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第四章 王党派を騙した詐欺師

二度目の|オテル・ド・ラ・ロワールに|着くと、|メグレは|内緒話でも|するような|顔で|迎え、|部屋まで|案内して|宛名の|大きな|黄色い|封筒を|見せようとする|タルディヴォンを|素っ気なく|あしらった。
封筒の|中には|法医学の|報告書と|憲兵隊と|ヌヴェール警察の|調書が|あった。
ルーアン警察も|受付係の|イルマ・ストラウス1に|関する|追加情報を|送ってきた。

「まだ|あります」と|オーナーは|得意げに|言った。
「憲兵隊の|下士官2が|ここえ来て、|着いたら|すぐに|電話を|くれと。||それから|触れ役の|ふれこみを|聞いてでしょう、|三度も|来た|女が|います」

「どんな|女だ?」

「向かいの|庭師の|女房、|カニュ婆さんです。||館の|ことを|お話ししたでしょう?」

「何か|言ってたか?」

「なかなか|抜け目が|ない。||懸賞金が|あるとなれば、|何か|知って|いるとしても|ほかに|先に|言わせる|もんかと。||それだけの|ことですよ」
メグレは|テーブルに|ピンクの|ファイルと|ガレの|写真を|置いた。

「その女を|呼んで|きてくれ。||それから|憲兵隊に|つないでくれ」
少しし|電話口に|下士官が|出て、|命令通りに|半径十里以内の|浮浪者を|全員|集めて|待機させていると|報告した。

「おもしろそうな|奴は|いるか?」3
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「浮浪者ですから」と|下士官は|それだけ|答えた。
三、四分間|メグレは|部屋で|山のような|書類と|向きあった。||まだ|増える|はずだった。||アンリ・ガレと|その|恋人に|関する|情報を|パリに|電報で|照会|していた。||念のため|オルレアンにも|連絡して、|クレマンという|人物が|町に|実在するか|確認させて|いた。
さらに|解剖後に|部屋に|運び込まれた|遺体の|衣服と、|犯行現場の|部屋を|まだ|調べる|時間が|なかった。
最初は|たいした|事件では|ないと|思って|いた。||ホテルの|部屋で|善良な|小市民風の|男が|正体不明の|何者かに|殺された|だけの|話に|見えた。
ところが|情報が|入る|たびに|問題が|解決する|どころか|複雑に|なる|一方だった。
「警部、|入れますか?」と|中庭から|声が|した。||「カニュ婆さんです」

がっしりした|貫禄の|ある|おかみさんが|入って|きた。||いつもより|小ぎれいに|して|きたらしく、|田舎者らしい|疑り深い|目で|すぐに|メグレを|探した。

「クレマンの|ことで?」

「死んだ|紳士の|ことです。||新聞に|顔が出た方。||五十フランは|本当に|もらえますか?」

「六月|二十五日の|土曜に|見かけた|なら、|そうだ」

「二度|見かけたら?」

「百フランに|なるかもしれない。||話して」

「まず|約束して|ください。||主人には|内緒に|してほしい。||旦那が|どうこうじゃなくて、|百フランを|飲みに|行かれたら|困るから。||ムッシュー=ティビュルスに|知られたくないのも|確かです。||だってその方と|一緒に|あの|殺された|紳士を|見たんだから。||最初は|朝の|十一時ごろ。||二人で|庭を|散歩して|いました」

「確かに|見覚えが|あったのか?」

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「あなたを|見分けるのと|同じくらい|確かです。||あんな|方は|そうそう|いません。||一時間ほど|話して|いたと|思います。||それから|午後、|客間の|窓から|二人が|口論して|いるように|見えました」

「何時?」

「五時の|鐘が|鳴った|ところでした。||これで|二度に|なりますね?」

女は|メグレが|財布から|百フラン|札を|出す|手から|目を|離さなかった。||あの|土曜に|クレマンの|後を|つけて|いれば|よかったと|後悔して|いるような|ため息を|ついた。

「三度目も|見たような|気が|します」と|女は|ためらいがちに|言った。
「でも|それは|たぶん|数に|入らないでしょうね。||数分後に|ティビュルス様が|門まで|送って|いきました」

