48 二日酔いの朝

デルフォスが|目を|開けた|瞬間、|荒い|息づかいが|止まった。||すぐに|体を|起こし、|おびえた|目で|あたりを|見まわした。
部屋の|カーテンは|閉められておらず、|電球が|まだ|灯っていて、|黄色い|光が|昼の|光と|混じり合っていた。||通りから|街の|活気ある|騒めきが|上がってきた。
もっと|近くで、|規則正しい|息づかい。||アデルが|半分だけ|服を|脱いだまま、|うつ伏せに|なり、|顔を|枕に|埋めて|寝ていた。||体から|じっとりした|温もりが|漂っていた。||片方の|足は|まだ|靴を|はいたままで、|高い|ヒールが|金色の|絹の|羽根布団に|めり込んでいた。

ルネ・デルフォスは|気分が|悪かった。||ネクタイが|首を|絞めつけていた。||水を|探して|立ち上がり、|水差しに|見つけたが|グラスが|なかった。||ぬるく|なった|水を|がぶがぶと|容器から|直接|飲み、|洗面台の|鏡で|自分の|顔を|見た。
頭が|回らなかった。||記憶が|一つずつしか|戻らず、|空白が|あちこちに|残っていた。||たとえば|この|部屋に|どうやって|たどり着いたのか|まったく|思い出せなかった。||時計を|確かめた。||止まっていたが、|外の|活気から|少なくとも|朝の|九時は|すぎていると|わかった。||向かいの|銀行が|開いていた。

「アデル!」|と|一人でいたくなくて|呼んだ。
彼女は|じっとして|横向きに|丸まったが、|目を|覚まさなかった。

「アデル!||話が|ある」
欲望なしに|彼女を|見つめた。||もしかすると|今この|瞬間、|女の|白い|肌が|少し|胸を|悪くさせていたかも|しれない。

49逃亡 ― ギヨマン駅へ

アデルは|片目を|開け、|肩を|すくめて|また|眠りに|落ちた。||正気を|取り戻すにつれ、|デルフォスは|ますます|神経質に|なっていった。||落ち着きない|視線が|どこにも|定まらなかった。||窓に|近づき、|向かいの|歩道で|ドアから|目を|離さずに|行ったり|来たりしている|刑事を|認めた。

「アデル!||頼むから|起きてくれ!」
恐怖だった!||青ざめるほどの|恐怖!||床に|落ちていた|上着を|拾って|着ると、|無意識に|ポケットを|探った。|1サンチームも|なかった。
また|水を|飲んだが、|重く|味気ない|水が|病んだ|胃に|落ちていった。||一瞬、|吐けば|楽に|なると|思ったが、|うまく|いかなかった。
ダンサーは|まだ|眠っていた。||髪を|乱し、|顔を|光らせて。||まるで|必死に|眠りの|奥へ|潜り込もうと|するかのような|頑固な|眠りだった。
デルフォスは|靴を|はき、|テーブルの|上に|アデルの|バッグを|見つけた。||ある|考えが|浮かんだ。||刑事が|まだ|外に|いるか|確かめた。||それから|アデルの|息が|より|規則正しく|なるのを|待った。

音も|なく|バッグを|開けた。||口紅、|おしろい、|古い|手紙が|ごちゃ混ぜに|入っており、|九百フランほどの|紙幣が|あった。||ポケットに|押しこんだ。
彼女は|動かなかった。||つま先立ちで|ドアへ|向かった。||階段を|降りたが、|通りへ|出る|代わりに|中庭へ|向かった。||食料品店の|中庭で、|木箱と|樽が|積み重なっていた。||馬車門が|別の|通りへ|続いており、|トラックが|待っていた。

デルフォスは|走るまいと|必死に|こらえた。||そして|三十分後、|汗だくで|ギヨマン駅1の|前に|たどり着いた。
ジラール刑事は|近づいてきた|同僚と|握手した。

