アメリカで最も偉大なジャズ・トランペッターの一人として知られるリー・モーガンは、1938年7月10日、ペンシルベニア州フィラデルフィア生まれ。当初はヴィブラフォンとアルト・サックスを吹いていたが、13歳の誕生日に姉のアーネスティンからトランペットを贈られ、方向転換。
18歳でディジー・ガレスピーのビッグバンドに参加し、大きな学びを得た彼は、有名なジャズ・レーベル、ブルーノートの目に留まり、1956年に契約を結ぶ。これが長く実りあるパートナーシップの始まりで、25枚のアルバムを発表し、当時のジャズを代表する人物へと成長した。
ハンク・モブレーやジョン・コルトレーンなど、このジャンルの偉大なミュージシャンたちと共演し、コルトレーンの伝説的なアルバム『ブルー・トレイン』で演奏したほか、アート・ブレイキーのジャズ・メッセンジャーズで数年間ツアーやレコーディングに参加し、”The Midget”、”Yama”、 “Blue Lace “などの人気曲を作曲するなど、ソロイスト、作曲家としての名声と才能をさらに高めた。
薬物問題に悩まされ、1961年にバンドを脱退したが、最高傑作『サイドワインダー』(1964年)で活動を再開。このアルバムのタイトル曲はポップ・チャートにもランクインし、テレビCMにも使われるようになった。元々はアルバムのフィラーとして書いた曲で、なぜこれほど成功したのか見当もつかなかったとリー・モーガンは語っている。
彼は、グラチャン・モンカー3世とのより前衛的なスタイルの作品の方を誇りに思っていたが、1964年のアルバム『サーチ・フォー・ザ・ニュー・ランド』をR&Bチャートにランクインさせ、ウェイン・ショーター、フレディ・ハバード、ロニー・スミスなど多くのトップ・パフォーマーとのレコーディングに忙殺されながら、彼の多角化を助けた新発見の人気に感謝していた。
また、政治にも関与し、ジャズを推進し、大衆文化におけるジャズの露出不足に抗議する「ジャズ&ピープル運動」のリーダーとなる一方、ピアニストのハロルド・メイバーンを含む評価の高いバンドでの活動も続けていた。
そして1972年2月19日、ニューヨークのスラッグス・サルーンでの演奏中にセットの間で口論となり、内縁の妻ヘレン・ムーアに撃たれるという悲劇が起きた。雪のために到着が遅れた救急車を待つ間に、リー・モーガンは失血死した。享年33歳。
彼の死後、リー・モーガンの音楽的遺産は、再発盤、コンピレーション、未発表音源を含むアーカイブ・コレクションのおかげで、新しい世代の音楽リスナーに届き続けている。©Copyright Music Story 2024
1956年
背景・経緯と評価
◆ アルバム制作の背景(Background)
■ 若き天才トランペッター登場
- 録音:1956年11月4日(リー・モーガン 18歳)
- 発売:1956年(Savoy Records)
- 参加直前に ディジー・ガレスピーのビッグバンドに抜擢 され、一気に注目度が上昇していた時期。
- Savoy は、「Clifford Brown の悲劇的死(1956年6月)で空白となった“若手天才トランペッター枠”を埋める存在」としてモーガンに強い関心を示していた。
- Blue Note が同年に契約したのとほぼ同時進行で、Savoy も “うちも最初に録音を出したい” と急ぎ作られたのが本作。
(当時は複数レーベル横断で録音することが珍しくなかった)
◆ 録音日の比較
■ Introducing Lee Morgan(Savoy)
- 録音:1956年11月4日
- リリース:1956年末〜1957年初頭(資料に揺れがあるが「1956」が一般的)
■ Indeed!(Blue Note)
- 録音:1956年11月4日
※ 実は 同じ日 に録っている。 - リリース:1957年
この日は、ルディ・ヴァン・ゲルダーのスタジオで “Savoy の録音” と “Blue Note の録音” を連続して行ったという、当時よくあったダブル・セッションの特殊ケース。
◆ リリース順の比較
両方とも録音は 1956年11月4日 だが、リリースは Savoy → Blue Note の順であったと見られる。
■ リリース順(一般的な理解)
- Introducing Lee Morgan(1956)
- Indeed!(1957)
つまり、市場に “リー・モーガン初のリーダー作” として出回ったのは Savoy の Introducing
という扱いになる。
◆ なぜ Savoy の方が早かったのか?
