🇬🇧作品背景|Agence Cook,『クック旅行社』とは

ハイブリッドラボ

トマス・クック社(Thomas Cook & Son) 

Tous les grands hôtels, sans compter l’Agence Cook, étaient représentés.
「名だたる|ホテルの|案内人が|並び、|クック旅行社の|姿もあった。」

ここで言う 「Agence Cook」 は、実在したイギリスの旅行会社、トマス・クック社(Thomas Cook & Son) のことです。


🧭 歴史的背景

🔹 創業

  • 創業:1841年、イギリス・レスターにて。
     創業者は トマス・クック(Thomas Cook, 1808–1892)
  • 世界初の組織的パッケージツアーを実現した人物として知られます。
     (最初の旅行は禁酒運動団体のための列車旅行!)

🔹 国際展開

  • 19世紀後半にはヨーロッパ全域に支店を開設。
     とくに パリ(Agence Cook de Paris) は大規模で、 英仏間の国際列車・フェリー連絡を手配する代理店の役割を担いました。
  • 北駅(Gare du Nord)にも専用窓口があり、 Etoile du Nord(北極星号) などのチケット販売・送迎サービスを行っていました。

🔹 メグレの時代(1930年代)

  • シムノンが『ピエトル・ル・レトン』(1931年)を発表した当時、 Agence Cook はすでにヨーロッパを代表する旅行ブランド。
  • 上流・中流階級の人々が「Cookで旅券を取る」「Cookで予約する」と言えば、 国際列車・ホテル・フェリーが一括で手配できる、いわば高級旅行代理店の代名詞でした。
  • 実際、駅構内では「Cook’s Office」や「Cook’s Porter」が立っており、 外国人旅行者を迎える光景が日常的に見られたのです。

🔹 現代

  • トマス・クック社はその後も存続しましたが、2019年に経営破綻(イギリス本社が清算)しました。
  • しかしブランドは再興され、現在もオンライン旅行会社としてThomas Cookの名は残っています。

🧩 シムノンの意図

したがってこの「sans compter l’Agence Cook(クック社は言うまでもなく)」という表現は、

「高級ホテルの係員が並び、クック旅行社まで顔を出していた」

という意味で、“いかにも国際列車の出発を待つ一等客の群れ”をリアルに描くための小道具なのです。