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「もし|ご足労|いただけるなら、|ネヴェール市|クルーズ通り|17番地の|私の|自宅まで|こっそり|お越しください。||エミール・ガレについて、|きっと|ご興味を|お持ちになるような|情報を|お伝えできます」
メグレは|クルーズ通り1に|いた。||目の前には、|赤と|黒の|応接間に、|間接税の|徴税官2が|座っていた。||その男は|まるで|陰謀家のような|様子で、|自ら|玄関に|出て|メグレを|招き入れた。

「女中は|遠ざけておきました!||おわかりでしょう、|その方が|いい。||もし|あなたが|入ってくるのを|見た者が|いたとしても、|あなたは|私の|ボーケール出身の|従弟ということに|なっています」
言葉の|ひとつひとつを|強調するかのように、|メグレに|流し目を|送っているのだろうか?||いや、|片目では|なく|両目を、|素早く|パチパチと|閉じているのだった。||それは|もはや、|神経性の|チックのように|見えた。

「あなたも|元植民地勤務の|方で?||違うんですか?||てっきり|そうかと|思っていましたが。||残念です。||だとしたら|もっと|よく|おわかりに|なれたのに」
まぶたを|絶え間なく|上げ下げしながら、|声は|ますます|ひそひそと|なっていき、|その|表情は|ずる賢さと|怯えとが|入り混じったものに|なっていった。

「私は|インドシナに|十年|いましてね、|サイゴンに|まだ|パリのような|大通りが|なかった|頃の|ことです。||そこで|ガレと|知り合ったんです。||刺し傷が|手がかりに|なりました。||追って|すべて|ご理解|いただけます。||あなたは|何も|見つけていない、|と|思いますよ!||何も|見つからない|でしょう。||なぜなら|これは|植民地に|いた者にしか|わからない|話だからです!||それも|その場に|居合わせた|植民地経験者に|限られる」
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メグレは|すでに|査察官の|人物像を|見抜いていた。||こういう|手合いには|じっと|我慢して、|口を|挟まず、|うなずいて|やるのが|時間を|稼ぐ|唯一の|手だと|知っていた。

「いやあ、|ガレは|大した|やり手でしたよ!||当時は|後に|上院議員に|なった|男の|ところで|公証人の|書記のような|ことを|していました。||スポーツ狂で!||フットボールの|チームを|作ろうと|言い出してね。||無理やり|みんなを|かり集めたんですが、|対戦相手の|チームが|なくて。||まあ|それは|いいとして!||フットボールより|女の方が|好きでしたよ。||あちらじゃ|機会には|事欠かない。||陽気な|遊び人でね!||女たちに|どんな|いたずらを|仕掛けたことか。||ちょっと|失礼」
査察官は|忍び足で|ドアに|近づき、|誰も|いないことを|確かめるために|いきなり|開けた。

「実は|ある時、|やりすぎたことが|あって、|私も|共犯の|役を|引き受けたのが|自慢に|なりませんが。||あるプランターが|二、三百人の|マレー人労働者を|連れてきたんです。||その中に|女や|子供も|いて。||その中に|琥珀で|削り出したような|小柄な|娘が|いました。||名前は|もう|忘れましたが。||ただ|あの頃、|私は|スティーヴンソンの|太平洋の|原住民についての|本を|読み終えたばかりで、|その話を|ガレに|していたのは|覚えています。||その本に、|気の強い|現地の女を|手に入れるために、|白人が|いんちきな|結婚式を|仕組む|話が|出てくるんです。||それで|エミールが|乗り気に|なってしまった!||当時は|マレー人は|まだ|字が|読めなかった。||特に|家畜のように|運ばれてきた|貧しい連中は。||ガレは|娘の|父親に|話を|持ち込んで、|未来の|義理の|家族に|滑稽な|衣装を|着せて、|行列を|作って、|私たちが|目をつけておいた|掘っ立て小屋に|乗り込んだ。||市長の|役を|演じた|仲間は|今頃|死んでいます。||でも|あの|茶番に|加わった者は|他にも|見つかるでしょう。||ガレは|大した|悪ふざけ者でしたからね。||最高に|おかしく|なるよう|何も|抜かりは|なかった。||スピーチは|腹を|抱えるほど|おかしく、|娘に|厳かに|手渡された|婚姻証書も|最初から|最後まで|でたらめだらけ。||家族にも|証人にも|みんなに|大ぼらを|吹いてやった」
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間接税の|査察官は|少しの|間|黙り、|表情を|引き締めた。

