サン=フォリアン教会の首吊り男|第七章 三人 

サン=フォリアン教会の首吊り男

『Brille Editor System ver.8』用の『BESファイル』を、ZIPファイルに圧縮して公開しています。(2026年4月2日現在未完成)

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第七章 三人

リエージュには|日刊紙が|四つ|あった。||メグレは|二時間|かけて|各編集部を|回ったが、|予想通り|すべての|バックナンバーで|同じ|号が|欠けていた。||二月十五日の|号だった。

街の|中心部、|カレと|呼ばれる|一角には|高級店、|大きなビール醸造所、|映画館、|ダンスホールが|並び、|街の|生活の|中心と|なって|いた。

そこで|メグレは|少なくとも|三度、|ステッキを|手に|散歩する|ジョゼフ・ヴァン・ダムの|姿を|見かけた。

シュマン=ド=フェル|ホテルに|戻ると、|二つの|伝言が|待って|いた。||まず|出発前に|いくつかの|用件を|頼んで|おいた|ルカからの|電報だった。

「ルイ・ジュネの|ロケット街の|部屋の|ストーブの|灰を|鑑定した。||ベルギーと|フランスの|紙幣の|燃え残りと|判明。||量から|かなり|まとまった|金額と|推測される」

もう|一つは|手紙で、|使い走りが|ホテルに|届けた|ものだった。||タイプライターで|印字してあり、|書き写し用に|使う|無地の|紙に|打たれていた。||内容は|次の|通りだった。

「警部殿。||ご捜査に|有益な|情報を|すべて|提供する|用意が|ございます。||事情に|より|慎重を|期す|必要が|あるため、|ご興味が|おありでしたら、|今晩|十一時頃、|王立劇場の|裏手に|ある|証券取引所の|カフェに|お越し|いただければ|幸いです。||右、|よろしく|お取り計らいのほど、|謹んで|お願い申し上げます」

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署名は|なかった。||だが|この|種の|手紙にしては|いかにも|商用文書めいた|言い回しが|奇妙に|目についた。||「情報を|提供する|用意が|ございます」「慎重を|期さざるを|得ない|立場に」「ご提案に|ご関心が|おありでしたら」「ご返答を|お待ちして」「ご健勝を|お祈り|申し上げます」といった|文句が|並んでいた。

メグレは|一人で|夕食を|とりながら、|いつの間にか|気がかりが|変わって|いることに|気づいた。||ブレーメンの|ホテルの|部屋で|自殺した|ジャン・ルコック・ダルヌヴィル、|すなわち|ルイ・ジュネの|ことが|頭から|離れなく|なって|いた。

それよりも|ジェフ・ロンバールの|作品が|頭に|焼きついていた。||教会の|十字架に、|森の|木々に、|屋根裏部屋の|釘に|かかった|首吊り人たち。||滑稽な|もの、|不気味な|もの、|真っ赤なもの、|青白いもの、|あらゆる|時代の|衣装を|まとった|首吊り人たちが。

十時半に|王立劇場へ|向かい、|十一時|五分前に|証券取引所の|カフェの|扉を|押した。||常連客、|とりわけ|カード|遊びを|する|人々が|集まる|小さな|静かな|カフェだった。

思いがけない|ことが|待って|いた。||カウンターの|そばの|隅で、|三人の|男が|同じ|テーブルに|ついて|いた。||モーリス・ベロワール、|ジェフ・ロンバール、|そして|ジョゼフ・ヴァン・ダムだった。

ボーイが|メグレの|コートを|預かる|間、|双方に|一瞬の|ためらいが|あった。||ベロワールは|無意識に|半分|立ち上がって|挨拶した。||ヴァン・ダムは|動かなかった。||ロンバールは|信じられないほど|神経質な|顔で、|仲間たちが|どう|出るかを|待ちながら|椅子の|上で|身を|もじもじさせて|いた。

メグレは|彼らに|近づいて|手を差し伸べ、|テーブルに|加わるつもりなのか?||彼らのことは|知っている。||ブレーメンの|実業家とは|昼食を|ともにした。||ベロワールは|ランスの|自宅で|ブランデーを|ふるまってくれた。||そして|ジェフは|その朝も|彼を|迎え入れてくれたのだ。

