サッカーのスター選手は、なぜ長く輝いて見えるのか

社会

かつて私は、サッカーは90分動き回る体力勝負のスポーツなので、選手生命は野球選手と比べると短いものだという思っていた。しかし、今回の『FIFAワールドカップ2026』を見ていると、一概にそうとも言えないようだ。

メッシの記録更新から考えた、サッカーと野球の選手生命

2026年6月24日。リオネル・メッシは39歳の誕生日を迎えた。

その誕生日を目前にして、メッシはまたひとつ、とてつもない記録を塗り替えた。ワールドカップ通算得点数で、ミロスラフ・クローゼの男子歴代記録を超え、単独で歴代最多得点者となったのである。報道によれば、メッシは2026年大会で通算18得点に到達した。

十代のころから世界の頂点にいた選手が、39歳を迎える今もなお、ワールドカップという最高の舞台で記録を更新している。

それを記念に、ふと考えてみた。

サッカーのスター選手は、なぜこれほど長く表舞台に残ることができるのだろうか。
野球では、どれほどすごい投手でも、肩や肘のけがで急に表舞台から消えてしまうことがある。
一方でサッカーでは、メッシやクリスティアーノ・ロナウドのように、年齢を重ねながらもスターとして現役を続ける選手が目立つ。

もちろん、サッカーにも大けがでキャリアを左右される選手はいる。
野球にも、長く活躍する偉大な選手はいる。

それでも、サッカーのスターは「年齢とともに姿を変えながら残る」ように見え、野球の投手は「故障によって急にキャリアが変わる」、野手、バッターは「年齢による衰え」は避けられない印象だ。

この違いは、どこから来るのだろうか。

サッカー選手は「年齢」で少しずつ落ちていく

サッカーは全身を使う競技である。

90分間走り、止まり、また走る。
相手とぶつかり、方向を変え、瞬間的に加速する。
若いころには届いた一歩が、年齢とともに届かなくなる。
何度もできたスプリントが、少しずつ続かなくなる。

サッカー選手の衰えは、突然ひとつの部位が壊れるというより、全身の運動能力が少しずつ落ちていく形で表れやすい。

だから、サッカー選手は「年齢で引退に近づく」ように見える。

実際、エリートサッカー選手の身体能力を調べた研究では、17歳から26歳の選手が最も高い身体能力を示し、それより上の年齢層では低下が見られるとされている。
また、プロサッカー選手のピーク年齢は、おおむね25歳から27歳あたりとする研究もある。

つまり、サッカー選手は年齢によって走力や瞬発力を少しずつ失っていく。
この点では、やはり「年齢の競技」である。

ただし、スター選手はここで簡単には終わらない。

走力が落ちても、判断力がある。
スピードが落ちても、技術がある。
運動量が落ちても、位置取りや経験で補える。

若いころは相手を抜き去っていた選手が、年齢を重ねると、無理に走らず、よい場所に立つようになる。
一瞬の加速ではなく、一瞬の判断で勝負するようになる。

サッカーでは、年齢とともにプレーの形を変えながら、スターとして残る道がある。

野球の投手は「一点故障」が致命傷になりやすい

一方で、野球の投手は少し違う。

投手にとって、肩と肘は生命線である。
球速、回転、制球、変化球の切れ。
その多くが、投げる腕に集中している。

サッカー選手なら、スピードが落ちてもポジションを変えたり、役割を変えたりすることができる。
しかし投手の場合、投げられなくなれば、仕事そのものができなくなる。

もちろん、トミー・ジョン手術のように、現代医学によって復帰できる例は増えている。
それでも、手術をすれば必ず元通りになるわけではない。復帰までには長い時間がかかり、戻ったとしても以前と同じ球威や制球を取り戻せるとは限らない。

研究でも、MLB投手が肘の内側側副靭帯再建手術を受けた場合、メジャーのマウンドに戻るまで平均20か月ほどかかったという報告がある。
また、同じ水準へ戻れる割合は、復帰そのものの割合より低くなる。

