サン=フォリアン教会の首吊り男|第七章 三人 (一般版)

サン=フォリアン教会の首吊り男

『Brille Editor System ver.8』用の『BESファイル』を、ZIPファイルに圧縮して公開しています。(2026年4月2日現在未完成)

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第七章 三人

リエージュには日刊紙が四つあった。メグレは二時間かけて各編集部を回ったが、予想通りすべてのバックナンバーで同じ号が欠けていた。二月十五日の号だった。

街の中心部、カレと呼ばれる一角には高級店、大きなビール醸造所、映画館、ダンスホールが並び、街の生活の中心となっていた。

そこでメグレは少なくとも三度、ステッキを手に散歩するジョゼフ・ヴァン・ダムの姿を見かけた。

シュマン=ド=フェルホテルに戻ると、二つの伝言が待っていた。まず出発前にいくつかの用件を頼んでおいたルカからの電報だった。

「ルイ・ジュネのロケット街の部屋のストーブの灰を鑑定した。ベルギーとフランスの紙幣の燃え残りと判明。量からかなりまとまった金額と推測される」

もう一つは手紙で、使い走りがホテルに届けたものだった。タイプライターで印字してあり、書き写し用に使う無地の紙に打たれていた。内容は次の通りだった。

「警部殿。ご捜査に有益な情報をすべて提供する用意がございます。事情により慎重を期す必要があるため、ご興味がおありでしたら、今晩十一時頃、王立劇場の裏手にある証券取引所のカフェにお越しいただければ幸いです。右、よろしくお取り計らいのほど、謹んでお願い申し上げます」

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署名はなかった。だがこの種の手紙にしてはいかにも商用文書めいた言い回しが奇妙に目についた。「情報を提供する用意がございます」「慎重を期さざるを得ない立場に」「ご提案にご関心がおありでしたら」「ご返答をお待ちして」「ご健勝をお祈り申し上げます」といった文句が並んでいた。

メグレは一人で夕食をとりながら、いつの間にか気がかりが変わっていることに気づいた。ブレーメンのホテルの部屋で自殺したジャン・ルコック・ダルヌヴィル、すなわちルイ・ジュネのことが頭から離れなくなっていた。

それよりもジェフ・ロンバールの作品が頭に焼きついていた。教会の十字架に、森の木々に、屋根裏部屋の釘にかかった首吊り人たち。滑稽なもの、不気味なもの、真っ赤なもの、青白いもの、あらゆる時代の衣装をまとった首吊り人たちが。

十時半に王立劇場へ向かい、十一時五分前に証券取引所のカフェの扉を押した。常連客、とりわけカード遊びをする人々が集まる小さな静かなカフェだった。

思いがけないことが待っていた。カウンターのそばの隅で、三人の男が同じテーブルについていた。モーリス・ベロワール、ジェフ・ロンバール、そしてジョゼフ・ヴァン・ダムだった。

ボーイがメグレのコートを預かる間、双方に一瞬のためらいがあった。ベロワールは無意識に半分立ち上がって挨拶した。ヴァン・ダムは動かなかった。ロンバールは信じられないほど神経質な顔で、仲間たちがどう出るかを待ちながら椅子の上で身をもじもじさせていた。

メグレは彼らに近づいて手を差し伸べ、テーブルに加わるつもりなのか?彼らのことは知っている。ブレーメンの実業家とは昼食をともにした。ベロワールはランスの自宅でブランデーをふるまってくれた。そしてジェフはその朝も彼を迎え入れてくれたのだ。

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「こんにちは」


メグレはいつもの力強い握手を三人と交わした。その握り方は時として脅しのような意味を帯びることがある。


「また会いましたね」


ヴァン・ダムの隣のベンチに空席があった。メグレはどさりと腰を下ろし、ボーイに言った。


「生ビールを一杯」


そして沈黙が訪れた。重く、張りつめた沈黙だ。ヴァン・ダムは顎を固く食いしばり、じっと前を見つめていた。ジェフ・ロンバールは服がきつすぎて体に引っかかっているかのように相変わらずそわそわしていた。ベロワールは隙のない冷静な顔で自分の爪を眺め、マッチの軸で人差し指の爪の間の汚れをほじくっていた。


「ロンバール夫人は元気かね?」


ジェフはよりどころを探すようにあたりを見まわし、ストーブを見つめながら口ごもった。


「ええ、元気です。どうも」


カウンターの上に時計があった。メグレはまるまる五分間、一言も言葉が交わされないのを数えていた。ヴァン・ダムは葉巻を消えるままにしていた。むき出しの憎しみを顔に浮かべているのは彼だけだった。