Savoy は当時、
- 新人を即座に売り出すスピード感
- 編集の少なさ
- リリースペースの速さ
で知られていた。
一方 Blue Note は、
- 音質や曲順の編集
- ジャケットデザイン
- 発売タイミングの調整
に時間をかけるレーベル。
そのため、Savoy の Introducing が先に出て、Blue Note の Indeed! は翌年になった
という流れが自然。
◆ 結論
- 録音は同日(1956年11月4日)
- リリースは Introducing の方が早い
- よって “最初に世に出たリー・モーガン作品” は Introducing である
Indeed! は Blue Note におけるデビュー作、Introducing は 市場に出た“最初の”リー・モーガン作という関係となる。
◆ 本アルバム制作のSavoy 側の意図
- Savoy はこれを “リー・モーガンの名刺代わりのアルバム” として市場に投下。
- タイトル Introducing(紹介します)が示す通り、“この若者が次のスターだ” というプロモーション目的が明確。
◆ 音楽的特徴(Musical Features)
■ ① すでに“完成された技術”が見える
18歳とは思えない、
- 鋭いアタック
- 硬質で明るいトーン
- 複雑なライン処理
- 速いパッセージでも音が潰れない正確さ
これらがすでに備わっている。
まさに “Clifford Brown の後継” と騒がれる理由がここにある。
■ ② ハードバップの典型的なサウンド
Savoy らしい、やや“ざらっとした”録音質と、
ブルース色の濃いハードバップ構成が特徴。
主な曲調:
- ブルース
- ミディアムテンポのハードバップ
- バラードでの音色の柔らかさを確認できる構成
■ ③ バンドメンバーが極めて強力
ピアノの Horace Silver をはじめ、
当時最強格のリズムセクションが揃っている。
これにより“18歳の新人”という枠を超え、完全に一流現場の音が形成されている。
◆ アルバムの意義と評価(Reception & Legacy)
■ 当時の評価
- 「18歳とは信じられない完成度」
- 「次世代のトランペットの中心に立つ男」
- 「Clifford Brown の系譜を継ぐ有力候補」
新人に対する期待値としてはほぼ満点。
■ 現在の評価
- “若きリー・モーガンの出発点として必ず参照される作品”
- 技術的にはすでに高く、のちの Blue Note 期のファンキーさや作編曲センスは未成熟だが、
“原石というより既に磨かれ始めた宝石” といった印象。
■ 本作の位置づけ
- 本当の意味での“デビュー作”というより、“Blue Note 時代(1956〜)の爆発的才能の序章”
- Blue Note の Indeed!(1957)、City Lights(1957) へと続く布石。
つまり、『Introducing Lee Morgan』は「若き天才の登場を告げる第一声」という歴史的役割を持つ。
1957年
背景・経緯と評価
■ アルバム制作の経緯
- 録音日:1956年11月4日
- スタジオ:ヴァン・ゲルダー・スタジオ(Rudy Van Gelder Studio, Hackensack, NJ)
当時はルディの自宅リビングを改装した“自宅スタジオ期”で、初期 Blue Note サウンドの核心。 - リリース:1957年(Blue Note)
Dizzy Gillespie のビッグバンドへの参加
Morgan が 18歳のとき(おおよそ 1956年)に、Dizzy Gillespie のビッグバンドにホーン奏者として迎えられた。当時、ビッグバンドはすでに減勢傾向だったが、Gillespie のバンドはその中でも一際注目を浴びるグループだった。Morgan の抜擢は、彼が“若く・才能あるトランペッター”として高く評価されていた証拠だ。
ビッグバンド参加によって、Morgan の名は一気にジャズ界で知られるようになった。若さと才能、そして “Clifford Brown の後継” 的な可能性 — それが業界の耳目を引いた。
18歳という若さで、黒人ジャズ界の重鎮の一つ、Gillespie バンドに入る — それ自体が並大抵ではない大跳躍だった。
ほぼ同時期に Blue Note レコードと契約、初リーダー録音
なぜ Blue Note が彼に目を付けたか。
複数の伝記などによれば、Gillespie バンドでの演奏ぶりが非常に印象的で、さらに “Clifford Brown の死” によって不足した “新鋭トランペッター枠” を埋められる適任と見なされたから。Morgan は “若くして、その後継になりうる” として期待された。
実は Morgan は、Gillespie バンド在籍のまま、1956年から録音を開始している。