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「こんにちは」


メグレは|いつもの|力強い握手を|三人と|交わした。||その握り方は|時として|脅しのような|意味を|帯びることがある。


「また|会いましたね」


ヴァン・ダムの|隣の|ベンチに|空席があった。||メグレは|どさりと|腰を|下ろし、|ボーイに|言った。


「生ビールを|一杯」


そして|沈黙が|訪れた。||重く、|張りつめた|沈黙だ。||ヴァン・ダムは|顎を|固く|食いしばり、|じっと|前を|見つめていた。||ジェフ・ロンバールは|服が|きつすぎて|体に|引っかかっているかのように|相変わらず|そわそわしていた。||ベロワールは|隙のない|冷静な顔で|自分の|爪を|眺め、|マッチの軸で|人差し指の|爪の間の|汚れを|ほじくっていた。


「ロンバール夫人は|元気かね?」


ジェフは|よりどころを|探すように|あたりを|見まわし、|ストーブを|見つめながら|口ごもった。


「ええ、|元気です。||どうも」


カウンターの上に|時計があった。||メグレは|まるまる|五分間、|一言も|言葉が|交わされないのを|数えていた。||ヴァン・ダムは|葉巻を|消えるままに|していた。||むき出しの|憎しみを|顔に|浮かべているのは|彼だけだった。

いちばん|目が|離せなかったのは|ジェフだ。||その日の|出来事が|彼の|神経を|限界まで|追いつめていたに|違いない。||顔の|どの筋肉も、|どれほど|小さなものでさえ、|ひくひくと|震えていた。

四人の|テーブルは|カフェの中で|まるで|孤島のようだった。||まわりでは|みんなが|声高に|しゃべっているのに。


「よっしゃ、|また取った!」|右手の客が|勝ち誇った。||「テールス・オート1!|これは|どう?」|左手の男が|迷いがちに|言った。||「生ビール|三つ!|三つですよ!」|ボーイが|叫んだ。


あたりは|賑やかに|活気づいていた。||四人の|テーブルだけが|見えない壁に|じわじわと|囲まれていくようだった。

その沈黙を|破ったのは|ジェフだった。||彼は|下唇を|噛んでいたが、|突然|立ち上がり、|口ごもりながら|叫んだ。


「もう|どうにでも|なれ!」


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ジェフは|仲間たちを|素早く、|鋭く、|苦しげに|見まわした。||それから|コートと|帽子を|引っつかみ、|扉を|乱暴に|押し開けて|出ていった。


「あいつは|通りに|出た途端、|泣き崩れるぞ」|メグレは|夢見るように|つぶやいた。


その嗚咽が|くるのは|わかっていた。||怒りと|絶望が|入り混じった|嗚咽が、|写真製版師の|喉を|伝って|せり上がり、|喉仏を|震わせていたのだ。

メグレは|ヴァン・ダムの方へ|向き直った。||ヴァン・ダムは|テーブルの|大理石を|見つめていた。||メグレは|ビールを|半分|飲み干し、|手の甲で|口を|拭った。

ランスの|屋敷で|同じ面々に|割り込んだときの|あの雰囲気が、|今は|十倍も|凝縮されていた。||メグレの|どっしりとした|体が、|この|強引な|居座りに|脅しの|意味を|与えていた。

背が高く、|幅広で、|とりわけ|横に|広く、|分厚く、|頑丈だ。||飾り気のない|服が、|その|体格の|庶民っぽさを|いっそう|際立たせていた。||重い顔に|据わった|目は、|牛のように|微動だにしない。

それは|子どもの頃の|悪夢に出てくる|人物に|似ていた。||眠っている者を|押しつぶそうとするかのように|迫ってくる、|あの|異様に|膨れ上がった|無表情の|顔だ。

何かが|容赦なく、|非人間的に|そこにあった。||目的から|何があっても|逸れない|犀が|歩いてくるような|存在感だ。

メグレは|ビールを|飲み、|パイプを|くゆらせ、|時計の|針が|一分ごとに|金属音を|立てながら|カクンと|進むのを|満足そうに|眺めていた。||青白い|時計だ。

誰にも|関心を|向けていないように|見えて、|右と|左の|わずかな|気配を|逃さず|うかがっていた。

これは|彼の|キャリアで|最も|異様な|時間の|一つだった。||なんと|一時間近くも|続いたのだ。||正確には|五十二分。||神経の|戦いだ。

ジェフ・ロンバールは|最初から|戦線を|離脱していた。||だが|残りの|二人は|持ちこたえていた。

メグレは|二人の|間に|どっかりと|座り、|裁判官のようだった。||しかし|誰かを|責めるわけでもなく、|その|考えを|読ませることも|なかった。||いったい|何を|知っているのか?||なぜ|来たのか?||何を|望んでいるのか?||疑惑を|裏付ける|言葉か|仕草を|待っているのか?||それとも|すでにすべての|真実を|すでに|つかんでいるのか?||それとも|その|自信は|はったりに|すぎないのか?


