
このページは、ほぼ、chatGPTによるものでモナミは時々感想を述べてるだけです
ジャズ史上最も重要で革新的なミュージシャンの一人であるサックス奏者ジョン・コルトレーンは、モーダル・ジャズを発展させ、フリー・ジャズに決定的な影響を与えた。
1926年9月23日にハムレット(アメリカ、ノースカロライナ州)で生まれたジョン・ウィリアム・コルトレーンは、アトランティック・シティで育った後、フィラデルフィアに移り住み、クラリネット、アルトサックス、テナーサックスを学んだ。
1954年にジョニー・ホッジスのオーケストラに参加し、ディジー・ガレスピーと最初のレコーディングを行い、アルバム『Blue Train』(1958年)をブルーノートでリーダーとして録音。ハード・バップの道を歩み、マイルス・デイヴィスのクインテットに加わり、プレステージ、そしてコロンビアから一連のアルバムを発表した。
プレステージでリーダーとして活動した後、セロニアス・モンクとコラボレートし、アトランティック・レーベルと初のメジャー・レコード、『Giant Steps』(1959年)、『My Favorite Things』(1961年)、『Olé』(1961年)を契約した。ジャイアント・ステップス』(1959年)、『マイ・フェイヴァリット・シングス』(1961年)、『オレ』(1961年)である。
デューク・エリントンやジョニー・ハートマンとのクラシカルなセッションに加え、彼の最高傑作と言われる『至上の愛』(1964年)を録音した。アルバート・アイラーやファロア・サンダースといったミュージシャンと、『AscensionandMeditations』(1965年)、『Stellar Regions』、『Expression』(1967年)といったスピリチュアリティ溢れるアルバムでハーモニーの自由を追求し続けた。
薬物中毒とアルコール中毒に悩まされたジョン・コルトレーンは、1967年7月17日に肝臓がんで死去、享年40歳。
彼の創造的貢献度に見合った遺産は、『Both Directions at Once: The Lost Album』(2018年)、『63: New Directions』(2018年)、『A Live Supreme: Live in Seattle』(2021年)など、数え切れないほどのアンソロジー、ライヴ・アルバム、あるいは未発表セッションやボックス再発を生んでいる。©Copyright Music Story 2024

肝臓がんで死去、享年40歳。若くして逝去・・・。
マイルス・グループに復帰したときには、中毒症状から回復していたとはいえ、症状による影響が演奏に出なくなっただけで、それらの中毒そのものは続いていたんじゃないかな。
てか、スピリチュアルな演奏自体、その症状の影響かもしれないと勘繰りたくなる。
1960年
参考
■ 『アヴァンギャルド(The Avant-Garde)』制作までの経緯
もともとは「オーネット・コールマン人脈」との実験が出発点
- 1960年6〜7月に録音されたが、当時はリリースされなかった。
- コルトレーンはちょうど ハーモニックなアプローチ(ジャイアント・ステップス期) を極めた後で、フリー・ジャズ的な可能性 を探り始めていた時期。
- その結果、ドン・チェリー(トランペット)、チャーリー・ヘイデン(ベース)、エド・ブラックウェル(ドラム)など、
オーネット・コールマン四重奏のメンバー と共演することになる。
インパルス! 移籍前の“過渡期”に生まれたセッション
- コルトレーンはまだ Atlantic 契約下。
- 1960年は、後の『My Favorite Things』や『Coltrane’s Sound』の録音も重なる、スタイル転換の真っただ中。
- このセッションは、当時のアトランティック側にとって判断が難しかった。
フリー寄りで商業性が低い、しかも「名義上コルトレーンが主役なのか曖昧」。
→ そのため、録音後 6年も棚上げ される。
1966年、コルトレーンが世界的評価を得た“後”にようやく発売
- コルトレーンは1966年時点で Impulse! の看板であり、精神性の高い後期作品で評価が頂点に。
- Atlantic はその人気に乗じて 「コルトレーンの未発表セッション」として放出。
- ただし実態は「コルトレーン meets オーネット派」という性格の強い異色作。
■ 作品に対する評価
コルトレーンの“実験精神”が記録された貴重な過渡期の証拠
- コルトレーンが「コード中心の演奏」から脱して、モーダル〜フリーの方向へ踏み出す瞬間 が聴ける。
- ドン・チェリー、ヘイデン、ブラックウェルらの自由度が高く、コルトレーンはそこに慎重に対応しながらも 新しい語法を試している。
完成度よりも“探索の記録”として価値が高い
- 批評家の多くは、「コルトレーンの最良期とは違うが、転換点として非常に興味深い」と評価する。
- フリー・ジャズを主導するのはやはりドン・チェリー側で、コルトレーンは試行錯誤しながら追う立場。
→ その“ぎこちなさ”を逆に面白いとする声も強い。
後期コルトレーンの理解に不可欠な“伏線作品”
- 『Africa/Brass』『Impressions』『Ascension』へ至る道筋の中で、「あ、ここでフリーの世界を試していたのか」 と分かる。
- コルトレーン研究者の間では「1960年にこれをやっていた事実が重要」として位置づけられる。
■ まとめ
- 1960年、コルトレーンはオーネット派と接触し、フリー寄りの実験セッションを録音。
- 内容があまりに前衛的で、アトランティックは発売を見送り、1966年に後追いでようやくリリース。
- 評価は「作品としての完成度より、コルトレーンの進化の証拠として重要」。
- ドン・チェリーが牽引し、コルトレーンは新領域を模索する姿がはっきり聴ける。
『コルトレーン・ジャズ』 – Coltrane Jazz(1959年3月、11月、12月、1960年10月録音)(Atlantic) 1961年
サックス奏者の教祖として崇められてきた、ジョン・コルトレーンの名曲集。本作は1959~60年に行なわれたセッションからベスト・テイクのみを厳選し、さらに別ヴァージョンも追加した豪華版だ。
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参考

🎯 制作の背景と経緯
- 本作は John Coltrane が、以前所属していた Miles Davis のバンドから離れ、新天地である Atlantic Records で制作した作品群のひとつ。1959年に彼はAtlanticと契約を結んでおり、その契約には年間保証の収入が含まれていた。(ウィキペディア)
- 録音は、1959年11月24日、12月2日、12月21日、さらに1960年10月21日という複数セッションに分かれて行われた。(ウィキペディア)
- 多くの曲では、かつてマイルス・デイヴィス・クインテットで共演したリズム隊 — ピアノ:Wynton Kelly、ベース:Paul Chambers、ドラム:Jimmy Cobb — を迎え、ハードバップ/モダン・ジャズの王道を踏襲。(ウィキペディア)
- ただし、アルバムの最後を飾る “Village Blues” だけは例外。この曲には、後に「黄金カルテット」を結成するピアノの McCoy Tyner、ドラムの Elvin Jones、およびベース奏者などが参加しており、これが後のコルトレーンの新たな方向性 — モード/ポスト・バップ/モーダル・ジャズへの足がかりとなった。(ウィキペディア)
- 捉えようによっては、本作 は“従来のハードバップ的語法”と、“彼が向かおうとしていた新しいジャズ観(モード的アプローチやカルテット編成)”との間に立つ過渡期――つまりコルトレーンの“転換点”とも言える作品。(Jazz Nostalgia)
🔎 音楽性と内容の特徴
- スタンダードとオリジナル楽曲のミックス。堅実なリズムセッションに支えられた、骨太のハードバップ/モダン・ジャズ。(ウィキペディア)
- ただし、最後の “Village Blues” だけは、タイナー&ジョーンズを起用したカルテット志向のサウンド。まさに後のコルトレーン像の萌芽。(Jazz Nostalgia)
- つまり、本作は「これまでのジャズ的文法を守りつつ、未来への足音をひそかに忍ばせた」――ある意味で“過渡期のコルトレーン”を捉えた記録とも言える。(Jazz Nostalgia)
🧑🎓 発表当時の位置づけ・意味
- 『Giant Steps』(1960年発表)後の作品であり、Giant Stepsでの和声的/構造的チャレンジを経た直後のアルバム。よって、コルトレーンのキャリアにおける“安定と模索の両立”という意味合いが強い。(Jazz Nostalgia)
- また、Atlantic時代の録音群のひとつ。マイルスとの関係から独立し、自己の音楽を拡げようとする過程の一端を示す作品でもある。(ジャズの名盤)
🏅 評価と後の影響
- 評価の観点からは、“ハードバップの王道”としての安定感が評価されつつ、「Village Blues」によって後年コルトレーンが切り拓くモーダル/ポスト・バップの萌芽が見える――という“過渡期らしさ”が、評価者の間では好意的に受け止められている。(Jazz Nostalgia)
- つまり、「ジャズ初心者が聴いてもしっかりと“骨太のジャズ”として楽しめる一方で、コルトレーンの進化を追ってきたファンや研究者にとっては“次の段階への伏線”が詰まった重要作」である。(Jazz Nostalgia)
- ただし、後の伝説的名盤群(例えばその後のモーダル寄りの作品やフリー/アヴァンギャルド志向の作品)と比べると、破壊力や革新性はさほど尖っていない、という控えめな位置づけもされる――“過渡期のアルバム”という見方から。(Jazz Nostalgia)
- それでも、多くのジャズ・評論家や聴き手からは「聴きどころのある良質アルバム」として一定の評価を得続けており、リイシュー(再発)のたびにその価値が再確認されてきた。(ウィキペディア)
🎼 なぜ今も聴かれるのか
- “王道ジャズ”としての安定性 — ハードバップやモダン・ジャズが好きな人にとって、素直に楽しめる安心感。
- しかし単なる守りではなく、「コルトレーンの次なる挑戦の芽」がすでに隠れている――つまり、後年に至る進化の過程を知るための“歴史的ドキュメント”的価値。
- 初期の「Atlantic 時代」を総覧する上で不可欠であり、彼のキャリアを理解するうえでの重要な橋渡しの作品。
『マイ・フェイヴァリット・シングス』 – My Favorite Things(1960年10月録音)(Atlantic) 1961年
ジャズ・サックスの巨人がアトランティックに遺した名盤を、モノラルとステレオの両方で楽しめる2枚組。ソプラノサックスの音色が印象的な13分以上にも及ぶタイトル曲は、これ以降コルトレーン随一の愛奏曲となる。
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参考