それが、後にリリースされるアルバム Indeed!(1957)などの源流。実質、“18歳でビッグバンド参加 → すぐ録音・デビュー作。天才すぎる速度”。
リー・モーガンはまだ18歳。
にもかかわらず、このデビュー作で強烈な存在感を示し、Blue Note の「若手の切り札」として一気に注目される。
■ 演奏メンバー(Personnel)
- Lee Morgan — trumpet
- Clarence Sharpe — alto sax
- Horace Silver — piano
- Wilbur Ware — bass
- Philly Joe Jones — drums
ピアノがホレス・シルヴァー、ドラムがフィリー・ジョー・ジョーンズという、当時のジャズ界の“最強リズムエンジン”を獲得しているのがポイント。若いモーガンを“本物の一流現場”へ押し込むことで、Blue Note が育成に本気だったことがわかる。
■ 音楽的特徴(Musical Features)
- ハードバップの王道ど真ん中のサウンド。
- モーガンのトーンはすでに力強く、アタックが鋭いが、まだ後年の『The Sidewinder』ほどファンキーにはなっていない。
- ホレス・シルヴァーのブルース語法が随所に出るため、全体に温度の高い演奏。
“初期リー・モーガンにしか出せない、若さと闘争心の混ざった響き”が聴きどころ。
■ 代表曲
- Roccus(勢いのあるハードバップ曲)
- Reggie of Chester
- Little T(最も評価が高いことが多い)
後年の超有名曲に比べると地味だが、デビュー作としての完成度は非常に高い。
■ 評価(Reception)
- リリース当時は「若手の有望株」としての評価が中心。
- しかし現在では、リー・モーガンの“最初期の完成形”として再評価が済んでおり、
“18歳でこれを録るか!?” とジャズファンを驚かせる定番。
Blue Note 初期1950年代のハードバップ美学を押さえるうえでも、欠かせない1枚。
| Lee Morgan Sextet, Volume 2 | |
|---|---|
| リー・モーガン の スタジオ・アルバム | |
| リリース | 1957年5月末 |
| 録音 | 1956年12月2日 ヴァン・ゲルダー・スタジオ・ハッケンサック] |
| ジャンル | ハード・バップ |
| 時間 | 40:32 |
| レーベル | ブルーノート・レコード BLP 1541 |
| プロデュース | アルフレッド・ライオン |
齢18歳の衝撃デビュー作『インディード!』からわずか4週間後に録音された衝撃作第2弾。ってことはこの時も18歳なんですね。いやはや。ブルーノート60周年記念&紙ジャケット仕様盤。
©Copyright CD Journal
背景 / 特徴 / 評価
◆ 1. 背景(Background)
■ ① ディジー・ガレスピー楽団から Blue Note へ
1956年に Dizzy Gillespie のビッグバンドに抜擢された18歳のリー・モーガンは、
“若い天才トランペッター” として一気にニューヨークの話題となる。
Blue Note はこの才能を見逃さず、1956年に契約。
第1弾『Indeed!』に続き、わずか数か月後に第2弾を録音することになる。
■ ② 録音日と状況
- 録音:1957年7月28日
- スタジオ:Rudy Van Gelder Studio(Hackensack)
この頃の Blue Note は
“1500番台(ハードバップ黄金期)” の真っただ中。
Art Blakey、Hank Mobley、Horace Silver、Lee Morganらが
“ブルーノート流ハードバップの核” を形づくっていた。
本作は、その 黄金ラインのど真ん中 に位置する録音である。
■ ③ タイトルの事情
正式名称:Lee Morgan Vol. 2
通称:Lee Morgan Sextet
※ “Vol. 1” は存在しない。
Blue Note 特有の番号飛ばしで、この作品が最初の “Vol.” ものとなった。
◆ 2. 特徴(Musical Characteristics)
■ ① 豪華な6人編成(Sextet)
本作の真価は メンバーの強力さ にある。
- Lee Morgan — trumpet
- Hank Mobley — tenor sax(ハードバップの象徴)
- Kenny Rodgers — alto sax
- Horace Silver — piano
- Paul Chambers — bass
- Charli Persip — drums
モーガン × モブレー × シルヴァー
= この時期の Blue Note “王道ハードバップ三角形”
強烈にブルーノートらしい響きが刻まれている。
