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第2章(ページ9)

マギリカディ夫人が|うなずくと、|ミス・マープルは|ワインを|注いだ。

「ジェーン」|とマギリカディ夫人は|一口|味わいながら|言った。|「ねえ、|あれって|夢じゃ|ないわよね?|気のせいでも|なくて?」

「そんなわけ|ないでしょう」|とミス・マープルは|きっぱりと|言った。
マギリカディ夫人は|ほっと|ため息を|ついた。

「あの|検札係ったら」と|夫人は|言った。|「どうも|そう|思って|いるみたいだったのよ。|一応|丁寧だったけど、|なんだかねえ」

「エルスぺス、|その人が|そう|思うのも|無理は|ないわよ。||話が|あまりにも|信じがたい|内容だったんですもの。||それに|あなたのことを|まったく|知らない|人でしょう。||でもね、|私は|あなたが|見たと|おっしゃったことを|少しも|疑っていません。||確かに|不思議な|話だけど、|あり得ないことでは|ないのよ。||以前ね、|自分の|乗った|列車と|並走する|列車を|見ていたとき、|隣の|車両の|中が|いかに|よく|見えるか|気が|ついたことが|あってね。||一度、|小さな|女の子が|テディベアで|遊んでいたと|思ったら、|突然|それを|隅で|眠っていた|太った|男性に|向かって|わざと|投げつけたの。||男性は|跳び起きて|いかにも|腹立たしそうな|顔をして、|ほかの|乗客たちは|おかしくて|たまらない|という|様子で。||みんなの|様子が|手に取るように|見えたわ。|あとで|それぞれが|どんな|顔で|何を|着ていたか、|ちゃんと|説明できたくらいよ」
マギリカディ夫人は|ありがたそうに|うなずいた。

「まさに|そんな|感じだったの」

「男の人は|背中を|向けていたのよね。||顔は|見えなかった?」

「見えなかったわ」

「女の人は?||若かった?|年配?」

「若めだったわ。||三十から|三十五歳くらいかしら。|それ以上は|なんとも」

「きれいな|人だった?」

「それが|何とも。||顔が|ひどく|歪んでいたから」

ミス・マープルは|すばやく|言った。
「そうよね、|わかるわ。||服装は|どうだったの?」

「毛皮の|コートを|着ていたわ。||明るい色の|毛皮で。||帽子は|なし。||髪は|ブロンドだったわ」

「男の人で|何か|覚えていることは|ある?」
マギリカディ夫人は|少し|時間を|かけて|よく|考えてから|答えた。

「背が|高めで、|たぶん|黒髪だったと|思う。|厚手の|コートを|着ていたから|体つきは|よく|わからなかったわ」|と|夫人は|がっかりしたように|付け加えた。|「あんまり|手がかりに|ならないわねえ」
ページ10の原文を取得します。ページ10

「それだけでも|手がかりよ」|とミス・マープルは|言った。||少し|間を|置いて|続けた。|「その女性、|本当に|亡くなっていたと|思う?」

「亡くなっていたわ、|確かに。|舌が|出ていて、|それに|もう|話したくないけど」

「そうよね、|そうよね」|と、|ミス・マープルは|すばやく|言った。|「明日の|朝には|もっと|わかるでしょう」

「朝に?」

「朝刊に|出るはずよ。|あの|男は|女性を|襲って|殺した|後、|死体を|抱えて|どう|したかしら。||きっと|最初の|駅で|急いで|列車を|降りたでしょうね。||ところで、|廊下つきの|車両だったか|覚えてる?」

「違ったわ」

「それなら|遠くまで|行く|列車では|なかった|ということね。||まず|ブラックハンプトンに|停まるはずよ。|そこで|降りて、|死体を|隅の|座席に|座らせて、|毛皮の|襟で|顔を|隠して|発見を|遅らせたのでしょう。||ええ、|きっと|そうしたと|思う。||でも|そのうち|見つかるはずよ。|列車の中で|女性の|死体が|見つかったとなれば、|朝刊に|出ない|はずがないわ。||明日|見てみましょう」
ⅠⅠ

