死んだガレ|第二章 眼鏡の青年

死んだガレ氏

Gallet décédé(1931)

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第二章 眼鏡の青年

テラスに|残っている|客は|二、三組|だけになった。||二階の|部屋からは|寝かしつけられるのを|嫌がる|子供たちの|声が|聞こえた。

開いた|窓の|向こうで|女の|声が|言った。

「あの|太った|おじさんが|見えた?||警察の|人よ。||言うことを|聞かないと|牢屋に|入れられるよ」


食事を|しながら|ぼんやりと|あたりを|眺めていると、|メグレの|耳に|しつこい|ぶんぶんという|音が|聞こえていた。||ヌヴェールの|グルニエ捜査官が|しゃべりたいから|しゃべっているのだ。


「何か|盗まれて|いれば|よかったんですよ。||そうすれば|話は|単純になる。||今日は|月曜日。||犯行は|土曜から|日曜に|かけての|夜。||お祭りの|夜でした。||ああいう|日は|見世物師のほかに、|いろんな|連中が|うろつく。||田舎を|ご存知|ないで|しょうが、|警部さん。||パリの|どんな|場所より|ひどい|人間が|いますよ」


「つまり」と|メグレは|さえぎった。
「祭りが|なければ|犯行は|すぐ|発覚して|いたと」


「どういう|ことですか?」


「射的と|爆竹の|おかげで|誰も|銃声を|聞かなかった。||ガレが|頭の|傷では|死んで|いないと|おっしゃって|いましたね?」


「医師の|見解です。||解剖で|確認されます。||まず|頭に|銃弾を|受けた。||それでも|二、三時間は|生きられた|はずです。||その|直後に|胸を|一突きされ、|即死した。||ナイフは|見つかって|います」


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ページ16

「拳銃は?」


「見つかりません」


「ナイフは|部屋に|あったんですか?」


「遺体から|数センチの|ところに。||それに|ガレの|左手首に|あざが|あります。||傷を|負いながら|犯人に|向かって|突進する|際に、|自分で|武器を|振り上げたのでしょう。||でも|体力が|なかった。||犯人が|手首を|つかみ、|ひねって|刃を|胸に|刺し込んだ。||私の|見立てですが|医師も|同意見です」


「つまり、|祭りが|なければ|ガレは|死なずに|すんだかもしれない」


メグレは|巧みな|推理を|披露しようとも、|地方の|同僚を|驚かせようとも|していなかった。||この考えが|引っかかって|いた。||どこへ|続くのかと|興味を|もって|追っていた。

メリーゴーラウンドと|射的と|爆竹の|騒ぎが|なければ|銃声が|聞こえたはずだ。||ホテルの|客が|駆けつけて、|ナイフで|刺される|前に|助けられたかも|しれない。

夜が|すっかり|落ちた。||川面に|わずかな|月の|反射と、|橋の|両端に|立てられた|二つの|ランタンが|見えるだけだった。||ホテルの|カフェの|中では|客が|ビリヤードを|していた。


「妙な|話ですな」と|グルニエ捜査官は|まとめた。
「ところで、|もう|十一時に|なりませんか?||列車が|十一時三十二分で、|駅まで|十五分かかるんです。||何か|消えたものが|あれば|話は|別なんですが」


「見世物小屋は|何時に|閉まりますか?」


「真夜|0時。||規則です」


「すると|犯行は|真夜|0時より|前で、|ホテルの|客が|まだ|全員|寝て|いない|時間だった|ことになる」


二人は|それぞれ|自分の|考えに|沈んでいて、|会話は|とぎれとぎれに|続いた。


「クレマン|という|名前の件ですが。||オーナーから|聞いたでしょう。||ときどき|来て|いた。||六ヶ月に|一度くらい。||最初に|泊まったのは|十年以上|前です。||いつも|クレマン、|オルレアン1在住の|資産家と|名乗っていた」


「商業外交員が|よく|持ち歩く|サンプル入りの|鞄は?」


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ページ17

「部屋では|そんなものは|見かけませんでした。||オーナーなら|わかるでしょう。||<ムッシュー=タルディヴォン>! ちょっと|いいですか。||パリから|来た|メグレ警部が|お聞きしたいことが|あるそうです。||クレマンさんは|いつも|商業外交員の|サンプル鞄を|持って|いましたか?」


