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メグレは|落ち着かないながらも|心地よい|眠りを|味わった。||牛舎と|冬林檎と|干し草の|匂いがする|冷たい|田舎の|部屋でしか|味わえない|眠りだった。||四方から|隙間風が|吹き込んでいた。||シーツは|氷のように|冷たかったが、|体で|温めた|柔らかい|窪みだけは|別だった。||丸くなって、|少しでも|動くまいと|していた。

何度か|隣の|屋根裏から|ジャン・メタイエの|乾いた|咳が|聞こえた。||それから|マリー・タタンが|起き出す|忍び足の|音が|した。
もう|少し|布団の|中に|いた。||蝋燭に|火を|灯すと、|水差しの|氷水で|顔を|洗う|気力が|わかず、|後回しにした。||スリッパを|履いたまま、|付け襟も|つけずに|下へ|降りた。
下では|マリー・タタンが|なかなか|燃えない|火に|灯油を|注いで|いた。||髪には|ピンを|巻いたまま|で、|警部の|姿を|見て|赤くなった。


「まだ|七時に|なって|いません。||コーヒーの|準備が|まだで」
メグレは|少し|気に|なって|いることが|あった。||うとうとして|いた|三十分ほど前、|自動車の|通る|音を|聞いた|ような|気が|した。||しかし|サン・フィアクルは|幹線道路から|外れて|いる。||村を|通る|車と|いえば|一日一便の|乗合バスぐらいだ。

「バスは|まだ|出ていないか、|マリー?」

「八時半より|前は|ありません。||たいてい|九時に|なります」

「もう|ミサの|鐘が|鳴って|いるのか?」

「はい。||冬は|七時、|夏は|六時です。||暖まりますか?」
ようやく|燃え上がった|火を|示した。

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「どうしても|俺に|タメ口を|きけないのか」
メグレは、|哀れな|娘の|顔に|女めいた|微笑が|浮かぶのを|見て、|自分を|責めた。

「コーヒーは|五分で|できます」
八時前には|明るくならないだろう。||寒さは|前の日より|いっそう|厳しかった。||メグレは|外套の|襟を|立て、|帽子を|目深に|かぶり、|教会の|明るい|一点へ|ゆっくりと|歩いていった。
もう|祭日では|なかった。||中には|全部で|女が|三人いるだけだった。||そして|ミサには、|どこか|ぞんざいで、|人目を|忍ぶような|ところが|あった。||司祭は|祭壇の|一方から|もう一方へ|あまりに|早く|動いた。||あまりに|早く|振り返り、|両腕を|広げ、|音節を|呑みこむように|つぶやいた。

「主は|汝らと|ともに」
ついていくのに|苦労していた|侍者の|少年は、|間の|悪いところで|アーメンと|言い、|あわてて|鈴に|飛びついた。
また|あの|混乱が|始まるのか。||典礼の|祈りの|つぶやきが|聞こえ、|ときどき|司祭が|言葉と|言葉の|あいだで|息を|継ぐ|吸いこむ音が|した。

「ミサは|終わりました」
この|ミサは|十二分も|続いただろうか。||三人の|女が|立ち上がった。||司祭は|最後の|福音を|唱えていた。||一台の|車が|教会の|前で|止まり、|やがて|入口前の|石畳に|ためらうような|足音が|聞こえた。
メグレは|中央の|奥に|残り、|扉の|すぐ|そばに|立っていた。||そのため、|扉が|開いたとき、|入ってきた|男は|文字どおり|彼と|鼻先を|突き合わせる|格好に|なった。

モーリス・ド・サン=フィアクルだった。||彼は|あまりに|驚いて、|危うく|後ずさりしそうになり、|つぶやいた。

「失礼、|私は」
しかし|彼は|一歩|前へ|出て、|平静を|取り戻そうと|努めた。

「ミサは|終わりましたか」
彼は|明らかに|ひどく|神経を|高ぶらせていた。||目の|まわりには|隈が|あり、|まるで|一晩中|眠らなかったようだった。||そして|扉を|開けたとき、|彼は|冷気を|一緒に|連れてきていた。

「ムーランから|来たのか」
二人の|男は|唇だけで|話していた。||そのあいだ、|司祭は|福音の|あとの|祈りを|唱え、|女たちは|ミサ典書を|閉じ、|傘と|手提げを|取り上げていた。