🎯 制作の背景と経緯
- 「My Favorite Things」が録音された1960年10月 — この時期、Coltrane はかつて在籍していた Miles Davis のバンドを離れ、自身のバンドを率いて活動を始めていた。(ウィキペディア)
- またこのアルバムは、Coltrane にとって初めてソプラノ・サックスを導入して録音された作品。つまり、テナー・サックスだけでなく、新たな音色への挑戦が明確に刻まれた記録だ。(ウィキペディア)
- 伴うバンド編成も新しく、ピアノに McCoy Tyner、ベースに Steve Davis、ドラムに Elvin Jones という新布陣 — いわゆる最初期のコルトレーン四重奏団(トリオ+Coltrane)がここで定着。(ウィキペディア)
- 録音は 1960年10月21日、24日、26日 の3日間に分かれて Atlantic Studios で行われた。(ディスコグス)
- 収録されたのは、ミュージカルやポップスのスタンダード — 例えばタイトル曲や「Summertime」「But Not For Me」など — で、Coltrane 自身のオリジナルは含まれていない。(ウィキペディア)
→ 要するに、本作は「新しいサウンドへの模索」「バンドの再編」「モード/ソプラノ導入による革新」の三要素が同時に動き始めた転換期のアルバム。
🎶 音楽性と特色
- タイトル曲「My Favorite Things」は、オリジナル(ミュージカル曲)のコード進行や和声をそのまま踏襲せず、モーダル(モード)・アプローチで再構築。トニックの E-マイナー/E-メジャーを中心に据え、ワルツ(3拍子)に乗せて、ピアノとソロがゆったりと拡がる。これが「My Favorite Things=ジャズ標準」のイメージを決定づけた。(ウィキペディア)
- このモード志向 — コルトレーンが「ハードバップ/ビバップ」から脱し、空間・色彩・旋律の広がりを重視する新境地への入り口。彼の将来的な“モーダル/スピリチュアル/実験的ジャズ”への歩みの始まりとも言える。(HMVジャパン)
- 一方で他の収録曲(「But Not For Me」など)では、いわゆる“コルトレーン流コード展開”=いわゆる「コルトレーン・チェンジ」が垣間見え、和声的な実験と技術の両立が試みられている。(ウィキペディア)
- また、ピアノ/ベース/ドラムというリズムセクションの新たなバランスが、Coltrane のサックスに対して柔軟かつ深みのある支えを与えており、従来のビバップ的硬質さではなく“うねり”や“空気感”を伴ったジャズとして聞こえる。(HMVジャパン)
🌟 評価と後世への影響
- 発売後、このアルバムは商業的にも成功を収めた。タイトル曲のシングル・バージョンはラジオでも人気を博し、Coltrane を広く世に知らしめるきっかけになった。(ウィキペディア)
- ジャズ史上でも非常に重要な作品とされ、Coltrane にとって代表作、かつ “門戸をひらいた革命的作品” のひとつと見なされている。(音楽情報発信ブログ|music博物館)
- “モーダル・ジャズへの転換点”として、彼の後の作品(スピリチュアル・ジャズ、実験的作品、ライブ演奏)への道を開いた — 従来のジャズ/モダン・ジャズから、より自由で拡張的な方向への橋渡し。(ウィキペディア)
- ただし、「スタンダード曲を大胆に再構築した結果、原曲の“ポップさ”や“親しみやすさ”は希薄になった」という批判もある。ある意味で“玄人向け”なジャズ解釈と受け止められることもある。(加持顕のジャズに願いをのせて)
- とはいえ、その実験性と名演としての完成度ゆえに、今なお多くのファンや評論家から高く評価され、再発・リマスターや記念盤も出続けている。(ザ・レイテスト)
🧭 なぜ今も「My Favorite Things」は聴かれるのか
- ポップ/オーソドックスなスタンダードを、ジャズの文法で“完全に自分のもの”へと作り変える — この大胆さ、自信、そして技巧。だからこそ、ジャズ初心者にも入りやすく、同時にジャズ通/研究者にも刺さる。
- モード・アプローチとソプラノ・サックスという“新しい音色”の到来 — Coltrane の後期作品や、モーダル・ジャズ/スピリチュアル・ジャズの源流を知るうえで、歴史的必聴。
- 時代を超えて、ジャズとポップスの融合、あるいは標準曲の再解釈の可能性を示した — それは「ジャズは古典を壊して再構築する芸術だ」という視点の有力な証左。
『ジョン・コルトレーン・プレイズ・ザ・ブルース』 – Coltrane Plays the Blues(1960年10月録音)(Atlantic) 1962年
奇才コルトレーンによるユニークなブルース集。曲中の異なるキーとテンポによる、コルトレーンならではのアドリブが聴きどころ。ブルージィなマッコイ・タイナーのピアノにも耳を奪われる。©Copyright CD Journal
(参考)“ブルースという形式で、コルトレーンは何を探ったのか”**

📸 1. 1960年秋、Atlantic スタジオの空気
『Plays the Blues』の素材は、同年10月の怒涛のセッションで録音された。
この時期のコルトレーンは、
- マイルス・バンドを離脱
- 新バンド(Tyner / Davis / Elvin)を結成
- モード・ジャズへの本格移行を開始
という “人生でもっとも重要な転換期” にいた。
その真っただ中で、コルトレーンはあえて ブルース を題材にした。
それは「ブルースの古さ」への回帰ではなく、むしろ モードへ向かうための基盤づくり だった。
🎯 2. 制作の背景・経緯
■ 1960年10月24日・26日の録音
『My Favorite Things』『Coltrane’s Sound』と同じ日程。
つまり、互いに“兄弟作品”と言ってよい。
■ Atlantic 時代の中心に位置する音源
- この時期、コルトレーンは一度に大量の録音を行い、
その一部が後年にアルバムとして編集された。 - 『Plays the Blues』は 1962年に整理・発売されたもので、
大量録音の「ブルース部分」をまとめた構成になっている。
■ “ブルース形式でモードを試す”姿勢
コルトレーンは1959〜60年頃からコードの縛りを弱め、モード中心で演奏を発展させる
方向に動いていた。
しかし、モードへ行くには逆に“最小限の構造(ブルース)” が必要になる。
→ 『Plays the Blues』は、コルトレーンが自由へ向かうための“準備運動”だったと考えられる。
🎶 3. 音楽性・内容の特徴


■ ブルース形式を多方向に展開した実験作
収録曲:
- Blues to Elvin
- Blues to Bechet
- Blues to You
- Mr. Day
- Mr. Knight
- Mr. Syms
これはすべて「ブルース」ではあるが、12小節ブルースの枠をどう拡張するかが曲ごとに異なる。
■ ① 和声を簡素化し、モードへ寄せる
例:Blues to You
→ コードを減らし“単純な場”をつくることで、コルトレーンはフレーズの自由度を上げている。
■ ② 逆に複雑化したブルース
例:Mr. Syms
→ モード進行とブルース進行が混ざった“拡張型ブルース”。
■ ③ リズムの流動性
Elvin Jones がブルースの枠を壊さずに“揺れるような三連流”を作り、Tyner のモーダル・ヴォイシングと組み合わさることで、「ブルース」なのにハードバップでもビバップでもない。
コルトレーン独自の新しい音楽領域を生んでいる。
■ ④ コルトレーンの語り口が“最も素直に”出る作品
Giant Steps のような過剰な技巧も、後期のスピリチュアルな爆発もない。
ここには、“声(tone)で語るコルトレーン”がもっともストレートに残されている。
🏅 4. 発表後の評価・位置づけ

■ “過渡期の研究成果”として高く評価
評論家は本作を
「コルトレーンの研究ノート」
と呼ぶことがある。
革新性は控えめだが、
“何に向かって進もうとしていたのか”が
最も明瞭に聴き取れるためだ。
■ ミュージシャンからの評価が特に高い
- ブルースの再解釈
- モードの導入方法
- リズム隊の絡み方
- シンプルさの中の強い個性
これらは実践的教材として価値が高く、「コルトレーンの地味な名盤」とされる。
■ 商業的には控えめ、しかし内容は一流
『My Favorite Things』ほどの爆発力はなかったが、音楽的な深さは引けを取らない。
しばしば“最も聴き返されるコルトレーンのブルース集”とも評される。
🔍 5. 総括 ― この作品の“核心”
『Plays the Blues』は、コルトレーンが“モードへ飛ぶために必要だった地面の固さ”を確認する作品。つまり、自由へ向かう入口である。
- ブルースというシンプルな枠の中で、
- 自分の語り口を磨き、
- モードを試し、
- リズム隊の新しい在り方を探る。
そのすべてが詰まっている。
🎧 6. こんな人にこそ薦められるアルバム
- コルトレーンの“音色”を味わいたい人
- ブルースがどう変化するとモードになるか知りたい人
- 巨大な革新作の前の“準備段階”を聴きたい人
- Tyner / Elvin の初期の絡みを楽しみたい人
『コルトレーン・サウンド(夜は千の目を持つ)』 – Coltrane’s Sound(1960年10月録音)(Atlantic) 1964年
スダンダート・ナンバーから実験的演奏まで、ヴァラエティに富んだ選曲でおくる充実の1枚。「夜は千の眼をもつ」でのコルトレーンの名演は有名。迷いのないフッ切れた演奏が爽快だ。
©Copyright CD Journal
参考

🎯 制作の背景・経緯
- Coltrane’s Sound の録音は、1960年10月24日と26日に、ニューヨークの Atlantic Records のスタジオで行われた。 (ウィキペディア)
- このセッションは、同時期に録音された My Favorite Things や Coltrane Plays the Blues と同じ日程。つまり、Coltrane にとって「Atlantic 時代中期」の括りに入る録音群のひとつ。 (ウィキペディア)
- しかしながら本作は、Coltrane の手による“監修・選曲”ではなく、彼がすでに別レーベル(後の Impulse! Records)に移籍した後、Atlantic が未発表セッションを整理・編集してリリースしたもの。 (ウィキペディア)
- 発売は1964年 — 録音から約4年後。ただしその時点で Coltrane はすでに新しいステージへ移っており、当時の彼の思想や演奏スタイルはさらに進化を遂げていた。 (ウィキペディア)
- バンド編成は、テナーと(場合によっては)ソプラノ・サックスの Coltrane、自身が“後の黄金カルテット”で長く組むことになる McCoy Tyner(ピアノ)、 Steve Davis(ベース)、そして Elvin Jones(ドラム)という、当時としては比較的新しい布陣。これが、Coltrane の「モーダル/拡張路線」を準備させるセットでもあった。 (ウィキペディア)
→ 要するに、Coltrane’s Sound は“公式リーダー作”ではなく、Atlantic による“ストック整理的なリリース”だが、中身は Coltrane 自身の変化と深化の時期をしっかり捉えた “過渡期の記録” である。
🎶 音楽性・内容の特徴
- アルバムにはスタンダード曲(たとえば The Night Has a Thousand Eyes、Body and Soul)と、Coltrane のオリジナル曲(Central Park West、Liberal a、Equinox、Satellite、また後の再発盤には 26-2 など)が混在している。 (ウィキペディア)
- 特に「Equinox」などは、Coltrane が“暗めのブルース感”やマイナー調の深さを志向し始めていたことを感じさせる作品で、このあたりが後のスピリチュアル/モーダル・ジャズへの布石となる。 (ウィキペディア)
- 一方で、スタンダード曲「Body and Soul」「The Night Has a Thousand Eyes」を、Coltrane は単なる「演奏曲」としてではなく、彼なりに深く再構築 — 古典的な曲に彼自身の“声”を吹き込み直し、「個人的な表現」として再提示。特に「Body and Soul」の解釈は名演と称されることが多い。 (ウィキペディア)
- 演奏全体のトーンは「過度に激しく荒ぶる」ものではなく、むしろ落ち着きと抑制、そして深みを伴った“成熟したジャズ” — ただし、60年代初頭の Coltrane の “拡大と探求” の過程をありありと感じさせる、静と動のバランスの良さがある。 (zawinul.hatenablog.com)
→ つまり、Coltrane’s Sound は「伝統(スタンダード)」と「自身の進化(オリジナル・モーダル/ブルース)」とを両立させた、バランス感のある作品だ。
🏅 発表後の評価・位置づけ
- 一般には “彼のディスコグラフィーの中では過小評価されがちな作品” とみなされている。たとえばレビューサイトでは「Coltrane の作品群の中でも過小評価されがちだが、中身は傑作」 とされることがある。 (ウィキペディア)
- ただし、熱心なファンやミュージシャンの間では、特に “スタンダード曲の解釈の深さ” や “オリジナル曲の質の高さ(Equinox, Central Park West など)” が高く評価されており、「真の Coltrane を味わいたいときに手に取る1枚」 として根強い人気を保っている。 (加持顕のジャズに願いをのせて)
- 批評的には、彼自身が “自由な探求” をさらに先に進めた後の作品群(たとえば後のスピリチュアル系、実験系)と比べると、革新性やインパクトという点で“尖ってはいない” — しかしその分 “安定と深み”、そして“過渡期の柔軟性” を備えた “良質なジャズ作品” とみなされることが多い。 (音楽情報発信ブログ|music博物館)
- 当サイトのようなレビューまとめサイトでは、10点満点で 6.33点とされており(同時期作と比べてやや控えめな評価)。それでも「My Favorite Things」などと並ぶ“Atlantic 時代”の重要作品のひとつに挙げられている。 (音楽情報発信ブログ|music博物館)
→ 要するに、Coltrane’s Sound は「歴史的な名盤」とまでは言われづらいものの、「本気で Coltrane を追う人にとっては味わい深く、彼の成長過程を知るうえで重要」なアルバム、と評価されている。
🧭 なぜ今 “聴き直す価値” があるのか
- “Atlantic 時代中期” の Coltrane — 新作の実験と成熟の狭間にいた頃の、拡がりと安定の同居。彼の進化を時系列でたどるなら、ここは絶好のチェックポイント。
- 特に「Equinox」「Central Park West」「Body and Soul」などは、後年の彼のスタイル(ブルージーかつモーダル、深みある演奏)の萌芽を如実に感じさせる — 後期作品へつながる“橋”としての価値が高い。
- また、スタンダードの“再解釈力” — 古典をただなぞるのではなく、自分の言葉で語り直す姿勢は、普遍性と個性を両立させた “成熟した表現” のひとつ。
1960年、《My Favorite Things》《Plays the Blues》《Coltrane’s Sound》
— 革新・探求・成熟、そのすべてが同じスタジオで生まれた
📸 1. 1960年秋、ニューヨーク:歴史的セッションの現場