「入らない」と|メグレは|きっぱり|言って|女を|扉の|方へ|押しやった。

パイプに|火を|つけ、|帽子を|かぶって|カフェの中で|タルディヴォンの|前で|足を|止めた。

「サン=ティレールが|小城に|住んで|どのくらいになる?」

「二十年くらい」

「どんな|人だ?」

「感じの|いい|方ですよ。||小太りで|陽気な、|気さくな|方。||夏は|宿泊客が|いるので|あまり|姿を|見せませんが、|まあ|それでも|格が|違いますから。||でも|猟の|季節に|なると|よく|うちに|来ます」

「家族は?」

「奥様を|亡くされて|います。||みんな|ほとんど|ティビュルス様と|呼んでいる。||珍しい|お名前なので。||丘に|見える|ぶどう畑は|全部|あの方の|ものです。||ご自分で|手入れして、|ときどき|パリへ|羽目を|外しに|行って、|また|釘付きの|靴を|履いて|戻って|くる。||カニュ婆さんが|何を?」

「今|いるか?」

「おそらく。||今日は|車が|通る|のを|見かけません|でした」

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メグレは|門に|向かい、|ベルを|鳴らした。||ロワール川が|ホテルから|先で|大きく|曲がって|いるため、|この|屋敷が|町の|端に|あたり、|いつでも|人目に|つかずに|出入りできると|気づきながら。
通用門の|先で|塀が|さらに|三、四百メートル|続き、|その|先は|雑木林に|なって|いた。
垂れた|口髭の|男が|庭師の|エプロンを|つけて|出て|きた。||酒の|においが|したので、|メグレは|おそらく|カニュ婆さんの|夫だろうと|見当を|つけた。

「主人は|いるか?」
ちょうど|そのとき|シャツ姿で|自動|散水機を|調べて|いる|人物が|見えた。||庭師の|目線で|それが|ティビュルス・ド・サン=ティレールだと|わかった。||サン=ティレールは|道具を|置いて|来客の|ほうを|向いて|待った。
カニュが|どうにも|居心地が|悪そうに|して|いる|ので、|サン=ティレールは|芝生に|置いた|上着を|拾って|近づいて|きた。

「私に|ご用ですか?」

「司法警察の|メグレ警部だ。||少々|お時間を|いただきたいのだが?」

「またあの|事件ですか?」と|城主は|オテル・ド・ラ・ロワールの|方向に|あごを|しゃくりながら|ぼやいた。||「何か|お役に|立てますか? こちらへ。||応接間は|一日中|日が|当たって|いるので。||この|あずまやの|ほうが|涼しい。||バティスト! グラスと|発泡ワインを|一本。||奥の|棚のやつ」

タルディヴォンが|言った|通りの|男だった。||小太りで|赤ら顔、|短くて|手入れの|行き届いて|いない|手、|サン=テティエンヌ製造所が|大量生産する|狩猟・釣り用の|カーキの|スーツを|着て|いた。

「クレマン氏を|ご存知でしたか?」と|メグレは|鉄の|肘掛け椅子に|座りながら|聞いた。

「新聞によると|偽名だった|そうですが、|本名は……|なんでしたっけ? グルレ? ジュレ?」

「ガレです。||本名は|ともかく、|彼と|お付き合いは?」
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メグレは|相手が|かなり|居心地が|悪そうだと|感じた。||サン=ティレールは|あずまやから|身を|乗り出して|ひそひそと|言った。

「あの|間抜けな|バティストが|半辛口を|持って|くるかもしれない。||あなたも|私と|同じで|辛口が|お好みでしょう。||自家の|シャンパーニュ製法の|ワインです。||クレマンさんの|ことですが——そう|呼ぶのが|わかりやすいので——何と|申し上げれば|いいか。||お付き合いが|あったと|いうのは|言いすぎです。||一度も|会った|ことがないとも|言えませんが」

しゃべりながら|メグレは|アンリ・ガレの|尋問を|思い浮かべて|いた。||二人の|態度は|まったく|違って|いた。||被害者の|息子は|好かれようとも|せず、|自分の|態度の|奇妙さも|気に|しなかった。||疑わしそうな|顔で|質問を|待ち、|じっくり|考えて|言葉を|選んだ。
ティビュルスは|よく|しゃべり、|笑い、|手を|動かし、|うろうろ|して、|できる|限り|気さくに|見せようとした。
しかし|二人とも|同じ|潜在的な|不安が|あった。||何かを|隠し|きれないかも|しれないという|恐れだ。

