テールヌヴァの溜まり場|第五章 アデルとその連れ

テールヌヴァの溜まり場

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電話が|鳴った。||レオンが|飛んでいき、|すぐに|メグレを|呼んだ。


「もしもし!」と|受話器の|向こうから|面倒くさそうな|声がした。
「メグレ警部ですか?||警察署の|書記です。||ホテルに|電話したら、|テール=ヌーヴァ=溜まり場に|いるかもしれないと|言われて。||邪魔して|すみません。||三十分も|電話に|かかりっきりで。||署長には|つながらず、|機動捜査班の|警部も|フェカンを|出たかも|しれなくて。||ところが|今し方、|変な二人組が|来まして、|緊急の|証言が|あると|いうんです。||男と|女で」


「灰色の|車か?」


「そうです。||あなたが|探していた|人たちですか?」


十分後、|メグレが|警察署に|着いた。||窓口の|仕切り板で|二つに|分かれた|受付以外は|がらんとしていた。||書記が|煙草を|吸いながら|書き物を|していた。||ベンチに|ひじを|膝について|あごを|両手に|乗せた|男が|待っていた。

女は|ハイヒールで|床を|踏み鳴らしながら|行ったり来たり|していた。

警部が|入ってくるなり、|女は|歩み寄った。||同時に|男が|安堵の|ため息とともに|立ち上がり、|歯の間から|呟いた。


「やっと|来た」


イポールの|あの|カップルだった。||メグレが|目撃した|夫婦喧嘩の|時より、さらに|ぎすぎすしていた。


「となりの部屋に|来てくれ!」

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メグレは|二人を|署長室に|通し、|署長の|椅子に|どかっと|座って|パイプに|煙草を|詰めながら|二人を|観察した。


「座ってくれ!」


「結構よ!」と|二人の中で|明らかに|より|神経質な|女が|言った。
「長くは|かからないから」


強い|電灯の|光で|正面から|照らされた|彼女が|見えた。||長く|見る|必要も|なかった。||胸元しか|残っていない|あの|写真で|十分だった。

いわゆる|水商売的向きの|美人だった。||魅力的な|体つき、|健康な|歯、|挑発的な|笑み、|いつも|輝いた|目。

もっと|正確に|言えば、|色気を|振りまいて|食欲旺盛で、|騒ぎを|起こしても|大笑いしても|かまわない|肉感的な|女だった。

ピンクの|絹の|ブラウスに、|五フラン銅貨ほどの|大きな|金のブローチを|つけていた。


「まず|申し上げたいのは」


「ちょっと|待て!」と|メグレは|遮った。「言った|通り|座ってくれ。||こちらの|質問に|答えてもらう」


彼女は|眉を|ひそめた。||口元が|意地悪く|なった。


「ちょっと!||こっちは|自分の|意思で|来ているのよ!」


連れの男は|うんざりした|顔を|した。||二人は|よく|似合いの|カップルだった。||彼は|まさに|そういう女と|よく|いる|タイプの|男だった。

人相は|悪く|なかった。||服装は|まあまあ|だが|趣味が|悪かった。||指に|大きな|指輪、|ネクタイに|真珠のピン。||それでも|全体的に|どこか|不安な|感じが|した。||おそらく|社会の|どの|階層にも|属して|いない|感じが|するからだった。

カフェや|ビアホールで|いつでも|見かける|タイプで、|女と|一緒に|発泡ワインを|飲んで|三流ホテルに|泊まる|男だった。


「お前から|聞く。||名前、|住所、|職業!」


男は|立ち上がろうと|した。


「座っていろ!」


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「説明させてくれ」


「いらない!||名前は?」

「ガストン・ビュジエ。||今は|別荘の|売買と|賃貸を|やっています。||主に|ル・アーヴルの|アニョー・ダルジャン・ホテルに|泊まっています」


「不動産業者か?」


「いや。||でも」


「代理店に|勤めているのか?」


「つまり」


「わかった!||ひとことで|言えば|なんでも屋だ。||前は|何を|していた?」


「自転車メーカーの|外交員でした。||農村で|ミシンを|売っていた|こともあります」


「有罪判決は|何回?」


「答えないで、|ガストン!||いい加減に|してよ!||こっちは|自分から|来たのよ!」


「黙ってろ!||二回です。||一回は|執行猶予で、|不渡り小切手の件。||もう一回は|二か月で、|別荘の|手付金を|もらって|大家に|払わなかった件。||ほんの|些細な|ことですよ」