「どうして|それを。||ええ、|私は」

「外へ|出ようか?」
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司祭と|侍者の少年は|聖具室に|入っていた。||そして|堂守は|低ミサで|使った|二本の|蝋燭を|消していた。
外では、|地平が|少し|明るくなっていた。||近くの|家々の|白い壁が|薄暗がりの|中から|浮かび上がってきた。||黄色い|自動車が|広場の|木々の|あいだに|あった。

モーリスの|様子が|おかしいのは|明らかだった。||彼は|少し|驚いたように|メグレを|見ていた。||おそらく、|髭も|剃らず、|外套の下に|つけ襟も|つけていない|メグレの|姿に|驚いていたのだろう。

「ずいぶん|早起きだな」と、|メグレは|つぶやいた。

「ムーランを|七時三分に|出る|最初の|急行が|あって」

「わからんな。||あんたは|列車に|乗っていない|はずだが」

「マリー・ヴァシリエフを|忘れていますよ」
なるほど!||そして|自然なことだ!||モーリスの|愛人が|城館に|いるのは、|面倒なことに|なるに|決まっていた。||だから|彼は|車で|彼女を|ムーランまで|送り、|パリ行きの|列車に|乗せて、|帰りに|灯りのついた|教会に|立ち寄ったのだ。
それでも|メグレは|納得していなかった。||彼は|伯爵が|不安げに|向ける|視線を|追おうとしていた。||伯爵は|何かを|待っているか、|あるいは|恐れているように|見えた。

「扱いにくそうな|女だな」と、|メグレは|それとなく|言った。

「以前は|もっと|よい|暮らしを|していました。||ですから、|とても|傷つきやすいのです。||私が|二人の|関係を|隠したがっているのではないか、|という|考えが」

「長く|続いているのか?」

「一年弱です。||マリーは|金目当てでは|ありません。||つらい|時期も|ありました」
彼の|視線は|ようやく|一点に|定まった。||メグレが|それを|追うと、|彼の|背後に、|教会から|出てきたばかりの|司祭が|見えた。

二人の|視線が|交わったように、|メグレには|思えた。||そして|司祭もまた、|サン・フィアクル伯爵と|同じくらい|当惑しているように|見えた。
警部は|彼に|声を|かけようとした。||だが|そのときには|もう、|司祭は|ぎこちなく|急いだ|様子で、|二人の|男に|ごく|短い|挨拶を|投げ、|逃げるように|司祭館へ|入っていった。

「あれは|田舎神父の|顔つきじゃ|ないな」
モーリスは|答えなかった。||明かりの|ついた|窓から、|司祭が|朝食の|食卓に|つき、|女中が|湯気の立った|コーヒー沸かしを|運んでくるのが|見えた。
ランドセルを|背負った|子供たちが、|学校へ|向かい始めていた。||ノートル=ダム池の|水面は|鏡の色に|なっていた。
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「それで、|どういう|手はずに|してあるんだ?」と、|メグレが|言いかけた。
相手は|あまりにも|すばやく|言った。

「何の|手はずです?」

「葬儀のことだ。||昨夜、|誰かが|遺体安置の|部屋で|付き添ったのか?」

「いいえ。||一時は|その話も|出ました。||ゴーティエが、|今は|もう|そういうことは|しないと|言いまして」
城の|中庭で、|二サイクル・エンジンの|音が|聞こえた。||しばらくして、|一台の|オートバイが|道を|通り、|ムーランの|方へ|向かっていった。||メグレは|前日に|見かけた|ゴーティエの|息子だと|気づいた。||彼は|ベージュの|レインコートを|着て、|小さな|格子柄の|帽子を|かぶっていた。

モーリス・ド・サン・フィアクルは、|どういう|態度を|取ればよいのか|わからないでいた。||自分の|車に|乗り込む|勇気もなく、|警部に|言うことも|なかった。

「ゴーティエは|四万フランを|準備できたのか?」

「いいえ、|はい、|さんつまり」
メグレは|不思議そうに|彼を|見た。||そこまで|うろたえるのを|見て、|驚いたのだ。

「できたのか、|できていないのか?||昨日の感じでは、|あいつは|わざと|渋っているように|見えた。||抵当や|借金が|あるにしても、|結局は|その額より|ずっと|多く|換金できるはずだ」
だが、|やはり|モーリスは|答えなかった。||これといった|理由も|見えないのに、|ひどく|取り乱しているようだった。||そして|彼の|口にした|言葉は、|それまでの|話とは|何の|つながりも|なかった。
「正直に|言ってください、|警部さん。||あなたは|私を|疑っていますか?」