「ご存知でしょうが、|私たち|城主は|いろんな|人が|やって|きます。||浮浪者や|商業外交員や|行商人だけの|話では|なくて。||クレマンさんのことに|戻りましょう。||ワインが|来た。||もういい、|バティスト。||散水機は|後で|見にいく。||触るなよ」

しゃべりながら|ゆっくりと|コルクを|抜き、|泡を|こぼさずに|グラスに|注いだ。

「とにかく|だいぶ|前に|一度|うちに|来ました。||サン=ティレール家は|古い|家柄で、|今は|私が|最後の|一人です。||アジアで|財を|なした|従兄弟から|遺産を|もらわなければ、|パリの|どこかの|事務所で|書記でも|していたところです。||まあ|つまり|私の|名前は|貴族の|全名鑑に|載っています。||父は|四十年ほど|前に|王党派として|知られていました」
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「私は|まあ|そんなものです」

舌を|鳴らして|至って|庶民的に|発泡ワインを|飲み、|メグレが|グラスを|空けると|すぐに|注ぎ|足した。

「私が|まったく|知らない|クレマンさんが|やって|きて、|フランスや|外国の|王族からの|推薦状を|見せ、|フランスの|王党派運動の|非公式な|代表者のような|ものだと|匂わせました。||話を|聞いているうちに|案の定の|展開に。||宣伝費として|二千フランを|要求してきた。||断ると、|困窮した|貴族の|家族のために|募金を|集めていると|言い始めた。||二千フランが|百フランになり、|最終的に|五十フランを|渡しました」


「それは|いつ?」

「数ヶ月前です。||正確には|わかりません。||狩猟の|シーズンで、|近くの|城で|ほぼ|毎日|勢子狩りが|ありました。||あちこちで|あの|男の|話を|聞いて、|この|手の|詐欺の|専門家だと|確信しました。||五十フランで|告訴する|気には|なれませんが。||乾杯!||先日は|また|厚かましくも|戻って|きました」

「何日だ?」

「さあ|週末|ごろで」

「土曜か。||しかも|二度|来た|はずだが」

「さすが|警部さん。||確かに|二度です。||朝は|断りました。||午後に|庭で|つかまった」

「お金を?」

「もちろん。||理由は|覚えて|いないが、|王政復古の|話でした。||さあ|飲んで|ください。||瓶に|残して|おいても|仕方ない。||ところで、|自殺では|ないかと|思いませんか?||もう|限界だった|でしょうし」

「発砲は|七メートル|離れた|場所から|で、|拳銃は|見つかってない」
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「そういうことなら|確かに。||で、|どう|思います?||あの辺りを|通りかかった|浮浪者が……」

「それは|考えにくい。||クレマン氏の|部屋の|窓に|面した|小道は、|あなたの|屋敷にしか|通じていない」

「閉鎖された|入口に|ですよ!」|サン=ティレール氏が|反論した。|「イラクサの|小道の|鉄格子は|もう|何年も|開けていません。||鍵が|どこに|あるか|見当も|つかない。||二本目の|ワインを|持ってこさせましょうか?」

「結構です。||土曜の|夜、|何も|聞こえませんでしたか?」

「何が?」

「銃声です」

「まったく!||早く|寝るので。||翌日、|従僕から|事件を|聞いて|初めて|知ったんです」

「クレマン氏の|訪問を|警察に|届けようとは|思わなかったので?」

「ま、|その……」
うろたえを|隠そうと、|笑い飛ばそうとした。

「あの|哀れな|男は|もう|充分|罰を|受けたと|思ったんです。||私の|ような|名前を|持つ|身としては、|社交欄以外で|新聞に|名前が|出るのは|ごめんですからね」
メグレには|あの|漠然とした|不快な|感覚が|ぬぐえなかった。||まるで|頭に|こびりついた|歌の|ように。||エミール・ガレの|死を|めぐる|すべての|ものが|嘘くさく|きしんでいる|という|感覚だ。||死人自身から、|息子の|声まで、|ティビュルス・ド・サン=ティレールの|笑い声まで。