警察に|慣れていることが|にじみ出ていた。||平然と|していて、|目に|わずかな|悪意が|あった。


「次は|おまえの|番だ!」と|メグレは|女の方を|向いた。


「アデル・ノワロム。||ベルヴィル1|生まれ」


「登録娼婦2か?」


「五年前に|ストラスブールで|登録させられた。||旦那を|横取りしたと|恨んでいた|女が|いて。||でも|それ以来」


「警察の|管理を|逃れていた!||結構!||オセアンに|乗り込んだのは|何の|資格で?」


「まず|説明|させてくれ!||ここに|来たのは|やましいことが|ないからだ。||イポールで、|あんたが|彼女の|写真を|持っていて|きっと|逮捕されると|言った。||まず|逃げようとした。||面倒は|御免だから。||でも|エトルタで|遠くから|憲兵が|見張っているのが|見えて、|追われると|わかった。||だから|自分から|来ることにした」

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「あんたに|聞いてる!||トロール船で|何をしていた?」


「簡単よ!||愛人を|追いかけていたの!」


「ファリュ船長か?」


「そう、|船長よ!||去年の|十一月ごろから|一緒にいた。||ル・アーヴルの|カフェで|出会って。||彼が|恋に|落ちた。||週に|二、三回|来るようになった。||最初は|何もしないから|変人かと|思った。||違った。||本気だった!||きれいな|家具つきの|部屋を|借りてくれて、|うまくやれば|結婚できると|思った。||船乗りは|金持ちではないけど|定収入があって、|恩給もあるし」


「フェカンに|来たことは|あったか?」


「一度も|ない!||来るなと|言われていた。||彼が|向こうへ|来て|いた。||やきもち焼きで。||五十歳に|なっても|女に|関しては|中学生みたいに|初心うぶな人で、|あまり|経験が|なかったのね。||でも|一度|はまったら!」


「ちょっと待て、|おまえは|すでに|ガストン・ビュジエの|愛人|だったろ?」


「もちろん!||でも|ガストンを|弟と|言って|ファリュに|紹介した」


「わかった!||つまり|二人とも|船長の|金で|生活していた!」


「おれは|働いていた!」


「そんなのは|よく|知っている!||毎週|土曜の|午後だけな!||船に|乗ろうと|言い出したのは|誰だ?」


「ファリュよ!||航海中ずっと|わたしを|一人に|しておくのが|心配で|たまらなかった。||一方で|規則違反を|恐れていた。||規則に|うるさい人|だったから。||ぎりぎりまで|抵抗してた。||でも|最後に|迎えに|来て、|出港前夜に|自分の|船室に|入れた。||わたしは|気晴らしになると|思って|楽しみに|していたけど、|実際が|どんなものか|知っていたら|すぐに|断っていたわ!」


「ビュジエは|反対|しなかったのか?」


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「迷ってた。||老人の|意向には|逆らえないでしょ。||航海の後|すぐ|引退して|結婚すると|約束していたし。||いい生活が|用意されていたわ!||魚臭い|船室に|一日中|閉じ込められて!||誰かが|入ってくると|ベッドの下に|隠れなきゃいけない!||出航して|すぐ|ファリュは|連れてきたことを|後悔し始めた。||あんなに|怖がりな|男は|見たことがない。||一日に|十回も|扉が|ちゃんと|閉まっているか|確かめに来る。||少し|声を出すと|聞こえるからと|黙らせる。||不機嫌で|張りつめていた。||海に|投げ込んで|厄介払い|しようか|という|誘惑に|かられているような|目で|長い間|わたしを|見ることがあった」


彼女は|甲高い声で|身振り手振りを|交えて|しゃべっていた。


「しかも|ますます|やきもちを|焼くようになったわ!||過去を|探ろうとして。||三日間も|口を|きかずに|敵のように|見張っていたかと|思えば、|突然|また|情熱が|戻ってくる。||怖いと|思ったこともあった」


「乗組員の|中で|誰が|おまえを|見た?」


「四日目の|夜だったわ。||甲板で|空気を|吸いたくて。||閉じ込められるのが|嫌で。||ファリュが|誰もいないか|確かめに行った。||やっと|五歩ほど|歩かせて|もらえただけ。||彼が|一瞬|船橋に|上がったときに|無線係が|来て|話しかけてきた。||すっかり|あがっていたけど|興奮していた。||翌日、|彼は|わたしの|船室に|入り込んできた」