いちばん目が離せなかったのはジェフだ。その日の出来事が彼の神経を限界まで追いつめていたに違いない。顔のどの筋肉も、どれほど小さなものでさえ、ひくひくと震えていた。

四人のテーブルはカフェの中でまるで孤島のようだった。まわりではみんなが声高にしゃべっているのに。


「よっしゃ、また取った!」右手の客が勝ち誇った。「テールス・オート1!これはどう?」左手の男が迷いがちに言った。「生ビール三つ!三つですよ!」ボーイが叫んだ。


あたりは賑やかに活気づいていた。四人のテーブルだけが見えない壁にじわじわと囲まれていくようだった。

その沈黙を破ったのはジェフだった。彼は下唇を噛んでいたが、突然立ち上がり、口ごもりながら叫んだ。


「もうどうにでもなれ!」


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ジェフは仲間たちを素早く、鋭く、苦しげに見まわした。それからコートと帽子を引っつかみ、扉を乱暴に押し開けて出ていった。


「あいつは通りに出た途端、泣き崩れるぞ」メグレは夢見るようにつぶやいた。


その嗚咽がくるのはわかっていた。怒りと絶望が入り混じった嗚咽が、写真製版師の喉を伝ってせり上がり、喉仏を震わせていたのだ。

メグレはヴァン・ダムの方へ向き直った。ヴァン・ダムはテーブルの大理石を見つめていた。メグレはビールを半分飲み干し、手の甲で口を拭った。

ランスの屋敷で同じ面々に割り込んだときのあの雰囲気が、今は十倍も凝縮されていた。メグレのどっしりとした体が、この強引な居座りに脅しの意味を与えていた。

背が高く、幅広で、とりわけ横に広く、分厚く、頑丈だ。飾り気のない服が、その体格の庶民っぽさをいっそう際立たせていた。重い顔に据わった目は、牛のように微動だにしない。

それは子どもの頃の悪夢に出てくる人物に似ていた。眠っている者を押しつぶそうとするかのように迫ってくる、あの異様に膨れ上がった無表情の顔だ。

何かが容赦なく、非人間的にそこにあった。目的から何があっても逸れない犀が歩いてくるような存在感だ。

メグレはビールを飲み、パイプをくゆらせ、時計の針が一分ごとに金属音を立てながらカクンと進むのを満足そうに眺めていた。青白い時計だ。

誰にも関心を向けていないように見えて、右と左のわずかな気配を逃さずうかがっていた。

これは彼のキャリアで最も異様な時間の一つだった。なんと一時間近くも続いたのだ。正確には五十二分。神経の戦いだ。

ジェフ・ロンバールは最初から戦線を離脱していた。だが残りの二人は持ちこたえていた。

メグレは二人の間にどっかりと座り、裁判官のようだった。しかし誰かを責めるわけでもなく、その考えを読ませることもなかった。いったい何を知っているのか?なぜ来たのか?何を望んでいるのか?疑惑を裏付ける言葉か仕草を待っているのか?それともすでにすべての真実をすでにつかんでいるのか?それともその自信ははったりにすぎないのか?


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ではどんな言葉を口にすればいい?また偶然の出会いだと言い訳するのか?

沈黙だった。何を待っているのかもわからないまま、ただ待っていた。何かが起きるのを待っていた。しかし何も起きなかった。

時計の針は一分ごとに微かに震えた。機械の軋む音がしていた。最初は聞こえなかったその音が、今は轟音のように響いていた。針の動きは三つの段階に分解されていた。最初のカチッという音。次に動きだす針。そしてまたカチッと、新しい位置に固定される音。時計の文字盤の角度が変わっていく。鈍角が少しずつ鋭角になっていく。二本の針が重なろうとしていた。

ボーイはこの暗いテーブルを不思議そうに何度も眺めた。モーリス・ベロワールはときおり唾を飲み込んだ。メグレには見なくてもわかった。彼が生きて呼吸し、体を強張らせ、礼拝堂にいるように慎重に靴底をずらすのが聞こえた。

客がまばらになっていった。赤い敷物とトランプがテーブルから消え、青白い大理石があらわになった。ボーイが雨戸を閉めに外へ出る間、女主人はチップを額面ごとに小さな山に分けて片づけていた。