「何かあったか?」

「警部が|若い方と|ダンサーを|連行するよう|言ってます。||令状が|あります」

「向こうは|自白したのか?」
50アデルの逮捕 ― 金のタバコ入れ

「否認しています!||というか、|友人が|チョコレート屋で|金を|盗んだとか|よくわからない|話を|しています。||父親も|来ています。||たいへんな|騒ぎです」

「一緒に|来るか?」

「警部は|特に|言わなかったですが。||行きましょうか」
二人は|建物に|入り、|部屋の|ドアを|ノックした。||返事が|なかった。||ジラール刑事が|ドアノブを|まわすと、|開いた。||危険を|感じたかのように、|アデルが|突然|目を|覚まし、|肘で|体を|支えながら|ねぼけた|声で|聞いた。


「何?」

「警察だ!||あなたたち|二人への|令状が|ある。||しかし|どこへ|消えた、|あの|若い男は?」
アデルも|あたりを|見まわしながら|足を|ベッドから|下ろした。||本能的に|バッグに|目が|いき、|開いたままの|バッグに|飛びついて|必死に|中を|あさり、|叫んだ。


「あの|ろくでなし!||私の|お金を|持って|逃げた!」

「逃げたのを|知らなかったのか?」

「寝てたのよ!||でも|絶対に|ただじゃ|おかない!||お坊ちゃまって|ほんとに|最低!」
ジラールは|枕元の|テーブルの|上に|金の|タバコ入れ2を|見つけた。


「これは|誰の?」

「あいつが|忘れていったの。||昨夜、|手に|持ってたわ」

「着替えなさい!」

「逮捕されるの?」

「アデル・ボスケという|ダンサーへの|出頭令状が|ある。||それは|あなたですね?」

「わかったわよ!」
慌てる|様子も|なかった。||気になっているのは|逮捕より|盗まれた|金の|ほうらしかった。||髪を|整えながら|二、三度|繰り返した。

「このろくでなし!||私は|ぐっすり|寝てたのに!」
二人の|刑事は|目利きとして|部屋を|見まわし、|目配せを|交わした。
51 アデルの登場 ― 逃げたデルフォス

「長く|かかりますか?」|と|彼女は|また|聞いた。||「だったら|着替えを|持っていきたいんだけど」

「わからない!||命令を|受けただけだ」
肩を|すくめ、|ため息を|ついた。

「やましいことは|何も|ないんだから!」
ドアへ|向かいながら、言った。

「待ってて。||車は|あるの?||ないの?||じゃあ|一人で|歩くわ。||ついてくれば|いい」
バッグの|留め金を|怒りで|ぱちんと|閉め、|持ち出した。||刑事は|タバコ入れを|ポケットに|滑り込ませた。
外に|出ると、|彼女は|自分から|警察署へ|向かい、|迷わず|入り、|広い|廊下で|ようやく|立ち止まった。


「こちらへ!||少し|待て、|警部に|聞いてくる」

手遅れだった。||彼女は|もう|入っていた!||一目で|状況を|把握した。||待ち受けていたらしく、|特に|何も|起きなかった。||赤い|口ひげの|警部が|広い|部屋を|行ったり来たり|していた。||机に|肘を|つき、|シャボは|差し入れの|サンドイッチを|食べようとしていた。||父親は|隅に|立ち、|頭を|垂れていた。

「もう一人は?」|と|アデルが|ジラールと|入ってくるのを|見て|警部が|言った。

「逃げました!||裏口から|抜けたようです!||彼女の|話では|バッグの|中身ごと」
シャボは|誰も|見ようと|しなかった。||ほとんど|手を|つけていない|サンドイッチを|置いた。

「とんだ|ろくでなしね、|警部!||こんな|手合いに|親切にするのは|もう|こりごりよ!」

「静かに!||質問に|答えるだけで|いい」

「それでも|全財産を|持って|逃げたのよ!」

「黙りなさい」
ジラールが|小声で|警部に|話しかけ、|金の|タバコ入れを|渡した。

52 タバコ入れの証言 ― アデルの告発


「まず|このものが|どうして|あなたの|部屋に|あったか|教えてください。||見覚えが|あるはずです。||あなたは|グラフォプロスの|最後の|夜を|一緒に|過ごした。||彼は|何度も|このタバコ入れを|使い、|何人もの人が|目にしています。||彼が|あなたに|くれたのですか?」
アデルは|シャボを|見てから|警部を|見て、|答えた。