1960年10月。
John Coltrane は、マイルス・デイヴィスのバンドを離れ、新たなカルテットの核(Coltrane / Tyner / Davis / Elvin)を形作りながら、怒涛の3作を一気に録音した。
- ✔ My Favorite Things(革新)
- ✔ Coltrane Plays the Blues(探求)
- ✔ Coltrane’s Sound(成熟)
すべて 同じ週に録った音である。
しかし聴こえる世界は、まったく違う。
この3作品は、“コルトレーンの進化の3つの顔”を最も鮮やかに見せるセットだ。
🔵 **A. My Favorite Things(1961発売)
—「革新」のコルトレーン**


■ このアルバムが何を変えたか?
- コルトレーン 初のソプラノサックス導入
- タイトル曲のモーダル再構築は、ジャズ史を変えた
- 3拍子の広がり、反復の美学、ミニマル性の萌芽
- 商業的にも大成功 → 名実ともに世界的アーティストへ
■ 音のキャラクター
明るい。開放的。未来へ向かう。
音そのものが“前に進む力”を持っている。
■ この時期3作の中での位置
最も外へ向いた作品。
革新を一気に爆発させたアルバム。
🔵 **B. Coltrane Plays the Blues(1962発売)
—「探求」のコルトレーン**



■ このアルバムの役割
- 全曲ブルース形式
- しかし“昔のブルース”ではなく、モードへの実験場
- スケールの使い方、コードの簡素化、ポリリズムの導入
- Giant Steps の複雑さをいったん手放し、
“本質的な音の使い方” を徹底的に研究する
■ 音のキャラクター
内向的。深く沈み込む。
研究ノートのように見えて、実は完成度が高い。
■ この時期3作の中での位置
最も内へ向いた作品。
“自由”へ向かうために必要な基礎工事だった。
🔵 **C. Coltrane’s Sound(1964発売)
—「成熟」のコルトレーン**

■ 4年遅れて発売された“秘蔵の名盤”
- 録音は3作と同時期だが、リリースはコルトレーン移籍後
- Atlantic が未発表音源を編集して発売
- 静かで、美しく、完成度の高いアルバム
■ 音のキャラクター
凪いだ精神性。
スタンダードの再解釈が圧倒的に深い(The Night Has a Thousand Eyes / Body and Soul)。
オリジナル曲(Central Park West / Equinox)はいずれも傑作。
■ この時期3作の中での位置
最も“完成された音”。
革新と探求のちょうど中心にある。
🟣 3作の比較(総括表)
| 作品 | 方向性 | キーワード | コルトレーン像 |
|---|---|---|---|
| My Favorite Things | 革新(外向き) | モード進化/ソプラノ導入/開放 | 新時代を切り開くコルトレーン |
| Plays the Blues | 探求(内向き) | ブルース研究/モードの基礎/思索 | 自分の音を作り直す職人的コルトレーン |
| Coltrane’s Sound | 成熟(均衡) | スタンダードの深い解釈/静かな美/精神性 | 完成された語り口を持つコルトレーン |
🎧 聴く順番(おすすめ)
- My Favorite Things(革新の方向を理解する)
- Plays the Blues(その“裏側”で何を研究していたか知る)
- Coltrane’s Sound(その成果がどんな“完成形”になったか聴く)
この順で聴くと、1960年というひとつの瞬間がどれほど生産的で、どれほど創造的だったか
驚くほどよく分かる。
🧭 結論:同じ週に録ったとは思えないほど異なる3作

- My Favorite Things = コルトレーンが“未来を切り開いた日”
- Plays the Blues = 次の飛躍に向けて“音を練り直した日”
- Coltrane’s Sound = その両方の成果が“最も美しく結実した日”
これら3つを並べて聴くと、
1960年10月というわずかな期間に
コルトレーンがどれほど大きく進化していたか、
そして彼がいかに“常に先へ向かう音楽家”だったか、
鮮やかに実感できる。
1961年

『オーレ!コルトレーン』 – Olé Coltrane(1961年5月録音)(Atlantic) 1961年
大胆なソロを展開した、ジョン・コルトレーンの代表的アルバム。美しいテナーの音色を心ゆくまで楽しめる内容だ。タイトルに象徴されるスパニッシュ風のニュアンスが、作品を特徴づけている。
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コルトレーンが “大陸の向こう側” を見つめた瞬間
📸 1. 1961年春:インパルス移籍直前のコルトレーン
1961年5月。
コルトレーンは Atlantic での最後の録音に臨んでいた。
その数か月後には Impulse! に移籍し、後の《Africa/Brass》へ向かう“新しい旅”が始まる。
そんな 転換点のわずかな隙間に生まれたのが、この Olé Coltrane である。
録音メンバーは豪華で、
- Eric Dolphy
- Freddie Hubbard
- Reggie Workman
- Art Davis
- McCoy Tyner
- Elvin Jones
と、のちの“冒険的コルトレーン”の要素がすべて揃っている。
アルバム全体には
スペイン〜アラブ世界への憧憬 が漂い、同時期の Miles Davis《Sketches of Spain(1960)》の影響も濃い。
🎯 2. 制作の背景・経緯

■ Atlantic 契約最後のプロジェクト
- コルトレーンはすでに Impulse! 移籍を決めていたため、Atlantic ではより自由な制作が許された。
- その自由度が “長尺”かつ“民族音楽的”なアプローチにつながった。
■ 1961年5月25日録音
- 1日のセッションで録られている。
- 《Africa/Brass》とほぼ同時期のため、
すでに 大編成・民族色・モーダルな広がり に向かう志向が見える。
■ “スペイン/アラビア音階”への強い関心
- タイトル曲 Olé はスペイン民謡“エル・ビート”を原型にしている。
- フレーズ、ベースライン、打楽器の扱いが、完全に
ヨーロッパではない場所のリズム を目指している。
🎶 3. 音楽性 — “長尺モード+民族的広がり”の誕生


■ A. タイトル曲 “Olé” の革命性
18分以上の長尺曲。
低音の Ostinato(反復するベースライン)の上に、Coltrane と Dolphy、Tyner が「大陸を越える旋律」を重ねていく。
- スペイン音階(フリジアン)
- アラビア風の旋律装飾
- モーダルな即興の拡張
ここにはすでに、後の《India》《Impressions》に続くコルトレーンの“ワールド・ミュージック化”の第一歩がある。
■ B. “Dahomey Dance” — アフリカ的力動
- “ダホメー” はアフリカの旧国名。
- パルスの強いリズム、
重層ベース(Art Davis & Workman)、
ドルフィーの奔放なソロが特徴。
この曲はコルトレーンが “アフリカ的な音の重さ” を
どうジャズに持ち込むかを探った実験であり、
《Africa/Brass》の直前として完全に必然のサウンド。
■ C. “Aisha” — スピリチュアルな予兆
McCoy Tyner 作曲の名バラード。
静かで荘厳、そして祈りのようなメロディ。
- ヴァイブレーションのあるテナー
- 寺院のような Tyner の和音
- Elvin の柔らかな三連系
これは後の《Ballads》《Crescent》へ続く
“精神性のコルトレーン”の端緒である。
🏅 4. 評価 — 「Atlantic 期の頂点」「隠れ名盤にして核心」
■ 評論家の評価
- Atlantic 期では Giant Steps に匹敵する重要作とされる。
- 特に “Olé” は「アメリカのジャズが、世界の音楽と結びついた瞬間」と評されることがある。
■ ミュージシャンからの評価
- ベースの重層化
- 反復型モード
- 民族旋法の取り込み
など、後のスピリチュアル・ジャズへ不可欠な要素がすべて入っているため、
演奏家からの支持が極めて強い。
■ 一般リスナーの評価
- 長尺で“濃い”ため入門向けではないが、
聴けば聴くほど世界が広がるタイプの作品。
“Coltrane の世界観が大きく開いた瞬間”
を聴くアルバムとして、評価は年々高まっている。
🔍 5. 総括 — “ジャズが世界へ開いた日”
『Olé Coltrane』は、コルトレーンが jazz の中心線から大きく逸れて、スペイン・アフリカ・中東・インドへ向けて視線を伸ばした作品。
- 狭いコード進行 → 広いモードの海へ
- アメリカ中心 → 世界の旋律へ
- 小編成のジャズ → 重層的なアンサンブル
この “広がり” は、後の《Impressions》《Live at the Village Vanguard》《A Love Supreme》へ
まっすぐつながっていく。
つまり、このアルバムは「コルトレーンが世界音楽へ進む第一歩」であると同時に、Atlantic 時代の “閉じる前の花開き” でもある。
🎧 どんな人におすすめ?
- モード・ジャズの深いところを知りたい
- コルトレーンの民族的/スピリチュアルな側面が好き
- ドルフィー参加作が好き
- 長尺の即興に没入したい
- 《Africa/Brass》《Impressions》前後の“広がるコルトレーン”を理解したい
Eric Dolphy(エリック・ドルフィー)偶然ではなく、複数の要素が重なった必然だった。

⭐結論から
コルトレーンが“自分の音楽を拡張するために必要な人物”としてドルフィーを招いた。
その背景には、(1)NYでの交流、(2)音楽性の共鳴、(3)Impulse! 移籍準備の時期が重なったことがある。
1️⃣ 1959〜60年:ニューヨークで急接近していた


- ドルフィーは1959年に Charles Mingus のバンドでNYへ。
- 同時期、コルトレーンはマイルス離脱後、小さなクラブのセッションで頻繁にドルフィーと出会う。
二人はすぐに音楽的に惹かれ合った。
理由:ドルフィーの
- 自由すぎるアドリブ
- 拡張された音程感
- バスクラ・アルト・フルートを自在に使う多才さ
これらは、当時のバップ系奏者には「異端」だったが、コルトレーンにとっては “まさに欲しかった刺激” だった。
コルトレーンは周囲にこう語ったという証言が残っている:
“Dolphy hears things other musicians don’t.”
(ドルフィーは、他の奏者が聴いていないものを聴いている)
2️⃣ コルトレーンの“音楽方向の転換点”に、ドルフィーが必要だった
1960年以降のコルトレーンは、モード → 民族音楽 → スピリチュアル志向へ突き進んでいた。
ところが、彼の周囲に同じ方向を向いている奏者がほとんどいなかった。
ドルフィーだけは、
- 豊かなクラシック素養
- ミンガス仕込みの自由さ
- 民族音楽的感性
を併せ持ち、
“既成ジャズの音ではない”世界を表現できる奏者だった。
コルトレーンが惹かれるのは当然だった。
3️⃣ 1960年:European Tour で本格的に共演開始
マイルス・デイヴィスはヨーロッパ・ツアーでドルフィーを呼ばなかったが、このツアー中にコルトレーンはドルフィーと深い会話を重ね、お互いの音楽観が非常に近いことを確認した。
帰国後、正式にコルトレーンはドルフィーに声をかけた。
4️⃣ 1961年:コルトレーンは“二人目のリード奏者”を探していた