「あなたは残るんですか?」ついにベロワールがかすれた声で訊いた。


「あんたは?」


「私はそのわかりません」


するとヴァン・ダムがコインでテーブルを叩き、ボーイに訊いた。


「いくらだ?」


「全部で?九フラン七十五サンチームです」


三人は立ち上がり、互いに目を合わせようとしなかった。ボーイが順番に外套を着せてやった。


「おやすみなさいませ」


外は霧だった。街灯の灯りがかろうじて見えるほどだ。雨戸はすべて閉まっていた。どこか遠くで歩道を打つ足音が響いていた。


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どちらへ向かうべきか迷いがあった。三人の誰も先頭に立とうとしなかった。後ろではカフェの扉に鍵がかけられ、安全棒がはめられる音がした。

左手には不揃いなfaçadeの古い家々が並ぶ路地が続いていた。


「ではみなさん、これで」と、最後にメグレが言った。


最初に握ったベロワールの手は冷たく、こわばっていた。ヴァン・ダムが渋々差し伸べた手はじっとりと湿り、力がなかった。

メグレは外套の襟を立て、軽く咳払いして歩きだした。人気のない通りを一人で歩きながら、神経のすべてを一点に集中させていた。危険を知らせるわずかな物音も、空気のごくかすかな揺らぎも逃すまいとしていた。

右手はポケットの中で拳銃のグリップを握りしめていた。左手に広がる路地の迷路の中で、リエージュの中心部に癩病患者の島のように食い込んだその一帯で、誰かが足音を立てまいとしながら急ぎ足で動いている気がした。

低い声の会話の気配を感じた。霧が感覚を狂わせるせいで、それが遠いのか近いのか判断できなかった。

突然、メグレは横へ飛びのき、扉に体を貼りつけた。乾いた銃声が轟き、暗闇の中で誰かが全力で走り去った。

メグレは数歩前へ出て、銃が放たれた路地を覗き込んだ。しかし何も見えなかった。袋小路に通じているらしい暗い染みと、二百メートル先にフライドポテト屋の看板代わりのすりガラスの球がぼんやりと光っているだけだった。

しばらくしてその店の前を通ると、一人の女が揚げたてのポテトを紙袋に入れて持ちながら出てきた。彼女は気乗りしない様子でメグレに声をかけ、明るい通りの方へ歩いていった。


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メグレは落ち着いた様子で書いていた。太い人差し指でペンを紙に押しつけながら、ときおりパイプの熱い灰を指で押し固めた。

鉄道ホテル2の自室に腰を落ちつけ、窓から見える駅の光る時計は夜中の二時を指していた。

ルカへ

何が起きるかわからないので、万が一の場合に俺が始めた捜査を続けられるよう、いくつか情報を書いておく。

一、先週、ブリュッセルでみすぼらしい身なりの浮浪者風の男が千フラン紙幣を三十枚束にして、パリのロケット街の自分の住所へ送った。調べれば同じくらいの大金を何度も自分宛てに送っていたことがわかるはずだ。使ってはいなかった。部屋で大量の紙幣をわざわざ燃やした灰が見つかったのがその証拠だ。

この男はルイ・ジュネの名で暮らし、同じ通りの工房でほぼ定期的に働いていた。

かつて結婚しており(ピクピュス街の薬草商ジュネ夫人を参照)、子どももいる。しかし激しいアルコール依存の発作を繰り返した末、不審な状況で妻子を捨てた。

ブリュッセルで金を送った後、男はスーツケースを買い、ホテルの部屋に置いていた荷物を詰めようとした。ブレーメンへ向かう途中、俺はそのスーツケースを別のものとすり替えた。

ジュネはそれまで自殺を考えていたようすもなく、夕食の用意までしていたが、荷物が盗まれたことに気づいて命を絶った。

問題の荷物は古いスーツで、彼のものではなかった。何年も前に格闘の末に引き裂かれ、血まみれになったものだ。そのスーツはリエージュで仕立てられていた。

ブレーメンで遺体を見にきた男がいた。リエージュ生まれの荷物運搬業者、ジョゼフ・ヴァン・ダムという男だ。

パリでわかったことだが、ルイ・ジュネの正体はリエージュ生まれのジャン・ルコック・ダルヌヴィルで、長らく消息が途絶えていた。大学まで進んだ男だ。約十年前に姿を消したリエージュでは、彼に非は何一つなかった。


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二、ランスで、ジャン・ルコック・ダルヌヴィルがブリュッセルへ出発する前に、夜中に銀行副支店長のモーリス・ベロワールの家を訪ねるのが目撃されている。ベロワールはリエージュ生まれで、この面会を否定している。

