ゲ・ムーランの踊り子|第五章 対決

ゲ・ムーランの踊り子

『Brille Editor System ver.8』用の『BESファイル』を、ZIPファイルに圧縮して公開しています。(2026年4月19日現在未作成)

48 二日酔いの朝


 デルフォスが|目を|開けた|瞬間、|荒い|息づかいが|止まった。||すぐに|体を|起こし、|おびえた|目で|あたりを|見まわした。

 部屋の|カーテンは|閉められておらず、|電球が|まだ|灯っていて、|黄色い|光が|昼の|光と|混じり合っていた。||通りから|街の|活気ある|騒めきが|上がってきた。

 もっと|近くで、|規則正しい|息づかい。||アデルが|半分だけ|服を|脱いだまま、|うつ伏せに|なり、|顔を|枕に|埋めて|寝ていた。||体から|じっとりした|温もりが|漂っていた。||片方の|足は|まだ|靴を|はいたままで、|高い|ヒールが|金色の|絹の|羽根布団に|めり込んでいた。

 ルネ・デルフォスは|気分が|悪かった。||ネクタイが|首を|絞めつけていた。||水を|探して|立ち上がり、|水差しに|見つけたが|グラスが|なかった。||ぬるく|なった|水を|がぶがぶと|容器から|直接|飲み、|洗面台の|鏡で|自分の|顔を|見た。

 頭が|回らなかった。||記憶が|一つずつしか|戻らず、|空白が|あちこちに|残っていた。||たとえば|この|部屋に|どうやって|たどり着いたのか|まったく|思い出せなかった。||時計を|確かめた。||止まっていたが、|外の|活気から|少なくとも|朝の|九時は|すぎていると|わかった。||向かいの|銀行が|開いていた。


「アデル!」|と|一人でいたくなくて|呼んだ。


 彼女は|じっとして|横向きに|丸まったが、|目を|覚まさなかった。


「アデル!||話が|ある」


 欲望なしに|彼女を|見つめた。||もしかすると|今この|瞬間、|女の|白い|肌が|少し|胸を|悪くさせていたかも|しれない。

49逃亡 ― ギヨマン駅へ


 アデルは|片目を|開け、|肩を|すくめて|また|眠りに|落ちた。||正気を|取り戻すにつれ、|デルフォスは|ますます|神経質に|なっていった。||落ち着きない|視線が|どこにも|定まらなかった。||窓に|近づき、|向かいの|歩道で|ドアから|目を|離さずに|行ったり|来たりしている|刑事を|認めた。


「アデル!||頼むから|起きてくれ!」


 恐怖だった!||青ざめるほどの|恐怖!||床に|落ちていた|上着を|拾って|着ると、|無意識に|ポケットを|探った。|1サンチームも|なかった。

 また|水を|飲んだが、|重く|味気ない|水が|病んだ|胃に|落ちていった。||一瞬、|吐けば|楽に|なると|思ったが、|うまく|いかなかった。

 ダンサーは|まだ|眠っていた。||髪を|乱し、|顔を|光らせて。||まるで|必死に|眠りの|奥へ|潜り込もうとするかのような|頑固な|眠りだった。

 デルフォスは|靴を|はき、|テーブルの|上に|アデルの|バッグを|見つけた。||ある|考えが|浮かんだ。||刑事が|まだ|外に|いるか|確かめた。||それから|アデルの|息が|より|規則正しく|なるのを|待った。

 音も|なく|バッグを|開けた。||口紅、|おしろい、|古い|手紙が|ごちゃ混ぜに|入っており、|九百フランほどの|紙幣が|あった。||ポケットに|押しこんだ。

 彼女は|動かなかった。||つま先立ちで|ドアへ|向かった。||階段を|降りたが、|通りへ|出る|代わりに|中庭へ|向かった。||食料品店の|中庭で、|木箱と|樽が|積み重なっていた。||馬車門が|別の|通りへ|続いており、|トラックが|待っていた。

 デルフォスは|走るまいと|必死に|こらえた。||そして|三十分後、|汗だくで|ギヨマン駅1の|前に|たどり着いた。

 ジラール刑事は|近づいてきた|同僚と|握手した。


「何かあったか?」


「警部が|若い方と|ダンサーを|連行するよう|言ってます。||令状が|あります」


「向こうは|自白したのか?」

50アデルの逮捕 ― 金のタバコ入れ


「否認しています!||というか、|友人が|チョコレート屋で|金を|盗んだとか|よくわからない|話を|しています。||父親も|来ています。||たいへんな|騒ぎです」


