男の首|第二章 眠る男(一般版)

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『Brille Editor System ver.8』用の『BESファイル』を、ZIPファイルに圧縮して公開しています。(2026年5月3日現在)

La tête d’un homme(1931)

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判事コメリオとの短い面会を終えたメグレがオートゥイユ1に着いたのは十一時だった。コメリオはなかなか落ち着かない様子だった。空はどんよりと曇り、石畳は汚れ、屋根すれすれに雲が垂れこめていた。

警部が歩く河岸には立派な建物が並んでいた。一方、対岸はすでに郊外の風景で、工場、空き地、資材の山が積まれた荷揚げ場が続いていた。

その二つの景色の間を、鉛色のセーヌ川がタグボートの往来に揺れながら流れていた。

シタンゲットは遠くからでもすぐにわかった。煉瓦の山、古い車のフレーム、アスファルト紙、果ては鉄道のレールまで散らかった空き地の真ん中に、ぽつんと一軒だけ建っていたからだ。

一階建てのみすぼらしい赤い建物で、三つのテーブルを並べたテラスに、「ワイン・軽食」と書かれたおなじみの日よけが張られていた。

セメントを荷降ろししているのだろう、頭から足まで白くなった荷役人夫たちが見えた。出がけに青いエプロン姿の男、ビストロの主人と握手して、急ぐでもなく埠頭に係留されたはしけの方へ歩いていった。

メグレの顔は疲れ、目はうつろだった。しかしそれは徹夜のせいではなかった。

目標をひたむきに追い続けてようやく手の届くところに来たとき、いつもこうして気が抜けてしまうのが彼の癖だった。

ある種の嫌気で、抗おうともしなかった。

シタンゲットの真向かいにホテルを見つけ、フロントに入った。

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「河岸に面した部屋を一つ欲しい」


「月極めで?」


メグレは肩をすくめた。今は逆らわれる場合ではない。


「好きなだけいる。司法警察だ」


「空き部屋がございません」


「よし、宿帳を見せろ」


「それが、少々お待ちを。18号室が空いているかフロアの係に電話して確かめないと」


「馬鹿者が」とメグレは歯の間からうなった。


もちろん部屋はもらえた。ホテルは高級だった。係が聞いた。


「お荷物はお取りしましょうか?」


「何もない。双眼鏡だけ持ってこい」


「でも、あるかどうか」


「いいから。どこからでも双眼鏡を探して来い」


ため息をつきながら外套を脱ぎ、窓を開け、パイプに煙草を詰めた。五分もしないうちに貝殻の装飾がついた双眼鏡が届いた。


「女主人のものです。大切に扱うよう申しておりました」


「わかった。消えろ」


すでに彼はシタンゲットの正面を細部まで把握していた。

二階の窓が一つ開いていた。乱れたベッドが見え、巨大な赤い羽毛布団が横向きに置かれ、羊の皮の上にタペストリーのスリッパがあった。


「主人の部屋だ」


隣にもう一つ窓があった。こちらは閉まっていた。その隣の三つ目の窓は開いており、シュミーズ姿の太った女が髪をとかしていた。


「女将か、それとも女中か」


下では店主がテーブルを拭いていた。テーブルの一つにデュフォール刑事が赤ワインの小瓶を前に座っていた。

二人が話しているのは明らかだった。

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石の埠頭の端に、レインコートを着てグレーのキャップをかぶった金髪の若い男が、セメントのはしけの荷降ろしを監視しているように見えた。

