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メグレは|あらゆるところに|いるわけには|いかなかった。||城は|広かった。||だから|その朝の|出来事は|断片的にしか|把握できなかった。
日曜や|祭日の|この時間、|農民たちは|帰宅を|引き延ばし、|村の|広場や|カフェで|よそ行きの|服を|着て|群れる|楽しみを|味わっていた。||すでに|酔っている者も|いた。||声高に|しゃべる者も|いた。||ぴんとした|服を|着た|子どもたちが|尊敬の|まなざしで|父親を|見上げていた。

サン・フィアクルの|城では、|顔色の悪い|ジャン・メタイエが|一人で|2階へ|向かい、|部屋の中を|行ったり来たりする|足音が|聞こえていた。

「一緒に|来ませんか」と|医者が|神父に|言い、|亡き|伯爵夫人の|部屋へ|連れて|いった。
1階では|建物の|端から|端まで|広い|廊下が|続き、|扉が|並んでいた。||声の|ざわめきが|聞こえた。||サン・フィアクル伯爵と|管理人が|図書室に|いると|聞いていた。
入ろうとして|扉を|間違え、|応接間に|入って|しまった。||図書室との|間の|扉が|開いていた。||金縁の|鏡に|二人の|姿が|映って|いた。||机の|端に|打ちひしがれた|様子で|腰かける|若い|男と、|短い|足を|踏ん張って|どっしり|構える|管理人だった。

「無理に|頼んでも|だめだと、|おわかりに|なるべきでしたな!」と|ゴーティエが|言っていた。||「まして|四万フランなど!」

「電話に|出たのは|誰だ?」

「ムッシュージャンですよ、|当然」

「じゃあ|母に|伝言さえ|していなかったのか!」
メグレは|咳払いを|して|図書室に|入った。

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「どういう|電話ですか?」
モーリス・ド・サン・フィアクルは|臆せず|答えた。

「一昨日、|城に|電話したときの|ことです。||すでに|申し上げた|通り、|金が|必要でした。||母に|頼もうと|思っていたのに、|電話に|出たのが|あの、|ここでは||ムッシュージャンとか|呼ばれている|人物で」

「何も|できないと|言われた|のに、|それでも|来たわけか」
管理人が|二人を|じっと|観察していた。||モーリスは|腰かけて|いた|机から|離れた。


「ゴーティエを|呼んだのは|その|話ではない!||警部には|状況を|隠して|いない。||明日、|俺は|告訴される。||母が|亡くなった|以上、|唯一の|相続人は|俺だ。||だから|ゴーティエに|明朝までに|四万フランを|用意するよう|頼んだ。||それが|できないと|言う」

「まったく|無理です」と|管理人が|繰り返した。

「公証人が|動くまでは|何も|できない、|葬儀の後でないと|関係者を|集められないと|言う。||その上、|残った|財産を|担保にしても|四万フランの|借り入れは|難しいとも|言う。||これで|はっきりした。||葬式にも|喪主として|出られないかも|しれない。||ところで、|一つ|聞かせて|ください。||犯罪と|おっしゃったが、|まさか?」

「告訴は|ないでしょうし、|検察が|動くことも|おそらく|ないと|思います」と|メグレは|言った。

「ゴーティエ、|席を|外して|くれ」
管理人が|名残惜しそうに|出て|いくと、

「本当に|犯罪なのか?」

「警察が|正式に|動くような|犯罪では|ない」

「説明して|ください。||そろそろ」
そのとき|玄関ホールから|女の声が|聞こえた。||管理人の|低い|声も|混じって|いた。||モーリスは|眉をしかめ、|扉へ|向かい、|勢いよく|開けた。