「銀食器が|入った」と|メグレは|補足した。


「いいえ。||いつも|身の回りの|荷物を|入れた|旅行鞄を|持って|いました。||身だしなみには|とても|気を使う|方でした。||普通の|ジャケット姿を|見たことが|ない。||たいてい|黒か|濃いグレーの|フロックコートを|着て|いました」


「ありがとう」


メグレは|ガレが|ノルマンディー|全域の|代理人を|務めて|いた|ニエル商会の|ことを|考えて|いた。||贈り物用の|銀細工を|専門とする|会社で、|ガラガラ、|格式ある|ゴブレット、|銀の|カトラリー2、|果物籠、|肉切りセット、|ケーキサーバーなどを|扱っていた。

給仕が|運んできた|小さな|アーモンドケーキを|ぱくりと食べ、|パイプに|タバコを|詰めた。


「一杯|いかがですか?」と|タルディヴォンが|聞いた。


「ぜひ」


オーナーは|自分で|瓶を|取りに|行き、|二人の|警察官の|テーブルに|腰をおろした。


「捜査を|続けられるのは|あなたですか、|警部さん?||大変な|話ですね。||シーズンが|始まった|ばかりだと|いうのに。||今朝だけで|七人の|客が|コメルス3に|移って|しまいました。||お二人の|ご健康を。||クレマンさんの|ことですが。||そう|呼ぶのが|すっかり|身に|ついて|しまって。||それに|本名じゃ|ないなんて、|誰が|疑いますか?」


ホテルの|テラスは|どんどん|閑散と|してきた。||ボーイが|テーブルを|縁取っていた|鉢植えの|月桂樹を|壁際に|片づけていた。||対岸を|貨物列車が|通り過ぎ、|三人は|思わず|丘のふもとを|走りぬける|赤みがかった|光の輪を|目で|追った。

タルディヴォンは|大きな|屋敷の|料理人として|キャリアを|始めた|人物で、|その|名残として|ある種の|重々しさと、|相手に|身を|傾けながら|やや|見下したように|話す|癖が|残っていた。


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ページ18

「一番|驚いたのはね」と|タルディヴォンは|アルマニャックの|グラスを|両手で|温めながら|言った。
「犯行が|もう少しで|起きなかったかも|しれないと|いうことですよ」


「見世物市|ですよ!」と|グルニエは|先走って|警部に|目配せした。


「見せ物市?||何のことか|わかりません。||ええと、|クレマンさんが|土曜の朝に|着いたとき、|私は|青い部屋を|お渡しした。||私たちが『イラクサの小道』と|呼んでいる|道に|面した|部屋です。||あの道は|左手に|見えますよね。||使われなく|なってから|イラクサが|生い茂ったので|そう|呼んで|います」


「なぜ|使われなくなったのですか?」と|メグレが|聞いた。


「道の|すぐ先に|壁があるのが|見えますね?||サン=ティレール|さんの|館の|壁です。||土地では|『小城』と|呼んで|います。||丘の上にある|古い|サンセールの|お城と|区別するためです。||ここから、|物見やぐらが|見えますよ。||立派な|庭園が|あります。||昔、|オテル・ド・ラ・ロワールが|まだ|なかった頃は、|庭園が|ここまで|続いていて、|鉄の|門扉のある|正面玄関が|イラクサの|小道の|突き当たりに|ありました。||今でも|門扉は|ありますが、|五百メートル|先の|埠頭に|新しい|入口が|できたので|使われていません。||クレマンさんには|青い部屋を|お渡しした。||窓が|こちら側に|向いて|ます。||静かで|誰も|通りません。||道も|どこにも|通じていない。||ところが|午後に|戻ってきた|クレマンさんが、|中庭に|面した|部屋は|ないかと|おっしゃった。||空いている|部屋は|ありませんでした。||冬なら|選り取り見取り|ですが、|決まった|日程で|回る|商業外交員くらいしか|来ません。||でも|夏は!||うちの|客の|ほとんどが|パリの|人たちです。||ロワールの|空気に|かなうものは|ないですからね。||クレマンさんには|お断りして、|あなたの|部屋が|一番|いい部屋だと|申し上げました。||中庭には|鶏や|ガチョウが|います。||しょっちゅう|井戸から|水を|汲みますが、|チェーンは|油を|差してあっても|きしみます。||クレマンさんは|引き下がりました。||でも|仮に|中庭に|面した|部屋が|空いていたら、|あの方は|死なずに|すんだのです」