■ ② 10代とは思えない完成度のリーダー演奏
モーガンは録音時 19歳。
しかしすでに:
- クリフォード・ブラウン直系の明確なハードバップ技術
- 音の重さと太さ
- アタックの鋭さ
- 複雑なラインの処理能力
- 6人編成の中で“主役としての存在感”
が確立している。
“若手のレベルじゃない” と当時も話題になった。
■ ③ 作曲陣の質の高さ
本作は演奏だけでなく レパートリー選び が優れている。
- Horace Silver の楽曲
- Hank Mobley の楽曲
- モーガン自身の作曲(成熟の兆し)
これにより、“ブルーノート的ハードバップの美学をそのまま閉じ込めたアルバム”になっている。
■ ④ Blue Note の録音哲学の完成期
Rudy Van Gelder の モノラル録音後期の最盛期。
- 濃厚で前に出るホーン
- タイトなドラム
- 飛ぶようなアタックのピアノ
- Chambers のベースの肉厚さ
1957年のブルーノート“黄金録音”の典型。
◆ 3. 評価(Critical Reception & Legacy)
■ ① 当時の評価
- 「若き天才が本物であることの証明」
- 「Indeed! が序章なら、Vol. 2 は本編」
- 「モーガンが一流の仲間入りを果たした瞬間」
と評され、Blue Note の次世代看板トランペッターとしての地位が確立する。
■ ② 現代の評価
現在では:
- リー・モーガンの“初期ハードバップ期の最高作”の一つ
- 1500番台後期の名盤
- モーガンとモブレーの相性の良さが楽しめる作品
- “若いモーガンを聴くなら外せない1枚”
と定評がある。
特にオーディオ・ファンからは“ヴァン・ゲルダーの濃い音が楽しめる代表作” として人気。
■ ③ 作品の位置づけ(Discography 内での意味)
- Indeed!(第1弾)= モーガンの才能の序章
- Vol. 2(第2弾)= 才能が“Blue Note で開花した証拠”
- City Lights(第3弾 1957)へと続く “飛躍期三部作” の中心
本作は モーガンの“少年期の完成形” と言える。
| Dizzy Atmosphere | |
|---|---|
| アル・グレイ、ビリー・ミッチェル、リー・モーガン、チャーリー・パーシップ、ポール・ウェスト、ビリー・ルート、ウィントン・ケリー のスタジオ・アルバム | |
| リリース | 1957 |
| 録音 | 1957年2月18日 マスターレコーダー、ハリウッド、カリフォルニア州] |
| ジャンル | ジャズ |
| 時間 | 51:46 ボーナストラック付きCD再発行 |
| レーベル | Specialty SP-5001 |
| プロデュース | Art Rupe |
アルバムレビュー
このやや知られざるリー・モーガンの作品は、もともとスペシャルティ社のために録音され、後に OJC シリーズで CD 化されたものである。
当時のディジー・ガレスピー楽団に在籍していた仲間──トロンボーンのアル・グレイ、テナーサックスのビリー・ミッチェル、バリトンのビリー・ルート、ピアノのウィントン・ケリー、ベースのポール・ウェスト、ドラムのチャーリー・パーシップ──が参加している。
編曲はベニー・ゴルソンとロジャー・スポッツが手がけており、演奏の内容は、その時代としてはきわめてモダンなボップである。
特に聴きどころは、十分半に及ぶ Dishwater、Over the Rainbow、そして初期の Whisper Not(ゴルソン作)の演奏である。
リー・モーガンは全編を通して抜群の演奏を披露しており、この活気に満ちたセッションを録音した時、彼はまだ十八歳だった。
© Scott Yanow /TiVo
制作の背景・きっかけ、特徴、評価
◆ 1. 制作の背景(Background)
■ 1-1. 西海岸ツアー中の“臨時セッション”
1957年初頭、ディジー・ガレスピー楽団がアメリカ西海岸ツアーを行っていた。
当時の主力メンバー──リー・モーガン(18歳)、アル・グレイ、ビリー・ミッチェル、ビリー・ルート、ウィントン・ケリー、チャーリー・パーシップ──が全員揃ってカリフォルニアに滞在していた。
→ これがレコーディング成立の最大の前提条件となった。
■ 1-2. Specialty Records が“今しかない”と判断
ロサンゼルスの Specialty Records は、R&B・ゴスペルの名門だったが、1950年代後半には ジャズ部門の強化を狙っていた。
そこに、
- “ディジー楽団の主力メンバーが全員まとまっている”
- “リー・モーガン(18歳)が大注目されている”
- “ベニー・ゴルソンが新作を広めたがっている”
という好条件が重なった。
Specialty にとっては “逃す手はないセッション” だった。
■ 1-3. このアルバムができた“きっかけ”