「マリー?||どうした?」

「モーリス!||なぜ|入れて|くれないの?||ひどいわ!||一時間も|ホテルで|待って|いたのに」
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強い|外国語訛りで|喋っていた。||マリー・ヴァシリエフだった。||中庭に|見える|古い|タクシーで|ムーランから|来たらしかった。
背が|高く、|とても|美しく、|ブロンドは|おそらく|染めたものだった。||メグレが|じっと|見ているのに|気づくと、|流暢な|英語で|まくし立て、|モーリスも|英語で|答えた。

金が|あるかと|女が|聞いた。||モーリスは|そんな|場合では|ない、|母が|死んだ、|パリに|戻って|くれ、|すぐに|追いかけると|答えた。
女は|冷ややかに|笑った。

「どこに|お金が?||タクシー代も|ないのに」
モーリス・ド・サン・フィアクルは|どうしていいか|わからなくなってきた。||愛人の|甲高い|声が|城に|響き、|その場の|空気が|気まずくなってきた。
管理人は|まだ|廊下に|いた。

「あなたが|ここに|いるなら、|私も|一緒に|いる」と|マリー・ヴァシリエフは|はっきり|言った。
メグレは|ゴーティエに|命じた。

「タクシーを|返しなさい。||運転手に|払って」
混乱が|広がった。||物が|散らかる|ような|混乱では|なく、|収拾の|つかない|精神的な|乱れで、|それが|伝染して|いくようだった。||ゴーティエまで|慌て始めた。

「それでも|話が|したい、|警部さん」
モーリスが|近づいてきて|言った。

「後にしろ」
メグレは|目で|女を|示した。||人目を|引く|派手な|装いの|女は|図書室と|応接間を|行き来しながら、|まるで|品定めを|するように|見回していた。


「モーリス、|この|馬鹿な|肖像画は|誰?」と|笑いながら|叫んだ。
階段を|下りる|足音がした。||メグレは|ジャン・メタイエが|通るのを|見た。||大きな|外套を|着て、|旅行鞄を|手に|持っていた。||引き止められると|思っていたのか、|図書室の|扉の|前で|立ち止まり、|待っていた。

「どこへ|行く?」

「宿に。||私の場合|その方が|筋が|通りますので」
モーリス・ド・サン・フィアクルは|愛人を|城の|右の棟の|部屋へ|連れて|いった。||二人は|英語で|言い争いを|続けて|いた。

「城を|担保に|四万フランは|借りられないのか?」と|メグレは|管理人に|聞いた。

「難しいですね」
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「それでも|明日の朝|一番に|できる限りのことは|してくれ」
メグレは|立ち去るのを|ためらっていた。||最後になって|2階へ|上がることにした。||そこでは|思いがけない|光景が|待っていた。||下では|人々が|目的もなく|右往左往|していたのに、|上では|サン・フィアクル伯爵夫人の|部屋が|きちんと|整えられていた。

医者が|女中の|助けを|借りて、|遺体に|死化粧を|施していた。
朝の|あの|乱れた|みすぼらしい|雰囲気は|もう|なかった。||遺体も|別人のようだった。||白い|寝間着を|まとった|亡き|伯爵夫人が、|天蓋付き1の|ベッドに|安らかで|品のある|姿で|横たわり、|両手を|十字架の|上で|組まされていた。
すでに|蝋燭が|灯され、|聖水と|ツゲの小枝が|入った|器が|置かれていた。
ブシャルドンは|入ってきた|メグレを|見て、|こう|語りかけるような|顔をした。
『どうです、|見事な|仕事でしょう?』
神父が|声もなく|唇を|動かして|祈っていた。||他の|二人が|去ると、|神父は|亡き人と|二人きりに|なった。
広場の|人だかりは|まばらに|なっていた。||家々の|カーテン越しに、|家族が|昼食の|テーブルに|ついているのが|見えた。
ほんの|数秒、|太陽が|雲を|突き破ろうとした。||しかし|すぐに|空は|また|鈍い|色に|戻り、|木々が|いっそう|激しく|震えた。