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ページ19

「なぜ?」と|メグレが|小声で|聞いた。


「銃弾は|少なくとも|六メートルの|距離から|撃たれたと|聞いて|いませんか?||部屋は|五メートルしか|ありません。||つまり|犯人は|外にいた。||イラクサの|小道が|人気のないことを|利用したのです。||中庭には|入れなかったはず。||入ろうとすれば|聞こえたでしょう。||もう一杯|いかがですか?||もちろん|私の|おごりです」


「二つ目だ」と|メグレは|言った。


「二つ目の|何ですか?」と|グルニエが|聞いた。


「偶然です。||まず|お祭りが|なければ|銃声が|聞こえた。||次に|中庭に|面した|部屋が|すべて|ふさがって|いなければ|ならなかった」


メグレは|グラスを|満たしている|タルディヴォンの|ほうを|向いた。


「今|何人|泊まっていますか?」


「子供を|含めて|三十四人|です」


「犯行後に|出た|客は?」


「七人です。||パリ郊外、|サン=ドニから|来た|家族で、|機械工か|何かの男と|その妻、|義理の母、|義理の姉妹、|子供たち。||行儀の悪い|連中で、|コメルスに|移って|くれて|よかったですよ。||うちは|うちの|客が|いる。||誰に|聞いても|わかりますが、|ここには|きちんとした|方しか|来ません」


「クレマンさんは|日中|何を|していましたか?」


「なんとも|言えません。||徒歩で|出かけていました。||あるとき、|近くに|隠し子でも|いるのかと|思いましたよ。||ただの|想像ですが、|つい|いろいろ|考えてしまうもので。||礼儀正しい方で、|いつも|悲しそうな|顔を|していました。||食事は|一度も|テーブルホテルでは|とりませんでした。||冬は|テーブルホテル4を|やっていますが、|クレマンさんは|いつも|隅の|席に|一人で|座っていました」



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ページ20

メグレは|ポケットから|洗濯屋が|使うような|黒い|油紙の|表紙の|安っぽい|手帳を|取り出し、|鉛筆で|書きつけた。

1.ルーアンに|電報。
2.ニエル商会に|電報。
3.中庭を|視察。
4.サン=ティレールの|館に|関する|情報収集。
5.ナイフの|指紋。
6.宿泊客の|リスト。
7.コメルスホテルの|機械工の|家族。
8.二十六日の|日曜に|サンセールを|去った|人物。
9.二十五日の|土曜に|ガレを|見かけた人に|懸賞金を|出すと|町の|触れ役5で|告知。


ヌヴェールの|同僚は|無理に|笑顔を|浮かべながら、|メグレの|一挙一動を|目で|追っていた。


「どうです?||もう|見当が|つきましたか?」


「何も。||電報を|二本|打って|寝る」


カフェには|もう|地元の|人間が|ビリヤードの|締めを|しているだけだった。||メグレは|イラクサの|小道を|ちらりと|見に|行った。||かつて|大きな|屋敷の|中央並木道だったところで、|二列の|立派な|樫の木が|残っていた。||鬱蒼とした|草木が|すべてを|覆いつくしていた。||この|時間では|何も|見えなかった。

グルニエが|駅へ|向かおうと|したので、|メグレは|引き返して|握手をした。


「うまくいくと|いいですね。||でも|正直に|言うと、|これは|たちの悪い|事件ですよ。||派手なことは|何もない。||手がかりも|つかみどころも|ない。||まあ、|本音をいえば|あなたに|押しつけることが|できて|よかったと|思っていますよ」