1961年春、コルトレーンは自分のバンドを「より多層的」なサウンドにしたいと考えていた。
理由は2つ:
- 音楽が複雑になり、テナー1本では表現が狭い
- 新レーベル(Impulse!)で大きな構想を実現するには、倍音豊かな異種奏者が必要
→ そこで抜擢されたのが Eric Dolphy。
ドルフィーは
- アルトサックス
- フルート
- バスクラリネット
という異なる音色を使い分け、コルトレーンの“宇宙的サウンド”をさらに拡張できた。
こうして Africa/Brass セッション(1961年5月) に参加するに至った。
5️⃣ そして Village Vanguard(1961年11月)で歴史が動く
ドルフィーが参加したことで、Village Vanguard ライブ(1961年)はジャズ史に残る大事件となった。
- “India” のドローン構造
- “Impressions” の長尺モーダル
- バスクラの暗黒的響き
- テナーとバスクラの対位法
ドルフィーの存在は、コルトレーンの音楽を「次元ごと変えた」 と評価される。
🔶 要約:Eric Dolphy 参加の経緯
| 要因 | 内容 |
|---|---|
| ① 個人的な共鳴 | NYでのセッションで急速に互いを認め合う |
| ② 音楽的必然性 | コルトレーンが探求する“世界音楽化”にドルフィーが不可欠だった |
| ③ バンド編成の進化 | “二人目のフロント奏者”として最適 |
| ④ Impulse! 移籍期で自由に人選できた | “好きな人を呼べる環境”が整っていた |
| ⑤ Village Vanguard の大実験へ向けた準備 | ドルフィーなしでは成立しなかったサウンド |
つまりドルフィーは「コルトレーンが未来を開くための唯一の鍵」だった。
⭐ まとめ
コルトレーンがドルフィーを選んだのではない。
“新しい音楽”が、二人を引き寄せた。
彼らは同じ方向(世界音楽/精神性/モードの深化)を向いており、自然に重なり合った結果、1961〜62年の“黄金の共同作業”が生まれた。
インパルスへの移籍

⭐ John Coltrane が Impulse! に移籍した主な理由
インパルス移籍の理由は、「芸術的自由の確保」と「制作環境の飛躍的向上」
この2つに集約される。
だが、その背景には複数の具体的な動機が絡み合っている。
評論家や関係者の証言を踏まえて、分かりやすく整理する。
1️⃣ 芸術的自由を最大化したかった
コルトレーンは1960年以降、
- 長尺演奏
- 宗教的・瞑想的曲
- 大編成(Africa/Brass のような)
- 民族音楽の導入
- 実験的なモード構造
と、既存のフォーマットから大きく飛び出し始めた。
しかし Atlantic(アトランティック) は「売れる作品」「分かりやすいフォーマット」を重視するレーベル。
→ コルトレーンのアイデアは “大きすぎた” のだ。
一方 Impulse! は“アーティスト主導”を全面的に許すレーベルとして創設され、
- 長尺OK
- 大編成OK
- 実験作品OK
- 宗教的テーマOK
という破格の自由度を約束していた。
コルトレーンはこれを「次のステップへ進むために不可欠」と判断した。
2️⃣ プロデューサー Creed Taylor(クリード・テイラー)の存在


Impulse! の創設者 Creed Taylor は、当時もっとも“アーティストの自由”を理解していた人物のひとり。
彼はコルトレーンに次のように保証したとされる:
「君のやりたい音楽を、好きなメンバーで録っていい」
Atlantic の制作方針と比べ、これはまさに天と地ほどの差。
→ コルトレーンは Taylor の下で “本当の音楽” を作れると感じた。
3️⃣ 音質・録音環境が圧倒的に良かった(Van Gelder Studio)

Impulse! は録音をほぼすべて Rudy Van Gelder Studio で行った。
ここは、
- 天井の高い教会的音響
- クリアなサウンド
- 管楽器が最も美しく録れる環境
として、ジャズ史上もっとも評価の高いスタジオ。
Atlantic 時代と比べると、音の透明度・空気感・立体感がまるで違った
コルトレーンはこの音を聞き、「自分のサウンドはここでこそ完成する」と確信したと言われる。
4️⃣ 経済的条件が非常に有利だった
Impulse! は新興レーベルで知名度を上げる必要があったため、コルトレーンのような看板級アーティストには非常に好条件を提示した。
- 高額な契約金
- より多いロイヤリティ
- レコードの豪華仕様(黒×オレンジの高級ジャケット)
アーティストの扱いの“格”が違った。
5️⃣ 自身の精神性・信仰を表現するための場所が必要だった
1960年代初頭のコルトレーンは、音楽を “祈り”“探求”として扱うようになっていた。
Atlantic では商業的制約が強く、この方向性を全面的に出すことは難しかった。
しかし Impulse! はスピリチュアルなテーマを歓迎しており、後の《A Love Supreme》《Ascension》《Meditations》などが生まれる基盤となる。
🔥 Coltrane が Impulse! に移籍した理由(要約)
- 芸術的自由を最大限得るため
- Creed Taylor の後押し
- Van Gelder Studio で録れること
- 経済的・待遇的な優位性
- 精神性の探求を制限なく表現したかった
こうした要素が完全に一致し、Atlantic に留まる必要がなくなった。
⭐ 結論:
Impulse! はコルトレーンが「真の自分の音楽」を始める場所だった。
Atlantic は “ジャズの名手” を育てた場所、Impulse! は “精神的芸術家” コルトレーンを育てた場所。
この移籍がなければ、《Africa/Brass》《A Love Supreme》《Ascension》 のような歴史的作品は生まれなかったのだ。

『アフリカ・ブラス』 – Africa Brass(1961年5月、7月録音)(Impulse!) 1961年。
のち『ファースト・セッション・フォー・インパルス・プラス(コンプリート・アフリカ・ブラス)』(MCA) 1991年 – The Complete Africa/Brass Sessions(Impulse!) 1995年。
レビュー
1961年、ジョン・コルトレーンは大編成オーケストラを率いて Africa/Brass を録音した。
『The Complete Africa/Brass Sessions』は、この作品の 全テイク を集めたもので、もともと別の編集盤に入っていた “The Damned Don’t Cry” を年代順に正しい位置へ戻して収録している。録音された順番通りに曲が並んでいる、というわけだ。
当時コルトレーンは、アトランティックで成功作を連発したのち、発足したばかりのジャズ専門レーベル Impulse! に移籍した。残りの人生のすべての録音をこのレーベルで行うことになる。
移籍直後、コルトレーンはマイルス・デイヴィスの『Someday My Prince Will Come』に参加し、「Teo」などで再び共演した。その直後、コルトレーンは 17人編成のオーケストラ を結成し、後に Africa/Brass と呼ばれる録音を開始した。
参加メンバーは豪華で、
- ブッカー・リトル、フレディ・ハバード(トランペット)
- ジュリアン・プリースター(トロンボーン)
- エリック・ドルフィー(アルト/バスクラ)
- マッコイ・タイナー(ピアノ)
- ポール・チェンバース(ベース)
- エルヴィン・ジョーンズ(ドラム)
…など錚々たる顔ぶれ。
コルトレーンは彼らの音を巧みにまとめ上げ、
- 「Greensleeves」の複雑で跳ねるリズム
- 「Songs of the Underground Railroad」の猛烈なビバップ的攻勢
といった、大胆で対照的なサウンドを作り出した。
コルトレーン自身のソロは、この時点ですでに 後期のアヴァンギャルド期につながる兆し を見せている。
とくに「Songs of the Underground Railroad」での タイナーとの応酬 は見事で、さらにエルヴィン・ジョーンズやレジー・ワークマンもタイナーと絡みながら、エネルギーに満ちた即興を展開する。
Africa/Brass は、コルトレーンの音楽が後期へ向かう道筋を理解するうえで欠かせない作品。
このコンプリート盤は、その転換期を丸ごと記録した、きわめて重要な資料といえる。
© Lindsay Planer /TiVo
Olé(1961)→ Africa/Brass(1961)→ Impressions(1961–63)
ジャズが大陸を越え、祈りへ向かった道のり
——世界音楽化するコルトレーンの3部作
📸 序章:1961年、コルトレーンは“地球規模”の音を聴き始めた
1960年代初頭、ジャズは飛躍の時代に入っていた。
しかし、その飛躍の核となったのは John Coltrane の音である。
1959年の《Giant Steps》でコード進行の限界を突破した彼は、すぐに “コードではなく、音そのものの本質” を探り始める。
その方向性が “世界の旋律へ向かうこと” だった。
その過程で生まれたのが、この3作だ。
🟥 1. Olé Coltrane(1961)
— スペインとアラブ世界の門を叩いた作品



■ 音楽的焦点:
- スペイン民謡“エル・ビート”をモチーフにした “Olé”
- フリジアン(南欧〜アラブ的)音階
- 反復する重いベースの Ostinato
- 民族的旋律、長尺即興、二重ベース
■ 作品が意味したもの
コルトレーンはジャズの文法を越え、“大陸の音”をジャズに輸入する最初の試みを行った。
その結果生まれたのが、“境界が消えたジャズ”=世界音楽としてのジャズ。
これは Miles Davis《Sketches of Spain》と並ぶ、スペイン音楽受容の最重要作でもある。
■ この3部作の中では
出発点。
ジャズが世界へ向かうための第一歩。
🟩 2. Africa/Brass(1961)
— 大編成の黒い大地、アフリカへの帰還

■ 音楽的焦点:
- アフリカ音楽の重層リズム
- トロンボーン・チューバを中心にした分厚いアンサンブル
- 長い持続音・呪術的オスティナート
- Eric Dolphy の大胆なアレンジ
■ 作品が意味したもの
アフリカの霊性と、クラシック的なアンサンブルを融合した前代未聞のサウンド。
これは “ブラック・アートの再定義” と呼ばれるほど画期的で、後のスピリチュアル・ジャズの源流となった。
■ この3部作の中では
世界音楽の本格化。
ジャズが“祈り”と結び付いた瞬間。
🟦 3. Impressions(1961–63)
— インド・中東的モードと“精神の音楽”の開花
■ 音楽的焦点:
- インド音楽のドローン構造
- 1コード(または無コード)の長尺モーダル即興
- タブラ的リズム感
- 宗教的・瞑想的な集中
- “祈るようなテナー”の完成
■ 代表曲 “Impressions” の革命性
- たった2つのコードで20分近くの宇宙が広がる
- インド音楽の “ラーガ” 的発想が明確
- リズム・ハーモニー・メロディが“ひとつの場”に統合される
■ この3部作の中では
世界音楽とスピリチュアル・ジャズの“到達点”。
オーレの萌芽 → アフリカ・ブラスの大地 → その上に咲いた花。
🌍 三部作として聴くと見える “世界音楽化する構造”
① Olé → 外へ向かう(スペイン・アラブ)
旋法・民族音階の導入
↓
② Africa/Brass → 大地の根へ向かう(アフリカ)
重層リズム・祈り
↓
③ Impressions → 上へ向かう(瞑想・精神)
モードの純化・精神性の極点
3作は方向こそ異なるが、「ジャズをアメリカから世界へ解放する」という一本の線でつながっている。
🔥 三部作を貫く3つの要素(総括)
● 1. 旋法(モード)の世界化
- フリジアン(Olé)
- ペンタトニック+アフリカン(Africa/Brass)
- インド的ドローン(Impressions)
● 2. リズムの世界化
- Ostinato(Olé)
- 重層パルス(Africa/Brass)
- タブラ的三連+広大な間(Impressions)
● 3. 精神性の深化
- 異国への憧憬(Olé)
- 祖先への回帰(Africa/Brass)
- 内なる宇宙への旅(Impressions)
⭐ 結論:この3作は “A Love Supreme への助走” そのものである

