手渡した。||シフレ紙では|メモの|一部を|削除し、|文を|つなぎ合わせて|植字に|回しただけだった。
植字工の|イニシャルと|組版の|指示も|残っていた。

「上の部分が|切り取られている。||印刷された|文字を|消すためだろう1」|と|メグレは|述べた。

「もちろん。||私も|すぐ|そう|思いました。||カフェで|書かれた|可能性が|高いと|考えて、|モエルスに|聞いてみました。||パリの|ほとんどの|カフェの|便箋を|見分けられると|言っているんです」


「わかったか?」

「十分も|かかりませんでした。||モンパルナス大通りの|ラ・クーポール2の|便箋です。||今|そちらから|来たところです。||残念ながら|一日に|千人以上の|客が|来て、|五十人以上が|筆記用具を|求めます」

「モエルスは|筆跡について|何と?」

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「まだ|何も。||手紙を|返せば|正式な|鑑定を|始めます。||それまでの間、|クーポールに|戻りましょうか?」
メグレは|シタンゲットから|目を|離さなかった。||最寄りの|工場が|扉を|開き、|大半が|自転車に|乗った|大勢の|労働者が|夕暮れの|灰色の|中を|遠ざかっていった。
ビストロの|一階では|電灯が|一つだけ|ついており、|警部は|客の|行き来を|見守ることが|できた。
錫の|カウンターの前に|六人ほどの|客がいて、|何人かが|デュフォールを|胡散臭そうに|見ていた。

「おや、|デュホールが|いるのですか?」|と|リュカは|遠くに|同僚の|姿を|見つけて|聞いた。
「それに、|もう少し|先で|川を|眺めているのは|ジャンヴィエ|じゃないか!」

メグレは|もう|聞いていなかった。||バーの|奥から|始まる|螺旋階段の|下部が|見えた。||そこに|足が|現れた。||一瞬|止まり、|それから|人影が|他の客に|近づき、|ジョゼフ・ウルタンの|青白い顔が|明かりの中に|現れた。

同時に|警部は|テーブルの上に|置かれた|夕刊を|見つけた。


「なあ、|リュカ。||シフレ紙の|記事を|他の|新聞が|転載しているか?」

「読んでいません。||でも|必ず|転載するでしょう。||嫌がらせのため|だけでも」
電話が|かけられた。

「シタンゲットを|つないでくれ、|急いで!」
今朝から|初めて、|メグレは|興奮していた。||セーヌ川の|対岸では|主人が|ウルタンに|話しかけ、|何を|飲むか|聞いているようだった。
サンテから|逃げ出した男が|まず|手の届く|新聞を|読もうとするのでは|ないか?

「もしもし!」
デュフォールが|向こうで|立ち上がり、|電話ボックスに|入った。

「気をつけろ!||テーブルに|新聞が|ある。||絶対に|読ませるな!」
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「どう|すれば?」

「急げ!||今|座った。||目の前に|新聞が|ある」

メグレは|立ち上がり、|緊張していた。||ウルタンが|記事を|読めば、|苦労して|手に入れた|実験が|台無しになる。
死刑囚は|壁沿いの|ベンチに|どっかりと|座り、|両肘を|テーブルに|ついて|頭を|両手で|抱えていた。
主人が|彼の前に|酒を|一杯|置きに|来た。
デュフォールが|ホールに|戻って|新聞を|取ろうとしていた。
リュカは|事件の|詳細を|知らなかったが、|察して|同じように|窓から|身を|乗り出した。||白、|緑、|赤の|航行灯を|点灯させて|けたたましく|汽笛を|鳴らしながら|通り過ぎる|タグボートに|一瞬|視界を|遮られた。

「来た!」|と|メグレは|うなった。
向こうで|デュフォール刑事が|客間に|戻ってきた。
ウルタンは|何気ない|しぐさで|夕刊を|広げた。||彼に|関する|記事は|一面に|あるのか?||すぐ|目に|入るのか?||
デュフォールには|危険を|切り抜ける|だけの|機転が|あるのか?
特徴的な|細かい|点だが、|刑事は|動く前に|セーヌ川の|方を|振り向き、|上司が|いる|窓の|方向を|一瞥する|必要を|感じた。
小柄で|こざっぱりとした|彼は、|屈強な|荷役人夫や|工場労働者で|あふれた|ビストロでは|まったく|場違いに|見えた。