「何をだ?」

「おわかりでしょう。||私は|知っておかなければ|ならないんです」

「ほかの|誰よりも|あんたを|疑う|理由はない」と、|メグレは|はっきりしない|調子で|答えた。
すると|相手は|その言葉に|飛びついた。

「ありがとうございます。||では、|それを|みんなに|伝えてください。||わかりますか?||そうでないと、|私の|立場は|もたないんです」

「あんたの|小切手は|どこの|銀行に|回るんだ?」

「コントワール・デスコントです」
一人の|女が、|洗濯物の|籠を|二つ|載せた|手押し車を|押して、|洗い場の|方へ|向かっていた。||司祭は|自宅で、|聖務日課書を|読みながら|行ったり来たりしていたが、|警部には、|彼が|二人の|男に|不安そうな|視線を|投げているように|思えた。

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「城で|合流しよう」

「今ですか?」

「すぐだ」
はっきりしていた。||モーリス・ド・サン・フィアクルは|まったく|それを|望んでいなかった。||彼は|死刑囚のように|自分の|車に|乗り込んだ。||そして|司祭館の|窓ガラスの|向こうでは、|司祭が|彼の|出発を|見送っているのが|見えた。
メグレは|せめて|つけ襟を|つけに|行きたかった。||宿屋の|前まで|来たとき、|ジャン・メタイエが|食料雑貨店から|出てきた。||彼は|パジャマの|上に|外套を|羽織っただけだった。||彼は|勝ち誇ったような|顔で|警部を|見た。

「電話か?」
すると|若い男は|とげとげしく|答えた。

「私の|弁護士が|八時五十分に|着きます」
彼は|自信を|取り戻していた。||半熟加減が|足りない|ゆで卵を|突き返し、|指先で|テーブルを|軽く|たたいて|行進曲の|調子を|取った。
着替えに|戻った|自分の|部屋の|天窓から、|メグレには|城の|中庭、|レーシングカー、|どうしてよいのか|わからないように|している|モーリス・ド・サン・フィアクルが|見えた。||彼は|村へ|歩いて|戻ろうと|しているのではないか?
警部は|急いだ。||少し後に、|城へ|向かって|歩いていた。||そして|二人は|教会から|百メートルも|ない|ところで|出会った。

「どこへ|行くつもりだった?」と、|メグレが|尋ねた。

「どこへも。||わかりません」

「ひょっとすると、|教会へ|祈りに|行くところだったのか?」
すると|その言葉だけで、|相手は|青ざめた。||まるで|その言葉に|謎めいた|恐ろしい|意味が|あるかのようだった。
モーリス・ド・サン・フィアクルは|悲劇に|耐えられるような|男ではなかった。||見かけは、|背が高く|たくましい|若者で、|見事な|体格をした|スポーツマンだった。||だが|よく|見ると、|彼の|弱さが|見えてきた。||脂肪に|覆われた|筋肉の下には、|それほどの|気力は|なかった。||彼は|おそらく|一睡も|しない|夜を|過ごしたばかりで、|すっかり|力が|抜けたように|見えた。

「死亡通知は|印刷させたのか?」

「いいえ」

「だが、|親族や、|この地方の|城の|主たちには」
若い男は|感情的になった。
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「来るわけが|ありません。||それくらい|おわかりでしょう。||以前なら、|ええ。||父が|生きていたころは。||狩猟の|季節には、|何週間も、|城館に|一度に|三十人もの|客が|いたものです」
メグレは|そのことを|誰よりも|よく|知っていた。||彼自身、|勢子狩り1の|ときには、|両親に|内緒で、|獲物を|追い立てる|勢子の|白い|上っ張りを|着るのが|好きだったのだ。

「それが」
そして|モーリスは|身ぶりで|示した。||それは|こういう|意味だった。


『没落。||みっともない』
ベリー地方2じゅうで、|いわゆる|秘書たちと|晩年を|台なしにしている|気のふれた|老女のことが|噂されていたに|違いない。||そして、|つぎつぎに|売られていく|農場のことも。||パリで|馬鹿なことを|している|息子のことも。

