サドラーズ・ウェルズ(Sadler’s Wells)の歴史
サドラーズ・ウェルズは、ロンドンにある有名な劇場で、特にバレエとダンスの中心地として知られています。
現在でも世界的に有名な舞台芸術の劇場ですが、起源はかなり古く、17世紀(1683年頃)までさかのぼります。
劇場の名前は、当時この場所にあった「サドラーという人物の井戸(Sadler’s well)」に由来します。
ロンドンでは当時、健康に良いとされる井戸水を飲む場所が娯楽の場にもなり、そこに音楽や演劇が加わって劇場が生まれました。
18世紀から19世紀にかけて、この劇場ではオペラ、演劇、パントマイムなどさまざまな舞台が上演されていました。
しかし20世紀になると、次第にバレエとダンスの拠点として知られるようになります。
特に1930年代には、ニネット・ド・ヴァロワによるバレエ団が活動し、ここからロイヤル・バレエ団へと発展する流れが生まれました。
小説の中での位置づけ
クリスティの小説、『スリーピング・マーダー』に出てくる時代(1930〜40年代)は、サドラーズ・ウェルズはすでにロンドンのバレエの中心的劇場として有名でした。つまり、レイモンド・ウェストが「今夜はサドラーズ・ウェルズでバレエ」と言うのは、当時のロンドンではかなり文化的で洗練された夜の外出を意味します。
‘We’ve planned to take you to a show or two,’ said Raymond whilst Gwenda was drinking gin and rather wishing she could have had a cup of tea after her journey.
Gwenda brightened up immediately.
「きみを|芝居に|いくつか|連れていく|予定なんだ」
旅のあとで、|グウェンダが|ジンを|飲みながら、|本当は|お茶が|飲みたいと|思っている|ときに、|レイモンドは|言った。
ただし、グウェンダにとっては少し事情が違います。長旅のあとで彼女が本当に欲しかったのは、ジンではなく一杯の紅茶でした。ところがレイモンドは、バレエや前衛的な演劇の話を矢継ぎ早に始めます。こうした場面は、ロンドンの知識人の社交的な世界と、まだそこに慣れていないグウェンダとの距離を、少しユーモラスに描いている部分でもあります。
