会話の中の、”事実の確認・出来事の報告” は、複合過去が使われる
複合過去
複合過去は「今この瞬間に関連を持つ、完了した事実」を述べるときに使われる。
- 彼女が 何を聞いたか
- 彼女が 何を見たか
- 彼女が 何を警察に話したか
- メグレが パリから来たという事実
など、すべて “もう起きた” 事実を、会話の中で相手に伝える場面 。
だから複合過去になる。むしろ、複合過去以外で言うほうが不自然になる。
半過去
半過去(imparfait) は:
- 継続
- 状態
- 背景
- 習慣
- 心の動き・感情の流れ
を描くときに使う時制。
たとえば:
- Elle se tenait debout.(彼女は立っていた)
- Elle cherchait ses mots.(言葉を探していた)
こういう「継続する状態」には半過去。
しかし、
- パリから“来た”こと
- 警察に“話した”こと
- 人から“聞いた”こと
- “見た”こと
これは 一回動作 であり、かつ“結果が現在につながっている”。
→ 半過去では「背景」になってしまい、事実の提示にならない。
単純過去
単純過去は:
- 文語体
- 叙述文(地の文)
- 作家が語る過去の出来事
で使われる時制。
会話には普通使わない。
台詞で単純過去を使うと“19世紀の芝居のように不自然で古風” になり、シムノンの会話のリアリズムが壊れる。
例えば:
× Je vins de Paris.
× Je parlai à la police.
× J’appris cela.
こんな台詞は、シムノンの世界では絶対に出ない。
会話と地の文の切り分け
- Elle rougit.
- Elle ajouta.
- Son regard tomba.
などは 地の文(メグレ側の叙述) だから単純過去。
つまり:
- 会話 → 複合過去
- 地の文 → 単純過去(シムノンの叙述)、半過去(背景)
この切り分けが非常に明確。
まとめ
会話の中で複合過去が多い理由:
- 会話で語られるのは “完了した事実” だから
- 「報告」「証言」「伝聞」を示すのに最適の時制
- 半過去だと“状態”になり意味が変わる
- 単純過去は会話に使うと不自然すぎる(文語すぎる)
だから、シムノンの会話は 複合過去が基本 になる。