● ディジー楽団が西海岸に来ていた(=メンバーが揃っていた)
● Specialty がジャズ録音を求めていた
● 若きリー・モーガンの売り出しの好機だった
● ベニー・ゴルソン作品の普及にも有利だった
この4つが同時に揃い、“ツアー中の空き時間でまとめて録ろう”という形で録音が実現した。
録音日:1957年2月18日(Hollywood)
つまり、“大ツアーの合間に生まれた、半ば偶然の豪華セッション”これが Dizzy Atmosphere の出発点である。
◆ 2. 音楽的特徴(Musical Characteristics)
■ 2-1. 4管ホーンの“セプテット編成”
- トランペット(Morgan)
- トロンボーン(Al Grey)
- テナーサックス(Billy Mitchell)
- バリトンサックス(Billy Root)
これにピアノ、ベース、ドラムが加わる 7人編成(セプテット)。
スモールコンボの自由さ+ビッグバンド的な厚みこの両立が本作の特徴である。
■ 2-2. ゴルソン/スポッツによるモダンな編曲
編曲:Benny Golson & Roger Spotts
1957年当時としては非常にモダンで、初期ハードバップ → モーダル前夜 の香りがある。
代表曲:
- Dishwater(長尺の名演)
- Over the Rainbow(抑制と情緒のある解釈)
- Whisper Not(ゴルソン作品の初期形)
■ 2-3. 若きリー・モーガン(18歳)が抜群の存在感
- すでに技術は成熟
- 音の“押し”が強く、アタックが鮮烈
- フレージングはクリフォード・ブラウン直系
- だがすでにモーガン特有の“熱いソロ”が芽生えている
本作は、“18歳の天才がプロとして完全に通用している”ことを証明する録音でもある。
◆ 3. 評価(Critical Reception & Legacy)
■ 3-1. 当時の評価
- ディジー楽団メンバーの“非公式スピンオフ作品”として注目
- モーガンの演奏に対し「将来のスター」「若さを感じさせない成熟」という評価
- モダン・ボップの良質なサイド・セッションと認識された
■ 3-2. 現代の評価
- “隠れ名盤” としてジャズファンに評価が高い
- 若手モーガンの記録として重要
- ゴルソン作品(特に Whisper Not)の初期バージョンとして資料価値がある
- 4管セプテットによる厚みのあるサウンドが魅力
メインストリームの名盤ではないが、 “知っておくとグッと深まる”タイプの重要作。
| Lee Morgan, Vol. 3 | |
|---|---|
リー・モーガンのスタジオ・アルバム | |
| リリース | 1957 |
| 録音 | 1957年3月24日 ヴァン・ゲルダー・スタジオ ハッケンサック |
| ジャンル | ジャズ |
| 時間 | 38:01(LP) |
| レーベル | ブルーノートBLP 1557 |
| プロデュース | アルフレッド・ライオン |
天才トランペッターがブルーノートに残した3枚目の人気作。夭逝したクリフォード・ブラウンに捧げた名バラードを含め、全曲をベニー・ゴルソンが手がけており、彼とモーガンの見事な共同作品という見方ができる。
©Copyright CD Journal
制作の背景、特徴、評価
◆ 背景(Background)
- 録音日:1957年3月24日、場所は Van Gelder Studio(Hackensack)。(ウィキペディア)
- リリース年:1957年。(ウィキペディア)
- プロデューサーは Alfred Lion、録音/エンジニアは Rudy Van Gelder。(ウィキペディア)
- この時期、若きトランペッターとして注目されていた Lee Morgan の “次の段階” を示す作品として制作された。
言い換えれば、モーガン初期の “成熟への過渡期” を捉えた録音のひとつ。それだけでなく、当時のモダン・ハードバップ/ブルーノート界隈の最前線を反映した “正統派ハードバップ盤”。
◆ パーソネルと特徴(Personnel & Musical Characteristics)
■ メンバー(Personnel)
- Lee Morgan — trumpet (ウィキペディア)
- Gigi Gryce — alto saxophone, flute (ウィキペディア)
- Benny Golson — tenor saxophone, 作曲・編曲も担当 (ウィキペディア)
- Wynton Kelly — piano (ウィキペディア)
- Paul Chambers — bass (ウィキペディア)
- Charlie Persip — drums (ウィキペディア)
