語学|フランス語の直説法における過去形

🇫🇷 フランス語の直説法における過去形(4種類)

名称フランス語典型形主な用途文体
① 複合過去passé composéj’ai parlé日常会話・現在とつながる過去口語的
② 半過去imparfaitje parlais状態・習慣・背景描写叙述的・文学的
③ 大過去plus-que-parfaitj’avais parléある過去より前の過去書き言葉
④ 単純過去passé simpleje parlai文語・物語の叙述文語(文学専用)

① 複合過去(passé composé)

構成:助動詞(avoir / être の現在形)+過去分詞

例:

  • j’ai parlé(私は話した)
  • il est allé(彼は行った)

📘 特徴

  • 現在に結果が及ぶ過去(英語の have done に近い)
  • 日常会話・現代フランス語で最も多用。
  • 助動詞 être を使うのは「移動・再帰動詞」など限られた語。

② 半過去(imparfait)

語幹:nous 形の語幹 + 語尾 -ais, -ais, -ait, -ions, -iez, -aient

例:

  • je parlais(話していた)
  • il faisait beau(天気がよかった)

📘 特徴

  • 背景描写、状態・習慣・継続を表す。
  • 「〜していた」「〜だった」と訳すのが自然。
  • シメノンや文学作品では情景・心理描写に必須。

③ 大過去(plus-que-parfait)

構成:助動詞の半過去形 + 過去分詞

例:

  • j’avais parlé(話していた/話してしまっていた)
  • il était parti(出かけてしまっていた)

📘 特徴

  • 「過去の中の過去」。
  • 物語で「そのとき彼はすでに…していた」という回想に使う。
  • 英語の had done に近い。

④ 単純過去(passé simple)

語幹:不定形から作られる特別な文語形

例:

  • je parlai, tu parlas, il parla, nous parlâmes, vous parlâtes, ils parlèrent

📘 特徴

  • 書き言葉・文学語専用。
  • 会話では使われず、複合過去で代用される。
  • 小説・歴史叙述などで「事件の流れ」を簡潔に示す。

まとめ図

時制形成方法用法英語の近似
複合過去avoir/être(現在)+過去分詞行為の完了・結果have done / did
半過去nous形語幹+-ais等状態・背景・習慣was doing / used to
大過去avoir/être(半過去)+過去分詞ある過去より前had done
単純過去特殊語尾文語の物語的過去did(叙述)

日本語の表現

日常で使うのは主に 複合過去と半過去 の二つ。
文学には、単純過去と大過去 が現れ、時間の層(現在 → 過去 → さらにその前)を立体的に描く鍵。

フランス語の過去時制(単純過去・半過去・複合過去・大過去)は、
それぞれ時間的な位置関係と**叙述の視点(語りの距離)**を表しています。
日本語でも、文体と助動詞の選択を工夫すれば、かなり明確に区別できます。


フランス語の4つの過去時制と日本語の対応

フランス語時制名称用法の核心日本語での表現法文体例
passé composé複合過去「過去の一点的な出来事」「完了・結果」~した、~したところだ、~してしまった「彼は立ち上がった。」
imparfait半過去「背景・状態」「習慣・継続」「描写」~していた、~だった、~することが多かった「彼は黙って立っていた。」
passé simple単純過去「叙述的な過去」「物語の主動作」~した(叙述的・文語的)「彼は立ち上がった。」(やや格調高く)
plus-que-parfait大過去「過去より前の過去」「順序の前倒し」~していた、~してしまっていた「彼はすでに立ち上がっていた。」

具体例で比較

例文(共通場面)

Quand il entra, elle lisait une lettre qu’elle avait reçue le matin même.
彼が入ってきたとき、彼女はその朝受け取った手紙を読んでいた。

動詞時制日本語訳ニュアンス
entra単純過去「入ってきた」主動作(叙述的過去)
lisait半過去「読んでいた」背景・同時進行
avait reçue大過去「受け取っていた」それより前の出来事

→ この1文に 3つの過去 が共存しており、
時間の層を自然に整理できます。


小説の翻訳での区別の仕方

原文の時制フランス語の語感日本語での再現方法
複合過去 (passé composé)口語的・近い過去・具体的「〜した」「〜してしまった」など完了の助動詞を強調
単純過去 (passé simple)書き言葉・叙述・遠い過去文語的・淡々とした「〜した」で再現(地の文で多用)
半過去 (imparfait)状態・習慣・背景「〜していた」「〜だった」など進行・持続表現
大過去 (plus-que-parfait)さらに前の過去「〜していた」「〜してしまっていた」「〜したあとで」など前後関係で示す

『サン=フォリアンの首吊り男』の例で見てみる

À la frontière hollandaise, il fut frappé par le fait que l’homme hissait sa valise…

動詞時制日本語訳コメント
fut frappé単純過去「驚いた」「心を打たれた」叙述的な主動作(事件が始まる瞬間)
hissait半過去「持ち上げていた」同時進行的な動作の描写

👉 この2つの時制の対比で、「観察者がふと気づく瞬間」と「男の行動の継続」が対照的に描かれます。
これを日本語で区別するには:

オランダ国境で、彼はふと驚いた。
その男が、まるで慣れた手つきでスーツケースを屋根に押し上げていたのだ。

とすれば、単純過去=主要事件の軸半過去=背景動作が保たれます。


大過去の扱い(plus-que-parfait)

Il avait caché la valise avant de monter dans le train.
→ 「彼は列車に乗る前に、その鞄を隠していた。」

日本語では「すでに」「前に」「〜していた」「〜してしまっていた」で区別できます。
時間順を入れ替える際の鍵となる時制です。


要点まとめ

フランス語時制日本語での訳し分け機能
複合過去「〜した」現在に近い出来事(完了・結果)
単純過去「〜した」(文語的)物語の主動作・遠い過去
半過去「〜していた」「〜だった」背景・状態・繰り返し
大過去「〜していた」「〜してしまっていた」過去より前の出来事

結論

→ 日本語は時制よりも文脈と助動詞で時間を表す言語ですが、文体設計(叙述 vs 描写)を工夫すれば、フランス語の4過去時制の差を十分に再現可能です。