「葬儀は|明日|できると|思いますか。||おわかりでしょう。||こういう|状況は、|できるだけ|早く|終わらせたほうが|いいんです」
肥やしを|積んだ|荷車が|ゆっくりと|通り過ぎ、|その|大きな|車輪は|道の|小石を|すりつぶしているようだった。||夜は|明けていた。||前日よりも|灰色の|朝だったが、|風は|弱まっていた。
メグレは|遠くに、|中庭を|横切っている|ゴーティエを|見つけた。||ゴーティエは|彼の|方へ|向かおうとしていた。
そのとき、|奇妙なことが|起きた3。

「ちょっと|失礼」と、|警部は|連れに|言い、|城の|方へ|離れていった。

百メートルも|歩かないうちに、|彼は|振り返った。||すると|モーリス・ド・サン・フィアクルが|司祭館の|戸口に|立っていた。||おそらく|呼び鈴を|鳴らしたのだろう。||ところが、|メグレに見つかったと|わかると、|返事を|待たずに|急いで|そこを|離れたのだ。
彼は|どこへ|行けばよいのか|わからないでいた。||その態度の|すべてが、|ひどく|落ち着いていないことを|物語っていた。||警部は|管理人の|ところまで|来ていた。||管理人は|自分の方へ|メグレが|来るのを見て、|不機嫌そうな|顔で|待っていた。

「何の|ご用ですか?」

「ちょっと|聞きたいだけだ。||伯爵が|必要としている|四万フランは|準備できたのか?」

「いいえ。||この土地で|それが|できる者が|いるなら、|やってみろと|言いたいくらいです。||あの方の|署名に|どれほどの|値打ちが|あるか、|みんな|知っていますから」

「つまり?」

「あとは|ご自分で|何とか|なさるでしょう。||私には|関係ありません」

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モーリスが|来た道を|引き返してきた。||どうしても|したいことが|何か|あるのに、|何らかの|理由で|それが|できないのだと|わかった。||決心すると、|彼は|城の|方へ|進み、|二人の男の|そばで|足を止めた。


「ゴーティエ、|書斎へ|私の|指示を|聞きに来てくれ」
彼は|立ち去ろうとした。

「では|また|あとで、|警部さん」と、|彼は|無理して|つけ加えた。
メグレが|司祭館の|前を|通ったとき、|カーテン越しに|見られているという|はっきりした|感覚を|覚えた。||しかし、|確信は|持てなかった。||夜が|明けていたので、|中の|灯りは|消されていたからだ。
マリー・タタンの|宿屋の|前には、|一台の|タクシーが|停まっていた。||食堂では、|五十歳くらいの|男が、|きちんと|身なりを|整え、|縞の|ズボンに|絹の縁の4|黒い|上着を|着て、|ジャン・メタイエと|同じ|食卓に|ついていた。
警部が|入ってくると、|その男は|いそいそと|立ち上がり、|手を|差し出して|駆け寄ってきた。


「あなたは|司法警察の|警察官だと|伺いました。||自己紹介を|お許しください。||ブルージュ弁護士会の|タリエ弁護士です。||ご一緒に|何か|召し上がりませんか?」
ジャン・メタイエも|立ち上がっていたが、|その|態度は、|自分の|弁護士の|親しげな|様子を|よく思って|いないことを|示していた。

「宿の方、|何か|出してください」
そして|取りなすように|言った。

「何を|お飲みに|なりますか?||この寒さですから、|皆で|グロッグなど|どうです?。||グロッグを|三つ、|お嬢さん」
お嬢さんとは、|こういう|扱いに|慣れていない|気の毒な|マリー・タタンのことだった。

「警部、|どうか|私の|依頼人を|お許しください。||私の|理解では、|彼は|あなたに|対して|いささか|疑い深い|態度を|取ったようです。||しかし、|忘れないで|いただきたい。||彼は|良家の|青年で|あり、|自分に|やましいことは|何もなく、|周囲から|疑いを|向けられていると|感じて|憤慨していたのです。||昨日の|不機嫌さは、|言ってみれば、|彼の|完全な|無実を|示す|もっとも|よい|証拠なのです」
この男を|相手にしていると、|口を開く|必要が|なかった。||彼は|なめらかな|身ぶりを|交えながら、|質問も|答えも、|すべて|一人で|引き受けていた。