ジャン・メタイエが|窓際の|隅に|腰を|落ち着け、|空っぽの|道を|眺めながら|ぼんやりと|食事を|して|いた。||メグレは|宿の|食堂の|反対側の|端に|座った。||二人の|間に、|近隣の|村から|軽トラックで|やって|きた|家族が|いた。||食料を|持参して|おり、|マリー・タタンが|飲み物を|運んで|いた。
哀れな|タタンは|すっかり|混乱していた。||何が何やら|わからなく|なっていた。||普段は|城や|農場の|修繕に|来る|職人に|屋根裏部屋を|貸す|ことが|たまに|ある|程度だった。
それが|今や|メグレのほかに|新しい|下宿人まで|抱えることに|なった。||伯爵夫人の|秘書だ。
彼女は|誰にも|質問する|勇気が|なかった。||朝から|客たちの|ものものしい|話が|聞こえていた。||警察という|言葉まで|耳に|入っていた。


「鶏が|焼けすぎて|いなければ|いいんですが」と|メグレに|料理を|運びながら|言った。
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その|口調は|たとえば|こんな|言葉と|同じだった:

『何もかも|怖い。||何が|起きているのか|わからない。||聖母マリア様、|お守りください』
メグレは|優しい目で|彼女を|見た。||いつも|こうして|怯えて|ひ弱な|様子だった。


「覚えているか、|マリー」
女は|目を|丸くした。||身を|守ろうと|するような|仕草をした。

「あの|カエルの|話を?」

「でも、|あなたは」

「ノートルダムの|池の|裏の|草原へ|キノコを|摘みに|行かされた|ことが|あっただろう。||三人の|悪ガキが|その辺りで|遊んでいて、|お前が|よそ見をした隙に|カゴの|キノコを|カエルに|すり替えた。||帰り道|ずっと、|カゴの中で|何かが|うごめいているから|怖くて|たまらなかった」
しばらく|じっと|見つめていたが|女は|やっと|口を|開いた。


「メグレ?」

「気をつけろ。||ジャンが|鶏を|食べ終わって|次を|待っているぞ」
すると|マリー・タタンは|別人のように|なった。||いっそう|動揺していたが、|信頼の|温もりが|湧いてきた|様子だった。
なんと|奇妙な|人生だろう。||何年も|何年も|小さな|出来事一つ|なく、|日々の|単調さを|破る|ものは|何も|なかった。||それが|突然、|訳のわからない|出来事、|事件、|新聞にも|載らないような|できごとが|降りかかってきた。
ジャン・メタイエや|農民たちの|席を回りながら、|女は|時おり|メグレに|そっと|目を向けた。||食事が|終わると、|おずおずと|言った。

「マール酒を|一杯|いかがですか?」

「昔は|タメ口だったじゃ|ないか、|マリー」
女は|笑った。||もう|そんなことは|できなかった。

「でも|あんたは|昼|食べて|いないだろう」

「まあ、|食べていますよ。||私は|いつも|台所で、|立ったまま|食べるんです。||今|ひと口、|あとで|また|ひと口、|という|具合にね」
道を|オートバイが|通った。||サン・フィアクルの|住人より|小ざっぱりした|若者が|乗って|いるのが|かすかに|見えた。


「あれは|誰?」
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「今朝|見かけませんでしたか?||エミール・ゴーティエ、|管理人の|息子です」

「どこへ|行くんだ?」

「たぶん|ムーランへ。||ほとんど|都会の|若者です。||銀行に|勤めています」
人々が|家から|出て、|道を|散歩したり|墓地へ|向かったりして|いるのが|見えた。
不思議なことに、|メグレは|眠かった。||並外れた|努力を|したかのように|くたびれていた。||朝の|五時半から|起きて|いたせいでも|なく、|風邪を|引いたせいでも|なかった。
むしろ|その|場の|雰囲気に|押しつぶされて|いた。||この|事件に|個人的に|傷つけられた|感じがして、|胸が|むかついて|いた。
そうだ、|胸が|むかつく!||まさに|そんな|気持ちだった。||故郷の|村を|こんな|形で|再び|訪れることに|なるとは|思っていなかった。||煙草を|吸うなと|咎められた|父の|墓石まで|黒ずんで|いた。||目の前では|ジャン・メタイエが|気取って|いた。||見られていると|知っていながら、|落ち着いたふりを|して、|かすかに|人を|見下すような|笑みまで|浮かべようと|していた。

