死んだガレ|第十一章 商談

死んだガレ氏

『Brille Editor System ver.8』用の『BESファイル』を、ZIPファイルに圧縮して公開しています。(2026年4月11日現在未作成)

116


メグレが|背を|向けていると、|サン=テレールは|もう|表情を|取り繕わなかった。||その顔には|奇妙な|混合物が|浮かんでいた。||不安と、|憎しみと、|それでも|なお|ある種の|自信が。


「何を|待っているんですか?」


ついに|動き出した。||窓から|出て、|イラクサの|小道の|柵に|向かい、|庭園の中に|消えた。||その|足取りが|あまりにも|ゆっくりだったので、|多少|不安に|なった|メグレは|耳を|澄ませた。

この|時間、|岸の|方には|テラスの|明るい|後光が|見え、|ナイフと|フォークの|触れ合う|音が、|宿泊客の|くぐもった|話し声と|混じり合っていた。

突然、|壁の|向こうで|枝が|揺れる|音が|した。||闇が|あまりにも|濃かったので、|メグレには|壁の|頂上の|サン=テレールの|シルエットが|かろうじて|見えるだけだった。

また|枝の|折れる|音が|した。||小声で|呼びかける|声。


「受け取って|いただけますか?」


メグレは|肩を|すくめて|動かなかった。||仕方なく|サン=テレールは|来た|道を|戻った。||部屋に|入ると、|まず|テーブルに|拳銃を|置いた。||落ち着いていた。||胸を|張り直した。||そして|ほとんど|さりげない|仕草で|メグレの|腕に|触れた。||しかし|そこには|わずかな|ぎこちなさが|あった。


「二十万では|いかがでしょう?」


咳払いを|した。||大人物らしく、|余裕たっぷりに|見せたかった。||しかし|同時に|顔が|赤らみ、|喉が|詰まるのを|感じていた。


「ふむ、|三十万なら|どうでしょうか」


117


あいにく、|メグレが|感情も|怒りも|なく、|ただ|分厚い|まぶたの|間から|ほんの|わずかな|皮肉の|糸だけを|のぞかせて|見つめると、|サン=テレールは|足元が|崩れ、|後ずさりし、|何かに|しがみつこうと|するように|周囲を|見回した。

変貌は|早かった。||せいぜい|品のない|微笑みを|浮かべるのが|精いっぱいで、|それでも|顔は|真っ赤に|なり、|瞳は|不安で|輝いていた。

大人物の|役を|演じ損ねた。||今度は|別の|役を|試みた。||もっと|厚かましく、|もっと|現実的な|役を。


「ご損ですよ!||そもそも|私は|甘かった。||あなたに|何が|できますか?||時効に|なっています!」


それも|同じく|空々しく|響いた。||対照的に、|メグレは|これほど|静かで|自信に|満ちた|力強さを|示した|ことは|なかっただろう。

彼は|巨大だった。||電球の|下を|通ると|頭が|かすかに|触れ、|肩は|窓の|四角を|満たすほど|だった。||中世の|領主が|膨らんだ|袖で|古い|絵の|額縁に|触れるように。

ゆっくりと|部屋を|片付け続けた。


「私が|殺して|いないことは|ご存知でしょう?」と|サン=テレールは|激して|言った。


ポケットから|ハンカチを|取り出し、|大きな|音を|立てて|鼻を|かんだ。


「座りなさい」と|メグレは|言った。


「立っている方が|いい」


「座りなさい!」


警部が|振り返った|瞬間、|怯えた|子供のように|従った。

視線は|落ち着かず、|自分の|役割を|持て余し|挽回しようと|もがく|男の|崩れた|顔が|あった。


「ネヴェールの|間接税|徴税官を|呼んで|くる|必要は|ないでしょう。||彼の|古い|仲間の|エミール・ガレを|確認してもらう|ために。||彼が|いなくても|真実には|たどり着いた。||時間が|かかるだけでした。||この話には|何かが|きしんでいると|ずっと|感じていた。||理解しようと|しないでください。||物的証拠が|すべて|単純化する|代わりに|複雑にする|方向に|向かうとき、|それは|証拠が|歪められているからです」

118



「この事件では|すべてが、|例外なく、|歪められていた。||すべてが|きしんでいた。||銃撃と|ナイフの|傷も。||中庭に|面した|部屋と|壁も。||左手首の|あざと|失われた|鍵も。||三人の|容疑者でさえも!||しかし|何より|ガレ自身が、|死んでいるときも|生きているときと|同様に|空々しかった。||徴税官が|話さなければ、|死者の|過去を|もっと|さかのぼる|つもりだった。||高校まで|遡れば|真実が|わかったでしょう。||そういえば、|ナントの|高校には|長く|いなかったはずですね」