「もちろん、|私は|まだ|すべての|細部を|把握しているわけでは|ありません。||私の|理解では、|サン・フィアクル伯爵夫人は|昨日、|第一ミサの|最中に、|心臓発作で|亡くなられた」
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「一方で、|夫人の|ミサ典書の|中から、|この死が|激しい|感情の|衝撃に|よって|引き起こされたと|思わせる|紙片が|見つかった。||被害者の|息子、|偶然にも|近くに|いた|その息子は、|告訴したのか?||していない!||それに、|告訴したとしても、|私は|受理されないと|思います。||犯罪工作が、|仮に|工作が|あったとしても、|予審控訴部の|決定を|促すほど|明確には|形づくられていないからです。
この点は|一致していますね?||告訴が|ない!||したがって|司法手続きも|ない。
とはいえ、|あなたが|個人的に、|非公式の|立場で|進めておられる|調査を、|私が|理解していないわけでは|ありません。
私の|依頼人は、|訴追されないだけでは|満足できません。||あらゆる|疑いを|晴らされなければ|ならないのです。
よく|お聞きください。||そもそも、|彼は|城で|どういう|立場だったのか?||養子同然の|立場です。||伯爵夫人は|一人きりで|残され、|悩みばかりを|もたらす|息子とも|離れていました。||その夫人を|慰めていたのが、|秘書の|献身と|まっすぐな|人柄だったのです。
私の|依頼人は|何もせずに|暮らす|人物では|ありません。||城で|何の|心配もなく|暮らすことも|できたのに、|それだけで|満足したわけでは|ありません。||彼は|働きました。||投資先を|探しました。||最近の|発明にまで|目を|向けました。
では、|本当に|彼が|恩人の|死によって|利益を|得られる|立場だったのでしょうか?||これ以上|申し上げる|必要が|ありますか?||いいえ!||ありませんね?
そして、|警部、|私が|あなたに|立証する|手助けを|したいのは、|まさに|その点なのです。
さらに|申し上げれば、|その前に、|公証人と|協議して、|いくつか|不可欠な|措置を|取らなければなりません。||ジャン・メタイエは|人を|信じやすい|青年です。||こんな|出来事が|起こるなどとは、|一度も|想像していませんでした。
彼の|所有物は|城に|あります。||亡くなった|伯爵夫人の|所有物と|混ざった|状態で。
ところが、|すでに|あちらには|別の|人々が|来ています。||おそらく|彼らは、|それに|手を|つける|つもりで」

「パジャマが|何枚かと、|古い|スリッパにか」と、|メグレは|立ち上がりながら|呟いた。

「何ですと?」

この|会話の|あいだじゅう、|ジャン・メタイエは|小さな|手帳に|メモを|取っていた。||立ち上がりかけた|弁護士を|なだめたのは|彼だった。

「構いません。||私は|最初の|一分で|わかりました。||警部という|人物は、|私の敵です!||それに|その後、|この方が|間接的に|城の|側の|人間だということも|知りました。||この方は、|父親が|サン・フィアクルの|管理人だった|時代に、|あの|城で|生まれたのです。||私は|警告したでしょう、先生。||それでも|あなたが|そうなさりたいと」
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時計は|十時を|指していた。||メグレは、|マリー・ヴァシリエフの|乗った|列車が、|リヨン駅に|着いてから|もう|三十分は|たっているはずだと|計算した。

「失礼する」と、|彼は|言った。||「また|後で」

「しかし」
彼は|今度は|向かいの|食料品店に|入った。||呼び鈴が|鳴った。||彼は|パリへの|通話が|つながるまで|十五分ほど|待った。


「あなたが|前の|管理人の|息子だというのは|本当ですか?」
メグレは|普通の|捜査を|十件|こなしたときよりも|疲れていた。||道徳的にも|肉体的にも、|本物の|痛みのような|疲労を|感じていた。
「パリが|出ました」