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では|どんな言葉を|口にすればいい?||また|偶然の|出会いだと|言い訳するのか?

沈黙だった。||何を|待っているのかも|わからないまま、|ただ|待っていた。||何かが|起きるのを|待っていた。||しかし|何も|起きなかった。

時計の|針は|一分ごとに|微かに|震えた。||機械の|軋む音が|していた。||最初は|聞こえなかったその音が、|今は|轟音のように|響いていた。||針の動きは|三つの段階に|分解されていた。||最初の|カチッという音。||次に|動きだす針。||そして|また|カチッと、|新しい位置に|固定される音。||時計の|文字盤の|角度が|変わっていく。||鈍角が|少しずつ|鋭角に|なっていく。||二本の針が|重なろうと|していた。

ボーイは|この|暗い|テーブルを|不思議そうに|何度も|眺めた。||モーリス・ベロワールは|ときおり|唾を|飲み込んだ。||メグレには|見なくても|わかった。||彼が|生きて|呼吸し、|体を|強張らせ、|礼拝堂にいるように|慎重に|靴底を|ずらすのが|聞こえた。

客が|まばらに|なっていった。||赤い|敷物と|トランプが|テーブルから|消え、|青白い|大理石が|あらわになった。||ボーイが|雨戸を|閉めに|外へ出る間、|女主人は|チップを|額面ごとに|小さな山に|分けて|片づけていた。


「あなたは|残るんですか?」|ついに|ベロワールが|かすれた声で|訊いた。


「あんたは?」


「私は|その|わかりません」


するとヴァン・ダムが|コインで|テーブルを|叩き、|ボーイに|訊いた。


「いくらだ?」


「全部で?|九フラン|七十五サンチームです」


三人は|立ち上がり、|互いに|目を|合わせようとしなかった。||ボーイが|順番に|外套を|着せてやった。


「おやすみなさいませ」


外は|霧だった。||街灯の|灯りが|かろうじて|見えるほどだ。||雨戸は|すべて|閉まっていた。||どこか|遠くで|歩道を|打つ|足音が|響いていた。


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どちらへ|向かうべきか|迷いが|あった。||三人の|誰も|先頭に|立とうと|しなかった。||後ろでは|カフェの|扉に|鍵が|かけられ、|安全棒が|はめられる|音がした。

左手には|不揃いな|façadeの|古い家々が|並ぶ|路地が|続いていた。


「では|みなさん、|これで」と、|最後に|メグレが|言った。


最初に|握った|ベロワールの手は|冷たく、|こわばっていた。||ヴァン・ダムが|渋々|差し伸べた手は|じっとりと|湿り、|力がなかった。

メグレは|外套の|襟を|立て、|軽く|咳払いして|歩きだした。||人気のない|通りを|一人で|歩きながら、|神経の|すべてを|一点に|集中させていた。||危険を|知らせる|わずかな|物音も、|空気の|ごくかすかな|揺らぎも|逃すまいと|していた。

右手は|ポケットの中で|拳銃の|グリップを|握りしめていた。||左手に|広がる|路地の|迷路の中で、|リエージュの|中心部に|癩病患者の|島のように|食い込んだ|その一帯で、|誰かが|足音を|立てまいと|しながら|急ぎ足で|動いている|気がした。

低い声の|会話の|気配を|感じた。||霧が|感覚を|狂わせるせいで、|それが|遠いのか|近いのか|判断できなかった。

突然、|メグレは|横へ|飛びのき、|扉に|体を|貼りつけた。||乾いた|銃声が|轟き、|暗闇の中で|誰かが|全力で|走り去った。

メグレは|数歩|前へ出て、|銃が|放たれた|路地を|覗き込んだ。||しかし|何も|見えなかった。||袋小路に|通じているらしい|暗い|染みと、|二百メートル|先に|フライドポテト屋の|看板代わりの|すりガラスの|球が|ぼんやりと|光っているだけだった。