「タルディヴォン君の|ところに|泊まっているんでしょう?||彼が|昔、|屋敷料理人だったのは|ご存じ?||それから|ずいぶん|羽振りが|良くなりましたよ!||もう一杯|いかがです?||あの|間抜けな|庭師が|散水機を|壊してしまって、|あなたが|来た|時、|修理しようとしていたんです。||もし|何日か|ここに|いるなら、|夜でも|気が|向いたら|話しに|来てください。||観光客ばかりでは|ホテルも|大変でしょう」
門の|所で、|差し出しも|しない|手を|つかんで、|大げさなほど|愛想よく|握ってきた。
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ロワール川沿いを|歩きながら、|メグレは|頭の|中で|二つの|点を|整理した。||まず|ティビュルス・ド・サン=ティレールは、|市の|触れ太鼓による|お触れを|知らないはずが|なかった。||つまり、|警察が|土曜日|一日中の|クレマン氏の|行動を|いかに|重視しているかを|知っていたはずだ。||それでも|彼は|尋問されるのを|待ち、|相手が|すでに|事情を|知っていると|悟った|ときに|初めて|口を|開いた。
第二に、|少なくとも|一度は|嘘を|ついていた。||土曜の|朝は|訪問者の|面会を|断り、|午後に|なって|庭で|つかまったと|言っていたからだ。
だが|実際には、|朝に|二人は|庭を|歩き回っていた。||そして|午後には|別荘の|応接間で|確かに|話し込んでいたのだ。

「じゃあ、|残りも|嘘かもしれない!」|と|警部は|結論づけた。

イラクサの|小道の|入口に|さしかかった。||片側には、|サン=ティレールの|公園を|囲む|漆喰塗りの|白壁が|そびえ、|もう|片側には|ホテル・ド・ラ・ロワールの|平屋建ての|棟が|続いていた。
地面は|背の|高い|雑草、|茨、|白い|イラクサに|覆われ、|スズメバチが|我がもの顔で|飛び回っていた。||その|一方、|樫の|木が|理想的な|木陰を|作り、|百メートルも|ない|突き当たりに、|由緒ある|様式の|古い|鉄格子が|見えた。
メグレは、|持ち主が|「もう|何年も|開けていない、|鍵も|どこに|あるか|わからない」と|言っていた|その|鉄格子まで|歩いていってみた。||錠前を|ちらりと|見やると、|分厚い|錆に|覆われていたが、|ところどころ|最近|錆が|剥げているのに|気づいた。||さらに|拡大鏡で|見ると、|複雑な|鍵穴に|鍵を|差し込んだ|際に|できた|傷跡が|はっきりと|確認できた。


「明日、|写真に|撮らせよう!」|と|心の|中で|決めた。
来た|道を|引き返しながら、|うつむいて、|頭の|中で|ガレの|姿を|改めて|組み立て直そうとした。||しかし、|その|人物像は|まとまるどころか、|むしろ|ぼやけていく|一方だった。||あの|窮屈な|上着を|着た|男の|顔は、|もはや|人間らしさを|失いつつあるようだった。
ページ46の内容を確認します。ページ46の翻訳です。

手元にある|唯一の|具体的な|像、|理論上は|完全なはずの|肖像写真の|代わりに、|本来|一人の|人間を|形づくるべき|はずの|断片的な|イメージが|次々と|浮かんでは、|重なりあうのを|拒んだ。
警部の|目に|浮かんだのは、|検死が|行なわれた|学校の|中庭で|見た、|半分だけの|顔と、|毛むくじゃらの|痩せた|胸だった。||その背後では|医師が|じりじりしながら|待ちわびていた。||だが|すぐに|別の|場面が|浮かんだ。||サン=ファルジョーで|エミール・ガレが|自ら|作った|青い|小舟、|工夫を|凝らした|釣り道具の|数々、|藤色の|絹を|まとった|ガレ夫人、|そして|喪服姿の|ガレ夫人——|穏やかで|堅苦しい|小市民階級の|典型。
……鏡付き|衣装棚、|ガレが|その|前で|上着を|羽織っていたに|違いない。||そして|あの|大量の|便箋——もう|在籍して|いない|会社の|社名入りの!||月次の|売上報告書、|商業外交員の|仕事を|辞めて|十八年も|経った|後も|几帳面に|まとめ続けて|いたもの!
……自分で|買い|揃えなければ|ならなかった|酒杯や|タルト用の|サーバーの|数々!