この布陣だけで、「豪華」と言うには十分だ — トランペット、アルト、テナーという三管構成に、鉄壁のリズムセクション。ハードバップ期ブルーノートらしい正統編成。
■ 音楽的・構成的特徴
- 全曲が Benny Golson のオリジナル作品。アルバムの統一感が高く、作曲と編曲の質も高い。(ウィキペディア)
- 収録曲構成(LP 時):
- Hasaan’s Dream
- Domingo
- I Remember Clifford
- Mesabi Chant
- Tip-Toeing (ウィキペディア)
- 特に “I Remember Clifford” は、後にスタンダードとして名高いバラード。早くもこの時点でモーガンの “歌心” や表現力が際立っていた。(note(ノート))
- アルト(Gigi Gryce)とテナー(Golson)の対比、ピアノ/リズム隊(Kelly–Chambers–Persip)の安定感、モーガンのトランペット — 各パートの役割が明確で、アンサンブルとソロのバランスが理想的。
- 録音も本格:Van Gelder スタジオ、モノラル録音による “生々しくタイトな音像” が魅力。これもハードバップ/ブルーノートの魅力を際立たせる。
◆ 評価(Reception & Legacy)
✅ 高く評価される点
- ジャズ批評サイトによれば、本作は “リー・モーガン初期キャリアの最高峰の一つ” とされており、「断然おすすめの録音」。(ウィキペディア)
- 音楽としては、 モーガンのトランペット + ゴルソンの作/編曲 + Gryce のサックス + 鉄壁リズムセクション の融合が非常に巧みで、ハードバップ好きにはたまらない内容。繰り返し聴いて味が出る作品との評価。(LondonJazzCollector)
- 特に “I Remember Clifford” の emotional depth(感情の深さ)は、モーガンの表現力を示す代表的な1曲。初期ながら “歌うトランペット” の才能を示す貴重な記録。(note(ノート))
🔎 留意点・文脈
- “Vol. 3” というタイトルだが、シリーズの順番や “Vol. 1/2/3” の整然さは必ずしも意味的に厳密ではない — そのあたりは昔のブルーノート作品にありがちな混乱。(LondonJazzCollector)
- ただし “タイトルが示す順番” にこだわるより、 音の質と内容そのもの を重視すべきアルバム。
◆ 総括:このアルバムの存在意義
『Lee Morgan, Vol. 3』は――
- 若きリー・モーガンが既に “単なる若手” を超え、
- “表現力あるリーダー/ソロイスト” としての資質を見せ始めた作品。
- さらに、Benny Golson の曲群、Gigi Gryce–Benny Golson のホーンツイン、Wynton Kelly–Paul Chambers–Charlie Persip の強力リズムという “豪華すぎる布陣” による純度の高いハードバップ。
つまり、ブルーノート期モーガンを語るなら 必携 の一枚。 “初期の傑作” というだけでなく、“ハードバップの美学と可能性を示した重要作品” でもある。
| 『シティ・ライツ』 | |
|---|---|
| リー・モーガン の スタジオ・アルバム | |
| リリース | 1957年 |
| 録音 | 1957年8月25日 ニュージャージー州 ヴァン・ゲルダー・スタジオ[1] |
| ジャンル | ジャズ |
| 時間 | 37分23秒 |
| レーベル | ブルーノート・レコードBlue Note BLP 1575 / 1957) |
| プロデュース | アルフレッド・ライオン |
若きリー・モーガンによる大都会マンハッタンの抒情詩を収録。ベニー・ゴルソンが全曲のアレンジを担当した、3管編成によるスマートなサウンドが光る一枚だ。1957年8月録音。
©Copyright CD Journal
背景・特徴。評価
◆ 1. 背景(Background)
■ 1957年、リー・モーガン “初期黄金期” の真ん中
『City Lights』は、
- Indeed!(1956)
- Volume 2(1957)
- Volume 3(1957)
に続く 初期モーガンの第4作目(Blue Noteでは第3弾級)。
録音:1957年8月25日
場所:Van Gelder Studio, Hackensack
プロデュース:アルフレッド・ライオン
エンジニア:ルディ・ヴァン・ゲルダー
この時期の Blue Note はハードバップ絶頂期。
モーガンはわずか 19歳ながら、
「10代にしてブルーノートの看板ホーン」
という異例の立場にあった。
◆ 2. パーソネル(Personnel)
本作の最大の魅力は、編成が豪華でアンサンブルの厚みがあること。
- Lee Morgan — trumpet
- Ray Draper — tuba(重要!)