「一緒に|来るか?」


「部長は|特に|言わなかったですが。||行きましょうか」


 二人は|建物に|入り、|部屋の|ドアを|ノックした。||返事が|なかった。||ジラール刑事が|ドアノブを|まわすと、|開いた。||危険を|感じたかのように、|アデルが|突然|目を|覚まし、|肘で|体を|支えながら|ねぼけた|声で|聞いた。


「何?」


「警察だ!||あなたたち|二人への|令状が|ある。||しかし|どこへ|消えた、|あの|若い男は?」


 アデルも|あたりを|見まわしながら|足を|ベッドから|下ろした。||本能的に|バッグに|目が|いき、|開いたままの|バッグに|飛びついて|必死に|中を|あさり、|叫んだ。


「この|ろくでなし!||私の|お金を|持って|逃げた!」


「逃げたのを|知らなかったのか?」


「寝てたのよ!||でも|絶対に|ただじゃ|おかない!||お坊ちゃまって|ほんとに|最低!」


 ジラールは|枕元の|テーブルの|上に|金の|タバコ入れ2を|見つけた。


「これは|誰の?」


「あいつが|忘れていったの。||昨夜、|手に|持ってたわ」


「着替えなさい!」


「逮捕されるの?」


「アデル・ボスケという|ダンサーへの|出頭令状が|ある。||それは|あなたですね?」


「わかったわよ!」


 慌てる|様子も|なかった。||気に|なっているのは|逮捕より|盗まれた|金の|ほうらしかった。||髪を|整えながら|二、三度|繰り返した。


「このろくでなし!||私は|ぐっすり|寝てたのに!」


 二人の|刑事は|目利きとして|部屋を|見まわし、|目配せを|交わした。

51 アデルの登場 ― 逃げたデルフォス


「長く|かかりますか?」|と|彼女は|また|聞いた。||「だったら|着替えを|持っていきたいんだけど」


「わからない!||命令を|受けただけだ」


 肩を|すくめ、|ため息を|ついた。


「やましいことは|何も|ないんだから!」


 ドアへ|向かいながら、


「待ってて。||車は|あるの?||ないの?||じゃあ|一人で|歩くわ。||ついてくれば|いい」


 バッグの|留め金を|怒りで|ぱちんと|閉め、|持ち出した。||刑事は|タバコ入れを|ポケットに|滑り込ませた。

 外に|出ると、|彼女は|自分から|警察署へ|向かい、|迷わず|入り、|広い|廊下で|ようやく|立ち止まった。


「こちらへ!||少し|待て、|警部に|聞いてくる」


 手遅れだった。||彼女は|もう|入っていた!||一目で|状況を|把握した。||待ち受けていたらしく、|特に|何も|起きなかった。||赤い|口ひげの|警部が|広い|部屋を|行ったり|来たりしていた。||机に|肘を|つき、|シャボは|差し入れの|サンドイッチを|食べようとしていた。||父親は|隅に|立ち、|頭を|垂れていた。


「もう一人は?」|と|アデルが|ジラールと|入ってくるのを|見て|警部が|言った。


「逃げました!||裏口から|抜けたようです!||彼女の|話では|バッグの|中身ごと」


 シャボは|誰も|見ようと|しなかった。||ほとんど|手を|つけていない|サンドイッチを|置いた。


「とんだ|ろくでなしね、|警部!||こんな|手合いに|親切にするのは|もう|こりごりよ!」


「静かに!||質問に|答えるだけで|いい」


「それでも|全財産を|持って|逃げたのよ!」


「黙りなさい」


 ジラールが|小声で|警部に|話しかけ、|金の|タバコ入れを|渡した。

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  1. ギヨマン駅「gare des Guillemins」は、リエージュ市内に実在するリエージュ=ギヨマン駅です。
    リエージュの中央駅にあたる主要駅で、ブリュッセルやパリへの国際列車も発着する重要な鉄道の拠点です。現在も営業しており、スペインの建築家サンティアゴ・カラトラバが設計した近代的な駅舎で知られています。ただし1930年代当時はもちろん別の建物でした。
    デルフォスがこの駅に向かったのは、国外逃亡を図っていたからです。金を盗み、汗だくで駅に駆けつけた場面は、追い詰められた若者の焦りをよく表しています。
    ↩︎
  2. 「金のタバコ入れ」は物語の最初のページに登場した重要な小道具です。
    第一章でグラフォプロスが持っていた金製のタバコ入れで、ジャンがアデルの部屋を訪ねたとき、枕元のテーブルの上にあるのを見て震えた、まさにあの品物です。グラフォプロスが殺された夜、アデルが持ち出したか、あるいはデルフォスが盗んだかのどちらかで、アデルの部屋に残っていたわけです。
    これがジラールの目に留まったことで、アデルとゲ・ムーランの事件との関係が証明される重要な証拠になります。
    ↩︎