しばらくして|その店の|前を|通ると、|一人の|女が|揚げたての|ポテトを|紙袋に|入れて|持ちながら|出てきた。||彼女は|気乗りしない|様子で|メグレに|声を|かけ、|明るい通りの|方へ|歩いていった。


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メグレは|落ち着いた様子で|書いていた。||太い人差し指で|ペンを|紙に|押しつけながら、|ときおり|パイプの|熱い灰を|指で|押し固めた。

鉄道ホテル2の|自室に|腰を落ちつけ、|窓から|見える|駅の|光る時計は|夜中の|二時を|指していた。

ルカへ

何が|起きるか|わからないので、|万が一の場合に|俺が|始めた|捜査を|続けられるよう、|いくつか|情報を|書いておく。

一、先週、|ブリュッセルで|みすぼらしい身なりの|浮浪者風の男が|千フラン紙幣を|三十枚|束にして、|パリの|ロケット街の|自分の|住所へ|送った。||調べれば|同じくらいの|大金を|何度も|自分宛てに|送っていたことが|わかるはずだ。||使ってはいなかった。||部屋で|大量の|紙幣を|わざわざ|燃やした|灰が|見つかったのが|その証拠だ。

この男は|ルイ・ジュネの|名で|暮らし、|同じ通りの|工房で|ほぼ|定期的に|働いていた。

かつて|結婚しており|(ピクピュス街の|薬草商|ジュネ夫人を|参照)、|子どもも|いる。||しかし|激しい|アルコール依存の|発作を|繰り返した末、|不審な|状況で|妻子を|捨てた。

ブリュッセルで|金を|送った後、|男は|スーツケースを|買い、|ホテルの部屋に|置いていた|荷物を|詰めようとした。||ブレーメンへ|向かう途中、|俺は|そのスーツケースを|別のものと|すり替えた。

ジュネは|それまで|自殺を|考えていた|ようすもなく、|夕食の|用意まで|していたが、|荷物が|盗まれたことに|気づいて|命を絶った。

問題の|荷物は|古い|スーツで、|彼の|ものでは|なかった。||何年も前に|格闘の末に|引き裂かれ、|血まみれになったものだ。||そのスーツは|リエージュで|仕立てられていた。

ブレーメンで|遺体を|見にきた男がいた。||リエージュ生まれの|荷物運搬業者、|ジョゼフ・ヴァン・ダムという男だ。

パリで|わかったことだが、|ルイ・ジュネの|正体は|リエージュ生まれの|ジャン・ルコック・ダルヌヴィルで、|長らく|消息が|途絶えていた。||大学まで|進んだ男だ。||約十年前に|姿を消した|リエージュでは、|彼に|非は|何一つ|なかった。


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二、ランスで、|ジャン・ルコック・ダルヌヴィルが|ブリュッセルへ|出発する前に、|夜中に|銀行副支店長の|モーリス・ベロワールの|家を|訪ねるのが|目撃されている。||ベロワールは|リエージュ生まれで、|この|面会を|否定している。

しかし|ブリュッセルから|送られた|三万フランは|このベロワールが|出所だ。

ベロワールの|家で|俺が|会ったのは、|ブレーメンから|飛行機で|来た|ヴァン・ダム、|リエージュの|写真製版師|ジェフ・ロンバール、|そして|やはり|リエージュ生まれの|ガストン・ジャナンだ。

ヴァン・ダムと|パリへ|帰る途中、|やつは|俺を|マルヌ川に|突き落とそうとした。

そして|リエージュの|ジェフ・ロンバールの|家でも|やつと|鉢合わせした。||ロンバールは|約十年前に|絵を|描いており、|家中の壁が|その頃の|首吊り人を|描いた|絵で|覆われている。

新聞社を|まわると、|首吊りの年の|二月十五日付の|号が|ヴァン・ダムに|引き抜かれていた。

夜、|署名のない|手紙が|すべてを|話すと|約束し、|街の|カフェに|呼び出した。||行ってみると|一人ではなく|三人いた。||ランスから|来た|ベロワール、|ヴァン・ダム、|そして|ジェフ・ロンバールだ。

三人とも|気まずそうに|俺を|迎えた。||三人のうちの|誰か一人が|話す気でいて、|残りの|二人は|それを|阻止するために|来たのだと|俺は|確信している。

ジェフ・ロンバールは|張りつめたまま|突然|席を|立った。||俺は|残りの|二人と|残った。||日付が|変わって|霧の中で|別れ、|しばらくして|銃弾が|俺に|向けて|放たれた。

俺の|結論は|こうだ。||三人のうちの|一人が|話そうとした。||そして|同じく|三人のうちの|一人が|俺を|消そうとした。

最後の|行動は|自白も|同然だ。||やった奴は|もう一度|やるしかなく、|今度は|外さないだろう。

だが|誰だ?||ベロワールか、|ヴァン・ダムか、|ジェフ・ロンバールか?