「二年です。||退学に|なりました!」



「もちろん!||サッカーを|やっていた。||女の子たちを|追いかけも|していた!||きしみが|わかりますか?||この|写真を|見てください。||よく|見て!||あなたが|高校の|壁を|乗り越えて|彼女たちに|会いに|行っていた|年頃に、|この|哀れな|男は|肝臓を|気に|していた!||証拠を|集めるのに|時間が|かかったでしょう。||それでも|肝心なことは|わかっていた。||すぐに|二万フランが|必要だった|この男は、|あなたに|頼む|ためだけに|サンセールに|いた。||あなたは|彼を|二度も|迎えた!||そして|夜、|壁越しに|彼を|観察していた!||彼が|自ら|命を|絶とうとしているのに|気づいていた。||そうでしょう?||もしかしたら|彼自身が|告げていたのでは?」



「いや!||しかし|上ずった|様子でした。||午後、|途切れ途切れの|声で|話し、|気に|なりました」


「二万フランを|断ったんですか?」


「もう|仕方なかった。||切りが|なかったから。||最後には|自腹を|切ることになると|思っていました」


「サイゴンで、|公証人の|ところで、|彼が|遺産を|相続することを|知ったんですか?」


「そうです。||妙な|依頼人が|私の|主人を|訪ねてきた。||二十年以上|奥地に|住み、|三年に|一度も|白人を|見ない|老いた|変わり者でした。||熱病と|阿片の|飲みすぎで|体を|蝕まれていた。||私は|その|会話に|立ち会った。||

119


||『もうすぐ|くたばる!』と、|彼は|そのまま|言いました。||『どこかに|まだ|家族が|いるのかも|わからない。||サン=テレールが|残っているかも|しれないが、|疑わしい。||フランスを|去ったとき、|最後の|一人は|あまりにも|みすぼらしかったから、|肺病で|死んでいるに|違いない。||もし|子孫がいて、|見つけられれば、|その者が|私の|包括受遺者になる』と」


「つまり|あなたは|すでに|一気に|金持ちに|なる|考えを|持っていた!」と|メグレは|夢見るように|言った。||目の前の|汗をかき|居心地の|悪そうな|五十男を|通して、|土着の|若い|女を|手に|入れるために|滑稽な|儀式を|でっち上げた|悪びれない|陽気な|放蕩者が|見えるような|気がした。

「続けてください!」


「女たちのことも|あって、|どのみち|フランスに|戻らなければ|なりませんでした。||向こうでは|少し|やり過ぎていた。||怨みを|持つ|夫や|兄弟や|父親が|いました。||サン=テレールを|探すことを|思いついたが、|簡単では|なかった。||ブールジュ1の|高校で|ティビュルスの|消息を|つかんだが、|その後の|行方は|誰も|知らないと|言われた。||学校では|一度も|友達が|いなかった、|暗くて|内気な|青年だったと|わかった」


「当然だ!||ポケットには|一銭も|なかったんだから!||学費が|払われているだけで|精いっぱいだった」と|メグレは|冷笑した。


「当時の|私の|考えは|何らかの|方法で|遺産を|山分けに|することでした。||まだ|どんな|方法か|わかって|いなかったが。||しかし|分けるより|すべて|取る方が|簡単だと|気づいた。||彼を|見つけるのに|三ヶ月|かかった。||ル・アーブルで、|客船の|スチュワードか|通訳として|雇って|もらおうとしていた。||十二、三フランしか|残っていなかった。||一杯|おごり、|一言一言|聞き出すのに|苦労した。||それでも|ほとんど|一言で|しか|答えなかった。||城館で|家庭教師を|し、|ルーアンで|校正係を|し、|書店員も|していた。||すでに|おかしな|フロックコートを|着て、|赤褐色の|まばらな|あごひげを|生やしていた。||

120


||すべてを|賭けました。||私は、|アメリカで|一旗|揚げたいと|思っている、|向こうでは|貴族の|称号が、|とくに|女性に対して|助けになるからと|話しました。||そして|名前を|買い取ることを|提案しました。||多少の|金は|持っていた。||ナントで|馬商をしていた|父が|小さな|遺産を|残してくれていたので。||ティビュルス・ド・サン=テレールと|名乗る|権利を|三万フランで|買いました」


メグレは|ちらりと|肖像を|見てから、|相手を|足元から|頭まで|眺め、|最後に|目を|じっと|見つめた。||すると|相手は|自ら|しゃべり出した。||妙に|性急な|口ぶりで。