- Olé で 世界の旋律 を学び
- Africa/Brass で 世界のリズム を取り込み
- Impressions で 世界の精神 を音にした
そして 1964 年、コルトレーンは A Love Supreme という“祈りの結晶” に到達する。
3作はそのすべての前段階として、極めて重要な意味を持つ。
『ヴィレッジ・ゲイトの夜』 – Evening at the Village Gate(1961年8月録音)(Impulse!) 2023年。(ニューヨーク「ヴィレッジ・ゲイト」におけるライヴ)
1961年のヴィレッジ・ヴァンガードでの名ライヴの3ヵ月前に行なわれた、未発表ライヴ音源。ドルフィーらと「マイ・フェイヴァリット・シングス」などを披露したコルトレーンを捉えた歴史的音源で、現存する「アフリカ」の唯一のライヴ音源も収める。
©Copyright CD Journal
— “伝説のライン録音”が半世紀を超えて蘇った夜**

⭐ **Evening at the Village Gate(1961録音/2023発売)
─ この作品は「新譜のようでいて、歴史を変える発掘音源」という極めて特殊な性質を持つ。
📸 1. 1961年、Village Gate の空気

1961年夏、ニューヨークの名門クラブ Village Gate。
当時はまだ Coltrane+Dolphy の実験的モード演奏を一般客が“理解していない”時代だった。
しかしその内部では、後のジャズ史を塗り替える 革命的ライブ が毎晩繰り広げられていた。
この録音は、Impulse! やクラブ側ではなく、音響会社のテスト録音として残ったもの。
だからこそ、61年の Coltrane の“生の音”が異様な鮮度で収録されている。
🎯 2. 制作(発掘)経緯と背景
■ 1961年8月:録音されたが、誰にも忘れられていた
Village Gate の音響調整のため、クラブのサウンドシステム会社によって“ライン録音”が行われた。
- 録音者:Richard Alderson(音響エンジニア)
- 目的:ライブPAのテスト(商用録音ではない)
- 録音媒体:Reel-to-Reel テープ
- 状態:極めて良好
- 所在:本人のアーカイブに眠ったまま
■ 2010年代:テープが再発見される
Alderson が自宅アーカイブを整理中、60年以上前の「Coltrane + Dolphy のライン録音」が出てきて衝撃。
■ 2023年:Impulse! が正式リリース
オリジナル録音は
- 客席の反響がない
- PA直結のクリアな音
- Village Vanguard の録音(1961年11月)と比較して
さらに“現場感+楽器の立ち方”が良い
こうして、Coltrane黄金期の“未知の記録”として発売された。
🎶 3. 音楽性 — Vanguard より“荒々しく自由”な Coltrane+Dolphy


■ 収録曲の特徴(代表曲:Africa / Impressions ほか)
- 長尺モード(1コード)の爆発
- 二重ベース(Reggie Workman + Art Davis)
- Dolphy のバスクラ・アルト・フルートが異常な存在感
- Coltrane の“祈りと咆哮”の間を行き来するテナー
■ Vanguard より前の“実験段階”がそのまま録れている
Village Vanguard(1961年11月)の名演はよく知られるが、この Village Gate(同年8月)はその 直前段階 にあたり、
- モードの荒さ
- ドローンの長さ
- フレーズの切り替え速度
- ドルフィーの自由度
これらが よりラフで、より野生的。
研究者・評論家が口をそろえて言う特長は:
Vanguard では“完成したスピリチュアル・モード”
Gate では“進化中のスピリチュアル・モード”
という点。
■ 音の“分離が異常に良い”ライン録音
これは歴史的価値が高い。
通常のジャズライブ録音は
- ルームの反響
- 客席ノイズ
で混濁しがちだが、
Village Gate 版は
・ベースが2本ともはっきり聴こえる
・Dolphy の倍音が正確
・Elvin の細かい三連が極めて立体的
という奇跡的な音質。
🏅 4. 評価 — “ジャズ史の穴を埋めた歴史的発掘”

■ 音楽学的評価
- Coltrane + Dolphy の最重要発掘音源
- Vanguard の演奏との比較研究に新たな資料が生まれた
- アフリカ的ドローンの初期形を確認できる
- Dolphy のバスクラ演奏が“史上最もはっきり収録された”と言われる
■ 批評家の反応
2023年のリリース時、多くの批評家が絶賛:
- “Vanguard を補完し、1961年の Coltrane 像を再定義した”
- “コルトレーンの精神的旅路を追う上で欠かせない”
- “まるで時代が音をタイムカプセルで送ってきたようだ”
■ リスナーの評価
- “音質が生々しくて驚いた”
- “Dolphy の存在感が強烈すぎる”
- “Coltrane の“進化の途上”を聴ける貴重な記録”
特に Dolphy の演奏を高く評価する声が非常に多い。
🔍 5. 総括 — “歴史の未公開ページ”が初めて公開された作品
『Evening at the Village Gate』は単なる発掘音源ではなく、Coltrane 1961 の“空白を埋めた歴史資料” である。
- 《Africa/Brass》(5月録音)
- →(空白)
- 《Village Gate》(8月録音 ← NEW)
- → 《Village Vanguard》(11月録音)
この「8月の夜」が埋まったことで、コルトレーンの モード・スピリチュアル時代の進化曲線が連続的に理解できるようになった。
そしてその音は、完成品ではなく“発展途中の熱そのもの”。
だからこそ、2023年に聴いても圧倒的に新しい。
『ライヴ・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード』 – “Live” at the Village Vanguard(1961年11月録音)(Impulse!) 1962年。(「ヴィレッジ・ヴァンガード」におけるライヴ)
『ヴィレッジ・ヴァンガードのコルトレーンとドルフィー』 – The Other Village Vanguard Tapes(1961年11月録音)(Impulse!) 1970年。
『Impressions (Live)』(1961年11月録音)(Impulse!) 1963年。
『The Mastery of John Coltrane / Vol. IV: Trane’s Modes』(1961年11月録音)(Impulse!) 1979年。
エリック・ドルフィーを迎えたクインテットで行なわれた、1961年11月のライヴ・レコーディングを収めたアルバム。コルトレーンとドルフィーの激しいサックス・バトルを始め、聴きどころが満載となっている。
©Copyright CD Journal
— ジャズが “精神の音楽” へ変わった夜**


このアルバムは Coltrane の方向性を決定づけた歴史的ライブ であり、スピリチュアル・ジャズの「始まり」でもあります。
📸 1. 1961年11月:Village Vanguard の現場


地下へ続く小さな階段。
薄暗いステージ。
客席と演奏者の距離が異常に近い。
1961年11月、ここ Village Vanguard でJohn Coltrane は “ジャズの概念を変える演奏” を始めた。
録音は Impulse! 新体制の最初のライブ・プロジェクトで、プロデューサー Bob Thiele,録音エンジニア Rudy Van Gelder による本格収録。
同年5月の《Africa/Brass》、8月の未発表録音(→2023年発掘《Evening at the Village Gate》)に続き、コルトレーンの“世界音楽化・精神音楽化”が一気に爆発した現場である。
🎯 2. 制作の経緯と背景
■ ① Impulse! 移籍後、最初の重要なライブ録音プロジェクト
Impulse! はコルトレーンに「好きにやっていい」と最大限の自由を保証。
その象徴が Village Vanguard 連続公演の録音だった。
■ ② 新メンバーの確立
このライブ期間でのメンバー:
- John Coltrane — tenor & soprano sax
- Eric Dolphy — bass clarinet, alto sax, flute
- McCoy Tyner — piano
- Reggie Workman & Jimmy Garrison(交代)— bass
- Elvin Jones — drums
この編成は、後のスピリチュアル・ジャズの原型となる。
■ ③ ドルフィーの加入による“音響構造”の拡張
- バスクラの暗黒的倍音
- フルートの中東的色彩
- アルトのフリー性
これらがコルトレーンのモード実験と結合し、
「多層的な響き」を持つジャズが出現した。
■ ④ 1961年11月1–5日の全公演を録音
実際にLPに収められたのはその一部だが、
この5日間の音源は後に “Coltrane の最重要資料”として研究されている。
🎶 3. 音楽性 — ここでジャズは“祈り”と“渦”になった
■ ① “India” — ドローンと東洋的構造の決定版
- 2本のベースが持続音(ドローン)を形成
- ドルフィーのバスクラが低域の神秘性を強化
- コルトレーンのソプラノが“蛇のように揺れる旋法”を展開
- アフリカ/インド/中東音楽が同時に響く異常な曲
これは スピリチュアル・ジャズの原点とも呼ばれる。
■ ② “Spiritual” — 黙想と宗教性の深化
- ゴスペル的ハーモニー
- モードの穏やかな循環
- コルトレーンの音が“祈り”に近づく瞬間
- Elvin の三連が“揺れる炎”のように包む
後の《A Love Supreme》への直接の通路となる曲。
■ ③ “Chasin’ the Trane” — コルトレーンの“叫び”を確立
- テナー1本・ピアノなしのトリオ
- コルトレーンが完全に“ネイキッド(裸)”になった演奏
- 音が叫びになり、叫びが文法になる瞬間
- 批評家からもファンからも “衝撃的” と評された演奏
この曲は、モードの自由が“自己解放”に到達した瞬間である。
🏅 4. 評価 — ジャズ史上もっとも重要なライブの一つ
■ 批評家の評価
- “スピリチュアル・ジャズの起点”
- “コルトレーンが宗教的芸術家に変身した瞬間”
- “ジャズの演奏形式を完全に書き換えたライブ”
- “ドルフィーのバスクラ演奏の最高峰”
特に『DownBeat』誌の批評は当時物議を醸した(★1.5の酷評)。
しかし現代では **逆に“進化が理解されなかった証拠”**とされている。
■ 音楽学的な意義
- モーダル即興の構造がここで確立
- ドローンと多層リズムの融合
- リズム隊の役割が“拍子 → 空間の創造”へ移行
- ジャズが欧米中心の音楽から“世界音楽”へ変わる節目
■ リスナーの反応(現代)
- “過激だが美しい”
- “精神的な体験に近い”
- “ドルフィーの存在が強烈すぎる”
- “A Love Supreme の前に絶対に聴くべき作品”
🔍 5. 総括 — この夜、Coltrane は別世界へ踏み出した
Village Vanguard のこの録音はコルトレーンが “ジャズ奏者” から “精神的求道者” へ変貌した瞬間 だった。
- 《Africa/Brass》で地の響きを得て
- 《Evening at the Village Gate》で多層性を試し
- 本作《Live at the Village Vanguard》で
“音楽=祈り=宇宙”という世界観が一気に開花した
このライブがなければ、《Impressions》《Crescent》《A Love Supreme》はまったく違う形になっていた。
歴史の分岐点が、地下の小さなクラブの夜にあった。