それでも|ウルタンに|近づき、|新聞に|手を|伸ばした。||『失礼、|これは|私のです』と|言ったのだろう。
カウンターの|客たちが|振り返った。||死刑囚は|驚いた|目で|話しかけてきた男を|見上げた。
デュフォールは|粘り、|新聞を|つかもうと|前に|かがんだ。
リュカが|メグレの|隣で|「うん!||うん!」と|言った。
それで|十分だった!||場面は|すぐに|変わった。||ウルタンは|これから|何を|するか|まだ|わからない|男のように、|ゆっくりと|立ち上がった。

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左手は|新聞の|端を|引きつったように|握ったまま、|一方|刑事も|それを|放していなかった。

突然、|もう一方の手が|隣の|テーブルの上の|サイフォンを|つかみ、|分厚い|ガラスの|瓶が|刑事の|頭に|振り下ろされた。
ジャンヴィエは|五十メートルも|離れていない|水辺に|いた。||それでも|何も|聞こえなかった。
デュフォールは|よろめいた。||カウンターに|ぶつかり、|グラスが|二つ|割れた。
三人の男が|ウルタンに|飛びかかった。||別の二人が|刑事の|両腕を|押さえた。
騒ぎが|あったのだろう。||ジャンヴィエが|ようやく|水面の|反射を|眺めるのを|やめ、|シタンゲットの|方向に|頭を|向け、|歩きだし、|数歩|進んでから|走りはじめた。

「急げ!||車を|つかまえろ。||あそこへ|走れ」|と|メグレは|リュカに|命じた。
リュカは|気乗りしない|様子で|従った。||遅すぎることは|わかっていた。||現場にいた|ジャンヴィエでさえ|間に合わなかったのだから。
死刑囚は|もがき、|何かを|叫んでいた。||デュフォールが|警官だと|告発しているのか?

とにかく|一瞬|自由に|なった|その隙に、|まだ|手に|持っていた|サイフォンで|電球を|叩き割った。
手すりに|両手を|突っ張らせたまま、|警部は|動かなかった。||下の|埠頭では|タクシーが|動きだした。||シタンゲットで|マッチが|擦られたが、|すぐに|消えた。||距離が|あったにもかかわらず、|メグレは|銃声がしたと|ほぼ|確信した。
永遠のような|数分間。||橋を|渡った|タクシーが|セーヌ川の|対岸の|でこぼこ道を|のろのろと|進んだ。
あまりに|遅かったため、|シタンゲットから|二百メートルの|ところで|リュカ部長刑事が|飛び降りて|走りだした。||銃声を|聞いたのかもしれない。
鋭い|笛の音。||リュカか|ジャンヴィエが|呼んでいる。

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向こうでは、|「お持ち込み歓迎」と|エナメル文字で|書かれた|(Mと Rが|欠けていた)|汚れた|窓ガラスの|向こうに|蝋燭が|灯り、|床に|倒れた|体に|かがみこむ|人影を|照らしていた。
しかし|光景は|不明瞭だった。||遠すぎて|明かりも|乏しく、|人影の|識別は|できなかった。
窓から|離れずに、|メグレは|くぐもった声で|電話した。

「もしもし、|グルネル警察署か?||今すぐ|車で|シタンゲット周辺に|人員を|配置しろ。||逃げようとしたら、|背が|高く|頭が|大きく|青白い顔の|男を|逮捕しろ。||医者にも|連絡しろ」
リュカが|現場に|到着していた。||タクシーが|店の|ショーウインドウの|前に|止まり、|警部から|店内の|一部が|見えなくなった。
ビストロの|主人が|椅子の上に|立って|新しい|電球を|取り付けると、|白い|光が|ふたたび|部屋に|満ちた。
電話が|鳴った。