「ファリュは|気づいたか?」


「気づかなかったと|思う。||何も|言わなかったから」


「ル・クランシュと|関係を|もったのか?」


彼女は|答えなかった。||ガストン・ビュジエが|にやりと|した。


「認めろよ!」と|意地悪い|声で|言った。


「わたしには|自由が|あるでしょ?||あなただって|わたしが|いない間|女に|不自由しなかったくせに。||フルール荘の|あの子!||ポケットから|出てきた|あの写真!」


メグレは|仏頂面を|崩さなかった。


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「無線係と|関係を|持ったか|聞いている!」


「知らない!」


彼女は|挑発するように|潤んだ|笑みを|浮かべた。||自分が|魅力的だと|わかっていた。||肉厚の|唇と|豊かな|体を|武器にしていた。


「機関長にも|見られたな」


「彼が|何か|言っていたの?」


「何も。||整理しよう。||船長は|あんたを|自分の|船室に|隠していた。||ピエール・ル・クランシュと|機関長が|交互に|こっそり|会いに|来ていた。||ファリュは|気づいていたのか」


「いいえ」


「それでも|疑っていた。||あなたの|周りを|うろつき、どうしても|必要な|時しか|そばを|離れなかった


「なぜ|知っているの」


「まだ|結婚の|話を|していたのか」


「わからない」


メグレは|トロール船を|思い浮かべた。||船倉に|孤立した|火夫たち、船首楼に|ひしめく|男たち、|無線係の|船室、|そして|船尾の|船長室、|かさ上げされた|ベッド。

漁期は|三ヶ月も|続いた。

その|間、三人の|男が|この|女の|閉じ込められた|船室の|まわりを|うろついていたのだ。


「とんでもない|馬鹿を|したわ」と|彼女は|言い捨てた。
「もう一度|同じことに|なったらと|思うと。||結婚を|ちらつかせる|うぶな|男には|気をつけなきゃ」


「おまえが|俺の|言うことを|聞いていれば」とガストン・ビュジエが|割り込んだ。


「黙って。||あなたの|言う|通りに|していたら、今ごろ|どんな|場所に|いるか|わかったものじゃない。||ファリュの|悪口は|言いたくない、|死んだ|人だから。||でも|おかしくなっていたのは|確かよ。||妄想を|抱いて、規則を|破った|だけで|自分が|汚れたと|思い込むような|人だった。||それが|どんどん|悪くなって、八日も|すると|口を|きかなくなった。||喧嘩を|しかけるか、|船室に|誰かが|入らなかったか|確かめに|来るかだけ。||

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||とくに|ル・クランシュに|やきもちやいていた。||よく|こう言っていたわ。||『若い男の|方が|いいんだろ。||認めろ。||俺が|いない|間に|入ってきたら|断らないだろ』||そして|笑うんだけど、|ぞっとするような|笑い方だった」


「ル・クランシュには|何度|会ったんだ」とメグレが|ゆっくり|尋ねた。


「まあ、|しかたなく、|一度だけ。||四日目に。||どうなったのか|自分でも|よくわからない。||その後は|もう無理だった。||ファリュが|監視を|強めたから」


「主任機関士は」


「ないわ。||近づこうとしたけど。||舷窓から|こちらを|覗いていた。||その顔が|真っ青で。||これが|生活と|言えますか。||まるで|檻の中の|獣だった。||波が|荒れると|船酔いするのに、|ファリュは|看病も|してくれなかった。||何週間も|触れもしない。||かと|思えば|急に来て、|噛みつくみたいに|キスする。||締め殺すかのように|抱きしめる」


ガストン・ビュジエは|煙草に|火をつけ、皮肉な|顔つきで|吸っていた。


「警部さん、|俺には|関係ないことは|わかってもらえますよね。||その間、|俺は|働いていた」


「お願いだから|黙って」と|彼女は|苛立った|様子で|言った。


「帰港の|時は|どうだった。||ファリュは|自殺|するつもりだとか|言っていたか」


「まさか。||港に|着いた時、もう|十五日も|口をきいて|いなかった。||誰とも|話していなかったと|思う。||何時間も|ぼんやり|前を|見つめていた。||もう|別れようと|決めていた。||うんざりしていたから。||飢え死にしても|自由の方が|まし。||岸壁に|着いたと|聞こえた。||彼が|船室に|入ってきて、|一言だけ|言った。||『迎えに|来るまで|待っててください』』