「違います!」

「では|なぜ|あなたの|部屋に?」

「デルフォスが|……」
シャボは|勢いよく|頭を|上げ、|飛びかかろうとして|言いかけた。


「嘘だ!||彼女は……」

「座っていなさい!||デルフォスが|このタバコ入れを|持っていたと|おっしゃる。||この|告発が|どれほど|重大か|わかっていますか?」
アデルは|冷笑した。

「わかってるわよ!||でも|あいつは|バッグの|金を|盗んだんだから!」

「彼と|知り合って|どれくらいですか?」

「三か月くらい。||あの子と|二人で|ほぼ|毎日|ゲ・ムーランに|来るように|なってから。||貧乏学生だけどね!||もっと|警戒すべきだった。||でも|わかるでしょう、|若いじゃないの!||ああいう子と|おしゃべりすると|気が|休まって。||友達みたいに|接してた。||奢って|くれるときも、|高い物を|頼まないよう|気を|使ってたくらい」
目が|冷たく|なった。


「二人とも|愛人だったのですか?」
アデルは|吹き出した。

「まさか!||そうしたかったんでしょうけど。||遠まわしに|うろうろするだけで、|はっきり|言えないのよ。||口実を|作って|別々に|うちに|来ては、|私が|着替えるのを|見ていた」

「犯行の|夜、|グラフォプロスと|シャンパンを|飲んだh。||後で|彼と|一緒に|行く|約束だったのですか?」

「私を|何だと|思っているの?||私は|ダンサーよ!」
53サン=ランベール広場 ― 謎のフランス人

「もっと|正確に|言えば|接待係ですね。||どういう|意味か|わかっています。||彼と|一緒に|出たのですか?」

「違う!」

「誘いを|かけられましたか?」

「まあ|そんなような。||ホテルに|来ないかと|言われた。||どこの|ホテルだったか|覚えていない。||気にして|なかったから」

「一人で|出たのでは|ないですね?」

「その通り。||出口まで|来たとき、|見知らぬ|客が|声を|かけてきた。||フランス人らしかった。||サン=ランベール広場3への|道を|聞かれた。||私も|そちらに|行くと|言ったら|しばらく|一緒に|歩いて、|突然『タバコを|バーに|忘れた』と|言って|引き返した」

「がっちりした|体格の|男でしたか?」

「そう!」

「まっすぐ|帰りましたか?」

「毎晩|そうしてるわ」

「翌日|新聞で|事件を|知ったのですか?」

「この|若者が|うちに|いた。||彼が|教えてくた」
シャボは|二、三度|口を|挟もうとしたが、|警部が|目で|制した。||父親は|相変わらず|同じ|場所に|立ったままだった。

「この|殺人について|心当たりは?」
アデルは|すぐには|答えなかった。

「話しなさい!||シャボは|あの夜、|友人と|一緒に|ゲ・ムーランの|地下室の|階段に|隠れていたと|たった今|白状しました」
アデルは|冷笑した。

「二人とも|金庫を|狙っていたと|言っています。||閉店後|十五分ほどして|ホールに|入ったとき、|グラフォプロスの|死体を|見たと」

「まさか!」

「では|誰が|犯行を|犯したと|思いますか?||いいですか!||容疑者は|限られています。||まず|店主の|ジェナロ。||ヴィクトールと|一緒に|あなたの|直後に|出たと|言っています。||グラフォプロスは|すでに|出ていたと|言っています」
54ラニエ氏の証言 ― チョコレート屋の金庫
シャボが|厳しくも|懇願するような|目で|アデルを|見るなか、|彼女は|肩を|すくめた。