警部は|ホテルの|一階の|部屋に|案内された。||蚊が|頭の|まわりで|演奏を|始めた。||気が|重かった。||これから|待って|いる|仕事は|暗く、|凡庸で、|気の|進まないものだった。

それでも、|横になると|眠れずに、|ガレの|顔を|思い浮かべ|はじめた。||頬の|片方しか|見えなかったり、|顔の|下半分しか|見えなかったりした。

何度も|ぎこちなく|寝返りを|打った。||砂州の|ほとりを|ちゃぷちゃぷと|流れる|川の|せせらぎが|聞こえた。

どんな|刑事事件にも|それぞれの|特徴が|ある。||早かれ遅かれ|それを|つかむことが|できる。||そして|それが|しばしば|謎を|解く|鍵に|なる。


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ページ21

この事件の|特徴は|平凡さでは|ないか?

サン=ファルジョーの|平凡さ。||みすぼらしい|一軒家。||初聖体拝領の|少年の|肖像と、|ピアノの上の|肩の|裁ちが|悪い|上着を|着た|父親の|写真|という|貧相な|飾りつけ。

サンセールの|平凡さ。||安上がりの|避暑。||二流の|ホテル。

すべての|細部が|この|灰色の|風景を|重くしていた。

ニエル商会の|代理人——偽物の|銀細工、|偽物の|贅沢、|偽物の|上品さ。

おまけに|見世物市と|射的と|爆竹。

そして|極めつけは、|学校の|中庭の|砂ぼこりの|中を|転がった、|偽ダイヤで|飾られた|ガレ夫人の|借り物の|上品さを|象徴する|あの|帽子。


翌朝、|未亡人が|始発列車で|サン=ファルジョーへ|発ち、|エミール・ガレの|遺体を|おさめた|棺が|貸し荷車で|「レ・マルグリット」へ|向かったと|知って、|メグレは|ほっとした。

早く|片づけたかった。||判事も|七人の|夕食会を|ひかえた|医師も|グルニエも|みんな|去った。

ようやく|具体的な|仕事が|残った。

まず|昨晩|打った|電報の|返信を|待つ。||次に|犯行のあった|部屋を|調べる。||そして|犯行に|及んだ|可能性の|ある|人物、|つまり|容疑者を|当たる。

ルーアンからの|返信は|すぐに|来た。

ルーアン警察より。||オテル・ド・ラ・ポストの|従業員を|聴取した|ところ、|受付係の|イルマ・ストラウスが|次のように|証言した。||エミール・ガレと|名乗る|人物から|封筒に|入れた|葉書を|受け取り、|転送|していた6。||月に|百フランを|受け取っていた。||この|取引は|五年前から|続いており、|前任の|受付係も|同様の|取引を|していたと|思われる。

三十分後、|今度は|ニエル商会から|電報が|届いた。

エミール・ガレは|一九一二年より|当社と|無関係。


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ページ22

ちょうど|町の|触れ役が|巡回を|始めた頃だった。||メグレが|朝食を|すませて|ホテルの|中庭を|調べていると、|道路工が|話をしたいと|来ていると|告げられた。


「サン=チボー7へ|向かう|道を|歩いていたんですよ」と|男は|話しだした。
「そこで|クレマンさんを|見かけました。||何度か|会ったことがあって、|特に|あの上着で|覚えていました。||ちょうど|農場の|道から|若い男が|出てきて、|二人が|鉢合わせに|なりました。||私は|百メートルほど|離れていましたが、|口論に|なっているのは|よくわかりました」


「すぐ|別れたのか?」


「いいえ。||しばらく|坂を|一緒に|上っていきました。||それから|年寄りだけが|引き返してきた。||三十分ほど後に、|広場で|若いほうを|コメルスホテルで|見かけました」