司法警察の最も若い刑事の一人、ジャンヴィエ刑事だった。

メグレの部屋のベッドの頭側に電話機があった。警部は受話器を取った。


「もしもし、フロントか?」


「何かご用でしょうか?」


「対岸のシタンゲットというビストロにつないでくれ」


「かしこまりました」とかん高い声が答えた。


しばらくして、メグレは窓から主人が雑巾を放り出してドアの方へ歩くのを見た。それから部屋の電話が鳴った。


「おつなぎしました」


「もしもし、シタンゲットですか?店内のお客様を電話口に呼んでください。一人しかいないから間違いはありません」


窓から呆然とした主人がデュフォールに話しかけ、デュフォールが電話ボックスに入るのが見えた。


「お前か?」


「警部ですか?」


「向かいのホテルにいる。そこから見えるだろう。あの男はどうだ?」


「寝ています」


「確認したか?」


「さっきドアに耳を当てました。いびきが聞こえたので、扉を少し開けると見えました。丸まって服を着たまま寝ています」


「主人に知らせていないか?」


「警察を怖がっています。昔もめたことがあって、免許を取り上げると脅されたことがあるんです。だからおとなしくしています」


「出口はいくつだ?」


「二つ。表の入口と、中庭に通じる扉。ジャンヴィエがいる場所からその出口が見えます」


「二階に誰か上がったか?」

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「誰も。階段はビストロのカウンターの後ろにあるので、私のそばを通らずに上がることはできません」


「よし。そこで昼飯を食え。後で電話する。船会社の事務員らしく見えるよう努力しろ」


メグレは受話器を置き、肘掛け椅子を開いた窓まで引きずっていった。寒くなって外套を取ってきて羽織った。


「終わりましたか?」とホテルの交換手が聞いた。


「終わった。ビールと刻み煙草を持ってこい」


「煙草はございません」


「では買いに行かせろ」


午後三時、彼はまだ同じ場所にいた。双眼鏡を膝の上に、空のグラスを手元に、窓が開いているにもかかわらず部屋には強いパイプの煙の匂いが漂っていた。

警察の発表に基づいた朝刊が床に落ちていた。『死刑囚、サンテ刑務所から脱走』と書かれていた。

メグレは時折肩をすくめ、足を組んだりほどいたりし続けた。三時半、シタンゲットから電話が入った。


「何かあったか?」


「何も。男はまだ寝ています」


「それで?」


「オルフェーヴル河岸から電話があって、警部の居場所を聞かれました。予審判事がすぐ話したいとのことです」


今度はメグレは肩をすくめずに一言言い放ち、受話器を置いて交換手を呼んだ。


「検察庁につないでくれ。急ぎだ」


コメリオが何を言うかわかりすぎるほどわかっていた。


「もしもし、警部ですか?やっと。どこにいるか誰も教えてくれなくて。オルフェーヴル河岸に聞いたら、シタンゲットに部下を張りこませているとわかって、そちらに電話させました」


「何ですか?」


「まず、何か新しいことは?」


「何も。男は寝ています」

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「確かですか?逃げていませんか?」


「少し大げさに言えば、今この瞬間も眠っているのが見えます」


「私はだんだん後悔しはじめています」


「私の言うことを聞いたことを?法務大臣も同意しているではないですか」


「待ってください。朝刊があなたの発表を載せました」


「見ました」


「昼刊も読みましたか?いいえ?シフレ紙を手に入れてください。ゆすり新聞とわかっていますが、それでも。少しそのままで。もしもし、いますか?読みます。「国家の都合」という題のシフレ紙の囲み記事です。聞こえますか、メグレ?では」


今朝の各紙は、セーヌ重罪院で死刑判決を受け、サンテ刑務所厳重監視棟に収監中のジョゼフ・ウルタンが不可解な状況の下で脱走したと伝える半公式の発表を掲載した。

我々はこの状況がすべての人にとって不可解ではないことを付け加えることができる。

実際、ジョゼフ・ウルタンは脱走したのではなく、脱走させられたのだ。しかも予定されていた処刑の前夜に。

今夜サンテで演じられた卑劣な茶番劇の詳細を今すぐ伝えることはまだできないが、脱走の見せかけを取り仕切ったのは司法当局とグルになった警察自身であることを我々は断言する。

ジョゼフ・ウルタンはそれを知っているのか?

知らないとすれば、犯罪の年代記においてほぼ前例のないこの作戦を言い表す言葉が見つからない。

メグレは身じろぎもせずに最後まで聞いた。電話口の判事の声が弱々しくなった。


「どう思いますか?」


「私が正しいことの証明です。シフレ紙が独自に嗅ぎつけたわけでもない。内情を知っていた六人の役人の誰かがしゃべったわけでもない。それは」


「それは?」

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「今夜お話しします。大丈夫ですよ、コメリオ判事」


「そうでしょうか?他の新聞がこの情報を取り上げたら?」


「スキャンダルになるでしょう」


「ほらご覧なさい」


「一人の男の命がスキャンダルより大事ではないですか?」


五分後、彼は警視庁に電話した。


「リュカか?いいか。モンマルトル通りのシフレ紙の編集部へ行け。編集長と二人きりで話せ。脅しをかけてでも、サンテ脱走に関する情報をどこから得たか聞き出せ。今朝手紙か速達を受け取ったはずだ。その文書を探し出してここへ持ってこい。わかったか?」


