翻訳研究|「rôle」 サーカムフレックスとは?——ベンスン殺人事件

ハイブリッドラボ

サーカムフレックス

ヴァンダインの原文には、しばしば 「rôle」 のようなアルファベットの上に記号が現れます。これは、サーカムフレックス記号(^)と言われるものです。現代英語では 「role」 が一般的ですが、なぜサーカムフレックスがついているのでしょうか。

A word concerning my relationship with Vance is necessary to clarify my rôle of narrator in this chronicle.

 ここで|この|記録の|語り手としての|私の|立場を|明らかに|するために、|私と|ヴァンスとの|関係に|ついて、|一言|触れて|おく|必要が|あるだろう。


歴史

フランス語由来の綴り

  • rôle はもともとフランス語からの借用語。
  • サーカムフレックス(ˆ)はフランス語で、過去にあった子音(多くは s)が脱落した痕跡を示すものです。
    • 例:
      • hôpital(hospital)
      • forêt(forest)
  • 同様に、rôle もラテン語 rotulus(巻物)→ フランス語 rôle → 英語へと伝わりました。

英語での歴史的用法

  • 19世紀〜20世紀初頭の英語では、フランス語の綴りを尊重して 「rôle」 と書くことがありました。
  • 特に学術的・文学的な文章、あるいは少し気取った文章で好まれました。
  • ただし発音は常に「 role」(ロール) と同じで、意味も変わりません。

現代の表記法

現代英語との違い

  • 現代では role が標準。
  • サーカムフレックス付きの rôle は古風で、ほとんど使われなくなりました。
  • 辞書によっては「過去の表記」「稀用」として扱われています。

翻訳上のポイント

  • ヴァンダインが rôle と書くのは、彼の文体的な趣味を反映しています。
    • 「洗練」「学究的」「フランス文化への憧れ」を匂わせる。
  • 訳語は「役割」「役目」などで十分だが、
    • 注釈として「原文は rôle と綴られ、当時の文体的特色が表れている」と触れることにより研究的な価値をもつ。

まとめ

  • rôle = role(発音・意味は同じ)
  • サーカムフレックスはフランス語からの継承で、古風な表記。
  • ヴァンダインの文体にある「気取り」「学術趣味」を表す一例といえる。