- Benny Golson — tenor sax(作曲多数)
- Gigi Gryce — alto sax(編曲)
- Wynton Kelly — piano
- Paul Chambers — bass
- Charlie Persip — drums
3管+チューバの“特異な4ホーン構成” が最大の特徴。
特に Ray Draper(名チューバ奏者・当時16歳!) の起用が独創的で、
このアルバムのサウンドを唯一無二にしている。
◆ 3. 楽曲・サウンドの特徴(Musical Characteristics)
■ ① ベニー・ゴルソンの作曲・編曲色が濃い
収録曲の多くはゴルソンの作品。
- City Lights
- Tempo de Waltz
- You’re Mine You
- Just by Myself
など。
ゴルソンらしい “歌心 × スウィング × 構築美” が光る。
■ ② 4ホーンによる厚みのあるアンサンブル
チューバが低音の“ブラス感”を強調し、アルト(Gryce)、テナー(Golson)、トランペット(Morgan)との対比が美しい。
硬派だけど温かい、モダンでブラス的な響き──これが本作を際立たせる要素。
■ ③ モーガンのソロが “少年期のピーク” として秀抜
19歳にして、
- 音色の華やかさ
- アタックの力強さ
- リズム感の鋭さ
- ブルース表現の成熟
がすでに完成している。
特に City Lights のソロは“若き天才”そのもの。
■ ④ Gryce のアレンジが洗練されている
Gigi Gryce は優れたアレンジャーであり、彼の書く ensemble passages(管の絡み)が非常に美しい。
“ハードバップと室内楽的要素の共存”という Blue Note の隠れテーマが明確に現れた一作。
◆ 4. 評価(Reception)
■ 当時の評価
- 「若さを超えた完成度」
- 「Morgan と Golson の理想的な組み合わせ」
- 「Blue Note のサウンドの進化を示すアルバム」
として好意的に扱われていた。
■ 現代の評価
- 初期 Blue Note Morgan のベストのひとつ
- “Volume 3 + City Lights” は黄金セットと呼ばれる
- Ray Draper(tuba)の参加による“唯一無二の個性”で人気が高い
- アンサンブル重視の作品としてジャズ教育界でもしばしば引用される
特にアナログ愛好家からは“1957年 Van Gelder モノラルの最高音質のひとつ”として評価が高い。
◆ 5. この作品の位置づけ
『City Lights』は――
- モーガン19歳の成熟
- ゴルソン=グライスの作編曲の最高水準
- チューバ入り4ホーンという唯一のサウンド
- ハードバップ黄金期の象徴
をまとめて楽しめる、Blue Note 初期 Morgan の代表作の1つ。
| 『ザ・クッカー』 | |
|---|---|
| リー・モーガン の スタジオ・アルバム | |
| リリース | 1958年3月[1] |
| 録音 | 1957年9月29日 ニュージャージー州 ヴァン・ゲルダー・スタジオ[2] |
| ジャンル | ジャズ |
| 時間 | 38分59秒 |
| レーベル | ブルーノート・レコード BLP 1578 |
| プロデュース | アルフレッド・ライオン |
ジャズの歴史に欠かせぬJMの中心メンバーとして活躍を残したモーガン。名曲「チュニジアの夜」から始まる今作はジャズ・トランペットの魅力が凝縮された好アルバム。©Copyright CD Journal
背景・特徴・評価
◆ 背景・制作経緯
- 「The Cooker」は 1957年9月29日 に録音され、翌1958年初頭にリリースされた。(ウィキペディア)
- このときリー・モーガンはまだ 19歳。彼の若くしての成熟振りを示す作品のひとつ。(uDiscoverMusic | 洋楽についての音楽サイト)
- 録音スタジオは当時定評のあった Van Gelder Studio(Hackensack, NJ)。エンジニアは定番の Rudy Van Gelder、プロデューサーは Alfred Lion。(ウィキペディア)
- それまでのモーガンのリーダー作(Sextet, Vol.3, City Lights など)は6管構成や複数管ホーンを使うアンサンブル志向だったが、『The Cooker』では 5人編成のクインテット に戻し、
“即興ブロー主体のスモール・コンボ”、自由度と熱気を重視するスタイル を狙った。(uDiscoverMusic | 洋楽についての音楽サイト) - つまり、このアルバムは「若きモーガンのホーン → 編曲・構成への依存を脱し、個としてのトランペッターを前面に出す」転換点だった。(加持顕のジャズに願いをのせて)
◆ パーソネル & 音楽的特徴
演奏メンバー(Personnel)