しかし|朝刊には|何も|出て|いなかった。
ミス・マープルと|マギリカディ夫人は|それを|確かめてから、|黙ったまま|朝食を|済ませた。||二人とも|考えこんで|いた。||朝食の|後、|庭を|一回りした。||いつもなら|楽しい|庭歩きも、|その日は|どこか|上の空だった。||ミス・マープルは|ロックガーデン1に|新しく|植えた|珍しい|品種を|紹介したが、|ぼんやりした|様子だった。||マギリカディ夫人も|いつもなら|自分の|庭の|新しい|植物を|負けずに|話す|のだが、|この日は|そう|しなかった。

「庭が|ちっとも|いい|状態じゃ|ないわ」|とミス・マープルは|ぼんやりと|言った。|「ヘイドック|先生に|腰を|かがめたり|ひざまずいたりするのは|絶対|だめと|言われていて、|でも|それが|できなかったら|庭仕事なんて|どう|するのよ。|エドワーズ|じいさんが|いるけれど、|あの人は|頑固で|ねえ。|日雇いで|来る人たちは|悪い|癖が|ついてしまって、|お茶ばかり|飲んで|ぶらぶら|するばかりで、|ちっとも|働かない|のよ」

「本当に|そうねえ」|とマギリカディ夫人は|言った。

「私は|かがんでは|いけないとは|言われて|いないけど、|食後は|ねえ、|それに|太って|しまったし」|と|夫人は|自分の|豊かな|体つきを|見下ろした。|「胸やけが|するの」
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しばらく|沈黙が|続いた。||それから|マギリカディ夫人は|どっかりと|足を|踏ん張って|立ち止まり、|友人の|ほうを|向いた。|「どうするの?」|と|夫人は|言った。||短い|一言だったが、|その|口調に|十分な|意味が|込められており、|ミス・マープルは|すぐに|察した。

「わかってるわ」|と|マープルは|言った。
二人は|顔を|見合わせた。

「派出所へ|行って|コーニッシュ|巡査部長に|話して|みましょう。|あの人は|頭が|よくて|辛抱強いし、|私も|よく|知ってるし、|向こうも|私を|知ってるから。|きちんと|聞いて|くれて、|適切な|ところへ|話を|通して|くれるはずよ」
それから|約|四十五分後、|ミス・マープルと|マギリカディ夫人は、|三十代から|四十代の|血色の|よい|生真面目な|顔つきの|男と|話して|いた。||男は|二人の|話を|注意深く|聞いた。
フランク・コーニッシュは|ミス・マープルを|愛想よく、|うやうやしいほどの|態度で|迎えた。||二人に|椅子を|勧めて|言った。|「どのような|ご用件で|しょうか、|ミス・マープル?」
ミス・マープルは|言った。

「友人の|マギリカディ夫人の|話を|聞いて|いただけますか?」
コーニッシュ|巡査部長は|話を|聞いた。||話し終えると、|しばらく|黙って|いた。
それから|言った。|「とても|信じがたい|話ですね。」||夫人が|話して|いる|間、|さりげなく|観察して|いた。
全体的に|好印象だった。||筋道の|通った|話し方を|する|しっかりした|女性で、|見たところ|想像力が|過剰だったり|ヒステリックだったりする|様子も|ない。||しかも|ミス・マープルが|友人の|話を|信じている。||ミス・マープルの|ことなら|よく|知っている。||セント・メアリー・ミードでは|知らぬ|者の|ない|ミス・マープルは、|外見は|ふわふわと|おっとりして|いるが、|内側は|人一倍|鋭くて|抜け目が|ない。
コーニッシュは|咳払いを|して|口を|開いた。
「もちろん|見間違いの|可能性も|あります。|そうだとは|言いませんが。|ふざけて|じゃれ合って|いただけで、|本気でも|なかった|かも|しれません」