「ジェナロや|ヴィクトールの|犯行とは|思わないのですか?」

「馬鹿げてるわ」|と|彼女は|無関心に|言い捨てた。

「では|あなたが|しばらく|一緒に|歩いたという|謎の|客が|残ります。||引き返して、|一人で|あるいは|あなたと|一緒に|戻った|可能性が|ある」

「どうやって|入るの?」

「あなたは|この|店に|十分長く|いる。||合鍵を|手に|入れる|くらい|できるはずだ!」
また|肩を|すくめた。

「それでも|タバコ入れを|持っていたのは|デルフォスよ!」|と|彼女は|言い返した。「隠れていたのも|あいつ!」

「嘘だ!||タバコ入れは|翌日の|昼に|あなたの|部屋に|あった!||見た!||誓います!」|と|シャボが|叫んだ。
アデルは|繰り返した。

「デルフォスが|持っていたのよ」
たちまち|収拾の|つかない|騒ぎに|なったが、|一人の|警官が|入ってきて|警部に|小声で|話しかけ、|騒ぎが|収まった。

「通してくれ!」

五十歳前後の|恰幅の|よい|商人風の|男が|現れた。||太鼓腹に|太い|時計の|鎖を|渡し、|いかにも|威厳を|保とうとする|様子だった。

「呼ばれたので|参りました」|と|あたりを|見まわしながら|言った。

「ラニエ氏ですね!」|と|警部が|割り込んだ。
「おかけください。||お手数を|おかけして|恐れ入りますが、|昨日、|レオポルド通りの|お店の|レジから|お金が|なくなっていることに|お気づきに|なりましたか?」
チョコレート屋は|目を|丸くして|繰り返した。


「レジから?」
シャボ氏父は|その|答え|次第で|この|件への|自分の|見方が|決まるかのように、|不安そうに|彼を|見つめた。
55 ラニエ氏の退場 ― 沈黙の十分間

「たとえば|二千フランが|なくなっていたとしたら、|気づきますよね?」

「二千フランですって?||本当に|わかりません」

「いいです!||質問に|答えてください!||レジに|不足は|ありましたか?」

「全然!」

「昨日、|甥御さんが|来ましたね?」

「ちょっと|待って。||ええ、|たまに|そうするように、|寄ったと|思います。||私に|会いに|というより|チョコレートを|仕入れに」

「甥御さんが|レジから|お金を|盗むのに|気づいたことは|ありませんか?」

「何だと!」
チョコレート屋は|憤慨し、|自分の|家族への|侮辱を|他の者たちに|訴えるように|あたりを|見まわした。

「義兄は|息子に|必要な|ものを|何でも|与えられるほど|裕福です!」

「失礼しました、|ラニエ氏。||ありがとうございました」

「それだけですか?」

「それだけです!」

「でも|なぜ|そんなことを?」

「今は|何も|申し上げられません。||ジラール!||ラニエ氏を|お送りして!」
警部は|また|歩き|始めた。||アデルが|厚かましく|聞いた。

「まだ|私が|必要かしら?」
警部は|黙らせるに|十分な|目で|彼女を|見た。||そして|約十分間、|沈黙が|続いた。||誰かか|何かを|待っているようだった。||シャボ氏父は|タバコも|吸えず、|息子を|見る|こともできず、|大病院の|待合室に|いる|貧しい|患者のように|おどおどしていた。
ジャンは|警部の|行き来を|目で|追い、|そばを|通るたびに|話しかけたい|衝動に|駆られた。
やがて|廊下で|足音が|聞こえた。||ドアが|ノックされた。

「どうぞ!」
56 ジェナロとヴィクトールの証言 ― 裏切り

二人の|男が|入ってきた。||ジェナロは|小柄で|がっしりした|体格で、|マルタンゲル付きの|明るい|色の|スーツを|着ていた。||ヴィクトールは|シャボが|私服姿で|見るのは|初めてで、|全身|黒ずくめで|聖職者のように|見えた。

「一時間前に|召喚状を|受け取りまして……」|とイタリア人が|早口に|言い|始めた。

「わかっています!||それより、|あの夜、|グラフォプロスの|タバコ入れが|ルネ・デルフォスの|手に|あるのを|見ましたか?」
ジェナロは|恐縮して|頭を|下げた。