「どんな|男だった?」


「背が高くて|痩せていました。||面長で|眼鏡を|かけていました」


「服装は?」


「はっきりとは|言えませんが、|グレーか|黒っぽい|感じでした。||五十フランは|もらえますか?」

メグレは|金を|渡し、|昨晩|食前酒を|飲んだ|コメルスホテル8へ|向かった。


その|若い男は|六月|二十五日の|土曜に|そこで|昼食を|とっていたが、|ウェイターは|二十キロほど|離れた|プイィー9に|休暇で|出かけていた。


「泊まって|いないのは|確かですか?」


「宿帳に|載って|いません」


「誰か|覚えて|いる人は?」


受付係が|バターなしの|麺を|注文した|客が|いて、|わざわざ|作ったと|思い出した。


「柱の|左側の|席に|座って|いた|青年で、|血色の|悪い|顔でした」


暑く|なって|きていた。||そして|メグレは|もう|朝の|無気力な|態度では|なくなっていた。


「面長で|薄い|唇?」


「ヒキガエルみたいな|大きな|口でした。||コーヒーも|食後酒も|いらないと|いって。||まあ|ああいう|客って|いますよね」


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ページ23

なぜ|メグレは|ふと|カトリックの|通過儀礼の|写真の|少年を|思い浮かべたのか?

メグレは|四十五歳だった。||人生の|半分を|警察の|様々な|部署で|過ごしてきた。||風紀係、|路上係、|社交界係、|駅係、|賭博係。

そんな|経験は|神秘主義への|あらゆる|傾向を|消し去り、|直感を|信じる|気持ちも|奪うには|十分だった。

それでも、|二十四時間近くに|わたって、|父と|息子の|二枚の|写真が|頭から|離れなかった。||それに|加えて|ガレ夫人の|何気ない|一言が。|「食事制限を|していました」

特に|考えも|なく、|メグレは|郵便局に|向かい、|サン=ファルジョーの|役場に|電話を|つないでもらった。


「もしもし、|司法警察です。||ガレさんの|葬儀は|いつですか?」


📞

「明日の|八時です」


「サン=ファルジョーで?」


📞

「ここで、|はい」


「もう|一つ。||そちらは|どなたですか?」


 📞

「小学校の|教員です」


「ガレさんの|息子さんを|ご存知ですか?」


📞

「何度か|見かけたことは|あります。||今朝も|書類の|手続きに|来ました」


「どんな|人ですか?」


📞

「どういう|意味ですか?」


「背が|高くて|痩せていますか?」


📞

「ええ、|どちらかと|いえば」


「眼鏡を|かけていますか?」


📞

「ちょっと|待ってください。||そうです、|思い出しました。||べっ甲縁の|眼鏡です」


「病気かどうか|わかりますか?」


📞

「どうして|わかりますか?||顔色は|悪かったですが」


「ありがとう」



ページ23の翻訳が完了しました。「続き(ページ24)」とおっしゃれば次を翻訳します。

ページ24

十分後、|メグレは|再び|コメルスカフェに|入った。


「受付さん、|先日の|土曜の|客は|眼鏡を|かけてたか?」


受付係は|記憶を|たぐってみたが、|結局|首を|振った。


「そうだったかも|しれないし、|そうでないかも。||夏は|客が|多くて。||印象に|残っているのは|口です。||ウェイターに|ヒキガエルみたいな|口だと|言ったほどで」


