政治経済|ワールドカップに日本企業がいない——アジアの熱量を誰が取りに行く!?

日本

「過信」という言葉が、現実味を帯びてきた!?

W杯開幕にあたり、こんな記事を書きました。前編はこちら💁

「その判断の裏に『自分たちのブランドはすでに世界に通用している』という過信があったとしたら、話は変わってくる。合理的に見えた選択が、実は根拠のない自信に支えられていただけだとしたら——そしてその『過信による不参加』が10年以上積み重なった結果、気づけばグローバルな舞台から日本企業の姿が消えていたとしたら、それは考えさせられる話である」

あのとき「仮定の話」として書いたことが、大会が始まってみると・・・、正直な感想を一言で言えば、「勿体ない」です。

アジア勢、思った以上に戦っています

今大会を見ていて、まず驚いたのがアジア勢の健闘です。

韓国はチェコに勝ち、日本はオランダと引き分け、オーストラリアはトルコに勝ちました。サウジアラビアはウルグアイと引き分けました。イラクはノルウェーに1-4で敗れましたが、試合を見ていると前半は十分に互角でした。むしろイラクが押し込む時間帯すらありました。後半にノルウェーが地力を見せてスコアが開きましたが、スコアだけ見れば大敗でも、内容はそう単純ではありません。昔のように、アジア勢が欧州や南米の強豪に何もできずに終わる、という感じではないのです。

これは今大会だけの話ではありません

アジア勢のこの健闘は、今回たまたまではありません。詳しくは専門家の方の解説に任せますが、社会的な構造的の変化が積み重なった結果であり、今後も続くと思っています。

欧州トップクラブに移籍するアジアの選手が急増し、世界水準の指導者がアジア・中東の代表チームに普通に就任する時代になりました。戦術や映像分析の情報はYouTubeやSNSで誰でも手に入り、VARの導入で判定の公平性も担保されています。イラク対ノルウェー戦の解説を担当した権田修一氏と郭大世氏が「情報の民主化」「レフェリーのコンビニ化」と表現していましたが、まさにその言葉通りです。

かつて欧州の強豪だけが持っていた「情報」と「環境」は、今やアジア全体に広がっています。アジア勢の実力は本物であり、これからさらに伸びていくはずです。

48チーム制が変えたもの——「出られる」という現実味

今大会からの48チーム制も、この流れを加速させています。アジア枠は従来の4.5枠から8枠+プレーオフ枠へと大きく増えました。日本、韓国、イラン、サウジアラビア、オーストラリアといった常連国だけでなく、ウズベキスタン、ヨルダン、イラクのような国にも本大会出場の道が開けました。

これは単なる「水増し」ではありません。出場の可能性が高まれば、各国の協会も、選手も、ファンも本気になります。国内リーグや育成にも目が向く。子どもたちにとっても「うちの国もワールドカップに出られる」という現実味が生まれます。

オセアニア地区もそう。今回から1枠が確保され、小さいですが太平洋の島国がニュージーランドを倒せば、ワールドカップに確実に出ることができるようになったのです。本気度が違います。

日本もかつてそうでした

昔の日本もそうでした。まさに、私がリアルで体験した時代、アジア枠3.5、大会に出て勝ち点を挙げることが目標でした。そして、1998年に初めてW杯に出場し、そこから代表人気が一気に広がりました。Jリーグ、海外移籍、育成、代表ビジネス、放映権、スポンサー。すべてが少しずつ大きくなっていきました。

いま、同じことがアジアの別の地域で起きようとしています。そしてその熱狂の舞台に、日本企業の姿がありません。

中東という、見逃せない巨大市場

今回のアジア勢には中東の国が多い。サウジアラビア、カタール、イラン、イラク、ヨルダン。しかもサウジアラビアやカタールは、単にサッカーが好きな国というだけではありません。国家としてスポーツに巨額の投資をしている国々です。