「結論を|言いましょう!|ガレは|三、四ヶ月の|間|夫婦として|一緒に|暮らした。||それから|フランスに|帰って、|もちろん|偽の|妻を|そのまま|捨ててきた。||あの頃は|まだ|若かった。||そうでなければ|あんなに|笑えなかったでしょう。||マレー人は|許さない|ですから。||あなたは|ご存知ない、|警部さん。||娘は|長い間|夫の|帰りを|待ち続けた。||その後|どうなったかは|知りません。||ただ|数年後に|サイゴンの|汚い|界隈で|すっかり|老け込んだ|彼女に|出会いました。||ネヴェールの|新聞で|ガレの|名前を|読んだ時。||二十五年間、|一度も|会っていない!||話を|聞いたことさえ|なかった。||ただ|あの|刺し傷ですよ、|ね?||おわかりに|なりましたか?||復讐、|これは|明らかです!||マレー人は|復讐の|ために|世界中を|回る。||しかも|短剣の|使い方を|心得ている。||あの娘の|兄、|あるいは|息子だと|仮定しましょう。||より|文明化された|人物。||最初は|拳銃を|使った。||便利だから。||それから|本能が|勝った」
メグレは|うつろな|目で|待ちながら、|遮っても|無駄な|この|長口上を|上の空で|聞いていた。||いつもなら|刑事事件には|査察官と|同じ|レベルの|証人が|百人は|現れる。||今回|一人しか|現れなかったのは、|パリの|新聞が|この|事件を|数行しか|伝えなかった|せいだった。

「おわかりに|なりましたか、|警部さん?||まさか|ご自分では|気づかなかったでしょう?||ここに|来て|いただくよう|お願いしたのは、|もし|犯人が|私が|話したと|知ったら」

「ガレは|フットボールを|していたと|おっしゃいましたね?」

「熱狂的な|選手でしたよ!||そして|大した|やり手!||これほど|面白い|仲間は|いなかった。||一晩中|こっちが|息も|つけないほど|笑わせる|話を|し続けることが|できた。
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「なぜ|インドシナを|出たんですか?」

「年に|十万フランの|収入が|なければ|生まれてきた|意味が|ないと|言っていました。||戦前の|話ですよ。||十万フランの|収入!||呆れたもんでしょう!||みんなで|からかっても、|彼は|教皇のように|真顔でいた。||『見ていろ!|見ていろ!』と|にやにやしながら|言っていた。||その|十万フランは|手に|入らなかったでしょうが、|ね?||私は|熱病に|追い出された|アジアから。||今でも|発作が|あります。||何か|召し上がりますか、|警部さん?||自分で|お出しします。||女中を|午後いっぱい|街の外に|やりましたから」
メグレは|何かを|飲む|気にも、|マレー人の|復讐説に|はまり込んだ|査察官の|無邪気な|流し目を|これ以上|浴び続ける|気にも|なれなかった。||礼を|言い、|微笑むのが|やっとだった。||薄い|愛想笑いで。3

二時間後、|メグレは|すでに|なじみと|なった|トラシー=サンセールの|駅で|列車を|降りた。||ロワール・ホテルへと|続く|道を|歩きながら、|ひとりごとを|言っていた。

