変幻自在の指示詞(コソアド)について、その正体をモナミとともに深掘り
日本語の指示詞は、語頭が こ(近称)/そ(中称)/あ(遠称)/ど(不定・疑問) にそろう「コソアド系列」でまとまる。
一つの系列であっても 機能や状態ごとに品詞が異なるグループ、「代名詞」「連体詞」「副詞」 が並列して存在している。
従って、指示詞という一つの品詞的な括りで形式的に分かち書きの基準を定めることはできない
グループ | 近称 | 中称 | 遠称 | 疑問 | 品詞 | 名詞を 直接修飾するか | 例 | ラボ流基準 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
物・概念 | これ | それ | あれ | どれ | 代名詞 | × | これは|面白い。 | ① |
指定(連体) | この | その | あの | どの | 連体詞 | ○ | この|本を読む。 | ② |
様態(やり方) | こう | そう | ああ | どう | 副詞 | × | こう|考える。どうしますか。 | ③ |
程度 | こんなに | そんなに | あんなに | どんなに | 副詞 | × | こんなに|難しい。 | ③ |
類別的連体 | こんな | そんな | あんな | どんな | 連体詞 | ○ | こんな|話、どんな本 | ② |
場所 | ここ | そこ | あそこ | どこ | 代名詞 | × | ここに|置く。 | ① |
方向/側 | こちら/こっち | そちら/そっち | あちら/あっち | どちら/どっち | 代名詞 | × | こちらへ。|どっち? | ① |
原則|7拍基準
- まず、7拍基準に則って、その後の語と続け書きすることを原則とする。
- 8拍以上は、指示詞の後を、分かち書き・切れ続きする箇所の候補の一つとする。
(第3層の手がかりをどうそ💁♂️)
例外
7拍以下でも、例外的に指示詞の後で区切る場合がある
① 代名詞
- そのあとに付属語(助詞・助動詞)が続くので、助詞のあとで区切る。
- (例外の例外)助詞の後に、「形式名詞」 「補助動詞」が続く場合で、全体の拍数が7拍以下の場合は,付属語の後も続け書きする。
② 連体詞
- その後の語が、次の場合は、一律「切れ続き」
- 2字以上の漢字で表記された語
- 1字漢語は、全体として7拍以下になる場合が多いため一律「続け書き」
- その他、形式名詞などの体言以外で、続けて書くと、読み手の意味の理解を妨げる場合(第3層)
- 仮名や1字漢字でも意味が強い場合
- 長い名詞句の場合
- 2字以上の漢字で表記された語
③ 副詞
- 「切れ続き」は、上記「連体詞」と同様である。
- 2字以上の漢語を伴った動詞
- 1字漢語は、全体として7拍以下になる場合が多いため一律「続け書き」
- その他、形式名詞などの体言以外で、続けて書くと、読み手の意味の理解を妨げる場合(第3層)
- 和語でも意味が強い場合
- 長い動詞句の場合
- 2字以上の漢語を伴った動詞
副詞「こう・そう・ああ・どう」について
- 形の本質:様態・やり方を指示する副詞
- 単独では名詞を修飾できないが(×こう本)
- 直後に連体修飾成分(いう/した/なる/ような…)「補助動詞」や「助動詞」、「助詞」などの付属語を伴って「続け書き」する。
- つまり、名詞の前に現れるときは
- 「こう+(連体修飾:いう/した/なる/ような…)+名詞」という句になっている。
- したがって “連体詞的にふるまう副詞” と言われる(“連体詞ではない”がポイント)。
具体例と分解
- こういう本 = こう(副詞)+ いう(動詞の連体形=「…と称する/そのような」)+ 本
- そうした理由 = そう(副詞)+ した(「する」の連体形)+ 理由
- ああいう場合 = ああ(副詞)+ いう(連体)+ 場合
- どういう結果 = どう(副詞)+ いう(連体)+ 結果
同じ意味を 真正の連体詞構文 に言い換えると:
「このような本」「そのような理由」「あのような場合」「どのような結果」
判定のコツ(現場で迷わないために)
- 名詞を“直”に修飾できるか?
- できる → 連体詞(この/その/あの/どの、こんな/そんな/…)
- できない → 副詞(こう/そう/…)。名詞前に出ていれば 直後に“言う/する/なる/ような”などが潜んでいる。
- 置き換えテスト
- 「こういうN」⇔「このようなN」が自然に相互置換できる → 連体位置の“副詞+連体修飾”句。
- 「こんなN」⇔「このようなN」はどちらも連体詞の領域。
- 格助詞に接続できるか?
- 代名詞群(これ/それ/ここ/こちら…)は が/を/に などを直に取る。
- 連体詞は 必ず名詞の直前(格助詞は挟まらない)。
- 副詞(こう/そう…)は 助詞で体言化できない(×こうを)。
- ただし 「こうだ/そうだ」 のように補語+だの述語になる用法はあります(慣用的構文)。
似た形との違い(よく混同されるところ)
- こう(副詞) vs こんな(連体詞)
- こう高い(やや硬め。普通は「こんなに高い」)
- こんな本(直に名詞修飾できる=連体詞)
- どう(様態疑問) vs どうして(理由疑問に再分析)
- 元来は「どのようにして」だが、現代語では多くが理由を問う疑問副詞。
歴史メモ(知っておくと腑に落ちる)
古語には かく/さ/ああ(彼様)/いか などの対応形があり、現代語の こう/そう/ああ/どう はその継承。
「この/その/あの」「これ/それ/あれ」などと体系的に並ぶ“語形成テンプレート”が古くからあります。
このため、同じ指示の機能を共有しつつ、文法上の品詞は複数にまたがるという構造になっています。