「お酒は|いかがですか?」と|マリー・タタンが|ジャンにも|勧めた。

「結構です。||私は|お酒を|飲みません」
育ちの良さを|どんな場でも|見せようと|していた。||宿でも|城と|同じ|気取った|仕草で|食事を|した。
食事が|終わると|聞いた。

「電話は|ありますか?」

「ありませんが、|向かいに|公衆電話が」
道を|渡り、|聖具室係が|営む|食料品店の|公衆電話に|入った。||長距離通話を|頼んだらしく、|店の中で|長いこと|待ちながら|煙草を|次々と|吸っているのが|見えた。
戻ってくると|農民たちは|もう|いなかった。||マリー・タタンは|夕べの祈りに|来る|客に|備えて|グラスを|洗っていた。

「誰に|電話した?||電話まで|行けば|わかるが」

「ブールジュの|父に」
声は|きつくて|刺々しかった。

「すぐに|弁護士を|よこしてくれと|頼みました」
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彼は|こちらが|触わるそぶりを|見せる前から|歯を|むきだす|滑稽な|小型犬の|ようだった。

「そんなに|自分が|疑われるという|確信が|あるのか?」

「弁護士が|来るまで|話しかけないで|いただきたい。||この村に|宿が|一軒しか|ないのが|残念です」
立ち去りながら|警部が|呟いた|言葉が|聞こえただろうか。

「馬鹿者が。||小賢しい|馬鹿者が」
マリー・タタンは|わけも|わからず、|一人で|ジャンと|いるのが|怖かった。
その日は|一日中、|混乱と|優柔不断の|色に|染まった。||誰も|事態を|仕切る|立場に|ないと|感じて|いたからだろう。

メグレは|重い|外套に|身を|埋めて、|村を|ぶらついて|いた。||教会の|広場に|いたかと|思えば、|城の|近くに|いた。||城の|窓が|一つ|また一つと|灯って|いった。
夜の|訪れは|早かった。||教会が|明るく|輝き、|オルガンの|音が|振動するように|響いて|いた。||鐘突きが|墓地の|門を|閉めた。
闇の|中の|人々の|群れが|囁き合って|いた。||亡き|伯爵夫人の|枕元に|参列すべきか|どうか|誰も|わからなかった。||二人の|男が|まず|城へ|向かったが、|執事も|どう|すれば|いいか|わからず|困惑して|いた。||名刺を|受け取る|盆も|用意されて|いなかった。||モーリス・ド・サン・フィアクルに|意見を|求めようと|したが、|ロシア人の|女が|散歩に|出たと|答えた。
女は|服を|着たまま|横になり、|フィルター付きの|煙草を|吸って|いた。
執事は|無関心な|素振りで|人々を|通した。
それが|合図だった。||夕べの|祈りが|終わると|人々が|ひそひそ|話し合った。
「マルタン爺さんと|若い|ボネが|もう|行ったって!」

みんなが|列を|なして|城へ|向かった。||城の|中は|薄暗かった。||農民たちが|廊下を|歩き、|その|影が|窓に|一つずつ|映った。||子どもたちの|手を|引いて、|騒がないように|揺さぶりながら。||階段を|上り、|2階の|廊下を|進み、|やがて|初めて|足を|踏み入れる|部屋に|たどり着いた。
そこには|女中が|一人、|怯えた様子で|その|押し寄せる|人々を|見守っていた。||人々は|聖水に|浸した|黄楊の|小枝で|十字を|切った。||大胆な者が|ひそひそと|呟いた。