「6月25日、|土曜日だと|仮定しよう。||私は|エミール・ガレだ。||息が|詰まるような|暑さ。||肝臓が|痛む。||ポケットには|ジャコブ氏からの|手紙。||月曜日までに|現金で|二万フランを|払わなければ|警察に|すべてを|明かすという|脅しだ。||正統王朝派4は|一度に|二万フランを|払う|ことは|ない。||引き出せる|金額の|平均は|二百から|六百フラン。||千フランに|なることは|まれだ。||ロワール・ホテルで|中庭に|面した|部屋を|頼む。||なぜ|中庭に|面した|部屋を?||暗殺を|恐れていたから?||誰に?」
メグレは|うつむいて|ゆっくりと|歩き、|死者の|皮膚の|中に|入り込もうと|真剣に|努めていた。

「ジャコブが|実際に|何者かを|私は|知っているだろうか?||三年間|ゆすられ続け、|三年間|払い続けた。||クリニャンクール街の|角の|新聞売りに|聞き込みをした。||二つの|出口を|持つ|建物の|前で|まかれた|金髪の|若い女を|尾行した。||ヘンリーの|情事は|知らない|から、|彼を|疑う|ことは|できない。||彼が|すでに|十万フランを|貯め込み、|南仏で|暮らすために|五十万フランを|必要と|していることも|知らない。||ジャコブは|老いた|行商人の|影に|潜む|恐ろしい|存在として|残っている」
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メグレは|黒板に|書かれた|問題を|黒板消しで|一拭きに|消す|教師のような|身振りを|した。||すべての|データを|忘れ、|捜査を|最初から|やり直したかった。

「エミール・ガレは|陽気な|やり手だった!||仲間を|無理やり|フットボールの|チームに|かり集めた」

メグレは|ホテルには|入らず|その前を|通り過ぎ、|サン=テレール邸の|正門の|ベルを|鳴らした。||タルディヴォンは|入り口の|敷居に|立っていたが、|メグレが|挨拶も|しないまま|通り過ぎたのを|とがめるような|目で|見送った。
警部は|道路で|かなり長い間|待たなければ|ならなかった。||やっと|召使いが|出てきて|門を|開けると、|メグレは|いきなり|尋ねた。

「この屋敷に|来て|どのくらいに|なる?」

「一年ですが。||サン=テレール様に|ご用ですか?」
サン=テレール本人が|一階の|窓から|メグレに|気さくに|合図を|送った。

「それで?|あの鍵は?||とうとう|見つかりましたか!||少し|入りませんか?||捜査は|どうですか?」

「庭師は|あなたの|もとに|来て|何年に|なりますか?」

「三、四年です。||入らないんですか?」
城の|主人も|また、|メグレの|変わりように|気づいていた。||表情は|険しく、|眉は|寄せられ、|目には|疲弊と|苛立ちの|不穏な|色が|浮かんでいた。

「ワインを|一本|持って|こさせて」

「前の|庭師は|どうしましたか?」
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「一キロほど先の|サン=ティボー街道沿いに|居酒屋を|やっています。||私の|ところで|十分|懐を|肥やしてから|独立した|老いた|悪党ですよ」

「ありがとう」

「もう|行くんですか?」

「また|来ます」
メグレは|何か|考えながら|そう|言い、|通用門に|戻って|大通りの|方へ|歩いていった。

「二万フランが|すぐに|必要だった!||いつもの|カモ、|つまり|近辺の|城主たちから|金を|集めようとは|しなかった。||サン=テレールの|ところにしか|行っていない。||同じ日に|二度も!||それから|壁を|よじ登った!」
メグレは|自分で|自分の|考えを|遮り|悪態を|ついた。

「畜生、||畜生!||だったら|なぜ|中庭に|面した|部屋を|頼んだんだ?||もし|その部屋が|取れていたら|壁を|よじ登れなかったはずだ」
前の|庭師の|居酒屋は|ロワール|支流の|運河の|水門の|近くに|建っていて、|船乗りたちで|ごった返していた。