「投資家が|二百フランで|買った|株を|一ヶ月後に|五倍で|売り戻すのと|同じでは|ないですか?||遺産を|四年も|待った!||あちらの|ジャングルに|いる|あの|老いた|馬鹿は|なかなか|死のうとしない。||そして|金を|使い果たした|私は|飢えに|苦しみました。||我々は|ほぼ|同じ|年齢だった。||書類を|交換するだけで|十分でした。

||相手は|私を|知っている|人間に|会うかもしれない|ナントに|二度と|足を|踏み入れない|だけで|よかった。||私の方は|ほとんど|用心する|必要も|なかった。||本物の|ティビュルスには|友達が|一人も|いなかったから。||奉公先でも|たいてい|本名を|使わなかった。||本名の|方が|むしろ|邪魔だったからでしょう。||書店員が|ティビュルス・ド・サン=テレールと|名乗るでしょうか?||その後|新聞で|小さな|記事を|読んだ。||遺産が|あること、|権利者が|いれば|名乗り出るようにと|書いてあった。||あの|奥地の|老いぼれが|残した|百二十万フランを|私が|稼いで|いなかったとでも|思いますか?」


彼は|メグレの|沈黙に|励まされたのか、|再び|自信を|取り戻しかけ、|もう少しで|流し目を|送りそうになっていた。

121



「もちろん、|その頃|結婚していて|裕福でも|なかった|ガレは|飛んで来て、|暗い|顔で|私を|責め立てました。||一瞬、|殺されるかと|思ったほどです。||一万フランを|渡した。||彼は|結局|持っていった。||しかし|六ヶ月後に|また|来た。||さらにまた。||真実を|話すと|脅した。||私は|彼も|私と|同様に|有罪になると|説明しようとした。||しかも|彼には|家族がいた。||彼が|恐れているような|家族が。||だんだんと|彼は|おとなしくなった。||急速に|老いていった。||フロックコートと|あごひげ、|黄色い|肌と|くまのある|目で、|哀れに|見えた。||態度は|物乞いの|ようになっていった。||いつも|まず|五万フランを|要求した。||これで|最後だと|誓いながら。||それが|最後には|千フラン札|一、二枚で|帰っていった。

||しかし|十八年間の|合計を|計算してみてください!||私が|毅然と|していなければ、|結局|損を|していたでしょう。||私は|働いていた!||投資先を|探した!||敷地の|上流に|見える|土地を|すべて|ぶどう畑に|したんです。||その間|彼は。||商会の|ために|出張していると|言っていたが、|実際には|たかりを|職業に|していたんです。||それが|板についてきた。||ご存知のように|クレマンという|名前で|人々を|訪ねた。||私は|どうすれば|よかったと?」


声が|大きくなった。||思わず|立ち上がった。


「例の|土曜日、|彼は|すぐに|二万フランを|要求した。||渡す|気が|あったとしても|できなかった。||銀行が|閉まっていたので。||それに|もう|十分|支払ってる。||彼に|そう言いました。||堕落者と|罵った!||午後に|また|来ました。||あまりにも|卑屈な|態度で、|むしろ|うんざりしました。||

122


||人間は|そこまで|落ちぶれる|権利は|ない。||人生は|賭けだ!||勝つか|負けるかだ!||それでも|もう少し|誇りを|持つべきだ」


「それも|言ったんですか?」と|メグレは|驚くほど|穏やかな|声で|遮った。


「なぜ|いけない?||少し|気概を|与えようとした。||五百フランを|提案した」


暖炉に|もたれた|警部は|死者の|肖像を|手元に|引き寄せた。


「五百フランか」と|繰り返した。


「私が|すべての|支出を|記録している|手帳を|見せましょう。||結局|二十万フラン以上|巻き上げられたことが|わかるはずです。||夜、|私は|庭園に|いた。||あまり|落ち着かなかった。||なぜか|神経が|昂っていた。||壁の方から|物音が|聞こえた。||それから|木の上で|何かを|いじって|いるのが|見えた。||最初は|やられると|思った。||しかし|来た|ときと|同じように|消えた。||樽に|登った。||彼は|部屋に|戻っていて、|テーブルの|そばに|立ち、|私の方を|向いていた。||私の|姿は|見えないはずだった。||わからなかった。||あのとき|恐ろしかった、|誓って|言える。||銃声が|私の|場所から|十メートルの|ところで|鳴り響き、|ガレは|動かなかった。||ただ|右頬が|赤くなっていた。||血が|流れていた。||それでも|立ったまま、|同じ|一点を|見つめ続け、|何かを|待って|いるかのようだった」


メグレは|暖炉の上から|拳銃を|手に|取った。||金属の|編み糸で|できた|ギターの弦のような|紐が|まだ|結わえられていた。||銃身の下には|小さな|ブリキの|箱が|しっかりと|固定されており、|硬い|針金で|引き金と|つながれていた。

メグレは|爪で|箱を|開けた。||中には|市販の|セルフタイマーと|同じ|仕組みの|装置が|あった。||ぜんまいを|巻くと、|一定の|秒数の後に|自動的に|戻る|仕組みだった。

123


しかし|この場合、|仕組みは|三段階で、|三発の|銃声を|引き起こすはずだった。


「一発目で|ぜんまいが|詰まったんだろう」と|彼は|ゆっくりと、|少し|くぐもった|声で|言った。


相手の|最後の|言葉が|耳に|響いていた。
『ただ|右頬が|赤くなっていた。||血が|流れていた。||立ったまま、|同じ|一点を|見つめ続け、|何かを|待って|いるかのようだった』

残りの|二発だ!||射撃の|精度を|信用して|いなかったのだ。||三発|あれば、|少なくとも|一発は|頭に|当たる|確信が|持てる!