「そういえば、|サンプル入りの|鞄が|見つかっていない!」|と|メグレは|歩きながら|気づいた。「どこかに|預けて|いたはずだ」

被害者を|狙った|窓の|数メートル|手前で、|無意識に|足が|止まった。||だが|その|窓を|見やりも|しなかった。||頭が|少し|熱っぽかった。||もう|ひと|押しすれば、|エミール・ガレの|あらゆる|断片を|一つの|像に|まとめられるという|感覚が、|瞬間|瞬間に|押し寄せて|きたからだ。
そのとき|ふと、|ヘンリーの|姿が|浮かんだ。||直接|知っている|通りの、|硬くて|傲慢な|ヘンリーと、|あの|非対称な|顔の|初聖体拝領の|少年が|同時に。
ネヴェールの|警部補グルニエが|「くだらない|小事件」と|呼び、|メグレ自身も|気乗り|しないまま|手を|つけた|この|事件が、|死人の|姿が|綱渡り師も|かくやと|思えるほど|変貌するにつれ、|目の|前で|どんどん|膨らんで|いった。
メグレは|小型飛行機の|ような|羽音を|たてて|頭の|周りを|旋回する|スズメバチを、|十度も|手で|払いのけた。

「十八年!」|と|小声で|つぶやいた。
ニール商会の|偽の|封書を|十八年、|ルーアンから|転送させた|葉書を|十八年、|そして|サン=ファルジョーでの|贅沢も|波乱も|ない|平凡な|日常を|十八年。

ページ47の内容を確認します。ページ47の翻訳です。

警部は|犯罪者や|詐欺師の|心理を|よく|知っていた。||そういった|心理の|根底には、|必ず|何らかの|情熱が|あるものだと|知っていた。
まさに|それを、|重い|瞼の|下の|山羊ひげを|たくわえた|あの|顔に|探していた。

「釣り道具の|工夫を|凝らしたり、|古い|時計を|分解したりして|いたというのか!」
メグレは|納得が|いかなかった。

「そのために|十八年も|嘘を|つき続けるものか!||そのために|これほど|組み立てにくい|二重生活を|続けるものか!」

それだけが|気になる|ことでは|なかった。||偽りの|状況を|数か月、|あるいは|数年|保ちつづけることは|できる。
だが|十八年だ!||ガレは|老いた。||ガレ夫人は|ふくよかに|なり、|さらに|威厳を|増した。||ヘンリーは|成長した。||初聖体拝領を|済ませ、|バカロレアに|合格し、|成人に|達した。||パリに|出て|行き、|ついには|愛人まで|作った。
それでも|エミール・ガレは|ニール商会からの|手紙を|自分に|送り続け、|妻宛の|葉書を|前もって|用意し、|偽の|注文リストを|辛抱強く|書き写し|続けて|いたのだ!

「彼は|食事制限を|していました」

メグレには|まだ|ガレ夫人の|声が|聞こえていた。||思考に|すっかり|取り込まれ、|脈が|速くなっていたため、|パイプを|消えるままに|させてしまっていた。

「十八年も|捕まらずに!」
信じがたい|ことだった。||警部は|この道の|玄人として、|誰よりも|よくわかっていた。||もし|あの殺人が|なければ、|ガレは|書類を|全部|整理した|後、|静かに|ベッドの|上で|息を|引き取っていたはずだ。
ページ48の内容を確認します。ページ48の翻訳です。

それほど|途方もない|ことだったので、|警部が|自分の|ために|描き出して|いた|その|絵から、|現実感覚を|揺るがすような|ある種の|現象が|引き起こす|あの|漠然とした|不安が|立ち上って|きた。
そんな|ときだったから、|ふと|顔を|上げると、|犯行現場の|窓の|真向かいにある|白い|塀の|上に|黒ずんだ|染みが|見えたのは、|まったくの|偶然だった。
近づいて|みると、|靴の|先で|最近|削られ|広げられた|石と|石の|間の|隙間だと|わかった。||少し|高い|ところにも、|目立ちにくいが|同じような|痕が|あった。
誰かが|そこに|よじ登り、|垂れ下がった|枝を|使って|いた。||ちょうど|その|身振りを|再現しようとした|瞬間、|警部は|はっと|振り返った。||小道の|突き当たり、|ロワール川の|ほとりに|見慣れない|人影を|感じたからだ。