「少し|聞きたいことがある。||警察だ。||サンセールの|事件についてだ。||あんたの|前の|雇い主の|ところで|エミール・ガレを|見たことが|あるかい?」

「クレマンのことか?||そう|呼ばれていたが。||見たことがある!」

「よく?」

「そうとも|言えないな。||六ヶ月に|一度くらいか。||それでも|旦那さんは|十五日間|機嫌が|悪くなってたよ」

「初めて|訪ねてきたのは|いつごろだ?」

「少なくとも|十年前!||もしかしたら|十五年!||一杯|いかがですか?」

「けっこうだ。||二人が|言い争うのを|見たことは?」

「たまに、|というより|毎回だよ!||港の|労働者みたいに|掴み合ってるのを|見たこともある」

「それでも|サン=テレールが|殺したわけじゃない!」と|メグレは|少し後で、|ホテルに|向かいながら|つぶやいた。
「まず、|モエルスに|二発|撃つことは|できなかった。||公証人の|ところに|いたんだから!||それに|事件の夜、|なぜ|わざわざ|柵の方から|回るんだ?5
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メグレは|教会の|近くに|エレオノールを|見かけたが、|避けるために|顔を|そむけた。||誰とも|話したくなかった。||とりわけ|彼女とは。6
急ぎ足の|足音が|後ろから|聞こえた。||灰色の|ワンピースを|着て|髪を|きれいに|なでつけた|彼女が|追いついてきた。

「すみません、|警部」
メグレは|振り返り、|あまりに|険しい|目で|彼女を|見つめたので、|彼女は|一瞬|息を|のんだ。

「何だ?」

「ただ|知りたくて」

「何も|ない!||何も|わからん!」

メグレは|挨拶も|せずに|両手を|後ろで|組んだまま|立ち去った。
「中庭に|面した|部屋が|空いていたと|仮定しよう。||それでも|死んでいただろうか?」
ボールを|蹴って|遊んでいた|男の子が|不器用に|メグレの|足元に|飛び込んできた。||メグレは|その子を|抱き上げ、|見もせずに|一メートル|先に|下ろした。
「いずれに|せよ、|二万フランは|なかった。||月曜日までに|工面できなかった。||しかも|壁を|よじ登れなかったはずだ。||あの壁からは|ガレを|狙い撃つことは|不可能だった。||だとすれば、|死ななかった!」
前の週より|ずっと|しのぎやすい|気温なのに、|メグレは|額の|汗を|ぬぐった。||目標まで|あと|一歩の|ところに|いながら、|どうしても|届かない|という|いらだたしい|感覚が|あった。
手がかりなら|山ほど|あった。||壁の|話、|一週間後に|モーに|向けて|撃たれた|二発、|ジャコブ事件、|十五年前から|繰り返された|サン=テレール邸への|訪問、|庭師が|あれほど|都合よく|見つけた|鍵、|部屋の|問題、|銃弾の|仕事を|数秒の|間を|おいて|仕上げた|刺し傷、|そして|フットボールと|偽りの|結婚の|悪ふざけ。
ガレの|スポーツへの|情熱、|おかしな|話、|女性遍歴——査察官の|冗長な|話から|引き出せるのは|それだけだった。
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「陽気な|やり手!||大した|女たらし!」

「テラスで|お食事に|なりますか、|警部?」と|タルディヴォンが|尋ねた。
メグレは|気づかぬうちに|ホテルに|着いていた。

「どっちでも|いい」

「それで?|捜査は?」

「終わったと|思っていい」

「え?|犯人は?」

しかし|メグレは|肩を|すくめて|通り過ぎ、|料理の|匂いが|立ち込める|廊下を|抜けて、|書類が|テーブルの|上にも|暖炉の|上にも|床にも|積み上がったままの|部屋に|入った。
死者を|かたどった|衣服には|誰も|触れていなかった。
メグレは|かがんで|床に|刺さった|ナイフを|引き抜き、|それを|いじりながら|部屋を|行ったり|来たりし始めた。
空は|一様な|灰色の|嵐雲に|覆われ、|向かいの|白い壁が|対照的に|まぶしく|輝いていた。
警部は|窓から|ドアへ、|ドアから|窓へと|歩き、|時折|暖炉の|上の|写真に|目を|やった。