ここに、野球の投手の選手生命の厳しさがある。

サッカーは、全身能力が年齢で少しずつ落ちていく。
野球の投手は、肩や肘という一点の故障で、急にキャリアの形が変わってしまう。

この違いは大きい。

野球の野手、とくにホームランバッターは別の老い方をする

ただし、野球は投手だけではない。

野手、とくにホームランバッターには、また別の老い方がある。

ホームランバッターに必要なのは、単なる筋力だけではない。
スイングスピード、体の回転力、反応速度、そしてボールを遠くへ飛ばす爆発力である。

若いころは少し詰まってもスタンドまで届いた打球が、年齢を重ねると外野フライになる。
速球に差し込まれる。
打球速度が落ちる。
長打率が下がる。

この衰えは、サッカー選手の衰えにも少し似ている。
サッカー選手は走力や瞬発力が落ち、ホームランバッターはスイングの鋭さや飛距離が落ちる。

ただ、見え方は違う。

サッカーでは、プレー全体の中で少しずつ衰えが見える。
野球の強打者では、本塁打数、長打率、打球速度、三振率といった数字に衰えがはっきり出る。

野球の野手は、投手ほど「肩や肘を壊したら終わり」という形ではない。
しかし、筋力、瞬発力、反応速度の低下が、成績に直接表れやすい。

特にホームランバッターは、わずかなバットスピードの低下が、打球の飛距離に影響する。
それまでホームランだった打球が、フェンス手前で失速する。
この差は、スター選手にとっては大きい。

つまり野球では、投手は肩・肘の故障で急に落ちる。
野手、とくに強打者は、筋力と瞬発力の低下が数字に出る。

同じ野球でも、投手と野手では、選手生命の削られ方が違うのである。

スターとしての見え方も違う

さらに、スター選手としての見え方にも違いがある。

サッカーのスターは、かなり若いころから世界に出てくることがある。
十代で代表に入り、二十歳前後でビッグクラブの中心になる。
そこから三十代後半、場合によっては四十歳近くまで名前が残る。

そうなると、見る側には「二十年近くスターであり続けた」ように映る。

ワールドカップの存在も大きい。
四年に一度、同じ選手を何度も見る。
若手だった選手が、中心選手になり、やがてベテランとして戻ってくる。

メッシやロナウドのような選手は、まさにその時間の流れを体現している。

一方、野球は成績が数字で細かく出る。
打率、本塁打、防御率、球速、登板数。
少し落ちると、その衰えがはっきり見える。

特に投手は、球速の低下や故障歴がすぐに評価に直結する。
強打者も、本塁打数や長打率の低下がすぐに分かる。

だから、野球のスターは「故障で急に消えた」「以前の数字に戻れなかった」という印象が残りやすい。

現代サッカーでは、スターが長く残る条件も整ってきた

もうひとつ、現代サッカーそのものが変わってきたことも大きい。

スポーツ科学、食事管理、睡眠、リカバリー、けがの予防、交代枠の使い方。
こうしたものが昔よりずっと細かくなった。

チャンピオンズリーグ出場選手の平均年齢を調べた研究では、1990年代から2010年代にかけて、選手の平均年齢が24.9歳から26.5歳へ上がったとされている。
つまり、現代サッカーでは、以前よりも高いレベルで長くプレーする選手が増えている。

これは、サッカー選手が老いなくなったという意味ではない。
老いは当然ある。
ただ、その衰えを管理しながら、経験や技術で補い、より長く戦えるようになったということだろう。

メッシやロナウドのような選手は、その極端な例である。

若いころの爆発力だけでなく、判断力、技術、勝負勘、自己管理によって、年齢を超えて表舞台に残っている。

サッカーは年齢、野球は役割によって違う

大まかに言えば、こう整理できる。

サッカー選手は、年齢とともに全身能力が少しずつ落ちていく。
しかし、経験、技術、判断力、役割変更によって、スターとして残る道がある。

野球の投手は、肩や肘という一点に能力が集中している。
だから、そこを壊すと、急に表舞台から遠ざかってしまうことがある。

野球の野手、とくにホームランバッターは、筋力、瞬発力、スイングスピード、反応速度の低下が数字に出やすい。
投手ほど一点故障ではないが、衰えが本塁打数や長打率としてはっきり見える。

つまり、サッカーと野球では、選手生命の削られ方が違う。

サッカーは、年齢によって少しずつプレーの姿が変わる。
野球の投手は、故障によって急にキャリアが変わる。
野球の強打者は、筋力と反応の低下が数字に表れる。

もちろん例外はある。
サッカーにも大けがで若くして消える選手はいる。
野球にも、長く現役を続ける偉大な選手はいる。

それでも、メッシが39歳の誕生日を迎える今なお、ワールドカップの歴史を塗り替えていることを考えると、サッカーのスターには独特の長さがあるように思える。

若いころの爆発力ではなく、積み重ねた技術と経験で勝負する。
走力が落ちても、試合を読む力で存在感を出す。
年齢によって終わるのではなく、年齢によって別の選手になっていく。

そこが、サッカーのスター選手の面白さなのかもしれない。

最後に個人的希望・・・

メッシは次回大会は43歳、前回大会から最後最後と言われながら、今回大会では体力は落ちたかもしれないが、得点能力は落ちていないことがわかる。次回大会もエムバペ(27歳)と得点数競争して欲しいと思うのは欲張りすぎだろうか・・・