翻訳研究|l’Hôtel Van Hasselt.

モナミ
モナミ

普通に「ヴァン=ハッセルト=ホテル」じゃダメなのか?

ここは「ホテル」と訳さない方が、作品の現実に合っています。
理由は語感ではなく、時代・土地・社会階層です。


原文の Hôtel は「現代的ホテル」ではない

フランス語の Hôtel は、1930年代では意味の幅が広い。

  • 都会の近代的ホテル
  • 旧来の宿屋
  • 家族経営の下宿兼宿泊所

オランダ北部の港町で、
Van Hasselt という個人名を冠した宿は、
まず間違いなく後者です。


この場面のメグレの行動と合うか?

メグレはこの直前、

  • カフェで忘れられ
  • 静かに支払い
  • そのまま寝に戻る

これです。

もし「ホテル」だと、

  • フロント
  • ロビー
  • ある程度の格式

が想定されてしまう。

しかし、描写は完全に「素通り」です。

👉
名前付きの宿に戻って、さっと寝る
この動きに合うのは日本語では「民宿/宿屋クラス」。(旅館でも豪華すぎる)


日本語の「ホテル」が持つ余計な意味

日本語で「ホテル」と書くと:

  • 近代的
  • 商業的
  • 匿名性が高い
  • 都市的

というイメージが強すぎます。

一方「旅館」は:

  • 名前を持つ
  • 土地に根ざす
  • 家族経営を想起させる
  • 1930年代感がある

👉 Van Hasselt という固有名と相性がいい。

翻訳上の判断基準(実務)

私はここをこう判断しています:

  • Hôtel + 固有名
  • 地方都市
  • 短い描写
  • 主人公が「泊まっているだけ」

機能的宿泊所

だから
「ヴァン・ハッセルト旅館」


モナミ
モナミ

旅館でも豪華すぎるやろ!

その感覚、正しいです。
はっきり言うと――「旅館」でも、まだ少し立派すぎる。

では、なぜ私は一旦「旅館」と言ったのか、そしてもっと適切な落とし所を示します。


日本語の「旅館」が持つ余計な重み

おっしゃる通り、日本語の「旅館」には、

  • 女将
  • それなりの格式
  • 和風のもてなし

こうした文化的な厚みが勝手に付いてくる。

しかし Hôtel Van Hasselt に、そんなものは一切ない。


原文が指しているのは何か(冷静に)

シムノンが書いているのは、ただこれだけです:

  • 寝る場所がある
  • 名前がある
  • 町の中にある
  • 何の説明も要らない

つまり、

泊まれる家

それ以上でも以下でもない。


日本語で一番近い語は何か

率直に言います。

🔹 第一候補

「宿」

  • 機能的
  • 格式ゼロ
  • 時代を選ばない
  • 読者の想像を邪魔しない

👉
ヴァン・ハッセルト宿


🔹 第二候補

「宿屋」

  • 少し古風
  • 商売感が出る
  • 港町には合う

👉
ヴァン・ハッセルト宿屋


🔹 あえて言えば

「下宿」 はやや違う
→ 長期滞在・生活感が強すぎる。


翻訳として一番「正直」なのは

あなたの感覚を踏まえると、
最も嘘がないのはこれです。

ヴァン・ハッセルト宿

これなら:

  • 豪華でもない
  • 和風でもない
  • 近代的ホテルでもない
  • ただ「寝に戻る場所」

になる。


メグレの動きとも完全に一致

小銭を出して
忘れられ
そのまま寝に行く

この行動に似合うのは、

  • フロントもない
  • ロビーもない
  • 誰かに声をかける必要もない

**「宿」**です。


結論(きっぱり)

  • 「ホテル」→ 近代的すぎる
  • 「旅館」→ まだ厚みがある
  • 「宿」→ ちょうどいい

シムノンは、止まる場所については何も触れずにいきなり宿の名前が出てきた!
つまり、重要性は低く削って書いている。
なら、訳も削る。

モナミ
モナミ

<ヴァン=ハッセルト|宿>じゃあ、現代の日本語になってないよな。
(江戸時代ならありか!馬籠宿しゅく
場末の<ヴァン=ハッセルト=ホテル>でもいいんじゃないか?
でも、そうするとみんな場末になっちゃうのか(‘◇’)ゞ
まあ、時代背景を重視して、全体を固有名詞扱いにして、<ヴァン=ハッセルトの|宿屋>にしたよ。欧米はそういう言い方多いでしょ?
今後は「宿屋」または「ヴァン=ハッセルト」(読者は宿屋だとわかっている)で省略していいかもね☺