「私は|個人的に|客の|ことに|あまり|気を|配らないもので。||ヴィクトールが|お答えできると|思います」

「結構!||では|あなたが|答えなさい!」
ジャン・シャボは|給仕の|目を|じっと|見つめた。||息が|荒かった。||しかし|ヴィクトールは|愛想よく|目を|伏せて|つぶやいた。

「いつも|ご贔屓に|していただいた|若い方たちに|不利な|ことを|言いたくは|ありません。||でも|本当の|ことを|言わなければ|なりませんね?」

「はいか|いいえで|答えなさい!」

「では……|はい。||持っていました。||気をつけるよう|言おうかと|思ったくらいです」

「そんな!」|とジャンが|憤慨した。
「ひどすぎる!||恥ずかしくないのか、|ヴィクトール?||警部、|聞いてください!」

「黙りなさい!||では、|この|若者たちの|金回りに|ついて|どう|思いますか?」

ヴィクトールは|困ったように、|残念そうに|ため息を|ついた。

「いつも|ツケが|ありましたね。||飲み代だけじゃ|なくて!||小遣いを|借りることも|ありました」

「グラフォプロスの|印象は?」

「通りがかりの|裕福な|外国人。||一番|いい|客です。||値段も|聞かずに|すぐ|シャンパンを|注文した。||チップを|五十フラン|くれました」

「財布の|中に|千フラン紙幣が|何枚も|入っているのを|見ましたね」

「はい。||たっぷり|入っていた。||フランスの|紙幣が|多くて、|ベルギーの|紙幣は|なかった」
57 ジェナロの証言 ― 金庫の嘘

「他に|気づいたことは?」

「ネクタイに|とても|きれいな|真珠の|ピンを|していました」

「いつ|帰りましたか?」

「アデルの|少し|後です。||別の|客が|一緒でした。||太った|男で、|ビールしか|飲まず、|チップは|二十サンチームだった。||フランス人です!||灰色の|タバコを|吸っていました」


「店主と|二人きりに|なりましたか?」

「ランプを|消して|ドアを|閉めるまで」

「まっすぐ|帰りましたか?」

「いつも|そうです!||ジェナロとは|オート=ソーヴニエール通り4の|下で|別れました。||あの方は|そこに|住んでいます」

「翌朝、|仕事に|来たとき、|ホールに|異常は|ありませんでしたか?」

「ありませんでした。||どこにも|血は|なかった。||清掃員が|来ていたので|監督しました」

ジェナロは|自分に|関係ない|話のように|うわの空で|聞いていた。||警部が|彼に|呼びかけた。

「夜の|売上を|いつも|レジに|入れたまま|帰るのは|本当ですか?」

「誰が|そんなことを?」

「いいです!||質問に|答えなさい」

「とんでもない!||小銭以外は|全部|持って|帰ります」

「つまり?」

「平均して|五十フランの|硬貨を|レジに|残します」


「嘘だ!」|とジャン・シャボが|ほとんど|叫んだ。
「何十回と|見た!||あなたは|いつも|……」
ジェナロが|割り込んだ。

「何ですって?||この子が|そんなことを?」
心底|驚いた|様子だった。||アデルに|向き直った。

「アデルが|証明してくれます」

「もちろん!」

「わからないのは、|この|若者たちが|店内で|死体を|見たと|言い張ることです。||グラフォプロスは|私より|先に|出た。||戻って|来られるはずが|ない。||犯行は|外で|行われた、|どこかは|知らないが。||こう|断言せざるを|得ないのは|残念です。||彼らも|客ですし、|親しみを|感じていました。||ツケも|認めていたくらいです。||しかし|真実は|真実で、|事が|重大なだけに……」
58 三人だけの沈黙 ― 父の答え