道路工の|男を|見つけるのには|もっと|時間が|かかった。||教会の|裏に|隠れた|小さな|居酒屋で|仲間と|一緒に|五十フランを|飲んでいたからだ。


「あんたが|言っていた|男は|眼鏡を|かけてたね」


「若いほうはね。||年寄りは|かけていなかった」


「どんな|眼鏡だった?」


「丸くて、|黒い縁でした」


翌朝、|起きてみると、|メグレは|遺体が|ガレ夫人や|判事や|医師や|警察官たちと|一緒に|出発|したことを|知って|ほっとした。

ようやく|客観的な|問題と|向きあえる。||顎鬚の|老人の|奇妙な|顔を|思い浮かべずに|すむと|期待した。

午後|三時、|メグレは|サン=ファルジョー|行きの|列車に|乗った。

エミール・ガレについて|これまでに|見たのは、|写真と|顔の|半分と|青白い|遺体だけだった。

今度は|永久に|閉じた|棺しか|ないだろう。

それでも、|列車が|動き出すと、|死者を|追いかけている|ような|妙な|居心地の|悪さを|感じた。

サンセールでは、|タルディヴォンが|がっかりして|上客に|アルマニャックを|ふるまいながら|こう|もらしていた。


「真面目そうな|方でしたよ。||私たちと|同じ|年ごろの方が。||それが|部屋にも|入らずに|行ってしまわれた。||死んだ場所を|見たいと|おっしゃる方が|いますが、|まあ|珍しい|ことですから。||もっとも|ヌヴェールの|警察が|やっただけですが。||遺体を|運び出す前に、|まず|チョークで|床に|体の|輪郭を|描いていきました。||何も|触らないように|言っておいて。||こういう|事件は|どこへ|波及するか|わかりませんからね」