しかし|残りの|二発は|出なかった!||ポケットから|ナイフを|取り出した。


「よろめきながら|胸に|刃を|当てた。||そのまま|倒れた。||当然|死んでいた。||あなたが|最初に|思ったのは|これが|復讐だ|ということ。||真実を|明かす|書類を|用意|していたかも|しれない。||私が|殺したと|告発する|書類を。||慎重な|男だ!||冷静でもある!||あなたは|台所に|ゴム手袋を|取りに|行った」


「部屋に|指紋を|残すべきだったと|いうんですか?||柵から|入った。||鍵は|ポケットに。||訪問は|無駄だった!||彼自身が|書類を|すべて|燃やしていた。||恐ろしかった。||開いたままの|目が|気に|なった。||あわてて|戻ったので|柵に|鍵を|かけるのを|忘れた。||あなたなら|どうしていましたか?||完全に|死んでいたんだから。||公証人の|家で|カードを|していた|日、|拳銃が|また|発射されたと|知って|さらに|恐ろしかった。||近づいて|調べた。||触ることは|できなかった。||もし|疑われたら、|それが|私の|無実の|証拠に|なるから。||六発入りの|自動式です。||一発目の|発射で|詰まった|ぜんまいが、|八日後に|気象の|影響で|緩んだと|わかった。||しかし|まだ|三発|残っていたかもしれない。||それ以来|ずっと|庭園を|うろついて|聞き耳を|立てていた。||さっきも|二人で|ここにいる|間、|テーブルの|そばには|近づかないように|していました」

124


「しかし|あなたは|私を|そこに|放置した!||家宅捜索を|ほのめかしたとき、|あなたが|小道に|鍵を|投げたんだ」


夕食を|終えた|宿泊客たちが|道を|行ったり|来たり|していて、|規則正しい|足音が|聞こえた。||台所からは|食器の|がちゃがちゃという|断続的な|音が|届いていた。


「金を|申し出たのは|間違いでした」


メグレは|危うく|笑い出しそうに|なった。||もし|抑えきれなかったら、|その|笑いは|恐ろしいものだっただろう。

自分より|頭一つ|低く、|肩幅も|半分しかない|相手の前に|立ち、|優しさと|凶暴さが|入り混じった|目で|見つめながら、|突然|首を|つかんで|壁に|頭を|叩きつけようと|するかのように|手を|揺らしていた。

それでも|偽ティビュルス・ド・サン=テレールには|自己弁護し、|自信を|取り戻そうとする|哀れな|様子が|あった。

悪事を|する|勇気も|なく、|もしかしたら|自分の|悪を|完全には|自覚さえ|していない、|哀れな|小悪党だ!

それでも|虚勢を|張ろうと|していた!||メグレが|動く|素振りを|見せるたびに|素早く|後ずさりした。||警部が|手を|上げれば、|おそらく|床に|倒れ込んだだろう!


「ガレ夫人に|何か|必要なことが|あれば、|分相応に、|こっそりと|援助する|用意が|あります」


時効は|わかっていた!||しかし|それでも!||落ち着かなかった!||猫と|ねずみの|ゲームを|しているような|警部の|一言が|欲しくて|たまらなかった!


「彼自身が|手を|打っていました」


「新聞で|読みました。||三十万フランの|保険!||驚いた」


メグレは|抑えきれなくなった。


「驚いた、|そうでしょう?||子供の|頃から|小遣いにも|事欠いていた|男が!||『リセ』(名門高校)というものを|ご存知でしょう。||ブールジュの|『リセ』には|中部地方の|大半の|大貴族の|子弟が|通っている。||みな|由緒ある|家柄だ!||そして|彼らと|同じく|古くて|輝かしい|家柄の|苗字を|持っていた。||そして、|『日常生活では』という|珍妙な|唯一無二の|名前も|一緒に。||