「もしもし、|警部ですか?||コメリオ判事です。||自宅にいます。||夕食の|客が|来ています。||でも|安心したくて」
メグレは|黙った。

「もしもし、|切れましたか?||いますか?」

「います」

「どうですか?||ほとんど|聞こえません。||夕刊を|読みましたか?||どの|新聞も|シフレ紙の|暴露を|転載していますよ。||そろそろ|一手打った方が」
ジャンヴィエが|シタンゲットから|走り出てきて、|空き地の|闇の中へ|右に|飛び込んだ。


「それ以外は|すべて|順調ですか?」

「順調だ!」|と|メグレは|怒鳴って|受話器を|置いた。
全身に|汗を|かいていた。||パイプが|床に|落ち、|燃えている|煙草が|カーペットを|焦がしはじめていた。

「もしもし、|シタンゲットを|つないでくれ」

「今し方|おつなぎしました」

「シタンゲットを|頼む。||わかったか?」
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ビストロの中で|動きが|あり、|呼び出し音が|鳴っているのが|わかった。||主人が|電話に|向かおうとした。||リュカが|先に|出た。

「もしもし、|警部ですか?」

「俺だ」|と|メグレは|疲れた声で|言った。||「逃げたな?」

「もちろん」

「デュフォールは?」

「たいしたことは|ないと|思います。||頭皮が|裂けましたが、|気を|失いも|しませんでした」

グルネルの|警察が|来る」

「無駄でしょう。||あのあたりは|ご存知でしょう。||工事現場、|積み上げられた|資材、|工場の|中庭、|それに|イシ=レ=ムリノーの|路地が|あって」

「発砲は?」

「一発|ありました。||でも|誰が|撃ったか|わかりません。||みんな|ぼんやりして|おとなしくしています。||何が|起きたか|わかっていない|様子です」

車が|河岸の|角を|曲がり、|警官を|二人|降ろし、|さらに|百メートル|先で|また|二人|降ろした。
さらに|四人が|ビストロの|前で|降り、|一人が|建物を|回りこんで|裏口を|見張るために|向かった。||いつもの|手順どおりだった。

「どう|すれば?」|と|リュカが|しばらくして|聞いた。

「何も|するな。||とりあえず|追跡を|手配しろ。||すぐ|行く」

「医者には|連絡しましたか?」

「した」

ホテルの|フロントを|兼ねていた|電話交換手が、|目の前に|大きな|影が|現れて|飛び上がった。
メグレは|あまりに|冷静で、|あまりに|無表情で、|その顔は|まるで|肉体を|持たない|ものの|ようだった。

「いくらだ?」

「お発ちですか?」

「いくらだ?」

「支配人に|聞かなければ。||電話は|何本|かけましたか?||少々|お待ちを」
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しかし|彼女が|立ち上がろうとすると、|警部は|腕を|つかんで|無理やり|座らせ、|百フラン札を|フロントに|置いた。

「足りるか?」

「十分だと|思います。||はい。||でも」

メグレは|ため息をついて|出て行き、|歩道を|ゆっくりと|歩き、|急ぐことなく|橋を|渡った。
ある時、|パイプを|取り出そうと|ポケットを|探ったが|見つからなかった。||それを|不吉な|前兆と|感じたのか、|唇に|苦い|微笑みが|浮かんだ。
シタンゲットの|周りに|船頭たちが|何人か|たむろしていたが、|さほど|興味を|示さなかった。||先週も|同じ|場所で|アラブ人が|二人|刺し合いを|していた。||一か月前には|女性の|脚と|胴体が|入った|袋が|棒で|引き上げられていた。
セーヌ川の|対岸に|オートゥイユの|立派な|建物が|地平線を|区切っていた。||近くの|橋を|地下鉄の|車両が|揺らしていた。

小雨が|降っていた。||制服の|警官たちが|青白い|懐中電灯を|周囲に|向けながら|行き来していた。
バーの中に|立っているのは|リュカだけだった。||乱闘を|目撃したか|加わった|客たちが|壁沿いに|座っていた。
部長刑事は|一人ずつ|回り、|身分証を|調べた。||睨まれながらも。
デュフォールは|すでに|警察の|車に|乗せられ、|できるだけ|ゆっくりと|発車していった。
メグレは|何も|言わなかった。||外套の|ポケットに|両手を|突っこんで|周りを|ゆっくりと|見回した。||その目は|無限に|重い|ものを|宿しているように|見えた。
主人が|何か|説明しようとした。