「ちょっとまて、|最後は|タメ口じゃ|なかったのか」


「最後は|そう」


「続けて」

52ページ


「ほかには|何も|知らない。||いや、|残りは|ガストンから|聞いた話よ。||この人は|埠頭に|いたんだから」


「話せ」と|メグレは|男に|向かって|言った。


「こいつの|言う通り、|埠頭に|いました。||水夫たちが|カフェに|入っていくのを|見ました。||アデルを|待っていたんです。||暗かった。||そのうち、|船長が|一人で|上陸してきた。||停車している|貨車が|ありました。||奴が|数歩|歩いたところで、|男が|飛びかかってきた。||何が|起きたか|正確には|分かりませんが、|体が|水に|落ちる音が|しました」


「その男を|見分けられるか」


「無理です。||暗くて、|貨車が|ほとんど|遮ってたから」


「どっちの|方角に|逃げた」


「埠頭沿いに|行ったと|思います」


「無線係の|姿は|見えなかったか」


「分かりません。||知らない人だし」


「じゃあ、|あんたは|どうやって|船から|出た」


「鍵の|かかった|船室の|扉を|誰かが|開けた。||ル・クランシュだった。||そして|こう|言った。||『早く|逃げろ!』」


「それだけか」


「聞き返そうとしたら、|埠頭を|走る人の音と、|灯りを|持った|ボートが|船溜まりに|進んでくる音が|聞こえたわ。||彼は|『逃げろ!』と|繰り返して、|タラップに|押し出された。||みんな|よそを|見てたから、|誰も|気にしなかった。||何か|まずいことが|起きたとは|思ったけど、|さっさと|立ち去った。||少し先で|ガストンが|待ってたから」


「それから|どうした」


「ガストンは|真っ青だった。||居酒屋で|ラム酒を|飲んで、|<シュマン・ド・フェール・ホテル>に|泊まった。||翌日、|どの新聞も|ファリュの|死を|伝えてた。||それで|とにかく|ル・アーヴルに|逃げた。||この|厄介事に|巻き込まれたく|なかったから」


「それでも|こいつは|この辺を|うろつきたがってたんですよ!」と|ガストンは|畳みかけた。
「無線係の|ためなのか|それとも……」

53ページの翻訳です。


「うるさいわね!||いい加減にして!||このことが|気になってたのは|確かよ。||だから|フェカンに|三回|来たのよ。||目立たないように|イポールに|泊まって」


「主任機関士に|会わなかったか」


「なんで|分かるの?||一日、|イポールで。||あいつが|投げてよこした|目つきが|怖かった。||しばらく|つけてきたし」


「なぜ、|ガストンと|喧嘩してたんだ」


アデルは|肩をすくめた。


「なんとなく!||まだ|分からないの?||あいつは、|わたしが|ル・クランシュに|惚れてると|決めつけてる。||無線係が|わたしのために|殺しを|やったとか|なんとか。||さんざん|ごねて、|やきもちばかり|焼いて。||もう|うんざり。||あの|ろくでもない船で|いやな|思いは|たっぷり|してきたんだから」


「テラスで|あんたの|写真を|見せたときは」


「もちろん!||刑事だって|すぐ|分かったわよ!||ル・クランシュが|しゃべったんだと|思って、|怖くなって|ガストンに|逃げようって|言った。||でも|途中で、|逃げても|無駄だし、|どこかで|捕まると|思って。||それに|ポケットには|二百フランしか|なかったし。||どうする気?||刑務所には|入れられないでしょ?」


「無線係士が|殺したと|思うか」


「あたしに|分かるわけないじゃない」


「黄色い|靴を|持っているか」と|メグレは|ガストン・ビュジエに|ぶっきらぼうに|聞いた。


「え……|ああ……|なんで?」


「別に。||ただの|確認だ。||船長の|殺した奴を|本当に|見分けられないんだな」


「影が|見えただけだし」


「ピエール・ル・クランシュも|貨車の|陰に|いた。||そいつは|犯人が|黄色い|靴を|はいていたと|言っている」


男は|はじかれたように|立ち上がり、|目を|険しくして|唇を|ゆがめた。


「そいつが|そう|言ったのか!||確かなのか!」

54ページ


怒りが|込み上げて|言葉が|どもった。||もはや|別人だった。||拳が|机を|叩きつけた。


「ふざけるな!||あいつを|ここに|連れてこい!||話を|つけなきゃ|気が|済まない!||どっちが|嘘を|ついてるか|見てやる!||黄色い|靴だと?||俺が|犯人だとでも?||俺の|女を|奪ったのは|あいつだ!||船から|連れ出したのも|あいつだ!||それで|よくも……」


