オランダの殺人

運河と港、低い空と湿った風。
フランスとはまったく異なるオランダという土地で、メグレは一つの事件に向き合う。
殺されたのは、オランダ海軍学校の教授。
容疑者は、講演に来ていたフランス人の社会学者。
そこで、フランス警察のメグレがオランダに呼ばれる。
この物語は、
犯罪を解く話であると同時に、土地と人間を理解していく過程そのものを描いている。
メグレは、英語もオランダ語も、ドイツ語もまともに話せない中で、
そこにいる適当な通訳をとおして、いつものように人間を観察しその本来の姿を作り上げていく。
この過程を通して、持ち前の容赦ない質問を浴びせながら、犯人に辿り着いていくのだが、
フランスと違い、メグレはオランダという異国の土地の中で、違和感と苛立ちを隠せなくなっていく。
フェアプレートは程遠いシムノンのメグレシリーズだが、この作品は、比較的フェアプレーに近いと思う。
本格ものとまではいかないが、物証や人間心理を掛け合わせると、推理ゲームとして比較的早い段階で犯人を想定できたのかもしれない。
もちろん、シムノンであるから単なる知的推理ゲームではないが、その一端を感じさせる初期の一作品であると、私は感じる。
最後に、メグレがフランスに帰る列車に乗る場面が、この事件に核心とも言える地域社会の実情を写し出しているようで印象的だった。