かろうじて|捉えられたのは、|背の高い|がっしりした|女の|シルエット、|金色の|髪、|ギリシャの|彫像の|ような|整った|厳しい|横顔だった。
メグレが|振り返った|瞬間に|歩き|出した|ところを|みると、|それまで|こちらを|観察して|いた|らしかった。
捜査官の|頭に|自然と|ある|名前が|浮かんだ。||エレオノール・ブールサン!||これまで|ヘンリー・ガレの|愛人の|姿を|想像しようとした|ことは|なかった。||それでも|突然、|あれが|ほぼ|彼女に|違いない|という|確信があった。
足を|速めると、|彼女が|国道の|角に|消えると同時に|埠頭に出た。


「後で!」|と、|途中で|引き止めようとした|宿の|主人に|声を|返した。
逃げる女に|見えない間は|小走りで|距離を|縮めた。||体つきが|エレオノール・ブールサンという|名前に|ぴったりな|だけでなく、|ヘンリーの|ような|男が|選ぶはずの|女そのものだった。
角に|差しかかると、|メグレは|がっかりした。||消えていた。||薄暗い|小さな|食料品店の|中を|覗いても、|近くの|鍛冶屋を|覗いても|空振りだった。
もっとも|どこに|いるかは|わかって|いたので、|たいした|痛手では|なかった。

- イルマ・ストラウス(Irma Strauss)は、ルーアンのオテル・ド・ラ・ポスト(Hôtel de la Poste)の受付係です。
ページ21でルーアン警察からの電報に初めて登場しました。彼女の役割はガレの詐欺の仕掛けの重要な一部でした。ガレはルーアンには実際には滞在していないのに、毎月百フランを払って彼女に葉書を転送させていました。つまりガレが前もって書いておいた葉書を封筒に入れてルーアンに送り、彼女がルーアンの消印を押してガレ夫人に再送するという仕組みです。これにより「主人はルーアンで仕事中」という偽りのアリバイが二十年間維持されていたのです。
ルーアン警察の追加情報によると、この取引は五年前から続いており、彼女の前任の受付係も同じことをしていたとのことです。つまり少なくとも十年以上この仕掛けが機能していたことになります。架空の人物です。 ↩︎ - 「憲兵隊の下士官(brigadier de gendarmerie)」
フランスの憲兵隊(Gendarmerie)は、日本の警察とは少し異なる組織で、軍の管轄下にある警察組織です。主に地方や農村部の治安維持を担当しており、都市部を管轄するパリ警視庁などの国家警察とは別組織です。
下士官(brigadier)は憲兵隊の最下位の階級で、いわば巡査クラスの隊員です。
この物語では、サンセールとその周辺の農村地帯を管轄しているのが憲兵隊で、最初に事件を発見して処理したのも地元の憲兵隊でした。メグレがパリの司法警察から派遣されてくる前に、ヌヴェールの警察とこの憲兵隊が初動捜査をしていたわけです。
メグレの手帳のメモにも「ヌヴェールに電報」と並んで捜査事項が書かれており、この下士官にメグレが指示を出して「半径十里以内の浮浪者を全員集めて待機させる」という作業をさせていました。 ↩︎ - メグレが下士官に「集めた浮浪者の中に、捜査の参考になりそうな人物はいるか?」と聞いている言葉です。
ガレが殺された夜はお祭りで、見知らぬ人間がたくさんうろついていました。メグレは「犯人が外部からやってきた浮浪者かもしれない」という可能性を一応確認するために、周辺の浮浪者を集めさせていたのです。
しかし下士官の答えは「浮浪者ですから」という一言だけで、要するに「怪しい者はいない、みんなただの浮浪者だ」という意味です。メグレもそれほど期待していなかったようで、この線はすぐに打ち切られます。
↩︎