交換手が聞いた。


「終わりましたか?」


「まだだ。シタンゲットにつないでくれ」


少ししてデュフォール刑事が報告した。


「寝ています。さっき十五分ほどドアに耳を当てていました。悪夢の中でうめいているのが聞こえました。『お母さん!』と」


シタンゲットの二階の閉まった窓に双眼鏡を向けながら、メグレは枕元にいるかのようにはっきりと生々しく眠る男の姿を思い浮かべることができた。

それでも実際に知り合ったのは七月、サン=クルーの事件からわずか四十八時間後に肩に手を置いてこうささやいたあの日だけだった。


「騒ぐな。ついてこい」


それはムッシュー=ル=プランス通りの安下宿で、ジョゼフ・ウルタンは六階の部屋を借りていた。

下宿の女主人はこう言っていた。


「きちんとした、おとなしい、働き者の青年です。ただ時々少し変わった様子に見えることがありますが」


「誰も訪ねて来なかったですか?」

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「誰も。最近まで真夜中過ぎに帰ることもありませんでした」


「最近は?」


「二、三度遅く帰りました。一度、水曜日でしたが、午前四時少し前に開錠を頼んできました」


その水曜日こそサン=クルーの犯行当日だった。法医学者たちは二人の女性の死亡時刻を午前二時ごろと断定していた。

さらにウルタンの有罪を示す確かな証拠があった。その証拠の大半はメグレ自身が発見したものだった。

別荘はサン=ジェルマン街道2沿いのパヴィヨン=ブルー3から一キロと離れていない場所にあった。真夜中、ウルタンは一人でこの店に入り、立て続けにグロッグを四杯飲んだ。代金を払う際にポケットからパリ=サン=クルーの三等片道切符を落とした。

ヘンダーソン夫人はアメリカ人外交官の未亡人で、金融界の名家と縁続きだった。夫の死後、一階を使わずに別荘に一人で住んでいた。

女中というより話し相手に近い使用人が一人いた。エリーズ・シャトリエというフランス人で、子供時代をイギリスで過ごし、優れた教育を受けていた。

週二回、サン=クルーの庭師が別荘を囲む小さな公園の手入れに来ていた。

訪問者は少なかった。時折老夫人の甥のウィリアム・クロスビーとその妻が来る程度だった。

その七月の夜、七日だったが、ドーヴィルへと続く幹線道路をいつもどおり車が行き交っていた。

午前一時、パヴィヨン=ブルーや他のレストランやダンスホールが閉まった。

あるドライバーが後に証言した。二時半ごろ、別荘の二階に明かりが灯り、奇妙な動きをする人影が見えたと。

六時、庭師がやってきた。その日が彼の担当日だった。いつもの習慣で音もなく門を押し開け、八時にエリーズ・シャトリエが朝食を出すために呼びに来るのを待っていた。

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しかし八時になっても物音がしなかった。九時になっても別荘の扉はまだ開いていなかった。不安になった庭師はノックしたが返事がなく、最寄りの交差点にいた警官に知らせに行った。