スタジアム、放映権、観光、航空、建設、都市開発、エンタメ。サッカーは単なる競技ではなく、国家ブランドや経済戦略と結びついています。そして当然、そこには購買力があります。自動車、家電、空調、医療機器、建設機械、食品、教育、旅行——日本企業が本来強みを持つ分野は、中東市場と相性が悪いわけではありません。「品質」「信頼」「安全」という日本ブランドは、まだ十分に通用する可能性があります。

にもかかわらず、ワールドカップの広告看板に日本企業の名前は見えません。

ピッチサイドに映るのは誰か

ワールドカップのピッチサイドに映るブランドは、日本戦だけでなく全104試合で映ります。欧州の試合でも、南米の試合でも、アジアやアフリカの試合でも映ります。サッカーに熱狂する世界中の若い世代の目に、何度も何度も入る。それは単なる広告ではなく、記憶の占有です。

ハイセンス、レノボ、ヒュンダイ、キア。こうした名前が、世界中の視聴者の中で「ワールドカップにいる企業」として刻まれていきます。一方、日本企業は日本代表の周辺では目立つ。しかし世界の大会そのものでは見えません。

アジア勢がこれだけ活躍し、アジアのサッカーファンが増え、中東市場が熱を帯びているこの瞬間に、日本企業がそこにいない。「勿体ない」という感想は、試合を見るたびに強くなっています。

「守る広告」と「取りに行く広告」

日本企業の広告は、どちらかといえば「守る広告」になっています。既存の国内顧客に安心してもらう。日本代表を応援する企業として好感度を高める。日本市場でブランドを維持する。これは大切ですし、否定されるべきものではありません。

しかし、世界でブランドを育てるには「取りに行く広告」が必要になります。まだ知られていない市場に出る。成長する地域に先に入る。若い世代の記憶に残る。ワールドカップのスポンサーシップとは、本来そういう広告です。

中国企業や韓国企業は、それを理解しています。だから高額でも出る。すでに有名かどうかではなく、これから世界のどこで売るのかを考えているからです。サムスンがかつてオリンピックスポンサーシップでブランドを世界に刻んだように、ハイセンスは今W杯でそれをやっています。同じ歴史が、静かに繰り返されています。

日本企業は、まだ世界に名乗りを上げる意思があるか

開幕前の記事で書いた「過信」という言葉が、今は違う重さを持って見えます。アジアのサッカーが本物の力をつけ、中東市場が熱狂し、世界中の新しいファンが生まれているこの瞬間に、日本企業はその外側にいます。

ワールドカップは日本代表だけの大会ではありません。アジアの大会でもあり、中東の大会でもあり、開催国の北中米だけの大会でもない。世界中の人々が自分の国の試合を見て、サッカーの広がりを実感する場です。その広がりの中に、新しい市場、新しいファン、新しい消費者が生まれています。
そして、その新しい将来の消費者が見ている広告は、SONYでもTOYOTAでもHONDAでもASICSでもKIRINでMEIJIでもないのです。LENOVO、HISENSE、HYUNDAI、KIA、ADIDAS、Cocacola、蒙牛・・・・

アジア勢の活躍に触れて、解説者が言ってた一言が印象的でした。自分もW杯に出たことのある某元日本代表なのに・・・。

「ワールドカップって、面白いですね!」「サッカーって世界中に愛されるスポーツなんですね!」

そこに日本企業がいない。これは単なるスポンサーリストの空白ではありません。成長するアジアの熱量を取りに行っていないことの、ひとつの表れではないかと思います。

今回の大会の結果を見て、次のワールドカップで日本企業はどう動くのか。そのとき、世界の市場はどうなっているのか。そんな期待をしながら、今大会の残りを楽しんで見ていきたいと思います。

追記)蒙牛(MENGUNIU)は今回、ワールドカップのグローバルスポンサーで初めて知りました!、世界市場での存在感はすでに明治を超えているかもしれません。中国の巨大な国内市場を背景に、海外展開も積極的です。日本の乳業メーカーがほぼ国内止まりなのと対照的です。