「ありがとうございました!」
少し|間が|あった。||ジェナロが|ついに|聞いた。

「帰って|よろしいですか?」

「あなたと|ウェイターは|どうぞ!||また|必要が|あれば|連絡します」

「店は|営業して|かまいませんか?」

「かまいません!」
アデルが|聞いた。

「私は?」

「帰りなさい!」

「自由ですか?」

警部は|答えなかった。||思案顔で、|頑固に|パイプの|ボウルを|撫で続けていた。||三人が|外に|出ると、|空虚感が|残った。
部屋には|警部と|ジャン・シャボと|父親だけが|残った。||全員が|黙っていた。
最初に|口を|開いたのは|父親だった。||長い間|ためらってから、|咳払いを|して|言い|始めた。


「失礼ですが……|本当に|そう|お考えで?」

「何を?」|と|相手は|ぶっきらぼうに|返した。

「わかりません。||何か|……」
漠然とした|考えを|補おうと|身振りを|した。
漠然とした|身振りが|語っていた。

「何か|はっきりしない、|すっきりしない|ものが|ある。||どこか|釈然としない」
ジャンは|立ち上がっていた。||いくらか|気力を|取り戻していた。||父を|正面から|見る|勇気が|出た。

「全員|嘘を|ついています!」|とはっきり|言った。「誓います!||信じてくれますか、|警部?」
返事は|なかった。

「信じてくれるか、|父さん?」
父親は|最初|顔を|そむけた。||それから|口ごもった。

「わからない」
59 サン=レオナール刑務所へ ― 父の伝手
やがて|いつも通りに|戻った

「見つけなければ|ならないのは、|彼らが|言う|フランス人だ」
警部は|決めかねているようで、|苛立たしげに|大股で|部屋を|歩き回っていた。

「とにかく、|デルフォスが|消えた!」|と|相手よりも|独り言のように|ぼそりと|言った。
また|しばらく|歩いてから、

「そして|二人の|証人が|タバコ入れを|持っていたのは|あいつだと|言っている!」
歩き続けながら、|思考を|追った。

「二人とも|地下室に|いた!||昨夜は|百フラン紙幣を|便所に|捨てようとした!||そして……」
立ち止まり、|二人を|交互に|見た。

「あのチョコレート屋まで|金を|盗まれたとは|認めない!」
警部は|外に出て、|二人を|二人きりに|させた。||しかし|二人は|その機会を|活かさなかった。||警部が|戻ると、|父と|息子は|それぞれの|元の場所に|五メートルも|離れて|座り、|それぞれ|険しい|沈黙の|なかに|閉じこもっていた。


「仕方ない!||予審判事に|電話した。||これからは|あちらが|捜査の|指揮を|執る。||仮釈放は|認めないと|言っている。||何か|頼みがあれば、|ド・コニンク判事に|直接|申し出なさい」

「フランソワ?」

「たぶん|そういう|名前だと|思います」
父親は|恥じ入るように|小声で|つぶやいた。

「学校で|一緒でした」

「便宜を|図ってもらえると|思うなら|会いに|行きなさい。||ただ|私は|疑わしいと|思う、|あの人を|知っているから!||とりあえず、|息子さんを|サン=レオナール刑務所に|送るよう|命令が|出ています」
その|言葉は|不吉な|響きを|持っていた。||それまでは|まだ|何も|確定していなかった。
手錠 ― 父の嗚咽
サン=レオナール刑務所!||マガン橋の|前に|一帯を|醜く|染める|あの|おぞましい|黒い|建物、|中世の|小塔、|銃眼、|鉄格子。
ジャンは|真っ青で|黙っていた。

「ジラール!」|と|警部は|ドアを|開けて|呼んだ。「巡査を|二人と|車を|用意してくれ」
その|言葉だけで|十分だった。||待った。

「ド・コニンク氏に|会いに|行っても|損は|ないですよ!」|と|警部は|何か|言おうとして|ため息を|ついた。「学校が|一緒だったんですから」
しかし|その|表情は|明らかに|心の|なかを|語っていた。||判事の家柄、|市の|最高の|名士たちとの|縁戚関係と、|息子が|ナイトクラブへの|押し込みを|企てたと|自白した|経理係の|父親との|差を|はかっていた。