125


||しかし|彼は|食事と|授業は|受けられても、|チョコレートも|笛も|ビー玉も|買えなかった。||休み時間は|一人で|隅に|いた。||おそらく|ティビュルスと|同じくらい|みじめな|境遇だった|ピヨン(監督係)2たちだけが|哀れみを|かけていたかもしれない。||彼は|そこを|卒業した!||そして|本屋の|店員に|なった。||やたらと|長い|名前と、|フロックコートと、|肝臓の|病を|抱えて|希望も|なく|さまよった。

||質に|入れるものも|ない!||しかし|ある日、|誰かが|買い取りを|申し出た|名前が|あった。||名前が|なくなっても|相変わらず|貧しかった!||ガレという|名前で|一段|上の|境遇に|なった。||平凡さという|境遇に。||腹いっぱい|食べて|飲めるように|なった。||しかし|新しい|家族は|彼を|疥癬犬のように|扱った。||妻と|息子が|いた。||しかし|妻も|息子も|彼が|出世できないこと、|金が|稼げないこと、|義兄のように|地方議会議員に|なれないことを|責めた。||三万フランで|売った|名前が、|突然|百万フラン以上の|価値に|なった!||彼が|持っていた|唯一のもの!||最も|多くの|苦労と|屈辱を|もたらしたもの!||手放して|しまったもの!||それで|かつての『ガレ』は|陽気な|放蕩者になって、|時々|彼に|施しを|与えていた。||『驚いた』と、|あなたは|そう|言った!||今の『ガレ』は、|何一つ|うまく|いかなかった!||生涯|血を|吐く|思いで|生きてきた!||誰も|一度も|手を|差し伸べなかった。||息子は|反抗し、|自立できるように|なるや|老いた|父を|平凡な|暮らしの|中に|置き去りにして|出ていった。||諦めたのは|妻だけだ!||助けたとは|言わない!||慰めたとも|言わない!||何も|引き出せないと|悟ったから|諦めたのだ!||療養中の|哀れな|男!||そして|彼は|妻に|三十万フランを|残した!||一緒に|暮らしていた|間より|多くの|金を!||三十万フランが|あれば|姉たちが|飛んで来て、|地方議会議員の|愛想笑いまで|買えた。||

126


||ここ|五年は|ただ|生きているだけだった!||肝臓の|発作が|続いた!||正統王朝派から|もらえる|金は|物乞いと|大差なかった!||ここでは|たまに|千フラン札を|手に入れる程度だ。||だが、|ジャコブ|とかいう男が、|その|わずかな|稼ぎの|大半を|持っていく。||驚くべきことだ、|ガレ=サン=テレール!||細々した|出費を|切り詰めながらも、|生命保険を|維持するために|毎年|二万フラン以上を|払い込んでいた。||いつか|絶望が|自分を|押しつぶす|瞬間が|来るか、|でなければ|心臓が|自ら|止まることか、|どちらかだと|予感している。||哀れな|男、|一人ぼっちで、|行ったり|来たり、|どこにも|居場所が|ない。||釣り糸を|たらして|誰にも|会わないとき|だけは|別かもしれないが。||生まれた|時期が|悪かった。||没落した|名家の|生まれで、|その上|苦労して|貯めた|わずかな|金も|無理して|リセの|学費に|つぎ込んだだけで|無くなった。||名前を|売った|時期も|悪かった。3||正統王朝派の|運動が|衰えていた|時期に|それに|手を出したのも|悪かった。||結婚した|時期も|悪かった4。||息子も|義姉や|義兄たちと|同じ|人種だ!||毎日|幸せで|健康な|人間が|望みも|しないのに|死んでいく。||それなのに|間の悪い|彼は|なかなか|死なない!||自殺では|保険が|下りない!||時計や|ばねを|いじり回す。||もう|これ以上は|続けられないと|わかっている。||ついに|ジャコブは|二万フランを|要求してきた!||そんな|金は|ない!||もう|誰も|寄付しない!||ポケットには|ばねを|準備している!||ダメもとで、|自分の|代わりに|百万フランを|手に|入れた|男の|扉を|叩く。||望みは|ないが。||それでも|また|戻ってみる!||だが|すでに|中庭に|面した|部屋を|頼んでいた。||ばね仕掛けは|信用できないので、|井戸という|もっと|単純な|方法を|選ぼうとしていたから。||彼は|滑稽で|不運なまま|人生を|過ごし切った。||

127


||だが|中庭に|面した|部屋は|空いていなかった!||しかも||壁を|よじ登らなければ|ならなくなった!||そして|二発目の|弾丸は|出なかった!||あなたが|言った通りです。||右頬が|赤くなっていた。||血が|流れていた。||立ったまま、|同じ|一点を|見つめ続け、|何かを|待って|いるかのようだった。||彼は|ずっと|何かを|待って|生涯|過ごして|きたのではないか?||少しの|運‥‥それさえも|なかった!||街に|あふれていて|人々が|気にもとめない|ささやかな|喜びの|一つさえも!||最後の|二発目を|待たなければ|ならなかった。||それさえも|来なかった。||自分で|やり遂げるしか|なかった」