「落ち着け」


息が|できなくなって、|やっと|口を|開いた。


「聞いてるか、|アデル?||お前の|男ってのは|みんな|こんなもんだ!||あの|無線係もな!」


目から|怒りの|涙が|あふれ、|歯が|カチカチ|鳴った。


「冗談じゃない!||俺が……|ハ!ハ!||映画より|面白い!||前科が|二つ|あるから、|どうせ|信じてもらえるのは|あいつの|方だ。||俺が|ファリュ船長を|殺した!||嫉妬したからかな?||ついでに|無線係まで|殺したとでも?」


興奮して|髪を|かき乱した。||ますます|やつれて|見えた。||目の|くまが|濃くなり、|顔色が|くすんだ。


「さっさと|逮捕すれば|いいだろ!」


「喋らないで!」と|愛人は|どなった。


だが|彼女も|動揺していた。||それでも|男に|鋭い|視線を|送り続けた。||疑っているのか?||それとも|芝居なのか?


「逮捕するなら|今すぐ|してくれ!||あいつと|対決させてほしい。||どっちが|本当のことを|言っているか|はっきり|する!」


メグレは|電気ベルを|押した。||署長付の|巡査が|不安そうな|顔を|のぞかせた。


「判事が|決定を|下すまで、|明朝まで|お二人を|留めておくように」


「この|クズ!」と|アデルは|地面に|唾を|吐いて|怒鳴った。
「正直に|話したら|どういう目に|あうか、|よく分かったわ。||わたしが|しゃべったことは|全部|でたらめよ!||調書には|署名しない!||勝手にすれば!」


そして|情人の|方に|向き直った。


「心配しないで、|ガストン!||こっちが|有利よ。||最後には|わたしたちが|勝つわ。||でも|風紀台帳に|名前が|載った|女は、|ぶち込まれても|しょうがないってことね。||まさか|わたしが|船長を|殺したとでも|言うつもり?」

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メグレは|それ以上|聞かずに|部屋を|出た。||外で|海の|空気を|胸いっぱいに|吸い込み、|パイプの|灰を|はたいた。||十歩も|行かないうちに、|警察署の|中から|アデルが|警官たちに|向かって|語彙の|中で|もっとも|下品な|言葉を|浴びせる|声が|聞こえてきた。

夜中の|二時だった。||夜は|不思議なほど|静かだった。||満潮で、|漁船の|帆柱が|家々の|屋根より|高く|揺れていた。

絶え間なく|波が|砂利浜を|打つ|規則的な|ざわめきが|すべてを|包んでいた。

オセアン号の|まわりには|煌々と|灯りが|ともっていた。||昼も|夜も|荷おろしが|続き、|人夫たちは|体を|踏んばりながら|タラの|満ちた|貨車を|押していた。

テール=ヌヴァの|待合所は|閉まっていた。||プラージュ・ホテルでは、|ドアマンが|ねまきの|上に|ズボンを|はいたまま|警部に|扉を|開けた。

ホールには|電灯が|一つしか|ともっていなかった。||そのため|メグレは|籐椅子に|座った|人影に|すぐには|気づかなかった。

マリー・レオンネクだった。||頭を|肩に|もたせかけて|眠っていた。


「お待ちの|方が|いらっしゃいますよ」と|ドアマンが|そっと|言った。


顔色が|悪かった。||貧血気味なのが|見てとれた。||唇に|色気がなく、|まぶたの|くまが|疲れを|物語っていた。||息が|足りないかのように|口を|半開きにして|眠っていた。

メグレは|そっと|彼女の|肩を|叩いた。||彼女は|はっとして|身を|起こし、|彼を|見て|きまり悪そうな|顔をした。


「眠って|しまってたわ。||あら!」


「なぜ|寝ていないんだ?||妻が|部屋まで|付き添わなかったのか?」


「ええ、|でも|こっそり|下りてきたんです。||知りたくて。||あの……」

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眠っていたせいで|いつもより|顔色が|悪かった。||肌が|じっとりしていた。||額の|真ん中に|虫刺されの|赤い痕が|あった。

丈夫な|サージ地で|自分で|仕立てたらしい|ワンピースは|しわだらけだった。


「何か|新しいことが|分かりましたか?||いいえ?||聞いてください。||ずっと|考えていたんです。||うまく|言えないんだけど……|明日|ピエールに|会う前に、|あなたから|先に|話してほしいんです。||あの女のことは|全部|知っている、|でも|恨んでいないって。||彼が|罪を|犯していないことは|確かです。||でも|わたしから|先に|言ったら|かえって|困らせてしまう。||今朝も|見たでしょう。||あんなに|苦しんでいる。||船に|女が|いたとしたら、|彼が……」


