政治経済|W杯はNHKで、WBCはNetflixで

日本

スポーツ放映権をめぐる新たな現実

メディア・スポーツビジネス

2026年6月 / 放送・配信

2026年春、多くの野球ファンが戸惑いを感じたはずです。ワールドベースボールクラシック(WBC)が、NHKや民放ではなく、動画配信サービスのNetflixでしか観られない——。一方で、サッカーのFIFAワールドカップは引き続きNHKや民放各局で放送されています。なぜ、同じ「国際スポーツの祭典」でこれほどの違いが生まれたのでしょうか。


WBCの場合

「入札に負けた」ではなく、「土俵に上がれなかった」

WBCを主催するWorld Baseball Classic Inc.(WBCI)は、今大会の日本向け放映権料を、前回から約5倍にあたる150億円規模に引き上げました。これは、2023年大会の爆発的な成功が原因です。大谷翔平を擁した侍ジャパンの優勝で日本中が熱狂し、視聴率や経済効果が過去最大規模になりました。
グローバルな放映権市場全体の高騰もあり、主催のWBCIからすれば、「これだけの価値があるコンテンツなのに、放映権料が安すぎた」という認識が生まれたのは自然な流れです。
この価格を前に、日本のテレビ局は複数局が費用を分担する「ジャパンコンソーシアム(JC)」方式での対応を模索しましたが、それでも予算的に折り合わず、交渉の入口にも立てなかったとみられています。

競り合って敗れたというより、値段を見た時点で諦めたというのが実態に近く、Netflixが早々に独占配信権を取得した形となりました。Netflixという新しい買い手の登場も時代の流れでしょう。

Netflixにとって、スポーツのライブ中継は新規加入者を獲得するための強力な切り札です。エンターテインメント専業の収益モデルを持つ同社は、単純な「試合中継のコスト」という視点ではなく、「加入促進への投資」として巨額の放映権料を捻出できます。テレビ局とは根本的に異なる算盤勘定です。

テレビ局の見方

放送コスト

広告収入との収支バランスで判断するため、権利料に上限が生じる

Netflixの見方

加入者獲得投資

サブスク契約を増やすための費用と捉えるため、高額でも正当化しやすい


W杯の場合

長年の商慣行と、FIFAの方針が支える「地上波の枠組み」

2026年北中米大会では、NHK・日本テレビ・フジテレビの3局が国内放送権を確保し、さらにDAZNが全試合をライブ配信するという形になっています。W杯の放映権料もここ数大会で急激に高騰していますが、それでも地上波放送が維持されている背景には、主にふたつの理由があります。

ひとつは、FIFAが長年にわたってテレビ局連合(コンソーシアム)との取引関係を重視してきたことです。FIFAは放映権料の最大化だけでなく、「できる限り多くの人にW杯を届ける」という公共性の観点も持ち合わせており、地上波放送を完全に排除する動きには慎重です。もうひとつは、テレビ局が複数局で費用を折半する仕組みを長年維持してきたことで、高額な権利料にも対応できる体力を保ってきた点です。

ただし、この枠組みが永続する保証はありません。笹川スポーツ財団の分析でも、メガスポーツイベントにおける動画配信会社の存在感が増す一方、テレビ局の影響力は低下しつつあることが指摘されています。


「誰でも観られる」時代の終わりは近い!?

今回のWBCは、日本のスポーツ放送史における転換点と言えるかもしれません。放映権市場に参入した配信プラットフォームが「テレビ局には出せない金額」を積み上げていくなかで、地上波で誰でも無料で観られるスポーツの範囲は、今後も縮小していく可能性があります。W杯や五輪がいつまで地上波で観られるのか、業界関係者だけでなく、スポーツファン全員が意識しておくべきテーマになってきています。