メグレが|歯に|くわえていた|パイプの|雁首が|ぽきりと|折れた。||しゃべるのを|やめた|瞬間、|突然|あごを|食いしばったからだ。

相手は|視線を|斜めに|向け、|言葉を|絞り出すように|つぶやいた。


「それでも|詐欺師だったことに|違いはない!」


メグレは|少なくとも|一分間、|動かずに|目を|輝かせながら|相手を|見つめた。||大きな|手が|持ち上がった。||館の|主人の|神経が|恐怖で|張り詰めるのが|わかった。||その|狼狽を|楽しむかのように|手を|宙に|止めたまま、|ついに|男の肩を|ぽんと|叩いた。


「その通りだ!||詐欺師だった!||あなたの方は|時効に|なっている。||そうだろう?」


「法律は|あなたの方が|よく|ご存知でしょうが、|私は|そう|思ってます」


「そうだとも!||時効だ!||しかも|法律では|息子が|不正な|手段で|父親の|財産を|奪っても|犯罪には|ならない。||つまり|アンリ・ガレも|あなたと|同様に|何も|恐れることはない。||今まで|百万フランしか|貯めていない。||愛人の|五十万と|合わせても|百五十万だ。||田舎で|暮らすには|五百万|必要なのに!||

128

||つまり|逮捕すべき|人間は|誰もいない。||残ったのは|死者だけだ。||そして|その|死者は|自ら|命を|断つことで|法の|裁きを|見事に|逃れた。||サン=ファルジョーの|墓地の|こぎれいな|墓石の下に|すべてを|持っていってしまった。||火を|貸してくれ!||もう|遠慮せず|左手を|使っていいぞ。||それに|サンセールに|フットボールクラブを|作る|楽しみを|自分に|禁じる|理由も|なくなっただろう。||名誉会長にでも|なればいい」


突然|表情が|変わり、|鋭く|言った。


「出ていけ!」


「でも|私は‥‥」


「出ていけ!」


またも|サン=テレールは|ふらついて、|しばらく|態度を|決めかねた。


「警部さん、|少し|言い過ぎでは?||もし‥‥」


「ドアからじゃない!||窓からだ!||道は|知ってるだろう。||ほら、|鍵を|忘れてるぞ」


「落ち着いたら|また‥‥」


「そうだ!||あの|発泡ワインを|一箱|送ってくれ。||ご馳走になったやつだ」


相手は|笑えばいいのか|怖がればいいのか|わからなかった。||メグレの|重い|シルエットが|近づいてくるのを|見て、|本能的に|窓の方へ|後ずさりした。


「住所を|教えて|いただいていませんが」


「葉書で|知らせる。||ほら!||その年でも|身が|軽いだろ!」



乱暴に|窓を|閉めると、|むき出しの|電球の|光に|満たされた|部屋に|一人になった。

ベッドは|エミール・ガレが|この部屋に|入ってきた日の|ままだった。||擦り切れない|黒い|ウール地の|フロックコートの|上下が|壁に|ぐったりと|かかっていた。

メグレは|いらいらした|様子で|暖炉の上の|肖像を|つかみ、|司法警察の|レターヘッドの|ついた|黄色い|封筒に|入れて|ガレ夫人の|住所を|書いた。

自動車で|到着した|パリの|連中が、|テラスで|携帯式の|蓄音機を|鳴らし、|大騒ぎを|していた。

129


客たちは|踊ろうと|していた。||タルディヴォンは|高級車への|敬意と|すでに|寝ている|宿泊客たちの|苦情との|間で|板挟みに|なりながら、|客たちと|交渉し、|室内に|入るよう|説得しようとしていた。

メグレは|廊下を|歩き、|カフェを|通り抜けた。||荷馬車屋が|教師と|ビリヤードを|していた。||外に|出ると、|フォックストロットを|踊っていた|カップルが|突然|足を|止めた。

「何て|言ってるの?」

「宿泊客が|もう|寝ているから|静かに|してくれと」 吊り橋の|二つの|灯りが|見え、|時々|ロワール川に|その|反射が|揺れた。

「踊っては|いけないの?」

「室内なら|いい|そうです」

「なんて|詩的なの!」

タルディヴォンは|堅苦しい|様子で|この|やり取りに|立ち会い、|扱いにくい|客の|車を|ため息まじりに|眺めていたが、|メグレに|気づいた。

「小さな|サロンに|お食事の|準備を|しました。||何か|新しいことが?」

蓄音機は|まだ|鳴っていた。||二階では|レース飾りの|ついた|肌着姿の|女が|侵入者たちを|眺め、|もう|寝ているらしい|夫に|叫んでいた。

「あなたも|降りてきて!||黙らせてよ!||もう|眠れないじゃないの!」

一方、|あるカップルは、|おそらく|百貨店の|店員と|タイピストと|思われたが、|自動車客の|肩を|持っていた。||知り合いに|なれれば|いつもより|楽しい|夜に|なるかもしれないと|期待していたのだ。