「ちょっと|来てください!」と|メグレは|おそらく|三十度目に|窓の前に|来た時に|突然|言った。
壁の|上の|木の葉が|揺れた。||メグレが|サン=テレールの|隠れきれていない|顔を|見抜いた|あたりで。
城主は|最初|後ずさりしたが、|冗談めかそうと|しながら|くぐもった|声で|尋ねた。

「飛び降りる|んですか?」

「柵の|方から|回ってきてください!||その方が|楽だ」

鍵は|テーブルの上に|あった。||メグレは|それを|無造作に|壁の|向こうに|投げ、|部屋の中を|歩き続けた。||鍵が|そのあたりに|積もった|ゴミの|中に|落ちる|音が|聞こえた。||次いで|樽が|動く音、|葉や|枝の|擦れる音が|した。
サン=テレールの|手は|震えていたに|違いない。||錠前に|鍵が|当たる音が|長い間|続いてから、|やっと|蝶番の|きしむ音が|聞こえた。

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しかし|小さな|城の|主人が|窓の|ところに|たどり着いた|時には|すっかり|落ち着きを|取り戻していて、|陽気な|声で|言った。

「あなたの|鋭い|目は|逃れようが|ない!||この事件に|すっかり|魅せられてしまって、|あなたが|戻るのを|見て|こっそり|様子を|窺えば、|あなたと|同じくらい|事情が|わかって、|次に|お会いする|時に|驚かせられると|思ったんです。||回って|きましょうか?」

「いや!||窓枠を|またいで|きてください」
サン=テレールは|軽々と|またいで|入り、|周りを|見回して|言った。


「妙なものですね。||こうして|事実を|再現する|雰囲気。||この衣服も。||あなたが|こう|演出したんですか?」
メグレは|パイプに|ゆっくりと|煙草を|詰めながら、|人差し指で|一つまみ|ずつ|十数回|たたき込んでいた。

「マッチを|持っていますか?」

「ライターなら。||マッチは|使わないので」

警部の|視線が|暖炉の|灰の|近くに|ある|先端の|焦げた|三本の|緑がかった|マッチ棒を|とらえた。

「なるほど!」と|メグレは|言った。||その|言葉が|何を|指しているのか|誰にも|わからなかった。

「何か|聞きたいことが?」

「まだ|わからない。||あなたを|見かけて。||文字通り|五里霧中なので、|頭の|切れる|人なら|何か|ヒントを|くれるかと|思って」
メグレは|テーブルの|端に|腰かけ、|パイプの|火皿を|相手が|持つ|ライターに|向けた。


「ほう!||左利きですね」

「私が?||でも。||いや!||たまたまです!||なぜ|左手で|ライターを|差し出したのか|自分でも|わかりません」

「窓を|閉めて|いただけますか?||ご親切に」
メグレは|目を|離さず、|サン=テレールの|動きが|一瞬|止まったのを|見逃さなかった。||男は|明らかに|意識して|右手で|窓の|掛け金を|回した。