「見たものは|見たのです」|とマギリカディ夫人は|きっぱりと|言った。
「この人は|絶対に|曲げないな」|と|コーニッシュは|思った。|「あり得ない|話でも、|本当の|ことかも|しれない」
声に|出して|言った。|「鉄道の|係員に|届け出て、|さらに|私にも|届け出て|くださいました。|それが|正しい|手順です。|然るべき|機関に|照会する|よう|取り計らいます」

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コーニッシュは|言葉を|切った。||ミス・マープルは|満足そうに|静かに|うなずいた。||マギリカディ夫人は|完全には|納得して|いなかったが、|何も|言わなかった。||コーニッシュ|巡査部長は|ミス・マープルに|話しかけた。||彼女の|意見が|聞きたかった|というより、|何を|言うか|聞いて|みたかったのだ。
「仮に|事実が|おっしゃる|通りだとして」|と|コーニッシュは|言った。|「遺体は|どう|なったと|お思いですか?」
「可能性は|二つしか|ないと|思います」|とミス・マープルは|迷わずに|言った。|「最も|考えられるのは|列車の|中に|残した|ことですが、|それなら|昨夜の|うちに|ほかの|乗客か|鉄道員が|見つけて|いるはずで、|今と なっては|それは|考えにくい|わね」
フランク・コーニッシュは|うなずいた。
「もう一つの|可能性は、|犯人が|遺体を|列車から|線路に|投げ捨てた|ことです。|まだ|どこかの|線路上に|発見されずに|あるはずで、|それも|少し|考えにくいけれど。|でも|ほかに|どう|する|方法が|あったか|思いつかないわ」
「トランクに|入れた|という|話は|聞くけれど」|とマギリカディ夫人は|言った。|「今どき|トランクで|旅行する|人なんて|いないし、|スーツケースには|遺体は|入らないわ」
「おっしゃる|通りです」|とコーニッシュは|言った。|「遺体が|あるなら|もう|見つかって|いるか、|じきに|見つかるはずです。|何か|動きが|あれば|お知らせします。|新聞で|お読みになるほうが|早いかも|しれませんが。|もちろん、|女性は|激しく|襲われたが|実際には|死んで|いなかった|可能性も|あります。|自分で|列車を|降りられたかも|しれません」
「誰かの|助けなしには|無理でしょう」|とミス・マープルは|言った。|「もしそうなら|誰かが|気づいたはず。|具合が|悪いと|言う|女性を|支える|男、|という|かたちで」
「そうですね、|誰かが|見て|いるでしょう」|とコーニッシュは|言った。|「あるいは|女性が|車内で|意識を|失って|病院に|運ばれたなら|それも|記録に|残るはず。|じきに|すべて|わかると|思います」
しかし|その日も|翌日も|何も|なかった。||翌夜、|ミス・マープルは|コーニッシュ|巡査部長から|手紙を|受け取った。
「ご相談の|件につき、|十分に|調査しましたが|何も|見つかりませんでした。|女性の|遺体は|発見されず、|ご説明の|ような|女性を|治療した|病院も|なく、|ショック状態の|女性や|体調不良の|女性、|あるいは|男性に|支えられて|駅を|出た|女性の|目撃情報も|ありません。|できる|限りの|調査は|行いました。|お友人が|ご覧に|なった|場面は|おっしゃる|通りだったかも|しれませんが、|実際には|思われたほど|深刻では|なかったの|かも|しれません」

- ロックガーデンとは、庭の一角に大小の岩石を配置し、その間に高山植物や小さな草花を植えた庭園のことです。イギリスの家庭庭園では定番のスタイルです。
ミス・マープルが友人のマクギリカディ夫人と庭を散歩しながら、このロックガーデンに新しく珍しい植物を加えたことを話しています。ただし二人とも殺人事件のことが頭から離れず、いつもの庭いじりの話題も上の空だった、という場面です。
また、マープルが医師のヘイドック先生から「前かがみやひざまずくことを禁じられている」とこぼしているのも、このロックガーデンの手入れに関連した話です。岩の間の植物の世話はどうしてもかがむ動作が必要なため、老齢のマープルにはつらいことを示す、人物描写のさりげない一場面です。 ↩︎