「夕食は|いりません!||荷物を|駅に|運んで|いただけますか?」

「十一時三十二分の|列車ですか?||お発ちに?」

「発ちます」

「でも|せめて|何か|召し上がらないと。||うちの|名刺を|お持ちですか?」

タルディヴォンは|ポケットから|絵葉書を|取り出した。||印刷の|質の|悪さと|女性の|ファッションから|判断すると、|十二年前に|作られた|ものだった。

130

区切り線の規則に従って翻訳します。


絵葉書には|ロワール・ホテルが|描かれていた。||一階に|旗が|掲げられ、|テラスは|客で|いっぱいだった。||タルディヴォンは|礼服を|着て|玄関口に|立ち、|微笑んでいた。||仲居たちは|皿を|手に|したまま、|カメラの前で|静止していた。

「ありがとう」

メグレは|葉書を|ポケットに|押し込み、|一瞬|イラクサの|小道の|方を|振り返った。

小城館の|一つの|窓に|明かりが|灯った。||メグレは|ティビュルス・ド・サン=テレールが|平静を|取り戻そうと|こんな|言葉を|つぶやきながら|着替えているに|違いないと|確信した。

「あいつも|結局は|理性的に|なったな。||まず|時効だ。||私が|ローマ法を|あいつと|同じくらい|知っていると|感じたはずだ。||それに|ガレは|どのみち|詐欺師だった。||私に|何の|咎がある?」

しかし|部屋の|暗い|隅を|ある種の|恐怖で|見ては|いなかったか?

サン=ファルジョーでは、|ガレ夫人が|髪に|ピンを|さしたまま|品位への|こだわりを|脱ぎ捨て、|隣の|空いた|場所を|手で|探り、|眠りに|つく|前に|静かに|すすり泣いている|部屋の|明かりが|消えて|いくはずだった。

慰めに|なる|姉たちや|義兄たちが|いた。||その|うちの|一人は|地方議会議員だ。||彼らは|また|家族の|輪に|迎え入れた。

メグレは|気もそぞろな|タルディヴォンと|力なく|握手して、|室内で|食事と|ダンスを|することに|した|自動車客たちを|目で|追った。

人気の|ない|吊り橋が|足音に|響いた。||砂州の|周りに|川の|せせらぎが|かすかに|聞こえる|だけだった。

メグレは|同じような|風景の中で、|数年後の|アンリを|思い描いた。||顔色は|より|黄色く、|唇は|より|薄く|長くなっている。||年を|重ねるごとに|顔つきが|険しくなり、|シルエットが|じわじわと|みっともなく|なっていく|エレオノールとともに。

そして|二人は|何かと|いうと|口論する!||取るに|足らない|ことで!||何より|五十万フランの|ことで!

131


なにしろ|あの二人は|金を|手にするのだから!

「よく|言うわよ。||あなたの|父親は|詐欺師じゃないの」

「父の|ことを|言うな!||俺と|出会った|ときの|お前は|何だった?」

「それでも|うまく|やったものね」

メグレは|パリまで|重い|眠りの中で|過ごした。||ぼんやりした|人影が|うごめく、|不快な|夢に|満たされた|眠りだった。

リヨン駅の|ビュッフェで|飲んだ|コーヒーの|代金を|払おうと|ポケットに|手を|入れると、|ロワール・ホテルの|絵葉書が|出てきた。

隣では|若い|お針子が|クロワッサンを|チョコレートに|浸しながら|食べていた。

葉書を|カウンターに|置いた。||外に|出て|振り返ると、|少女が|夢見るように|吊り橋の|たもとと、|タルディヴォンの|ホテルを|縁取る|数本の|木を|眺めているのが|見えた。

「もしかしたら|あの娘が|あの|部屋に|泊まることに|なるかもしれない」と|彼は|思った。

そして|緑がかった|狩猟服を|着た|サン=テレールが|自分の|土地の|発泡ワインを|飲むよう|誘うのだろう!