「もしもし。||コントワール・デスコントですか。||こちらは|司法警察です。||ひとつ|確認を|お願いします。||サン・フィアクル|名義の|小切手が、|今朝|呈示されましたか。||九時に|呈示されたと?||では、|残高が|なかったわけだ。||もしもし、|切らないでくれ、|マドモワゼル。||あなたは|持参人に、|もう一度|呈示するように|頼んだ!||よろしい!||ああ、|それが|知りたかった。||若い|女性ですね?||十五分前に?||それで|彼女が|四万フランを|払い込んだ。||ありがとう。||もちろんだ。||支払ってくれ。||いや、|いや、|特別なことは|何もない。||入金が|済んだのなら|それで|いい」
そして|メグレは、|深い|疲れの|ため息を|つきながら、|電話ボックスから|出た。
モーリス・ド・サン・フィアクルは、|夜の|あいだに|四万フランを|手に入れ、|愛人を|パリへ|行かせて、|その金を|銀行に|払い込ませたのだ。
警部が|食料品店を|出ようとしたとき、|聖務日課書を|手にした|神父が|自宅から|出てきて、|城の方へ|向かうのが|見えた。
そこで|彼は|足を速め、|神父と|同時に|扉へ|着こうとして、|ほとんど|走っていた。

彼は|一分足らずの|差で|間に合わなかった。||正面の|中庭に|着いたときには、|扉は|司祭の|あとで|閉まりかけていた。||そして|彼が|呼び鈴を|鳴らすと、|廊下の|奥、|書斎の|方から|足音が|聞こえた。
- 勢子狩りは、狩猟のやり方の一つです。
フランス語原文の battues は、獲物を隠れ場所から追い出すために、複数の人が森や藪を歩き回り、声や音を立てて獲物を猟師のいる方向へ追い立てる狩りを指します。
この場面では、メグレが子供のころ、城の狩猟のときに、親に内緒で rabatteur、つまり勢子(獲物を追い立てる役)の白い上っ張りを着るのが好きだった、という意味です。
↩︎ - ベリー地方(Berry)は|フランス中部の|歴史的な|地方です。
パリから|南に|約250キロ、|ブールジュを|中心都市と|する|地方で、|ロワール川の|南に|広がる|なだらかな|農業地帯です。
広大な|農地と|牧草地が|広がり、|羊の|放牧で|有名です。||フランスの|中でも|特に|保守的で|伝統的な|農村文化が|残る|地方として|知られて|います。||中世の|城や|ロマネスク様式の|教会が|点在して|います。
サン・フィアクル村の|舞台は|このベリー地方に|あります。||モーリスが|「ベリー地方|中に|噂が|広まった」と|言った|のは、|この|地方が|狭い|社会で|噂が|広まりやすい|環境だからです。
↩︎ - 「奇妙なこと」とは、モーリスは|メグレが|いなくなった|とたんに|司祭館の|呼び鈴を|押しに|行ったことです。つまり|神父に|会いたかったが、|メグレの|前では|できなかったということです。
メグレは|ゴーティエが|こちらへ|向かって|くるのを|見て、|わざと|「失礼」と|言って|その場を|離れました。||モーリスと|ゴーティエを|二人きりに|させるためでは|なく、|むしろ|モーリスが|一人に|なったときに|どう|動くか|見たかったのです。
メグレが、すぐに振り返ったのは、メグレにとって|重要な|観察でした。
モーリスは、呼び鈴を|鳴らしたが、|メグレに見つかったと|わかると、|返事を|待たずに|急いで|そこを|離れました。||モーリスと|神父の|間に|何か|秘密が|あると|確信した|瞬間です。
↩︎ - 「絹の縁」とは「veston noir bordé de soie」の|描写です。
ベストン(veston)は|スーツの|上着(ジャケット)のことで、|「bordé de soie」は|縁に|絹の|テープが|縫い付けられて|いるという|意味です。
襟の|縁、|ラペル(折り返し)、|ポケットの|縁などに|光沢の|ある|絹の|テープが|縫い付けられた|礼装用の|上着です。||現代で|言えば|タキシードの|ラペルに|シルクの|光沢が|ある|のと|同じ|感覚です。
1930年代の|フランスでは|弁護士や|公証人など|専門職の|男性が|正式な|場で|着る|準礼装でした。||田舎の|宿に|こんな|服装で|現れる|タリエは|いかにも|場違いな|都会人だという|ことを|示して|います。
↩︎