『コンプリート1961ヴィレッジ・ヴァンガード・レコーディングス』 – The Complete 1961 Village Vanguard Recordings (Impulse!) 1997年。(CD 4枚組)
レビュー
クラシック・カルテット期のインパルス録音を集大成したボックスのように、複雑に絡み合った糸をほどく必要はない。ヴァンガード・セッションは、コルトレーン作品の中でまったく別の位置を占めている。
1961年当時のコルトレーンは、カルテット編成を試行錯誤し、音楽に求める力と色彩を実現するための“正しい声部バランス”を探っていた。『ジャイアント・ステップス』や『マイ・フェイヴァリット・シングス』からさらに先へ進もうとしながらも、それらによって形づくられた語法を背負っていた時期である。
ここに収められた演奏を、この限られた紙幅で説明して理解させようとするのは愚かというほかない。もっと重要なのは、このボックスが存在し、ばらばらに散っていた断片をひとつのパズルとしてまとめている点にある。ただし、そのパズルは完全ではない。
このボックスに含まれるのは、1961年11月1〜3日と5日に録音された、当初からリリースを意図して選ばれた音源群である。
カルテット(コルトレーン、マッコイ・タイナー、エルヴィン・ジョーンズ、ジミー・ギャリソン)は登場するものの、実際のステージは常にクインテットに近く、エリック・ドルフィーが加わり、曲によってはウード奏者アーメッド・アブドゥル=マリク、時にロイ・ヘインズ、またレジー・ワークマンとのベース交代など、編成は多彩で変化に富んでいた。
結果として生まれたのは、コルトレーンが生涯で最も探究的な演奏群の一部であり、しかもライヴの観客を前に、敵意むき出しの批評家たちの目の前で行われた実験の記録でもある。この“火の試練”の場で、コルトレーンは初めてインド音楽的な動機づけによる即興への傾倒を見せ、アフリカ音楽的な変拍子への関心を示し、スケール・モード・和声の各体系を作曲と即興の統合手段として扱う姿勢を明確にした。その後、同じ試みはスタジオ録音やのちのライヴでより完全な形をとることになるが、この時期の“実験室としての記録”にはすでに多くの発見が含まれている。
当時、ヴァンガード公演の録音は複数のアルバムに分散して発表された。
『Impressions』(4曲中2曲)、
『Live at the Village Vanguard』、
『The Other Village Vanguard Tapes』、
『Trane’s Modes』、
『From the Original Master Tapes』。
このボックスは、それらを統合し、4夜にわたり録音された22テイク、9曲分を一挙に収めている。なお、実際にはさらに多くの曲が演奏されたが、ボブ・シールがリリース候補として録音したものに限定されている。
収録内容は、
India(4テイク)、
Spiritual(4テイク)、
Chasin’ the Trane(3テイク)、
Naima(2テイク・うち1つは旋律が反転した異例の版)、
Greensleeves(2テイク)、
Impressions(2テイク)、
Miles’ Mode(2テイク)、
Brasilia(1テイク)、
Softly, As in a Morning Sunrise(1テイク)。
比較の焦点は、エルヴィン/ギャリソン組と、ヘインズ/ワークマン組のリズム隊による音色と推進力の大きな違いである。また、コルトレーンとドルフィーの絡み方も夜ごとに大きく異なり、ある日はコルトレーンがテーマを開閉し、ソロはタイナーとドルフィーが中心になることもあれば、逆の構成になることもあった。さらに、コルトレーンはテナーとソプラノを併用し、ドルフィーはアルトとバスクラリネットを自在に使い分ける。特に『Naima』でのドルフィーのバスクラリネット・ソロは圧巻である。
この4枚のディスクに詰まっているのは、生涯にわたる探究の核心であり、同時にコルトレーンに“静かならぬ落ち着かなさ”が芽生え始めた時期の痕跡でもある。音楽そのものは、ジャズ史に残る最高峰の水準であり、確信と寛容、深い精神性を兼ね備えている。
シングル盤の抜粋のみで満足してはいけない。
このボックスこそ、1960年代ライヴ録音の中でも最重要作のひとつといえる。
© Thom Jurek /TiVo
リリース経緯と楽曲解説
The Complete 1961 Village Vanguard Recordings』(1997 / Impulse!)
リリースの経緯・背景
この4枚組ボックスは、1961年11月1〜3日および5日にニューヨークのクラブ「ヴィレッジ・ヴァンガード」で録音された一連のライヴを体系的にまとめた初めての作品である。
当時の録音プロデューサーであったボブ・シールは、コルトレーンが新しい領域へ踏み出そうとする姿を捉え、のちのスタジオ作品へつながる“研究途上のコルトレーン”を記録していた。しかし1960年代には、発表媒体の制約やレーベル方針の問題もあり、録音された多数のテイクは別々のアルバム(『Live at the Village Vanguard』『Impressions』など)に分散し、全貌を把握できない状態が続いていた。
1990年代半ばに入り、インパルス音源の再整理プロジェクトが進む中で、散在していたテープ群が発掘・再構築され、1997年、このボックスとして“完全版”が初めて公式にリリースされた。
これは、コルトレーンのライブ演奏アーカイブ化の歴史的節目となるリリースだった。
作品の特徴
1 22テイク/4夜分の演奏を網羅した初の全集
・演奏曲:計9曲
・収録テイク:計22(India, Spiritual, Chasin’ the Trane, Naima など)
・同曲の複数ヴァージョンを完全収録し、コルトレーンの“夜ごとの変容”を追跡できる。
特に
・India(4テイク)
・Spiritual(4テイク)
・Chasin’ the Trane(3テイク)
などは、コルトレーンがモード、ドローン、ミニマル的な反復を使い、東洋思想的な即興に踏み出した瞬間を克明に記録している。
2 カルテット+ドルフィー体制の“実験室”としての記録
通常編成:
・John Coltrane
・McCoy Tyner
・Elvin Jones
・Jimmy Garrison
追加メンバー:
・Eric Dolphy(alto sax / bass clarinet / flute)
・Reggie Workman(bass)
・Ahmed Abdul-Malik(oud)
・Roy Haynes(drums: 一部曲)
特にドルフィーの存在は大きく、
・Naima のバスクラリネット
・India のマルチホーン構造
など、“コルトレーン拡張期”への橋渡しとなる音響を形成した。
3 音楽的文脈:コルトレーンの「新しい即興体系」へ向かう過程
1961年は、
・バラード系のモード
・インド音楽の持続音
・アフリカ的ポリリズム
・和声体系を越えたスケーラー即興
を同時に探っていた過渡期である。
ここには、のちの
・Impressions
・A Love Supreme
・Meditations
につながる思想の“原型”が生々しく残っており、後年の作品を理解する上で不可欠な文献的価値を持つ。
4 楽曲解説
1. India(4テイク)
■音響の特徴
- **持続低音(ドローン)**を中心とした構造
- コルトレーン(ソプラノ)+ドルフィー(バスクラリネット)の“二重旋回”
- ベース2名(Garrison+Workman)による複層的リズム
- Ahmed Abdul-Malik の oud が入るテイクでは、アラブ〜インド音楽的ニュアンスが強まる
■即興の構造
- ラーガ的(旋法的)思考
- 和声の推移ではなく、単一音中心で徐々に密度を上げる
- コルトレーンはモチーフを反復し、円環的に拡大していく
- ドルフィーは音程飛躍と異音程クラスターで“カウンター・スピリット”を形成
■重要性
“インド音楽的即興”をジャズに本格導入した最初期の記録。
のちの India(スタジオ録音)や『Meditations』の世界観へ直結する。
2. Spiritual(4テイク)
■音響の特徴
- 曲頭で聞こえる荘重な和声の深みは、Tyner の重厚な左手ボイシングによる
- コルトレーン(テナー)とドルフィー(フルート/バスクラ)が宗教的な対話を築く
■即興の構造
- コルトレーン:神秘的・祈りのような“下降系モチーフ”
- ドルフィー:浮遊感のある自由拍子的フルート
- Elvin Jones:3連系を軸に“波のような推進力”をつくる
■重要性
のちの『A Love Supreme』の“祈りの形式”の原型。
コルトレーンの“宗教的モード音楽”が最も初期の姿で現れた演奏。
3. Chasin’ the Trane(3テイク)
■音響の特徴
- Tyner が抜け、Elvin+Workman のトリオ構造
- これにより“和声(コード)を排した純粋な線的即興”が可能になった
- コルトレーンはテナー一本で全体を牽引する
■即興の構造
- 主題らしい主題は存在しない
- コルトレーンは断片モチーフを高速で連結し、
音の密度 → 空白 → 咆哮 → 低音連打の波形を反復 - Elvin のドラムはポリリズムを多層化し、“推進する海”のように動く
■重要性
・後年のフリー・フォームの萌芽
・“ポスト・コード”即興の出発点
・コルトレーンの“怒涛のライヴ美学”を象徴する作品
批評家から「コルトレーンの即興美学が露骨に露呈したターニングポイント」と称される。
4. Naima(2テイク)
■音響の特徴
- ドルフィーのバスクラリネットが**“影の旋律”**をつくる
- コルトレーンはソプラノ/テナーを曲によって使い分ける
■即興の構造
- オリジナル(Atlantic盤)よりテンポは遅く、より瞑想的
- 和声はほぼ原型のまま
- コルトレーンは旋律の“内声部分”を広げたり省略したりしながら再構成
■重要性
名バラードの“精神的深化版”。
ドルフィーとの対話により、バラードの空間性が再定義された記録。
5. Greensleeves(2テイク)
■音響の特徴
- モード化されたトラディショナル
- McCoy Tyner の左手による“鐘のような響き”が全体の空間を支配
■即興の構造
- コルトレーンはテーマをほぼスケール一本で処理
- 即興は縦方向(アルペジオ)と横方向(旋律進行)のバランスが良く、Chasin’ the Trane に比べると穏やかだが、密度は高い
■重要性
のちの『Africa/Brass』のアンサンブル処理の“軽量版”。
世界的に人気の高いコルトレーン流スタンダードの源流。
6. Impressions(2テイク)
■音響の特徴
- 2コード(D dorian→E♭ dorian)という極めてミニマルな構成
- しかしエルヴィンのリズムは多層的で、静と動の波が明確
■即興の構造
- コルトレーンは**縦の密度(垂直線)**を極限まで追求
- 細かなフレーズを高速で積み重ね、即興が“構築物”のように聞こえる
- Tyner のソロはスケール構造を明瞭に強調し、対照を作る
重要性
後年の代表曲 Impressions の決定的ターニングポイント。
ここで“高速モード即興”の骨格が完成した。
7. Miles’ Mode(2テイク)
■音響の特徴
- 名の通り“マイルス的モード感”を踏襲
- しかしコルトレーンはブレーキをかけず、密度を最大化
■即興の構造
- タイナーとコルトレーンが“旋律線の交錯”を頻繁に行う
- エルヴィンは“連続する爆発”のような推進力
■重要性
コルトレーンがマイルス・デイヴィスの影響を“超える瞬間”を捉えた演奏。
8. Brasilia(1テイク)/Softly as in a Morning Sunrise(1テイク)
■概要
- いずれも形式上は比較的伝統的だが、即興は既に“次の時代”へ向かっている
- Softly〜 のリズム処理は、バラード・スタンダードを“緊張感の高いモード”へ変換した好例
1962年
『コルトレーン』 – Coltrane(1962年4月、6月録音)(Impulse!) 1962年。
ジャズ史上に輝くコルトレーン・カルテットが本格的なレコーディングを行なった最初の作品となる、1962年の録音。個性的な解釈が際立つスタンダード「アウト・オブ・ジス・ワールド」や哀愁の美メロ漂う「ソウル・アイズ」など、静かな情熱を秘めた一枚。©Copyright CD Journal
『コルトレーン(デラックス・エディション)』 – Coltrane (Deluxe Edition)(Impulse!) 2002年。 (CD 2枚組)
『バラード』同様話題の未発表テイクを収録した名盤の登場。その音源の存在だけでも凄いが、今回2枚ともリマスタリングをオリジナルのエンジニアであったルディー・ヴァン・ゲルマーが手がけている。
©Copyright CD Journal
Impulse! 移籍後の初期を代表するアルバム

