形式的な手がかり——『点訳の手引き』の一部適用

ハイブリッドラボ

前回、8拍以上になった時の区切る箇所として 第3の補助原則「抑揚分ち書き」 について書きました。

ラボ流では8拍以上の長い文節になることが多いので、読み手の負担を減らすために、文法や拍数を基準にした『点訳の手引き』を一部適用した「形式的な手がかり」というものも設定します。
これは『点訳の手引き』で区切ってよいとされている範囲——形式名詞の前、補助動詞の前、指示詞の後などです。

『点訳の手引き』の一部適用(その1)

  • ラボ流「3段階基準」では、長い続け書きになる場合がある。
    • 「彼の|依頼と|気まぐれに|専念|することにしたのである。
      • 注意)「に」が助詞なので、「した」は純粋な「動詞」として、「3段階基準」でも区切るという判断はできるが、形式的な区切りを重視し。下記のとおり処理する。
  • 『点訳の手引き』一部適用(補助動詞「した」又は「する」の前で区切る)
    1. 「彼の|依頼と|気まぐれに|専念する|ことに|したのである。」
    2. 「彼の|依頼と|気まぐれに|専念|することに|したのである。」
      • 「専念」4拍、「することに」5拍の方がリズムがよいので b.を採用する。
      • 抑揚分かち書きで「したの|である」もありうるが、『手引き』の一部適用を優先する

こちらは「手引きの延長線上」で、安心して切れる安全な処理なので、補助原則の「抑揚分かち書き」に優先することします。

ただし、『手引き』に従って区切ることのできる箇所が複数ある場合は、「ぶつ切り」になってしまうので、せっかくのラボ流「7拍基準」による読みやすさが失われないように、注意して区切らなければなりません。

  • 上記の文章で、『点訳の手引き』を全面的に準拠するとこうなります。
    • 彼の|依頼と|気まぐれに|専念|する|ことに|したので|ある。

『点訳の手引き』の一部適用(その2)

『点訳の手引き』『日本点字表記法』に、行末が空きすぎる場合などに、区切って書くことのできるという運用があります。
「意味のまとまり」とか「独立した」云々とは異なり、文法的に形式的な判断ですので、運用しやすいと思います。
これらを「8拍以上」の場合に、区切っても良い箇所として候補にすると、随分、負担が減ってきます?

  • 『点訳の手引き』(P148〜149):「助動詞」の前。
    • 「ようだ」「ようです」「そうだ」「そうです」「ごとし」「らしい」「みたいだ」
    • 「です」「だ」(その後ろに助詞または助動詞が一つ以上ついている場合)
      • 「である」の「ある」は補助動詞なので区切れないが、ラボ流では「抑揚分ち書き」として「である」の前で区切ることができるとしている。
    • (メモ)ただ、なぜこれらの助動詞なのかは、相変わらず「謎」です。行き当たりばったりに決めているとは思えないので、偉い人教えてください。(覚えるのは無理です。)
  • 『日本点字表記法』(P104)
    • 用言の終止形・連体形または体言などに続く助詞の前。(一マスだけの助詞は除く)
      • 辞書で「連語」として掲載されているもの
        • 自然区切りになる助詞は「〜として」「〜について」・・・・など数多くあります。
        • 「〜では」:断定の助動詞「だ」の連用形+係助詞「は」です。
        • 特に、4拍以上の用言・体言に続く助詞の前で区切るのは、表音式では自然な区切りになる場合が多いようです。
          • 「8泊以上」になって、助詞助、動詞の連続で、区切る箇所が見つからない場合に有効な区切りになると思われます。
        • (メモ)この運用は『点訳の手引き』には載っていないようですがどうなんでしょうか?

ただし、これらは、「抑揚分かち書き」でも触れましたが、区切る箇所としての優先順位は低いと考えましょう。


事例集

  • ラボ流:「私の|時間の|すべてを|使ってしまうほどであった。
    • 『手引き』準拠
      • 「私の|時間の|すべてを|使って|しまう|ほどで|あった。
    • ラボ流で、『手引き』の一部適用
      • 「私の|時間の|すべてを|使ってしまう|ほどであった。」(採用)
  • ラボ流:「強く|興味を|かき立てることに|なったのである。」
    • 『手引き』準拠
      • 強く|興味を|かき立てる|ことに|なったので|ある。
    • ラボ流+『手引き』の一部適用
      • 強く|興味を|かき立てる|ことに|なったのである。
    • ハイブリッドによる翻訳改訂(8拍回避)
      • 強く|興味を|惹かれることに|なったのである。(採用)
  • ラボ流:「それは|慈善家としてではなく、|科学者としての|興味であった。」
    • 『手引き』準拠
      • 「それは|慈善家と|してではなく、|科学者と|しての|興味であった。」
    • ラボ流+『手引き』の一部適用
      • 「それは|慈善家|としてではなく、|科学者|としての|興味であった。」(採用)
      • 「慈善家」(4拍)科学者(4拍)で、「抑揚分かち書き」と「体言に続く助詞」の観点から、助詞「と」の前で区切る方が自然に区切りになります。