「眠って|いるみたいだ」
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他の|声が|続いた。
「苦しまなかったのね」
やがて|足音が|傷んだ|床板に|響いた。||階段が|きしんだ。||声が|聞こえた。
「シッ!||手すりに|しっかり|つかまって」
地下の|台所では|料理番が|通り過ぎる|人々の|足だけを|見て|いた。

モーリス・ド・サン・フィアクルが|城に|戻ってきた|ちょうど|そのとき、|城は|人々で|あふれていた。||丸い目で|農民たちを|眺めた。||訪問者たちは|声を|かけるべきか|迷っていた。||しかし|モーリスは|会釈するだけで|マリー・ヴァシリエフの|部屋に|入っていった。||英語で|話す声が|聞こえた。
メグレは|教会にいた。||世話役が|消し棒を|持って|蝋燭を|一本ずつ|消して回っていた。||神父が|聖具室で|祭服を|脱いでいた。
左右に|懺悔室が|あり、|懺悔者を|人目から|隠す|小さな|緑の|カーテンが|かかって|いた。||メグレは|自分の|顔が|カーテンに|届かないほど|小さかった|ころを|思い出した。

背後で|鐘突きが|メグレに|気づかずに|大扉を|閉め、|閂を|かけた。
メグレは|突然|中央通路を|横切り、|聖具室へ|入った。||神父は|突然|現れた|警部に|驚いた。


「失礼します、|神父様。||一つだけ|聞かせて|ください。||今朝、|不思議なことが|ありました。||伯爵夫人の|ミサ典書が|祈祷台から|忽然と|消えました。|そして|この部屋で|侍者の白衣の下に|隠されて|いるのが|見つかりました」
沈黙。||聖具係の|足音が|教会の|絨毯の上に|響いた。||鐘突き係が|脇扉から|出ていく|重い|足音。

「できたのは|四人だけです。||失礼ですが、|侍者の少年、|聖具係、|鐘突き係、|そして」

「私です!」
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声は|落ち着いていた。||神父の|顔は|揺れる|蝋燭の|炎で|片側だけ|照らされて|いた。||香炉から|細い|青い|煙が|螺旋を|描きながら|天井へ|昇って|いった。

「それは?」

「ミサ典書を|持ち去り、|ここに|置いたのは|私です。||取りに|来るまでの|間」
聖体入れ、|小瓶、|二音の|鈴が|いつもの|場所に|あった。||幼い|メグレが|侍者だったころと|同じだった。

「典書の|中身を|知って|いたか?」

「知りません」

「それならば」

「これ以上|質問には|答えられません、|警部さん。||告白の|秘密2です」
思わず|連想が|働いた。||警部は|教理問答を|思い出した。||老神父が|告白の秘密を|破るくらいなら|舌を|抜かれる方を|選んだ|中世の|司祭の話を|した時、|彼の|頭の中に|浮かんだ|絵のような|光景を|思い出した。||三十五年後の|今も|その絵が|目の裏に|そのまま|浮かんできた。

「あなたは|犯人を|知っている」と|メグレは|呟いた。

「神が|知って|います。||失礼します。||病人を|見舞いに|行かなければ」
司祭館の|庭から|外へ出た。||小さな|門が|庭と|道を|隔てて|いた。||城から|出て|きた|人々が|少し|離れた|場所で|群れて|事件について|話し合っていた。

「神父様、|あなたの|いるべき|場所は、|むしろ|あちらでは」
そこへ|医者が|山羊髭を|震わせながら|ぼやきながら|やってきた。

「神父さん!||これでは|まるで|お祭り騒ぎだ。||あちらへ|行って|秩序を|取り戻さないと。||農民たちの|心情を|守るためにも。||ああ、|警部さんも|いたのか!||いやはや、|大変なことに|なっていますよ。||今や|村の半分が|若い伯爵を|犯人だと|言っている。||あの女が|来てから|特に!||管理人は|農家を|回って|四万フランを|集めようとしている」