「お葬式から|帰ってきたような|顔をしているわね!||食事は|したの?」と|リシャール=ルノワール大通りの|自宅に|入ると|メグレ夫人が|言った。

「そうだな」と|見慣れた|部屋を|懐かしく|眺めながら|独り言のように|言った。
「埋葬されているんだから」

それから|夫人には|わからない|言葉を|付け加えた。

「それにしても!||本物の|殺人犯に|殺された|本物の|死者の|事件を|担当したいな。||十一時に|起こしてくれ。||上司に|報告しに|行かないと」

眠るつもりは|なかったが、|そうは|言わなかった。||どんな|報告を|するか、|自分でも|まだ|決めかねていたからだ。

ありのままの|真実を|話せば、|ガレ夫人から|三十万フランの|保険金を|奪い、|息子と|エレオノールと|ティビュルス・ド・サン=テレールに|対立させ、|さらに|姉たちや|義兄たちも|また|彼女に|背を|向けることに|なる。

132


利害と|憎しみと|終わりの|ない|訴訟の|もつれた|糸。||良心的な|裁判官なら|エミール・ガレを|再調査のために|墓から|掘り起こすかも|しれない!

メグレは|もう|死者の|肖像を|持っていなかった。||しかし|その|色あせた|写真は|もう|必要なかった。

右頬が|赤くなっていた。||血が|流れていた。||立ったまま、|同じ|一点を|見つめ続け、|何かを|待って|いるかのようだった。

「安らぎだ!||待っていたのは|安らぎだ!」と|メグレは|決めた|時間より|ずっと|前に|起き上がりながら|うなった。

そして|少し|後、|肩を|斜めに|傾けたまま|上司に|言った。

「空振りでした。||この|厄介な|小さな|事件は|お蔵入りに|するしか|ありません」

しかし|心の中では|こう|計算していた。

「医者は|あと|三年は|生きられないと|言っていた。||保険会社が|六万フラン|損をしたと|しても、|会社の|資本金は|九千万フランだ」


モルサン、「オストロゴット号」船上、1930年夏


訳注

最後の|一行は|シムノンが|この|作品を|書いた|場所と|日付です。||「オストロゴット号」は|シムノンが|所有していた|船で、|彼は|この|船の上で|メグレシリーズの|初期作品を|次々と|書きました。||モルサンは|パリ郊外の|セーヌ川沿いの|町です。

  1. ブールジュ(Bourges)はフランス中部、シェール県の県庁所在地です。パリから南へ約230キロ、サンセールからは約50キロの距離にあります。
    作品との関連では、本物のティビュルス・ド・サン=テレールが父の死後、ブールジュの寄宿学校で十九歳まで学んだ場所として登場します。中部フランスの旧家や貴族の子弟が多く通う格式ある学校が|あった|都市として|描かれています。
    実際のブールジュは|中世の|大聖堂(サン=テティエンヌ大聖堂)で|有名で、|ユネスコの|世界遺産にも|登録されています。||フランス百年戦争の|時代には|シャルル七世の|宮廷が|置かれた|歴史ある|都市です。
    メグレの|台詞の|文脈では、|ブールジュの|高校が|中部地方の|貴族や|大地主の|子弟が|集まる|格式ある|学校として|言及されており、|そこに|本物のティビュルスが|一銭も|なく|通っていたという|対比が|強調されています。
    ↩︎
  2. ピヨン(pion)は、フランスの学校(とくにリセ)では、正式には surveillant(監督員)にあたる俗称で、授業外の時間(休み時間・自習・寮生活)を見張る、若く、地位も低く、あまり裕福でないことが多い職員でした。 ↩︎
  3. 名前を|売った|時期は|1900年代初頭で、|当時は|遺産が|百万フラン以上の|価値に|なることを|知らなかった。||インドシナの|奥地に|いる|老いた|親戚が|そんな|大金を|残すとは|思いもよらなかった。||だから|三万フランという|安値で|売ってしまった。
    しかし|もう|少し|待っていれば、|あるいは|別の|状況で|あれば、|百万フラン以上の|遺産が|自分の|ものに|なっていた。
    つまり「名前を|売った|時期が|悪かった」というのは、|遺産が|転がり込む|直前に|売ってしまったという|タイミングの|悲劇です。
    ↩︎
  4. ガレが|オーロール・プレジャンと|結婚したのは|1902年です。||このとき|彼は|まだ|「ガレ」という|平凡な|名前の|セールスマンで、|三万フランしか|持っていませんでした。
    結婚の|時期が|悪かった|理由は|いくつか|考えられます。
    まず|プレジャン家が|まだ|プライドと|野心を|持っていた|時期でした。||父プレジャンは|まだ|生きていて、|娘に|もっと|出世できる|男と|結婚させたかった。||だから|ガレは|最初から|肩身が|狭かった。
    次に|もし|結婚前に|名前の|遺産の|話が|わかっていれば、|状況は|まったく|違っていたでしょう。||百万フランの|相続人なら|プレジャン家も|歓迎したはずです。
    そして|結婚後に|妻と|息子から|ずっと|蔑まれ続けた。||愛情は|あったのに|報われなかった。
    つまり|タイミングが|少し|違えば|まったく|別の|人生が|あったかもしれない、|という|意味での|「時期が|悪かった」です。
    ↩︎