- rue Creuse(クルーズ街)
ネヴェール市内の通り。フランス語で「窪んだ道」の意。作中では、間接税徴税官がメグレを秘密裏に呼び出す舞台となり、ガレの過去が明かされる重要な場面の舞台となる。 ↩︎ - 作品中では「contrôleur des contributions indirectes」と書かれており、間接税徴税官(または査察官)と訳せます。
間接税(contributions indirectes)とは、酒類・タバコ・塩などの消費に課される税のことで、直接所得に課す直接税とは区別されます。フランスでは国家の重要な財源でした。日本で言えば|酒税やタバコ税に|近い性格のものです。
徴税官の仕事も|現代の税務署員とは少し異なり、|酒造業者や醸造所・蒸留所などを|巡回して|生産量を確認し、|脱税や密造がないかを|監査するのが|主な仕事でした。|地方の酒蔵や農家を|定期的に回る、|地味で|目立たない職業です。安定した公務員ですが、決して華やかな職業ではなく、地方の中産階級に属する典型的な人物像です。
↩︎ - 査察官の「マレー人の復讐」説は、メグレにとってはほぼ無意味な情報です。
査察官は得意げに「マレー人の復讐者が犯人だ」と主張しますが、メグレは最初から冷ややかです。「うつろな目で待ちながら、遮っても無駄なこの長口上を上の空で聞いていた」という描写がそれを物語っています。
ただし、査察官の話には一つだけ重要な機能があります。
ガレがインドシナ時代に「いんちきな結婚」を仕組んだという過去のエピソードが明かされることで、読者はガレという人物の本質——他人を騙すことに長けた男——を理解します。これは後にメグレが真相を解明する際の伏線になっています。ガレは被害者でありながら、詐欺師でもあった。その二面性が事件の核心に関わっているからです。
また査察官自身の人物像——自分を重要人物と思い込み、陰謀めいた演出を好む小役人——は、シムノンが得意とする地方の小市民の滑稽な描写として、物語に色彩を添えています。メグレ・シリーズではこういった「空回りする証人」がしばしば登場します。
↩︎ - フランスの王党派は大きく二つに分かれていました。
正統王朝派(légitimistes)はブルボン家の血筋を正統な王位継承者とする派閥です。
これに対しオルレアン派(orléanistes)は、1830年の七月革命で即位したルイ=フィリップ(オルレアン家)の子孫を支持する派閥で、より穏健な立憲君主制を志向していました。
さらにボナパルト派(bonapartistes)も存在し、ナポレオン一世・三世の血統による帝政復活を望む勢力です。
三派はそれぞれ別の「正統性」を主張して対立していました。作中の舞台である1930年代のフランスでは、いずれも政治的影響力をほぼ失っていましたが、地方の旧家や貴族層にはまだ信奉者が残っており、ガレはその「夢の残骸」につけ込んで詐欺を働いていたわけです。
↩︎ - メグレの推理はこうです。サン=ティレールが犯人だとすると、彼は自分の敷地内にいて、壁越しにガレを撃った後、ガレの部屋に入って死体を確認し、証拠を漁る必要があります。
しかし壁を越えてホテル側に降りるより、柵の鍵を使って小道に出てホテルの窓から入る方が、体への負担が少なく、かつ不審を抱かれにくい。実際、柵の鍵は普段は二つの石の間に隠されていて、サン=ティレールの庭師もその場所を知っていました。
ところがここに問題があります。壁で銃撃してから柵まで遠回りすると、少なくとも3分かかります。その間、頭を吹き飛ばされたガレが叫ばず、倒れず、じっとしていたことになります。
↩︎ - この場面でのメグレの心理は複雑です。
捜査がこの時点で行き詰まっていました。ジャコブは何も知らず、サン=ティレールも犯人ではなく、アンリとエレオノールも殺していない。すべての容疑者が消えかかっていました。
そこへきてエレオノールという人物は、メグレにとって特別な不快感を与える存在でした。彼女はガレの脅迫者として老いたジャコブに5フランだけ渡し、10本ものメトロやバスを乗り継いで尾行を巻き、二つ出口のある建物を抜けて姿を消す、冷酷で計算高い女です。しかもメグレと面談した際も、死体の写真を前にしても平然とし、一切動じませんでした。
つまりメグレが彼女を避けたのは、彼女が疑わしいのに証拠がない、話しても何も引き出せない、むしろ巧みにかわされるだけだ、という無力感からです。捜査が袋小路に入り込んでいる時に、最も手強い相手と向き合うだけの気力がなかった、ということです。 ↩︎