しかしブリュッセルから送られた三万フランはこのベロワールが出所だ。

ベロワールの家で俺が会ったのは、ブレーメンから飛行機で来たヴァン・ダム、リエージュの写真製版師ジェフ・ロンバール、そしてやはりリエージュ生まれのガストン・ジャナンだ。

ヴァン・ダムとパリへ帰る途中、やつは俺をマルヌ川に突き落とそうとした。

そしてリエージュのジェフ・ロンバールの家でもやつと鉢合わせした。ロンバールは約十年前に絵を描いており、家中の壁がその頃の首吊り人を描いた絵で覆われている。

新聞社をまわると、首吊りの年の二月十五日付の号がヴァン・ダムに引き抜かれていた。

夜、署名のない手紙がすべてを話すと約束し、街のカフェに呼び出した。行ってみると一人ではなく三人いた。ランスから来たベロワール、ヴァン・ダム、そしてジェフ・ロンバールだ。

三人とも気まずそうに俺を迎えた。三人のうちの誰か一人が話す気でいて、残りの二人はそれを阻止するために来たのだと俺は確信している。

ジェフ・ロンバールは張りつめたまま突然席を立った。俺は残りの二人と残った。日付が変わって霧の中で別れ、しばらくして銃弾が俺に向けて放たれた。

俺の結論はこうだ。三人のうちの一人が話そうとした。そして同じく三人のうちの一人が俺を消そうとした。

最後の行動は自白も同然だ。やった奴はもう一度やるしかなく、今度は外さないだろう。

だが誰だ?ベロワールか、ヴァン・ダムか、ジェフ・ロンバールか?


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やつがまた動いたときわかる。万が一の場合に備えてこのメモを送っておく。最初から捜査をやり直せるはずだ。

事件の人間的な側面については、とくにジュネ夫人と、死んだ男の兄アルマン・ルコック・ダルヌヴィルに当たってみてくれ。

じゃあもう寝る。みんなによろしく。

メグレ

霧は晴れ、メグレが横切ったアヴロワ広場の木々と草の一本一本に白い霜の粒が光っていた。

淡い青空に寒そうな太陽が輝き、霜は一分ごとに澄んだ水滴に変わって砂利の上に落ちていた。

朝の八時、メグレはまだ人気のないカレを歩き回った。映画館の看板が閉まった雨戸にもたれかかっていた。

メグレは郵便ポストの前で足を止め、リュカ巡査部長宛ての手紙を投函し、かすかな感慨とともにあたりを見まわした。

同じ街のこの金色の陽光にあふれた通りで、同じ時刻に、一人の男がメグレのことを考えていた。その男にとって、メグレを殺すことが唯一の活路だった。昨夜入り組んだ路地に消えてみせたように、地の利はそちらにあった。

しかも男はメグレのことを知っていた。今この瞬間も見ているかもしれない。一方のメグレはまだ正体をつかんでいなかった。

ジェフ・ロンバールか?危険はオール・シャトー街の古い家に潜んでいるのか?二階では産後の妻が眠り、肝っ玉のいい母親が付き添っている。工房ではのんびりした職人たちが酸の桶から桶へと歩き回り、新聞配達の自転車乗りにせかされている。

それともジョゼフ・ヴァン・ダムか?暗く獰猛で、大胆で狡猾なあの男が、メグレが必ず来ると知っている場所で待ち伏せしているのか?あいつはブレーメンからずっと先手を打ってきた。ドイツの新聞の三行記事を見てすぐに遺体安置所へ駆けつけたのだから。


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メグレと昼食をともにしながら、刑事より先にランスに着いていた。

オール・シャトー街にも一番乗りだった。新聞社めぐりでも捜査官より先に動いていた。

そして証券取引所カフェにもいた。

もっとも、話すつもりでいたのがヴァン・ダム自身だという証拠もなかった。逆の証拠もなかった。

霧の中で引き金を引いたのは、地方の大ブルジョワの傲慢さを漂わせた冷静で隙のないベロワールかもしれない。メグレを始末する以外に活路がないのは彼かもしれない。

あるいは山羊髭の小柄な彫刻家、ガストン・ジャナンか?証券取引所カフェにはいなかったが、通りで待ち伏せしていたかもしれない。

これはいったい教会の十字架に揺れる首吊り死体とどんな関係があるのか?無数の首吊り人たちと?木という木に首吊り人しか実らない森と?血に染まり、必死に爪を立てた跡が残る古いスーツと?