録音:1962年4月11日 / 6月19日(Rudy Van Gelder Studio)
1. 制作の背景 — Impulse! での“基盤作り”の時期
■ Impulse! 移籍後の“第二フェーズ”の入口
コルトレーンは1961年に Africa/Brass(ビッグバンド的試み)やLive at the Village Vanguard(前衛モードの実験)を経て、“新しい音楽語法を、スタジオ録音で整える段階” に入っていた。
『Coltrane』はその過程で生まれた作品であり、
- 前衛性(1961年Vanguard)
- 伝統的語法(バラード、ブルース)
- モード語法の定着(1962年以降の方向性)
これらを一本のアルバムにバランスよく融合しているのが特徴。
■ 編成:黄金のクラシック・カルテット
- John Coltrane — tenor & soprano sax
- McCoy Tyner — piano
- Jimmy Garrison — bass
- Elvin Jones — drums
この編成がスタジオ作で本格稼働し、“コルトレーンの家の音”が固まった。
■ レーベルの期待
Impulse! のプロデューサー、Bob Thiele は「過激すぎず、しかし革新的であること」を求めた。
『Coltrane』はその要求に見事に応えた“橋渡しの作品”といえる。
2. 音楽性 — 前衛と伝統の絶妙な均衡



◆ (1)モード語法が基盤に定着
- Dorian やその他のモードを使った“開放された空間”が明確に現れる
- コルトレーンのソロは垂直方向(音の密度)よりも、水平的な“旋律の流れ”が重視される段階に移行
◆ (2)バラードでの“精神的抒情美”
このアルバムの核は、なんと言っても“Out of This World” と “Soul Eyes”。
- ソプラノの清澄な線
- テナーでの深沈とした祈り
- タイナーのクォータル・ハーモニー(4度堆積)が広大な響きを作る
このあたりに「悟りの前夜のコルトレーン」の佇まいがある。
◆ (3)エルヴィンの“波のポリリズム”
- 拍を揺らしながら押し寄せる“連続した波”
- コルトレーンの流れるフレーズと完全に融合
これが Classic Quartet の“呼吸” を形成していく。
3. 曲目ごとのポイント
● Out of This World
アルバム最大のハイライト。
インド思想的ドローンを思わせる長尺モード即興。
Tyner+Elvin の“渦”の中で、コルトレーンはソプラノで祈るように浮遊する。
● Soul Eyes
マル・ウォルドロン作のバラード。
コルトレーンの深いテナーが、“語り”そのもの。
クラシック・カルテットによる究極の恋歌。
● Tunji
アフリカ的リズムをまとった小品。
のちの『Kulu Sé Mama』や African percussion 的語法の萌芽。
● The Inch Worm
シンプルな子どもの歌をモード化。
ソプラノサックスの“輪郭のくっきりした線”が特徴。
● Miles’ Mode(または “Red Planet”)
“モードの高速化”の典型。
コルトレーンのモード期の代表的ダイナミクス。
4. 批評的評価 — バランスの良い“成長点”として非常に高い
◆ 歴史的評価
- 『My Favorite Things』と『Impressions』の間を埋める重要作
- 「Classic Quartet が本格的に完成し始めた作品」
- 過激すぎず、しかし強烈に美しい。
- 多くの批評家が「1960年代コルトレーンの最も聴きやすい最高峰」と評価。
◆ 音楽的評価
- コルトレーンの“霊的抒情美”が最も均衡している
- ソプラノの使い方が明確な方向性を持つ
- タイナーの和声美が最高潮に近い
- 音の透明感は Impulse! 期でも屈指
◆ ファンからの位置づけ
- モード期の“入口”として最適
- バラードの極上の美
- 前衛になりすぎる前の“最良の均衡点”
そのため、「1960年代コルトレーンでまず聴くべき1枚」とよく紹介される。
すぐ後に
- 『Ballads』
- 『Duke Ellington & John Coltrane』
- 『Impressions』
- 『Crescent』
- 『A Love Supreme』
へとつながる“飛躍前夜”の作品であり、のちの精神的高みへの大きな布石となったアルバムである。