だが|もう|限界だった。||泣き崩れた。||涙が|止まらなかった。


「何より|怖いのは|新聞に|載ること、|両親に|知られること。||両親には|分からないわ。||あの人たちは……」


しゃくりあげながら|続けた。


「犯人を|見つけてください!||わたしが|人々に|話を|聞けたら……|ごめんなさい、|何を|言ってるか|分からなくなってきた。||あなたの方が|よく|分かっている。||でも|ピエールのことは|知らないでしょう。||わたしの方が|二歳|上なんです。||まるで|子どもみたい。||おまけに|責められると、|意地を|張って|何も|しゃべらなくなる。||プライドが|高くて、|ずっと|ひどい目に|あってきたから」


メグレは|ゆっくり|彼女の|肩に|手を|置き、|深い|溜め息を|こらえた。

頭の|中で|まだ|アデルの|声が|響いていた。||あの|動物的な|みずみずしさの|中で|挑発的で|官能的な|彼女の|姿が|目に|浮かんだ。

一方、|きちんと|育てられた|この|貧血気味の|娘は|涙を|こらえようとし、|信頼を|込めて|微笑もうとしていた。


「彼のことが|分かれば……」


だが|彼女が|決して|知ることの|ないことが|あった——|三人の|男が|何日も|何週間も|うろついていた|あの|暗い|船室のことを。||はるか|大海の|真ん中で、|機関室の|男たちも|船首楼の|男たちも|漠然と|ただならぬ気配を|感じとり、|海を|眺め、|航行について|語り合い、|不安に|とらわれ、|「魔の目」と|狂気を|口にしていた——そのことを。

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「明日、|ル・クランシュに|会いに行く」


「わたしは?」


「たぶん……|おそらく……|休んでください!」


しばらくして、|マダム・メグレが|まどろみの|中で|つぶやいた。

「あの子、|いい子ね!||もう|嫁入り道具を|全部|用意してるって|知ってた?||全部|手刺繍なのよ。||何か|分かった?||なんか|香水の|匂いが|する……」


アデルの|きつい|香水が|彼の|体に|染みついていたのだろう。||居酒屋の|安ワインのような|下品な|香りで、|何か月もの間、|トロール船の|船上で|タラの|腐った|臭いと|混じり合いながら、|男たちが|犬のように|執念深く|殺気立って|一つの|船室の|まわりを|うろついていた|あの|匂いだった。


「おやすみ」と|彼は|妻の|顎まで|毛布を|引き上げながら|言った。


すでに|眠りに|落ちていた|妻の|額に、|静かで|深い|口づけを|した。

  1. ベルヴィルは|パリ北東部の下町で|労働者階級や貧しい移民が密集して住む地区でした。酒場や安宿が立ち並び|犯罪や売春とも縁が深い街です。
    つまりアデルが「ベルヴィル生まれ」というのは|単なる出身地の説明ではなく|どんな環境で育ったかを一言で示しています。シムノンの読者には|すぐに「ああ、そういう女か」と伝わる|階級を示す記号だったわけです。
    ちなみに|エディット・ピアフも|ベルヴィル生まれです。
    エディット・ピアフ(1915〜1963)は|フランスを代表する国民的シャンソン歌手です。
    「愛の讃歌」や「バラ色の人生」などで知られ|その力強く|哀愁に満ちた歌声で|世界中を魅了しました。
    小柄な体格から|「小さな雀」を意味する|「ラ・モーム・ピアフ」という愛称で親しまれました。
    ベルヴィルの貧しい家庭に生まれ|路上で歌いながら育ったという|まさにベルヴィルそのものを体現したような人生でした。アデルと|時代も|出自も|重なります。
    ↩︎
  2. フランスでは|当時|売春婦を警察に登録させる制度がありました。
    登録された女性は|定期的に性病検査を受ける義務があり|警察の管理下に置かれました。アデルが「5年前にストラスブールで登録された」と言っているのは|つまり公認の売春婦だったということです。
    ただし彼女は|「ある女性の夫を奪ったせいで|その女性に恨まれて登録させられた」と言い訳しています。登録されると|社会的な烙印を押され|その後の人生に大きく影響しました。
    ↩︎