76ページも続けて翻訳しましょうか?


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やつが|また|動いたとき|わかる。||万が一の場合に|備えて|この|メモを|送っておく。||最初から|捜査を|やり直せるはずだ。

事件の|人間的な|側面については、|とくに|ジュネ夫人と、|死んだ男の|兄|アルマン・ルコック・ダルヌヴィルに|当たってみてくれ。

じゃあ|もう|寝る。|みんなによろしく。

メグレ

霧は|晴れ、|メグレが|横切った|アヴロワ広場の|木々と|草の一本一本に|白い|霜の|粒が|光っていた。

淡い青空に|寒そうな|太陽が|輝き、|霜は|一分ごとに|澄んだ|水滴に|変わって|砂利の上に|落ちていた。

朝の|八時、|メグレは|まだ|人気のない|カレを|歩き回った。||映画館の|看板が|閉まった|雨戸に|もたれかかっていた。

メグレは|郵便ポストの前で|足を|止め、|リュカ巡査部長宛ての|手紙を|投函し、|かすかな|感慨とともに|あたりを|見まわした。

同じ街の|この|金色の|陽光に|あふれた|通りで、|同じ時刻に、|一人の男が|メグレのことを|考えていた。||その男にとって、|メグレを|殺すことが|唯一の|活路だった。||昨夜|入り組んだ|路地に|消えてみせたように、|地の利は|そちらに|あった。

しかも|男は|メグレのことを|知っていた。||今この瞬間も|見ているかもしれない。||一方の|メグレは|まだ|正体を|つかんでいなかった。

ジェフ・ロンバールか?||危険は|オール・シャトー街の|古い家に|潜んでいるのか?||二階では|産後の妻が|眠り、|肝っ玉の|いい|母親が|付き添っている。||工房では|のんびりした|職人たちが|酸の|桶から|桶へと|歩き回り、|新聞配達の|自転車乗りに|せかされている。

それとも|ジョゼフ・ヴァン・ダムか?||暗く|獰猛で、|大胆で|狡猾な|あの男が、|メグレが|必ず|来ると|知っている|場所で|待ち伏せしているのか?||あいつは|ブレーメンから|ずっと|先手を|打ってきた。||ドイツの|新聞の|三行記事を|見て|すぐに|遺体安置所へ|駆けつけたのだから。


77ページも続けて翻訳しましょうか?


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メグレと|昼食を|ともにしながら、|刑事より|先に|ランスに|着いていた。

オール・シャトー街にも|一番乗りだった。||新聞社めぐりでも|捜査官より|先に|動いていた。||

そして|証券取引所カフェにも|いた。

もっとも、|話すつもりでいたのが|ヴァン・ダム自身だという|証拠も|なかった。||逆の|証拠も|なかった。

霧の中で|引き金を|引いたのは、|地方の|大ブルジョワの|傲慢さを|漂わせた|冷静で|隙のない|ベロワールかも|しれない。||メグレを|始末する|以外に|活路が|ないのは|彼かも|しれない。

あるいは|山羊髭の|小柄な|彫刻家、|ガストン・ジャナンか?||証券取引所カフェには|いなかったが、|通りで|待ち伏せしていたかも|しれない。

これは|いったい|教会の|十字架に|揺れる|首吊り死体と|どんな|関係が|あるのか?||無数の|首吊り人たちと?||木という木に|首吊り人しか|実らない|森と?||血に|染まり、|必死に|爪を|立てた跡が|残る|古い|スーツと?