タイピストたちが職場へ向かっていた。市の清掃車がゆっくりと走り、二つの散水器とローラー状のブラシがゴミを溝へ押しやっていた。

街角では白いエナメルの兜をかぶった警官たちが白塗りの腕を振って交通整理をしていた。


「中央警察署はどこですか?」メグレが訊いた。


道を教えてもらい着いてみると、掃除の女たちがまだ働いていたが、愛想のいい書記官が同業者を迎えてくれた。十年前の調書を見たい、二月のものに関心があると告げると、書記官は叫んだ。


「二十四時間以内に二人目ですよ!ジョゼフィーヌ・ボランという女がその頃家政婦として盗みを働いたかどうかを調べに来たんですね?」


「誰かが来たんですか?」


「昨日の午後五時ごろです。海外で出世したリエージュの人で、まだ若い。お父さんは医者でした。本人はドイツで大きな商売をやっています」


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「ジョゼフ・ヴァン・ダムですか?」

「そうです。でもいくらファイルを調べても探しているものは見つからなかったようです」

「見せてもらえますか?」

緑色のファイルに日報が綴じられ、それぞれに通し番号が振ってあった。二月十五日付には五つの調書があった。夜間の酩酊と騒音が二件、万引きが一件、傷害が一件、囲いの破壊とウサギの窃盗が一件だ。

メグレは読みもしなかった。各書類の冒頭に振られた番号を眺めていた。

「ヴァン・ダム氏は自分で台帳を調べたんですか?」

「ええ、隣の部屋に通しまして」

「ありがとう」

五つの調書の番号は237、238、239、241、242だった。

つまり一つ欠けていた。新聞がコレクションから引き抜かれていたように、調書が一枚抜き取られていた。240番だ。3

数分後、メグレは市庁舎の裏手の広場に出た。馬車が婚礼の一行を運んできていた。それでもメグレは知らず知らずのうちにわずかな物音にも耳をそばだてていた。自分でも好きではない小さな不安にとらわれながら。


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  1. Tierce haute(テールス・オート)は、フランスのカードゲームベロット(Belote)やピケ(Piquet)で使われる用語で、「高い方の三枚連続札」という意味です。||同じスートの|連続した|三枚の札の組み合わせを|「ティエルス」(tierce)と呼び、|その中でも|高い札で|構成されるものを|「オート」(haute)と言います。
    70ページの場面では|カフェの|別のテーブルで|常連客たちが|カードゲームに|興じており、|四人の|重苦しい沈黙との|対比として|描かれています。||日本語では|「高札三連!」|などと|意訳するのが|自然かもしれません。 ↩︎
  2. Hôtel du Chemin-de-Fer(オテル・デュ・シュマン・ド・フェール)は、「鉄道ホテル」という意味です。
    Chemin de ferはフランス語で|「鉄道」を|意味します。||直訳すると|「鉄の道」です。
    19世紀から20世紀初頭にかけて、|ヨーロッパの|地方都市では|駅の|近くに|この名前の|ホテルが|よく|ありました。||出張者や|旅行者が|列車の|乗り継ぎの際に|泊まる|実用的な|宿です。||高級ホテルでは|なく、|こざっぱりした|庶民的な|ホテルです。
    シムノンの|メグレシリーズでは|こうした|地方の|駅前ホテルが|しばしば|登場します。||メグレが|出張先で|泊まる|定番の|宿で、|豪華さより|実用性を|重んじる|彼の|性格を|よく|表しています。
    ↩︎
  3. 1930年代のベルギーの警察署では、現代のような厳格な|情報管理の|仕組みが|整っていませんでした。||特に|地方の|警察署では|書類の|管理が|ゆるやかで、|信頼できそうな|身なりの|人物、|とりわけ|社会的地位の|ある人間が|閲覧を|申し出た場合、|係員が|その場を|離れて|一人にして|しまうことは|十分|あり得ました。
    ヴァン・ダムは|「ドイツで|成功した|実業家」として|紹介されており、|書記官も|好意的に|「隣の部屋に|通した」と|言っています。||つまり|監視なしに|一人で|台帳を|見られる|状況に|あったわけです。
    シムノンの描き方としては、こうした|当時の|お役所仕事の|のんびりした|お人好しぶりを|リアルに|捉えており、|メグレシリーズ全体を通じて|地方の|官僚組織の|隙を|犯人が|巧みに|利用する|場面が|しばしば|登場します。
    現代の目で見れば|信じがたいことですが、|当時の|フランスや|ベルギーの|地方行政では|十分|起こり得た|ことだったと|言えます。 ↩︎