「ちくしょう!」
メグレは|立ち去った。||胸が|いっぱいで|たまらなかった。||この|混乱の|原因は|自分だと|言われるのか?||いったい|何を|失敗したというのか?||自分が|何か|したとでもいうのか?||すべてが|もっと|品位のある|雰囲気の中で|進んでくれたなら、|自分は|なんだって|やっていたはずだ。
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彼は|大股で|宿屋へ|向かった。||中は|半分ほど|客で|埋まっていた。||耳に|入ったのは、|言葉の|切れ端だけだった。
「見つからなかったら、|牢屋行きだってさ」
マリー・タタンは|悲嘆の|塊だった。||四十歳に|なるかならないかだが、|老婆のように|せかせかと|動き回って|いた。


「レモネードは|どちら様でしたか?||ビールを|二つ|頼んだのは?」
隅では|ジャン・メタイエが|時おり|頭を|上げて|会話に|耳を|傾けながら|何かを|書いて|いた。
メグレは|彼に|近づいた。||ミミズの|這ったような|字は|読めなかったが、|段落が|きちんと|分けられ、|消し跡は|ほんの|少しだけで、|それぞれの|前に|番号が|振られているのが|見えた。
一、……
二、……
三、……

二メートル先で|女が|言っていた。
弁護士を|待ちながら、|秘書は|自分の|弁護の|準備を|していたのだ。
「綺麗な|シーツさえ|なかったんですよ。||だから|管理人の|奥さんに|借りに行かなきゃ|ならなかったんです」
青白く|憔悴した顔で、|しかし|意志の強い|目をして、|ジャン・メタイエは|書いた。
四、……
- 天蓋付きベッド(lit à baldaquin)は|ベッドの|四隅に|柱が|立ち、|その|上に|屋根のような|幕が|張られた|豪華な|ベッドです。
四本の|柱から|カーテンを|垂らすことも|できて、|就寝中に|外気や|虫を|防ぐ|実用的な|目的も|ありましたが、|主に|貴族や|富裕層の|権威と|格式を|示す|調度品でした
↩︎ - 「告白の|秘密」は、カトリックの|重要な|教義の|一つです。
信者が|告白(懺悔)で|神父に|打ち明けた|内容は|絶対に|外部に|漏らしては|ならないという|掟です。||これを|「告白封印」または|「告白の|秘密」と|言います。
信者が|罪を|懺悔室で|神父に|告白します。||神父は|その|内容を|誰にも|話せません。||たとえ|殺人を|告白された|としても|警察にも|話せません。||この|秘密を|破った|神父は|破門されます。
つまり|誰かが|神父に|告白の場で|ミサ典書に|細工した|ことを|打ち明けた|ということです。
しかし、神父の行動には、二つの|問題が|あります。
・神父は|犯人を|知って|いながら|メグレにも|話せない。
・そして|神父は|典書を|持ち去り|隠した
この二つは|別の|問題です。
メグレが|「犯人を|知って|いるか」と|聞いた|瞬間に|神父が|「告白の|秘密です」と|言ったのは、|犯人が|告白の|場で|神父に|何かを|打ち明けた|ということを|示して|います。
一方で、神父は|告白の|秘密とは|別に、|自分の|意志で|典書を|持ち去り|隠しました。||これは|告白の|場での|指示では|なく、|おそらく|誰かから|頼まれたか、|あるいは|自分の|判断で|証拠を|隠滅しようとしたかです。
・犯人を|知って|いる→|告白で|聞いた(告白の秘密)
・典書を|隠した→|まだ|謎
神父は|非常に|複雑な|立場に|置かれて|います。
↩︎