タイピストたちが|職場へ|向かっていた。||市の|清掃車が|ゆっくりと|走り、|二つの|散水器と|ローラー状の|ブラシが|ゴミを|溝へ|押しやっていた。

街角では|白い|エナメルの|兜を|かぶった|警官たちが|白塗りの|腕を|振って|交通整理を|していた。


「中央警察署は|どこですか?」|メグレが|訊いた。


道を|教えてもらい|着いてみると、|掃除の女たちが|まだ|働いていたが、|愛想のいい|書記官が|同業者を|迎えてくれた。||十年前の|調書を|見たい、|二月の|ものに|関心がある|と|告げると、|書記官は|叫んだ。


「二十四時間以内に|二人目ですよ!||ジョゼフィーヌ・ボランという女が|その頃|家政婦として|盗みを|働いたかどうかを|調べに|来たんですね?」


「誰かが|来たんですか?」


「昨日の|午後五時ごろです。||海外で|出世した|リエージュの人で、|まだ|若い。||お父さんは|医者でした。||本人は|ドイツで|大きな|商売を|やっています」


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「ジョゼフ・ヴァン・ダムですか?」

「そうです。||でも|いくら|ファイルを|調べても|探しているものは|見つからなかったようです」

「見せてもらえますか?」

緑色の|ファイルに|日報が|綴じられ、|それぞれに|通し番号が|振ってあった。||二月十五日付には|五つの|調書が|あった。||夜間の|酩酊と|騒音が|二件、|万引きが|一件、|傷害が|一件、|囲いの|破壊と|ウサギの|窃盗が|一件だ。

メグレは|読みも|しなかった。||各書類の|冒頭に|振られた|番号を|眺めていた。

「ヴァン・ダム氏は|自分で|台帳を|調べたんですか?」

「ええ、|隣の部屋に|通しまして」

「ありがとう」

五つの|調書の|番号は|237、|238、|239、|241、|242だった。

つまり|一つ|欠けていた。||新聞が|コレクションから|引き抜かれていたように、|調書が|一枚|抜き取られていた。||240番だ。3

数分後、|メグレは|市庁舎の|裏手の|広場に|出た。||馬車が|婚礼の一行を|運んできていた。||それでも|メグレは|知らず知らずのうちに|わずかな|物音にも|耳を|そばだてていた。||自分でも|好きではない|小さな|不安に|とらわれながら。


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  1. Tierce haute(テールス・オート)は、フランスのカードゲームベロット(Belote)やピケ(Piquet)で使われる用語で、「高い方の三枚連続札」という意味です。||同じスートの|連続した|三枚の札の組み合わせを|「ティエルス」(tierce)と呼び、|その中でも|高い札で|構成されるものを|「オート」(haute)と言います。
    70ページの場面では|カフェの|別のテーブルで|常連客たちが|カードゲームに|興じており、|四人の|重苦しい沈黙との|対比として|描かれています。||日本語では|「高札三連!」|などと|意訳するのが|自然かもしれません。 ↩︎
  2. Hôtel du Chemin-de-Fer(オテル・デュ・シュマン・ド・フェール)は、「鉄道ホテル」という意味です。
    Chemin de ferはフランス語で|「鉄道」を|意味します。||直訳すると|「鉄の道」です。
    19世紀から20世紀初頭にかけて、|ヨーロッパの|地方都市では|駅の|近くに|この名前の|ホテルが|よく|ありました。||出張者や|旅行者が|列車の|乗り継ぎの際に|泊まる|実用的な|宿です。||高級ホテルでは|なく、|こざっぱりした|庶民的な|ホテルです。
    シムノンの|メグレシリーズでは|こうした|地方の|駅前ホテルが|しばしば|登場します。||メグレが|出張先で|泊まる|定番の|宿で、|豪華さより|実用性を|重んじる|彼の|性格を|よく|表しています。
    ↩︎
  3. 1930年代のベルギーの警察署では、現代のような厳格な|情報管理の|仕組みが|整っていませんでした。||特に|地方の|警察署では|書類の|管理が|ゆるやかで、|信頼できそうな|身なりの|人物、|とりわけ|社会的地位の|ある人間が|閲覧を|申し出た場合、|係員が|その場を|離れて|一人にして|しまうことは|十分|あり得ました。
    ヴァン・ダムは|「ドイツで|成功した|実業家」として|紹介されており、|書記官も|好意的に|「隣の部屋に|通した」と|言っています。||つまり|監視なしに|一人で|台帳を|見られる|状況に|あったわけです。
    シムノンの描き方としては、こうした|当時の|お役所仕事の|のんびりした|お人好しぶりを|リアルに|捉えており、|メグレシリーズ全体を通じて|地方の|官僚組織の|隙を|犯人が|巧みに|利用する|場面が|しばしば|登場します。
    現代の目で見れば|信じがたいことですが、|当時の|フランスや|ベルギーの|地方行政では|十分|起こり得た|ことだったと|言えます。 ↩︎