- Lee Morgan — trumpet (ウィキペディア)
- Pepper Adams — baritone saxophone (ウィキペディア)
- Bobby Timmons — piano (ウィキペディア)
- Paul Chambers — bass (ウィキペディア)
- Philly Joe Jones — drums (ウィキペディア)
特徴
- このクインテットは、かつての多管ホーン主体から一歩退き、ホーン + リズム・セクション のシンプル構成。これにより、ソロとインタープレイが際立つ。(uDiscover Music)
- セッションは “まさに吹き飛ばす” スタイル。モーガンのトランペットは、この時点で既に彼のトレードマークとなる奏法の片鱗――鋭いアタック、アップリフトするスラー、半バルブ、トリプルタンギング などを含む。(ウィキペディア)
- 曲目もバラエティ豊か。スタンダードからアップテンポ、ブルース、バラードまで揃えつつ、全体にモーガン流のハードバップ感。典型的には、冒頭の “A Night In Tunisia” のような強烈なビバップ/モダン・ジャズの再解釈が響く。(加持顕のジャズに願いをのせて)
- また、バリトン・サックス(Pepper Adams)という “重低音ホーン” を加えることで、トランペットの明るさと対照をなす深みのあるサウンド。これがアルバムの “熱さ + 密度” を支えている。(cafemontmartre.tokyo)
◆ 評価と意義(Reception & Legacy)
✔️ 長所・高評価ポイント
- 多くの批評家・ファンは、この作品を モーガンの初期ハードバップ期の代表作 のひとつとみなす。(uDiscover Music)
- 特に、若きモーガンの “トランペットだけで勝負する” 決意と能力が明確に示されており、彼が “ただの天才少年” ではなく “本物のホーン奏者” であることを証明した作品とされる。(uDiscover Music)
- ソロ中心、即興中心のアプローチは、前作までの “アレンジに依存したハードバップ” にはない自由さと熱量を持つ。聴き手としても “吹き飛ばされる快感” を得られ、ジャズのエネルギーをストレートに味わえる。(stereophile.com)
- リズム隊(Chambers + Philly Joe Jones)+若手ピアニスト Bobby Timmons という安定/新鮮の両立が演奏全体を支えており、ハードバップの質・迫力が十分。(ウィキペディア)
⚠️ 留意点・文脈
- “派手で攻撃的なトランペット + バリサクの低音” というスタイルは好き嫌いが分かれやすく、ハードバップに馴染みのない人には “荒々しく、聴き疲れする” と感じられる可能性がある。
- また 『The Cooker』は、編曲やホーン・アンサンブルの美しさよりも “個の爆発” を重視した作品なので、構成や調和を重んじる人には “雑” と感じられることもある。
◆ 総括:『The Cooker』の意味と位置づけ
『The Cooker』は――d
「若きモーガンが、構成やアレンジに頼らず、自らのトランペットで勝負する」
その宣言であり、実践であり、証明であった。
多管ホーンや編曲付きアンサンブルを離れ、ホーン + リズムのみのスモール・コンボ で “己の音” をぶつけたことで、モーガンは “ブルーノートの若き切り札ホーン” から、“真のジャズ・ソロイスト” へと脱皮した。
その意味で、このアルバムは彼のキャリアにおける ターニングポイント。
また、1950年代後半のハードバップを代表する “ストレートで熱いジャズ” のひとつで、「派手さ」「即興」「激情」「若さ」――それらをシンプルに味わえる名盤でもある。
1958年


| 『キャンディ』 | |
|---|---|
| リー・モーガン の スタジオ・アルバム | |
| リリース | 1958年 |
| 録音 | 1957年11月18日(#2, #6)、1958年2月2日(#1, #3, #4, #5) ニュージャージー州 ヴァン・ゲルダー・スタジオ[1] |
| ジャンル | ジャズ |
| 時間 | 36分25秒 |
| レーベル | ブルーノート・レコードBLP 1590 |
| プロデュース | アルフレッド・ライオン |
10代にして円熟した演奏を聴かせるモーガン。またそれを引きたてるクラーク・トリオのすばらしさ。天才トランペッターのピークを捉えた最高傑作。
©Copyright CD Journal
意外と少ないリー・モーガンのワン・ホーン作。メッセンジャーズ時代やジャズ・ロックでの派手やかなプレイとは異なり、肩の力を抜いた軽やかなソロを披露。1曲を除いてすべてスタンダードというのも特徴的だ。
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