ローマ帽子の謎

『ローマ帽子の謎』**は、エラリー・クイーンが放った本格推理小説の出発点であり、のちの〈国名シリーズ〉へと連なる原型でもある。
舞台はニューヨーク。オペラ劇場で起きた一見不可解な殺人事件を前に、警察とともに若きエラリーが推理に乗り出す。

事件の鍵を握るのは、現場に残された一つの「帽子」。
なぜその帽子でなければならなかったのか。
なぜそれが「ローマ帽子」と呼ばれるのか。
物的証拠と論理の積み重ねによって、不可視だった犯人像が徐々に輪郭を現していく。

本作の特徴は、派手なトリックよりも、観察と推論の積層に重きを置いた構成にある。
警察の捜査と探偵の推理が並行し、ときにずれ、ときに交錯しながら進行する点も、後年のエラリー作品とは異なる初期的な魅力を伝えている。

論理だけが頼りで、心理描写は最小限。
それゆえに、読み手は推理そのものと正面から向き合うことになる。
本格ミステリが「論理の遊戯」であった時代の空気を、最も純粋な形で封じ込めた一作である。

ローマ帽子の謎

ローマ帽子の謎|第1部 序文

注記(区切り記号について)この翻訳文には、点字に対応させるための区切り記号(マス空け)を入れています。「|」… 1マスあけ「||」… 2マスあけ点訳の際に必要となる区切りを、見える形で示しています。読み進めるうちに、文章のリズムや切れ目を意...