🇫🇷作品背景|1930年頃のフランスの反体制運動

Il ne parle que le français et il n’y a guère de conspirateurs en France, ni même d’anarchistes militants !
「だが|やつは、|フランス語しか|話さないし、|今の|フランスには|テロリストも|活動的な|アナーキストも|ほとんど|いない。」

この台詞が書かれたのは1930年頃(シムノン『サン=フォリアン教会の首吊り男』)である。
当時のフランス社会の歴史的背景とは?


🇫🇷 当時「テロリストもアナーキストもほとんどいない」理由

19世紀末の「アナーキストの時代」が終わっていた

  • 1890年代のフランスでは、実際にアナーキストによる爆弾事件が頻発した。
    代表例:
    • 1892年:ラヴァシーヌの爆弾事件
    • 1894年:プレジデント・カルノー暗殺(カゼリオ事件)
    • 1894年:エミール・アンリによるカフェ爆破
  • これらの事件で社会が震撼し、政府は「反アナーキスト法(lois scélérates)」を制定して弾圧。
    👉 1900年代に入ると、運動は壊滅・地下化した。

したがって、1930年の時点では

「活動的なアナーキスト」は過去の遺物という認識が一般的だった。


20世紀初頭、テロの中心が国外(とくにロシア・中欧)へ

  • 第一次世界大戦後、フランス国内のテロ活動は沈静化。
  • 一方、政治的過激派・無政府主義者はロシア革命やドイツのスパルタクス団など、東欧・中欧圏に拠点を移っていた。
  • フランス国内では、むしろ警察国家的な安定が保たれていた。

フランスの労働運動は「制度化」されていた

  • 無政府主義的な運動の多くが、1900年代以降、労働組合(CGTなど)や社会党(SFIO)に吸収されていった。
  • 革命ではなく、選挙やストライキなど「制度の中での闘争」に移行。
  • その結果、爆弾テロなどの過激な直接行動は減少した。

シムノンのリアリズム

シムノンは「現実のフランス社会」を描く作家であり、警察官メグレは、当時の常識に沿って考える人物として描かれている。
だからこそ、彼の心の中で:

「陰謀家?アナーキスト?……いや、今どきそんな連中はもういない」

という独白になったのだ。
つまりこれは、1930年代のフランスが政治的に安定し、暴力的イデオロギーが時代遅れになっていたことを反映しているのである。


ポイント(ラボ流分かち書きで)

フランスでは|十九世紀末に|アナーキストの|爆弾事件が|多発したが、|
政府の|弾圧で|運動は|衰退した。
第一次|大戦後は|テロの|中心が|東欧に|移り、|国内は|安定した|社会に|変わっていた。
そのため|一九三〇年の|メグレが|「今どき|アナーキストなど|いない」と|考えるのは、|ごく|自然な|ことだった。|