ページ24の翻訳が完了しました。「続き(ページ25)」とおっしゃれば次を翻訳します。

  1. オルレアン(Orléans)は、フランス中部・ロワレ県の県庁所在地で、パリから南へ約百三十キロのところにある歴史的な都市です。ロワール川沿いに位置し、百年戦争でジャンヌ・ダルクが英軍を撃退した地として有名です。
    この物語でのオルレアンの役割は、ガレの偽名と密接に関係しています。ガレはサンセールのオテル・ド・ラ・ロワールに泊まるとき、「クレマン、オルレアン在住の資産家」と名乗っていました。実際にはガレはセーヌ=エ=マルヌ県サン=ファルジョーに住む商業外交員なのですが、サンセールで別の顔を持つために架空の身元を使っていたのです。
    興味深いのは、オルレアンはサンセールから北へ約百キロほどの距離にあり、ロワール川流域という点では同じ地域圏に属しています。地方の人間には「遠すぎず、かつ見知らぬ町」という絶妙な距離感で、偽名に使うにはもっともらしい選択だったと言えます。メグレは後にオルレアン警察に照会して「クレマン」なる人物が実在しないことを確認します。
    ↩︎
  2. ガラガラ(hochet)は赤ちゃんのおもちゃのがらがらです。銀製の高級なものは洗礼の贈り物として定番でした。一九三〇年代のフランスの中産階級では赤ちゃんの誕生祝いに銀のがらがらを贈る習慣がありました。
    ゴブレット(gobelet de style)は足のない筒型の銀の飲み物カップです。「格式ある」という形容がついているので、アンティーク風のデザインのものです。洗礼や初聖体拝領の贈り物として定番でした。
    カトラリー(couverts en argent)はナイフ、フォーク、スプーンなどの銀の食器類のセットです。結婚祝いの定番贈り物でした。
    つまりニエル商会は「人生の節目の贈り物専門の銀細工店」です。洗礼、初聖体拝領、結婚など、カトリックの通過儀礼に合わせた品揃えになっています。ガレはこうした品々のサンプルを鞄に入れて営業していると偽って十八年間詐欺を続けていたわけです。
    ↩︎
  3. コメルス(Hôtel du Commerce)は、サンセールにあるオテル・ド・ラ・ロワールとは別のホテルです。
    物語の中での役割をまとめると以下の通りです。
    タルディヴォンが「うちから七人の客がコメルスに移った」と嘆いているように、事件の影響でオテル・ド・ラ・ロワールの客が逃げ出した先です。タルディヴォンは「うちは上品な客しか来ない」と言って、コメルスを格下のホテルとして扱っています。
    また、ガレ(クレマン)の息子アンリが土曜日の午後にそのカフェ・デュ・コメルスで食事をしており、そこで父親と鉢合わせしたことが後に判明します。さらにメグレの捜査メモにも「コメルスのホテルに移った機械工の家族」について調べると書かれており、捜査の対象にもなっています。
    つまりコメルスは、オテル・ド・ラ・ロワールの「格下の競合ホテル」として、事件の周辺に何度も登場する場所です。 ↩︎
  4. 本文の「table d’hôte(テーブル・ドート)」のことです。
    フランス語で「主人のテーブル」という意味で、宿泊客全員が一つの大きなテーブルを囲んで、同じ料理を同じ時間に一緒に食べるスタイルの食事形式です。いわば「共同食卓」です。
    現代のホテルのように、好きな時間に好きな席で好きなものを注文するのではなく、決まった時間に全員が同じテーブルに集まって食事をします。一九三〇年代のフランスの地方ホテルでは一般的なスタイルでした。
    タルディヴォンが「冬はテーブル・ドートをやっています」と言っているのは、冬は宿泊客が少なく顔なじみの常連ばかりなので、みんなで一緒に食事をする形式が成り立つということです。
    ガレはそのテーブル・ドートには一度も参加せず、いつも隅の席に一人で座って食事をしていました。これもガレの孤独で秘密めいた性格を示す描写の一つです。 ↩︎
  5. tambour de ville(タンブール・ドゥ・ヴィル) は、フランスの古い制度で、太鼓を叩きながら町を回り、お触れや告知を読み上げる**「お触れ役」「広報係」**のことです。
    現代で言えば町内放送のようなものですが、当時は拡声器がないので、太鼓で人を集めてから口頭でお知らせを読み上げていました。
    この作品での役割は、メグレが**「クレマン氏(=ガレ)を土曜日に見かけた人に懸賞金を出す」**という告知をこのお触れ役に頼んで町中に広めたことです。サン=ティレール氏がその告知を知っていたにもかかわらず黙っていた、という点がメグレの疑惑を深める伏線になっています。
    ↩︎
  6. ガレが封筒に入れた葉書をイルマに送る
    イルマはそのハガキを顧客に転送する
    という流れです。
    おそらくガレは顧客への葉書をあらかじめ書いておき、封筒に入れてイルマに送り、イルマがルーアンの消印を押した形で顧客に発送していたのでしょう。
    こうすることで、顧客には「差出人(ガレ)はルーアン在住」と見せかけることができ、ガレの本当の居場所を隠せたわけです。月100フランはその隠蔽工作の報酬**ということになります。
    ↩︎
  7. サン=チボー(Saint-Thibaut)は、サンセールのすぐ近くにある小さな村で、ロワール川のほとりに位置しています。実はページ10でメグレとガレ夫人が降り立った「トレーシー=サンセール駅」のあるサン=チボーと同じ場所です。また先ほどご説明した「オテル・ド・ラ・ロワール」が実際に建っているのもこのサン=チボーです。
    物語でのサン=チボーの役割は、道路工夫がガレ(クレマン)と若い男——後にアンリ・ガレと判明——が口論しているのを目撃した場所への道として登場します。「サン=チボーへ向かう道を歩いていたとき」という証言です。
    つまりサンセール、サン=チボー、オテル・ド・ラ・ロワールはすべて同じロワール川沿いのごく近い場所に集まっており、物語の主な舞台となっています。 ↩︎
  8. 「オテル・デュ・コメルス(Hôtel du Commerce)」という名前は、一九三〇年代のフランスの地方ではごく一般的なホテル名で、全国各地に同じ名前のホテルが無数にありました。「商業ホテル」という意味で、商業外交員(セールスマン)が安く泊まるための実用的なホテルです。
    シムノンはサンセールに実在したオテル・ド・ラ・ロワールを物語の中心舞台として使いつつ、その「格下の競合ホテル」として典型的な地方ホテルの名前「コメルス」をあてたのだと思われます。現在のサンセールには同名のホテルは確認できません。 ↩︎
  9. プイィー(Pouilly)は、サンセールから北へ約二十キロほどのところにある小さな町で、ロワール川を挟んでサンセールの対岸に位置しています。正式名称はプイィー=シュル=ロワール(Pouilly-sur-Loire)です。
    ワイン好きな方には「プイィー・フュメ(Pouilly-Fumé)」という白ワインの産地として有名な場所です。サンセールワインと並ぶロワール地方を代表する白ワインで、どちらもソーヴィニヨン・ブラン種から作られます。
    物語では「コメルスホテルの給仕が休暇でプイィーに出かけていた」という一行だけに登場します。二十キロほどの近さで、地元の人間にとっては気軽に出かけられる距離です。サンセールとプイィーは対岸同士で昔から交流が深く、地元の人間が休暇に行く場所としてごく自然な選択です。 ↩︎