しばらくして悲劇が発見された。ヘンダーソン夫人の寝室で、老婦人の遺体がカーペットの上に横たわっていた。ナイトガウンは血に染まり、胸には十数か所の刺し傷があった。

エリーズ・シャトリエも同じ運命をたどっていた。夜中に具合が悪くなることを恐れた女主人の頼みで占領していた隣の部屋で。

二重の凶悪な殺人、警察が言ういわゆる卑劣な犯罪の極みだった。

至る所に痕跡があった。足跡、カーテンに残された血まみれの指の跡。

通常の手続きが始まった。検察の臨場、司法身元確認局の専門家の到着、各種の分析と解剖。

メグレは警察の捜査指揮を任され、二日とかからずウルタンの手がかりを見つけた。

手がかりはあまりにもはっきりと示されていた。別荘の廊下にはじゅうたんがなく、床にはワックスがかけられていた。

数枚の写真で例外的な鮮明さの足跡が得られた。

まったく新しいゴム底の靴だった。雨の日にゴムが滑らないよう、特殊な溝が刻まれており、中央にはメーカー名と製品番号が読めた。

数時間後、メグレはラスパイユ大通りの靴屋に入り、その種の靴のそのサイズ、44番が過去二週間で一足しか売れていないことを知った。


「そうです。三輪車で配達に来た男です。近所でよく見かけます」


さらに数時間後、警部はセーヴル通りの花屋ジェラルディエを訪ね、配達人のジョゼフ・ウルタンが履いていた例の靴を見つけた。

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あとは指紋を照合するだけだった。作業は司法宮の司法身元確認局で行われた。

専門家たちが器具を手にかがみこみ、結論は即座だった。


「この男です」


「なぜやった?」


「殺していない」


「ヘンダーソン夫人の住所を誰から聞いた?」


「殺していない」


「午前二時に別荘で何をしていた?」


「知らない」


「サン=クルーからどうやって戻った?」


「サン=クルーに行っていない」


顔は大きく青白く、ひどくでこぼこしていた。まぶたは何日も眠っていない男のように赤みを帯びていた。

ムッシュー=ル=プランス通りの部屋から血のついたハンカチが見つかった。化学者たちはそれが人血であると断定し、ヘンダーソン夫人の血液から検出されたバチルスと同じものを発見した。


「殺していない」


「弁護士は誰に頼む?」


「弁護士はいらない」


国選弁護人として三十歳のジョリー弁護士が選ばれ、必死に奔走した。

精神科医たちは七日間ウルタンを観察してこう述べた。


「退化の兆候なし。現在の意気消沈は激しい神経的衝撃の結果であるが、この男は自分の行為に責任能力がある」


夏休みの季節だった。メグレはドーヴィルの事件に呼ばれた4。予審判事コメリオは事件が十分明白だと判断し、起訴審査部も起訴を認める決定を下した。

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それでもウルタンは何も盗んでおらず、ヘンダーソン夫人と女中の死に明らかな利害関係がなかった。