「誓います、|警部、|あのとき」
メグレは|黙るよう|手で|合図し、|アラブ人の|男に|近づいて|つま先から|頭まで|眺めた。||男の|顔が|土気色に|なった。

「今は|働いているか?」

「シトロエンに。||はい。||私は」

「居住禁止は|あと|どのくらいだ?」
メグレは|警官に|合図した。||「連行しろ」という|意味だった。
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「警部!」|と|追われながら|扉の方へ|押されていく|男が|叫んだ。
「説明します。||何も|していません」
メグレは|もう|聞いていなかった。||ポーランド人の|男の|書類が|少し|不備だった。

「連行しろ」
それだけだった。||床には|空薬莢が|一つ|入った|デュフォールの|拳銃が|あった。||サイフォンと|電球の|破片が|散らばっていた。||新聞は|破れ、|二か所に|血が|飛んでいた。

「どう|しますか?」|と|書類の|確認を|終えた|リュカが|聞いた。

「解放しろ」
ジャンヴィエが|戻ってきたのは|十五分後だった。||メグレが|リュカ部長刑事と|共に|ビストロの|隅に|ぐったりと|座っているのを|見つけた。||泥だらけで、|レインコートに|黒い|染みが|ついていた。
何も|言う|必要は|なかった。||二人の|そばに|腰を|下ろした。

まるで|別のことを|考えているかのような|メグレが、|謙虚で|悄然とした|様子で|カウンターの後ろに|立つ|主人を|ぼんやりと|見ながら|言った。

「ラム酒を」
ふたたび|手が|ポケットの|パイプを|探った。

「煙草を|くれ」|と|ジャンヴィエに|向かって|ため息まじりに|言った。
ジャンヴィエは|何か|言葉を|見つけたかった。||しかし|上司の|肩が|落ちるのを|見て|胸が|いっぱいになり、|顔を|そむけて|鼻を|すするだけだった。
判事コメリオは|シャン=ド=マルスの|自宅で|二十人の|夕食会を|主催しており、|その後には|小さな|ダンスパーティーが|続く|予定だった。
デュフォール刑事は|グルネルの|医者の|鉄製の|診察台に|横たえられ、|医者は|白衣を|羽織りながら|器具の|滅菌を|見守っていた。

「跡が|残りますか?」|と|天井しか|見えない|体勢の|刑事が|聞いた。
「頭蓋骨は|割れていませんよね?」
「大丈夫、|大丈夫。||数針|縫うだけです」

「髪は|また|生えますか?||確かですか?」
医者は|輝く|鉗子を|手に、|助手に|患者を|しっかり|押さえるよう|合図した。||デュフォールは|痛みの|叫びを|かみ殺した。

- 「印刷された文字」とは、便箋の上部に|印刷されている|カフェの名前や|住所のことです。
ラ・クーポールのような|有名カフェでは、|客に|提供する|便箋に|カフェの|名前・住所・電話番号などが|あらかじめ|印刷されていました。
手紙の|差出人は|その|印刷された|部分を|切り取ることで、|手紙が|どこで|書かれたかを|わからなくしようとしたのです。しかし|モールスが|便箋の|紙質や|質感から|ラ・クーポールの|便箋だと|見破りました。
↩︎ - ラ・クーポールは、パリの|ブールヴァール・モンパルナスに|ある|実在の|有名カフェ・レストランです。1927年に|開業し、|1930年代には|パリの|芸術家や|文人、|知識人たちが|集まる|最も|賑やかな|社交の場の|一つでした。
ピカソ、|ヘミングウェイ、|シモーヌ・ド・ボーヴォワール、|サルトルなども|常連だったと|言われています。一日に|千人以上の|客が|訪れる|大型カフェで、|広い|フロア、|高い|天井、|円柱が|特徴的な|内装です。
現在も|同じ場所で|営業しており、|パリの|歴史的な|カフェの|一つとして|知られています。
物語の文脈では、|謎の|人物が|このカフェで|シフレ紙への|告発状を|書いたことが|判明した|場面です。一日千人以上が|訪れる|大カフェなので、|誰が|書いたか|特定するのが|非常に|難しいという|状況を|示しています。
↩︎