「準備できました、|警部!||それと……」
刑事の|手に|何かが|光っていた。||警部は|肯定するように|肩を|すくめた。
それは|儀式的な|しぐさで、|あまりにも|素早く|行われたので、|父親は|終わってから|気づいた。||ジラールが|ジャンの|両手を|つかんだ。||鋼鉄の|はじける|音。

「こちらへ!」
手錠!||外では|制服の|巡査が|二人、|車の|そばで|待っていた!
ジャンは|何歩か|歩いた。||何も|言わずに|去るかと|思われた。||しかし|ドアの|ところで|振り返った。||声が|かろうじて|わかる|程度だった。

「誓う、|父さん!」

「そうだ、|パイプの|件ですが、|今朝|考えたんですが、|三十六本|注文すれば|……」
パイプ刑事が|何も|気づかずに|入ってきて、|突然|若者の|背中、|片方の|手首、|手錠の|反射を|目にして|言葉を|止めた。

「じゃあ、|決まりましたか?」
身振りは|「留置?」を|意味していた。||警部は|シャボの父を|指差した。||彼は|椅子に|座り、|両手で|頭を|抱えて|女のように|泣いていた。
61 車の音 ― 嘘の慰め
もう一人は|小声で|しゃべり続けていた。

「もう|一ダースは|各分署に|回せば|いい。||この|値段なら!」
ドアの|閉まる|音。||スターターの|きしむ|音。||警部は|気まずそうに|シャボ氏父に|言った。

「あのですね……|まだ|何も|確定した|わけでは|ありません」
嘘をついた。

「特に|ド・コニンク判事と|お知り合いなら!」
父は|退き下がりながら、|か細い|感謝の|微笑みを|浮かべた。
- ギヨマン駅「gare des Guillemins」は、リエージュ市内に実在するリエージュ=ギヨマン駅です。
リエージュの中央駅にあたる主要駅で、ブリュッセルやパリへの国際列車も発着する重要な鉄道の拠点です。現在も営業しており、スペインの建築家サンティアゴ・カラトラバが設計した近代的な駅舎で知られています。ただし1930年代当時はもちろん別の建物でした。
デルフォスがこの駅に向かったのは、国外逃亡を図っていたからです。金を盗み、汗だくで駅に駆けつけた場面は、追い詰められた若者の焦りをよく表しています。
↩︎ - 「金のタバコ入れ」は物語の最初のページに登場した重要な小道具です。
第一章でグラフォプロスが持っていた金製のタバコ入れで、ジャンがアデルの部屋を訪ねたとき、枕元のテーブルの上にあるのを見て震えた、まさにあの品物です。グラフォプロスが殺された夜、アデルが持ち出したか、あるいはデルフォスが盗んだかのどちらかで、アデルの部屋に残っていたわけです。
これがジラールの目に留まったことで、アデルとゲ・ムーランの事件との関係が証明される重要な証拠になります。
↩︎ - サン=ランベール広場(place Saint-Lambert)はリエージュ市の中心広場で、市庁舎や大聖堂跡のある街の中心部です。
アデルは「見知らぬフランス人客(=メグレ)に、サン=ランベール広場への道を聞かれた」と証言しています。これはメグレがアデルに話しかけるための口実として使った質問です。メグレはゲ・ムーランを出るアデルに近づき、しばらく一緒に歩きながら彼女を観察した。そして情報を得ると「タバコを忘れた」と言って引き返した。
つまりメグレはアデルが事件に関与しているか、あるいは何かを知っているかを確認するためにさりげなく接触したわけです。
この場面は後にメグレが実は最初から事件全体を観察していたことを裏付ける重要な証言です。 ↩︎ - オート=ソーヴニエール通り「rue Haute-Sauvenière」はリエージュ市内に実在する通りです。
旧市街の中心部に位置する通りで、ゲ・ムーランのある「ポ・ドール通り」からも近い距離にあります。ジェナロがその通りに住んでいるという描写は、彼が店から徒歩圏内に住んでいることを示しており、毎晩の閉店作業後にすぐ帰宅できる距離感を表しています。
↩︎