メグレはできる限り遡って彼の生涯を調べた。肉体的にも精神的にも、あらゆる年齢の彼を知り尽くしていた。

彼はムランで生まれた。父はセーヌ・ホテルのウェイター、母は洗濯婦だった。

三年後、両親は中央刑務所の近くのビストロを引き継いだがうまくいかず、セーヌ=エ=マルヌのナンディに宿屋を開いた。

ジョゼフ・ウルタンが六歳のとき、妹のオデットが生まれた。

メグレは水兵服を着た彼の写真を持っていた。熊の皮の上に手足をばたつかせてぽっちゃりと寝転ぶ赤ちゃんの前にしゃがんでいる姿だった。

十三歳のとき、ウルタンは馬の世話をし、父の店を手伝っていた。

十七歳で、フォンテーヌブローの上品な宿屋でウェイターとして働いた。

二十一歳で兵役を終えてパリに出てきて、ムッシュー=ル=プランス通りに住み、ジェラルディエのもとで配達人になった。


「本をよく読んでいました」とジェラルディエは言った。


「唯一の楽しみは映画に行くことでした」と下宿の女主人は断言した。


しかし彼とサン=クルーの別荘との間に見えるつながりは何もなかった。


「以前にサン=クルーに行ったことは?」


「ない」


「日曜日は何を?」


「本を読んでいた」


ヘンダーソン夫人は花屋の客ではなかった。泥棒が入るなら別荘よりもっとふさわしい場所があるはずだった。しかも何も盗まれていなかった。


「なぜしゃべらないんだ?」


「言うことは何もない」

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メグレは一か月間ドーヴィルで国際詐欺団を追っていた。

九月、サンテ刑務所の独房にウルタンを訪ねた。そこにいたのは抜け殻のような男だった。


「何も知らない。殺していない」


「しかしサン=クルーにいたことは確かだ」


「ほっといてくれ」


「ありふれた事件だ」と検察は判断した。「秋まで待とう」


十月一日、ウルタンは重罪院の開廷式の最初の被告として法廷に立った。

ジョリー弁護士が見つけた唯一の弁護方針は、依頼人の精神状態に関する再鑑定を求めることだった。彼が選んだ医師はこう証言した。


「限定的な責任能力」


これに対して検察はこう反論した。


「卑劣な犯罪だ。ウルタンが盗まなかったのは何らかの事情で阻まれたからだ。合計十八か所を刺している」


被害者の写真が回覧され、陪審員たちは嫌悪感を示しながら押し返した。


「すべての問いにイエス(有罪)の答えが返った」5


死刑。翌日、ジョゼフ・ウルタンは他の四人の死刑囚と共に厳重監視棟へ移送された。


「何か言うことはないか?」とメグレは毎日訪ねに来た。彼自身この事件に納得がいかなかった。


「ない」


「処刑されることはわかっているか?」


ウルタンは泣いた。相変わらず青白い顔、赤い目で。


「共犯者は誰だ?」


「いない」


正式にはもはやこの事件に関わる権限がなかったにもかかわらず、メグレは毎日訪ねた。毎日、ぐったりとしながらも落ち着いたウルタンを見つけた。震えもせず、時には目に皮肉な光さえ浮かべていた。

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やがてある朝、囚人は隣の独房で足音を聞き、次いで鋭い叫び声を聞いた。

9号、尊属殺人犯が断頭台へ連行されたのだ。

翌日、11号となったウルタンは泣きじゃくった。しかししゃべらなかった。寝台に全身を伸ばし、歯をがちがちと鳴らし、顔を壁に向けているだけだった。

いったんメグレの頭に考えが入ると、それは長い間そこに居座った。


「この男は狂人か、無実だ」と彼は判事コメリオに言いに行った。


「そんなことはありえない。しかも既判力がある」


身長一メートル八十、オ・アールの荷役人夫のようにがっしりと幅広いメグレは頑として譲らなかった。


「サン=クルーからパリへどうやって戻ったか証明できなかったことを思い出してください。電車に乗っていないことは証明されています。路面電車にも乗っていない。歩いて戻ったわけでもない」


冷やかしもあった。


「実験をしてみたいですか?」

「省庁に頼まなければ」


メグレは重い足取りで粘り強く省庁に乗りこんだ。死刑囚に脱走計画を知らせるメモを自ら書いた。


「いいですか。共犯者がいるなら、このメモは彼らから来たと思うでしょう。いないなら、罠だと疑うでしょう。私が身元を保証します。どちらの場合でも逃がしません」


どっしりとした穏やかな、しかし断固とした警部の顔を見ればわかった。

三日間粘った。司法の誤りと遅かれ早かれ爆発するスキャンダルという亡霊を振りかざした。


「しかしあなた自身が逮捕したんでしょう」


「警察官として、物的証拠から論理的な結論を引き出す義務があります」


「人間としては?」


「道義的な証拠を待っています」


「つまり?」


「狂人か、無実か」

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「なぜしゃべらないのか?」


「私が提案する実験でわかります」


電話が飛び交い、会議が開かれた。


「警部、あなたは自分のキャリアを賭けているんですよ。よく考えてください」


「もう考えました」


メモは囚人に届けられた。ウルタンは誰にも見せず、最後の三日間は食欲が出てきた。


「つまり驚いていない。つまりこういうことを期待していた。つまり共犯者がいて、自由を約束されていたのだ」とメグレは断言した。


「あるいは馬鹿のふりをしているだけかも。刑務所を出た途端に逃げられたら。あなたのキャリアが」


「彼の首もかかっています」


そして今、メグレはホテルの部屋で革の肘掛け椅子にどっしりと腰を据え、窓の前にいた。時折双眼鏡をシタンゲットに向けると、荷役人夫や船頭たちが一杯飲みに来ていた。

ジャンヴィエ刑事は埠頭でさりげない素振りを装いながらくすぶっていた。

デュフォールは、メグレが双眼鏡で確認したのだが、アンドゥイエット6のジャガイモピューレ添えを食べ終わり、今はカルヴァドスを飲んでいた。

例の部屋の窓はまだ開いていなかった。


「シタンゲットにつないでくれ」


「話し中です」


「かまわない。切れ」


しばらくして:


「デュフォールか?」


刑事は簡潔に答えた。


「まだ寝ています」


ドアをノックする音がした。リュカだった。パイプの煙があまりに濃くて咳き込んだ。

  1. オートゥイユは、パリ16区に|ある|地区の名前です。||セーヌ川の|右岸に|位置し、|パリの|西端に|あたります。
    1930年代当時は|裕福な|住宅街として|知られており、|立派な|建物が|並ぶ|高級な|エリアでした。||しかし|シタンゲットが|ある|セーヌ川沿いの|一帯は|対岸の|イシ=レ=ムリノーの|工業地帯と|向き合う|形で、|荷揚げ場や|倉庫なども|混在していました。
    つまり|同じ|オートゥイユでも、|内陸側は|高級住宅街、|川沿いは|労働者や|船頭たちの|場末の|雰囲気という|対照的な|二面性を|持っていた|エリアです。||シムノンが|シタンゲットを|この場所に|設定したのも、|そうした|対比を|意識してのことかもしれません。
    ↩︎
  2. サン=ジェルマン街道は、パリから|西へ|向かう|実在の幹線道路です。パリ中心部から|サン=ジェルマン=アン=レーを|結ぶ道で、|セーヌ川沿いに|走っています。サン=クルーは|その途中に|あり、|パリから|車で|二十分ほどの|距離です。
    1930年代当時は|週末に|ドーヴィルや|ノルマンディーへ|向かう|裕福な|パリジャンの|車が|行き交う|道として|知られていました。沿道には|ヘンダーソン夫人の|別荘のような|富裕層の|邸宅が|点在していました。 ↩︎
  3. パヴィヨン=ブルーは、サン=クルー近くの|セーヌ川沿いに|実在した|高級レストランです。正式名称は「Le Pavillon Bleu」で、1930年代当時は|パリの|富裕層や|社交界の|人々が|週末に|訪れる|人気の|料理店でした。
    テラスから|セーヌ川を|眺めながら|食事が|できる|優雅な|雰囲気で|知られており、|夜には|ダンスも|楽しめる|社交の場でも|ありました。
    物語の文脈では、|ウルタンのような|貧しい|配達人が|真夜中に|一人で|訪れて|グロッグを|四杯も|飲むという|場面が|非常に|不自然で|怪しいと|いうことを|示しています。彼が|なぜ|そこに|いたのか、|誰かと|会う|約束でも|あったのか、|という|疑問が|浮かび上がります。
    ↩︎
  4. ドーヴィルの|事件は、|本文には|詳しい|説明が|ありません。ドーヴィルは|ノルマンディー海岸の|高級リゾート地で、|パリの|富裕層が|夏に|訪れる|場所として|知られています。
    ここでの|言及は、|メグレが|ウルタン事件の|審理の間、|別の|捜査のために|ドーヴィルに|出張していたという|事実を|示すだけです。つまり|メグレが|ウルタンの|裁判に|直接|関与できず、|事件が|自分の|目の届かない|ところで|進んでいったことを|示唆しています。この|ことが|後に|メグレが|ウルタンの|無実を|疑う|一因に|なったかもしれません。
    ↩︎
  5. 陪審員たちが|評決を|下す|場面です。
    フランスの|重罪院では|陪審員に|いくつかの|質問が|提示されます。例えば「被告は|殺人を|犯したか?」「計画的だったか?」などです。
    「すべての|質問に|イエス」とは、陪審員が|すべての|問いに|対して|有罪を|認める|答えを|出した、つまり|完全な|有罪評決を|下したという|意味です。
    結果として|死刑判決に|つながりました。
    ↩︎
  6. アンドゥイエットは、フランスの|伝統的な|腸詰め料理です。豚の|腸や|胃などの|内臓を|使った|ソーセージで、独特の|強い|臭いが|あります。フランス人には|好まれますが、|外国人には|好みが|分かれる|食べ物として|知られています。
    ビストロや|庶民的な|レストランの|定番メニューで、|マスタードや|ジャガイモの|ピューレを|添えて|出されることが|多いです。
    物語の文脈では、|デュフォールが|シタンゲットで|張り込みながら|昼食として|食べている場面で、|いかにも|庶民的な|ビストロらしい|メニューとして|登場しています。
    ↩︎