デューク・エリントンと共同名義, 『デューク・エリントン&ジョン・コルトレーン』 – Duke Ellington & John Coltrane(1962年9月録音)(Impulse!) 1964年
レビュー
クラシック・カルテット期のインパルス録音を集大成したボックスのように、複雑に絡み合った糸をほどく必要はない。ヴァンガード・セッションは、コルトレーン作品の中でまったく別の位置を占めている。
1961年当時のコルトレーンは、カルテット編成を試行錯誤し、音楽に求める力と色彩を実現するための“正しい声部バランス”を探っていた。『ジャイアント・ステップス』や『マイ・フェイヴァリット・シングス』からさらに先へ進もうとしながらも、それらによって形づくられた語法を背負っていた時期である。
ここに収められた演奏を、この限られた紙幅で説明して理解させようとするのは愚かというほかない。もっと重要なのは、このボックスが存在し、ばらばらに散っていた断片をひとつのパズルとしてまとめている点にある。ただし、そのパズルは完全ではない。
このボックスに含まれるのは、1961年11月1〜3日と5日に録音された、当初からリリースを意図して選ばれた音源群である。
カルテット(コルトレーン、マッコイ・タイナー、エルヴィン・ジョーンズ、ジミー・ギャリソン)は登場するものの、実際のステージは常にクインテットに近く、エリック・ドルフィーが加わり、曲によってはウード奏者アーメッド・アブドゥル=マリク、時にロイ・ヘインズ、またレジー・ワークマンとのベース交代など、編成は多彩で変化に富んでいた。
結果として生まれたのは、コルトレーンが生涯で最も探究的な演奏群の一部であり、しかもライヴの観客を前に、敵意むき出しの批評家たちの目の前で行われた実験の記録でもある。この“火の試練”の場で、コルトレーンは初めてインド音楽的な動機づけによる即興への傾倒を見せ、アフリカ音楽的な変拍子への関心を示し、スケール・モード・和声の各体系を作曲と即興の統合手段として扱う姿勢を明確にした。その後、同じ試みはスタジオ録音やのちのライヴでより完全な形をとることになるが、この時期の“実験室としての記録”にはすでに多くの発見が含まれている。
当時、ヴァンガード公演の録音は複数のアルバムに分散して発表された。
『Impressions』(4曲中2曲)、
『Live at the Village Vanguard』、
『The Other Village Vanguard Tapes』、
『Trane’s Modes』、
『From the Original Master Tapes』。
このボックスは、それらを統合し、4夜にわたり録音された22テイク、9曲分を一挙に収めている。なお、実際にはさらに多くの曲が演奏されたが、ボブ・シールがリリース候補として録音したものに限定されている。
収録内容は、
India(4テイク)、
Spiritual(4テイク)、
Chasin’ the Trane(3テイク)、
Naima(2テイク・うち1つは旋律が反転した異例の版)、
Greensleeves(2テイク)、
Impressions(2テイク)、
Miles’ Mode(2テイク)、
Brasilia(1テイク)、
Softly, As in a Morning Sunrise(1テイク)。
比較の焦点は、エルヴィン/ギャリソン組と、ヘインズ/ワークマン組のリズム隊による音色と推進力の大きな違いである。また、コルトレーンとドルフィーの絡み方も夜ごとに大きく異なり、ある日はコルトレーンがテーマを開閉し、ソロはタイナーとドルフィーが中心になることもあれば、逆の構成になることもあった。さらに、コルトレーンはテナーとソプラノを併用し、ドルフィーはアルトとバスクラリネットを自在に使い分ける。特に『Naima』でのドルフィーのバスクラリネット・ソロは圧巻である。
この4枚のディスクに詰まっているのは、生涯にわたる探究の核心であり、同時にコルトレーンに“静かならぬ落ち着かなさ”が芽生え始めた時期の痕跡でもある。音楽そのものは、ジャズ史に残る最高峰の水準であり、確信と寛容、深い精神性を兼ね備えている。
シングル盤の抜粋のみで満足してはいけない。
このボックスこそ、1960年代ライヴ録音の中でも最重要作のひとつといえる。
© Thom Jurek /TiVo
リリース経緯と楽曲解説
The Complete 1961 Village Vanguard Recordings』(1997 / Impulse!)
リリースの経緯・背景
この4枚組ボックスは、1961年11月1〜3日および5日にニューヨークのクラブ「ヴィレッジ・ヴァンガード」で録音された一連のライヴを体系的にまとめた初めての作品である。
当時の録音プロデューサーであったボブ・シールは、コルトレーンが新しい領域へ踏み出そうとする姿を捉え、のちのスタジオ作品へつながる“研究途上のコルトレーン”を記録していた。しかし1960年代には、発表媒体の制約やレーベル方針の問題もあり、録音された多数のテイクは別々のアルバム(『Live at the Village Vanguard』『Impressions』など)に分散し、全貌を把握できない状態が続いていた。
1990年代半ばに入り、インパルス音源の再整理プロジェクトが進む中で、散在していたテープ群が発掘・再構築され、1997年、このボックスとして“完全版”が初めて公式にリリースされた。
これは、コルトレーンのライブ演奏アーカイブ化の歴史的節目となるリリースだった。
作品の特徴
1 22テイク/4夜分の演奏を網羅した初の全集
・演奏曲:計9曲
・収録テイク:計22(India, Spiritual, Chasin’ the Trane, Naima など)
・同曲の複数ヴァージョンを完全収録し、コルトレーンの“夜ごとの変容”を追跡できる。
特に
・India(4テイク)
・Spiritual(4テイク)
・Chasin’ the Trane(3テイク)
などは、コルトレーンがモード、ドローン、ミニマル的な反復を使い、東洋思想的な即興に踏み出した瞬間を克明に記録している。
2 カルテット+ドルフィー体制の“実験室”としての記録
通常編成:
・John Coltrane
・McCoy Tyner
・Elvin Jones
・Jimmy Garrison
追加メンバー:
・Eric Dolphy(alto sax / bass clarinet / flute)
・Reggie Workman(bass)
・Ahmed Abdul-Malik(oud)
・Roy Haynes(drums: 一部曲)
特にドルフィーの存在は大きく、
・Naima のバスクラリネット
・India のマルチホーン構造
など、“コルトレーン拡張期”への橋渡しとなる音響を形成した。
3 音楽的文脈:コルトレーンの「新しい即興体系」へ向かう過程
1961年は、
・バラード系のモード
・インド音楽の持続音
・アフリカ的ポリリズム
・和声体系を越えたスケーラー即興
を同時に探っていた過渡期である。
ここには、のちの
・Impressions
・A Love Supreme
・Meditations
につながる思想の“原型”が生々しく残っており、後年の作品を理解する上で不可欠な文献的価値を持つ。
4 楽曲解説
1. India(4テイク)
■音響の特徴
- **持続低音(ドローン)**を中心とした構造
- コルトレーン(ソプラノ)+ドルフィー(バスクラリネット)の“二重旋回”
- ベース2名(Garrison+Workman)による複層的リズム
- Ahmed Abdul-Malik の oud が入るテイクでは、アラブ〜インド音楽的ニュアンスが強まる
■即興の構造
- ラーガ的(旋法的)思考
- 和声の推移ではなく、単一音中心で徐々に密度を上げる
- コルトレーンはモチーフを反復し、円環的に拡大していく
- ドルフィーは音程飛躍と異音程クラスターで“カウンター・スピリット”を形成
■重要性
“インド音楽的即興”をジャズに本格導入した最初期の記録。
のちの India(スタジオ録音)や『Meditations』の世界観へ直結する。
2. Spiritual(4テイク)
■音響の特徴
- 曲頭で聞こえる荘重な和声の深みは、Tyner の重厚な左手ボイシングによる
- コルトレーン(テナー)とドルフィー(フルート/バスクラ)が宗教的な対話を築く
■即興の構造
- コルトレーン:神秘的・祈りのような“下降系モチーフ”
- ドルフィー:浮遊感のある自由拍子的フルート
- Elvin Jones:3連系を軸に“波のような推進力”をつくる
■重要性
のちの『A Love Supreme』の“祈りの形式”の原型。
コルトレーンの“宗教的モード音楽”が最も初期の姿で現れた演奏。
3. Chasin’ the Trane(3テイク)
■音響の特徴
- Tyner が抜け、Elvin+Workman のトリオ構造
- これにより“和声(コード)を排した純粋な線的即興”が可能になった
- コルトレーンはテナー一本で全体を牽引する
■即興の構造
- 主題らしい主題は存在しない
- コルトレーンは断片モチーフを高速で連結し、
音の密度 → 空白 → 咆哮 → 低音連打の波形を反復 - Elvin のドラムはポリリズムを多層化し、“推進する海”のように動く
■重要性
・後年のフリー・フォームの萌芽
・“ポスト・コード”即興の出発点
・コルトレーンの“怒涛のライヴ美学”を象徴する作品
批評家から「コルトレーンの即興美学が露骨に露呈したターニングポイント」と称される。
4. Naima(2テイク)
■音響の特徴
- ドルフィーのバスクラリネットが**“影の旋律”**をつくる
- コルトレーンはソプラノ/テナーを曲によって使い分ける
■即興の構造
- オリジナル(Atlantic盤)よりテンポは遅く、より瞑想的
- 和声はほぼ原型のまま
- コルトレーンは旋律の“内声部分”を広げたり省略したりしながら再構成
■重要性
名バラードの“精神的深化版”。
ドルフィーとの対話により、バラードの空間性が再定義された記録。
5. Greensleeves(2テイク)
■音響の特徴
- モード化されたトラディショナル
- McCoy Tyner の左手による“鐘のような響き”が全体の空間を支配
■即興の構造
- コルトレーンはテーマをほぼスケール一本で処理
- 即興は縦方向(アルペジオ)と横方向(旋律進行)のバランスが良く、Chasin’ the Trane に比べると穏やかだが、密度は高い
■重要性
のちの『Africa/Brass』のアンサンブル処理の“軽量版”。
世界的に人気の高いコルトレーン流スタンダードの源流。
6. Impressions(2テイク)
■音響の特徴
- 2コード(D dorian→E♭ dorian)という極めてミニマルな構成
- しかしエルヴィンのリズムは多層的で、静と動の波が明確
■即興の構造
- コルトレーンは**縦の密度(垂直線)**を極限まで追求
- 細かなフレーズを高速で積み重ね、即興が“構築物”のように聞こえる
- Tyner のソロはスケール構造を明瞭に強調し、対照を作る
重要性
後年の代表曲 Impressions の決定的ターニングポイント。
ここで“高速モード即興”の骨格が完成した。
7. Miles’ Mode(2テイク)
■音響の特徴
- 名の通り“マイルス的モード感”を踏襲
- しかしコルトレーンはブレーキをかけず、密度を最大化
■即興の構造
- タイナーとコルトレーンが“旋律線の交錯”を頻繁に行う
- エルヴィンは“連続する爆発”のような推進力
■重要性
コルトレーンがマイルス・デイヴィスの影響を“超える瞬間”を捉えた演奏。
8. Brasilia(1テイク)/Softly as in a Morning Sunrise(1テイク)
■概要
- いずれも形式上は比較的伝統的だが、即興は既に“次の時代”へ向かっている
- Softly〜 のリズム処理は、バラード・スタンダードを“緊張感の高いモード”へ変換した好例
- 『バラード』 – Ballads(1961年、1962年9月、11月録音)(Impulse!) 1963年。
のち『バラード(デラックス・エディション)』 – Ballads Deluxe Edition(Impulse!) 2002年。(CD 2枚組) - 『バイ・バイ・ブラックバード』 – Bye Bye Blackbird (1962年11月19日録音)(Pablo) 1981年
『コルトレーン』 – Coltrane(1962年4月、6月録音)
デューク・エリントンと共同名義, 『デューク・エリントン&ジョン・コルトレーン』 – Duke Ellington & John Coltrane(1962年9月録音)
『バラード』 – Ballads(1961年、1962年9月、11月録音)
『バイ・バイ・ブラックバード』 – Bye Bye Blackbird (1962年11月19日録音)
1963年
- 『ザ・ロスト・アルバム』 – Both Directions at Once: The Lost Album(1963年3月録音)(Impulse!) 2018年
- ジョニー・ハートマンと共同名義, 『ジョン・コルトレーン&ジョニー・ハートマン』 – John Coltrane & Johnny Hartman(1963年3月録音)(Impulse!) 1963年
- 『インプレッションズ』 – Impressions(1961年11月、1963年4月録音)(Impulse!) 1963年(「ヴィレッジ・ヴァンガード」におけるライヴを含む)
- Live at the Showboat(1963年7月録音)(RLR) 2006年(フィラデルフィア「ショウボート(The Showboat)」におけるライヴ。CD 2枚組。)
- 『ザ・ヨーロピアン・ツアー』 – The European Tour(1963年10月録音)(Pablo) 1980年
- 『パリ・コンサート』 – The Paris Concert(1962年11月、1963年11月録音)(Pablo) 1979年
- 各地で大盛況だったヨーロッパ・ツアーから、パリ公演の音源を収録。わずか3曲ながら、アトランティック時代の名マイナー・ブルースに極上のバラードと、カラフルなセレクションが嬉しい。©Copyright CD Journal
- Afro Blue Impressions(1963年10月、11月録音)(Pablo) 1977年。
のち改題・再発『マイ・フェイヴァリット・シングス~ライヴ・イン・ヨーロッパ 1963』 – Afro Blue Impressions (Remastered & Expanded) 2013年。(第56回グラミー賞最優秀アルバム・ノーツ受賞) - 『ライヴ・アット・バードランド』 – Live at Birdland(1963年3月、10月、11月録音)(Impulse!) 1964年(1963年10月のライヴとスタジオ録音)
『ザ・ロスト・アルバム』 – Both Directions at Once: The Lost Album(1963年3月録音)
ジョニー・ハートマンと共同名義, 『ジョン・コルトレーン&ジョニー・ハートマン』 – John Coltrane & Johnny Hartman(1963年3月録音)
『ザ・ヨーロピアン・ツアー』 – The European Tour(1963年10月録音)
『パリ・コンサート』 – The Paris Concert(1962年11月、1963年11月録音)
Afro Blue Impressions(1963年10月、11月録音)
『ライヴ・アット・バードランド』 – Live at Birdland(1963年3月、10月、11月録音)
1964年
- 『クレッセント』 – Crescent(1964年4月、6月録音)(Impulse!) 1964年
- 『ブルー・ワールド』 – Blue World(1964年6月録音)(Impulse!) 2019年
- 『至上の愛』 – A Love Supreme(1964年12月録音)(Impulse!) 1965年。
のち『至上の愛(デラックス・エディション)』 – A Love Supreme Deluxe Edition(1965年7月録音を追加)2002年。(CD 2枚組)
のち『至上の愛:コンプリート・マスターズ』 – A Love Supreme: The Complete Masters (Impulse!) 2015年。(CD 3枚組)
1965年
- 『ワン・ダウン、ワン・アップ:ライヴ・アット・ザ・ハーフ・ノート』 – Live at the Half Note: One Down, One Up(1965年3月、5月7日録音)(Impulse!) 2005年(ライヴ。CD 2枚組。)
- 『ジョン・コルトレーン・カルテット・プレイズ』 – The John Coltrane Quartet Plays Chim Chim Cheree, Song of Praise, Nature Boy, Brazilia(1965年2月、5月17日録音)(Impulse!) 1965年
- 『ディア・オールド・ストックホルム』 – Dear Old Stockholm(1963年4月、1965年5月26日録音)(Impulse!) 1993年(ロイ・ヘインズ参加曲コンピレーション)
- 『トランジション』 – Transition(1965年5月26日、6月10日録音)(Impulse!) 1970年
- 『リヴィング・スペース』 – Living Space(1965年6月10日、16日録音)(Impulse!) 1998年
- 『神の園』→(改題)『アセンション』 – Ascension(1965年6月28日録音)(Impulse!) 1966年
- アーチー・シェップと共同名義, 『ニュー・シング・アット・ニューポート』 – New Thing at Newport(1965年7月2日録音)(Impulse!) 1965年(「ニューポート・ジャズ・フェスティバル」におけるライヴ)
- 『マイ・フェイヴァリット・シングス:コルトレーン・アット・ニューポート』 – my favorite things: COLTRANE at newport(1963年7月、1965年7月2日録音)(Impulse!) 2007年、(「ニューポート・ジャズ・フェスティバル」におけるライヴ)
- 『サン・シップ』 – Sun Ship(1965年8月録音)(Impulse!) 1971年
- 『ファースト・メディテーション』 – First Meditation(1965年9月2日録音)(Impulse!) 1977年
- 『ライヴ・イン・シアトル』 – Live in Seattle(1965年9月30日録音)(Impulse!) 1971年(シアトル「ペントハウス」におけるライヴ。CD 2枚組。)
- 『オム』 – Om(1965年10月1日録音)(Impulse!) 1968年
- 『至上の愛~ライヴ・イン・シアトル』- A Love Supreme: Live in Seattle(1965年10月2日録音)(Impulse!) 2021年(シアトル「ペントハウス」におけるライブ)。
- 『セルフレスネス・フィーチャリング・マイ・フェイヴァリット・シングス』 – Selflessness: Featuring My Favorite Things(1963年7月、1965年10月14日録音)1969年、(「ニューポート・ジャズ・フェスティバル」におけるライヴとスタジオ録音)。のち廃盤。
- 『クル・セ・ママ』 – Kulu Sé Mama(1965年6月、10月14日録音)(Impulse!) 1966年
- 『メディテーション』 – Meditation(1965年11月録音)(Impulse!) 1966年
1966年
- 『ライヴ・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード・アゲイン』 – Live at the Village Vanguard Again!(1966年5月録音)(Impulse!) 1966年(「ヴィレッジ・ヴァンガード」におけるライヴ)
- 『ライヴ・イン・ジャパン』 – Live in Japan(1966年7月録音)(Impulse!) 1991年。(新宿「東京厚生年金ホール」、大手町「サンケイホール」におけるライヴ)
のち『ライブ・イン・ジャパン(完全版)』 – Live in Japan Deluxe Edition(Universal/Impulse!) 2011年。(CD 5枚組) - Offering: Live at Temple University(1966年11月録音)(Resonance/Impulse!) 2014年(テンプル大学におけるライヴ。ラジオ放送(WRTI)用の録音。CD 2枚組。アシュリー・カーン(英語版)によるノーツが第57回グラミー賞において最優秀アルバム・ノーツを受賞。)
1967年
- 『ステラ・リージョンズ』 – Stellar Regions(1967年2月15日録音)(Impulse!) 1995年
- 『惑星空間』→(改題)『インターステラー・スペース』 – Interstellar Space(1967年2月22日録音)(Impulse!) 1974年
- 『エクスプレッション』 – Expression(1967年2月15日、3月録音)(Impulse!) 1967年
- 『オラトゥンジ・コンサート:ザ・ラスト・ライヴ・レコーディング』 – The Olatunji Concert: The Last Live Recording(1967年4月録音)(Impulse!) 2001年(ライヴ)
没後
『インフィニティ』 – Infinity (Impulse!) 1972年(リミックス)
アリス・コルトレーンと共同名義, 『コズミック・ミュージック』 – Cosmic Music(1966年2月、1968年1月録音)(Impulse!) 1968年















